【ストーリー】ナヒリはなぜエムラクールを呼んだのか 前編

2022年2月6日

はじめに

私のようなMTG初心者は、タイトルだけで割とびっくりするのでは?という出オチ。

そうなんです。

イニストラード次元に、最後にして最強のエルドラージを召喚した人こそ、石鍛冶のプレインズウォーカー、ナヒリです。

 

かつては、古のプレインズウォーカーたちと共闘し、故郷ゼンディカーのエルドラージタイタンを3体封印した彼女。

エルドラージの恐怖を誰よりも知っている彼女が、なぜエムラクールを召喚するに至るのか。

そのストーリーをご紹介します。

それは、大地とつながるプレインズウォーカー・ニッサよりも、はるか昔にゼンディカーに生まれ、はるかに長くゼンディカーを想い、そしてはるかに多くゼンディカーの大地と一体になっていた石鍛冶の、悲劇のお話…。

封印された3体のエルドラージと、封印せし3人のプレインズウォーカー




目次

大地に眠る

世界が壊れた時、それはナヒリの腹を、刃のようにねじった。

ナヒリは、ウギン、ソリンと協力し、3体のエルドラージタイタンを封印したあの日から、ずっとゼンディカーを監視していました。

かつて、ソリンと一種冗談のような形で名付けた、「ウギンの目」という小室の石繭の中で。

 

彼らの創造した牢獄は上手く機能しているように見えましたが、その周囲は今にも異物を吐き出さんと戦慄していることが、ナヒリにはわかるのでした。

自分がここを離れれば、世界はどうなってしまうのか。

そんな不安から、ナヒリは自分ができることをやりつくします。

エルドラージの脅威に立ち向かうため、コーたちを鍛えました。

また、それらを目覚めさせないよう、3体は「神」であると教育もしました。

まだプレインズウォーカーが不死の時代。

彼女は多くの生と死を目にしながら、このゼンディカーを守ってきたのでした。

ゼンディカーのコーとマーフォークは、3体を神とみなしている

そしてその日ナヒリが感じたのは、身をよじる痛みと吐き気。

封印していたエルドラージの牢獄が開き、落とし子があふれているのがわかりました。

とうとう、ソリンを呼ぶ時が来た。

いつか危機が訪れたとき、誰かが残りの二人を呼ぶために設けた伝言の仕組み。

しかし…

二人は来ていなかった。ソリンは来ていなかった。彼女は一人だった。

彼女は願った――この痛みが終わることを、再びソリンと会うことを――そして幾らかの驚きとともに、彼女は知った。

自分はゼンディカーを、この次元を、そしてその全ての無駄を、意味のない、窮余の人々を守りたいと願っているのだと。

だが彼女が待ち続けている間に、状況は非常に悪化してしまっていた。

 

ナヒリは石繭から外界へ旅立ち、その原因を発見します。

それは自分のいた時代にはいなかった、吸血鬼たちの儀式。

生贄を伴うその儀式が、面晶体の連結構造を乱していたのでした。

吸血鬼を殲滅し、ナヒリは神の偶像を面晶体へと加工します。

ウギンなしに、その緻密な紋様を表現するため、永遠とも思える時間が経過したとき。

ついにそれは完成し、牢獄の穴を埋めたのでした。

彼女自身の奮闘により、ゼンディカーは再び安全となった。今やもう二人は必要なかった。

だが、それは二人が来なかったという事実を変えるものではなかった。

彼らは約束していた、呼ばれた時にはゼンディカーへと戻り、手を貸すと。

彼女が数えきれない世紀の間守ってきたものを、牢獄を維持するために。

だがソリンは彼女の呼びかけを無視し、エルドラージはゼンディカーを再び荒らしまわった。

このウギンの目で自分が閉じ籠っている年月の間ずっと、ソリンは何をしていたのだろう? 彼は今も生きているのだろうか?

(中略)

彼女は旅立ち、彼を見つけ、必要とあらば彼を起こし、彼女とゼンディカーと友誼を思い出させよう。

かつて自分達が共有したものを。生きることを、感じることを、気にかけることを思い出させよう。

彼女はゼンディカーを救った、そして今彼女は彼を救おう。

そしてナヒリはゼンディカーを発ちます。

ソリンの故郷、イニストラードへ向かって。




イニストラードにて

ナヒリは、イニストラード次元でソリンと邂逅します。

彼女は、彼に助けを求めたこと、なのにその信号は応じられなかったこと、そしてその理由をソリンに尋ねるのでした。

「それは私に届いていない」

「そんなことが?」

「ふむ」 彼は言った。

それは興味も、幾らかの切迫した様子もないただの軽い返答だった。

(中略)

彼女は突然の眩暈を感じ、次の言葉を注意深く選んだ。

「そうなるかもしれないって、知っていたんですか?」

「それは考えもしなかった。とはいえ今、その可能性はあるかもしれないと思う」

 

ナヒリはここで、初めて彼に怒りと苦痛というものを感じたのでした。

ゼンディカーを危険にさらして、しかも自分を見捨てた?

五千年前、ナヒリは故郷であるゼンディカーへ、3体のエルドラージを封じることを不承不承で承知したのだ。

そして、その代わりに緊急の時はウギンとソリンが力を貸してくれると言ってくれたはずだ。

そして判明したのは、彼は助けを求める呼びかけを無視したのではなく、更に悪いものだということだった。

彼は自身の世界を外の影響から守るために、それを遮断していたのだった。

彼は背を向けた。

「忘れたとは言わせません。私は自ら、エルドラージを引き寄せることで自分の世界を危険にさらしたんです。あれらを監視するため、牢番となって自分自身をゼンディカーに縛りつけることを誓ったんです。あの怪物と数千年を過ごしたんです。それがどれほどか、わかるんですか? 私が必要とした時に、あなたは来てくれないといけなかったのに」

(中略)

彼は振り返った。突きつけられた橙色の両目は敵意に満ちていた。

「私は君を保護し、君が何者かを形作った。もし誰かを悩ませたいのなら、ウギンを見つけに行け。私は辛抱強くはないぞ」

辛抱強くはない。辛抱。怒りが一瞬にして白熱し、苦痛を追いやった。

 

戦闘が始まります。

ナヒリは石の矢で。ソリンは死魔術で。

かつての師であるソリンを、打ち負かすことで、きっと彼は自分の言い分を理解してくれる。

それは、自分の知っているソリンよりもずっと弱っている姿でしたが、彼女はあと一歩のところまで、ソリンを追い詰めたのでした。

しかし、そこへ乱入したのは、天使。

ソリンによって創造され、ソリンを絶対主とする大天使・アヴァシン。

予想外の天使の介入により、戦況は一変したのでした。

「このような事はしたくなかった……というのも本心か否か、私にすらわからないが」

そしてソリンは剣を掲げ、汚れた光の柱とともに迫り、押した。

ナヒリは後方へ吹き飛び、獄庫の銀の表面に叩きつけられた。それはもはや固くも冷たくもなく、だがしなやかだった。

(中略)

「どうして!」 彼女は叫んだ。「信じていたのに!」

今やソリンは彼女にそびえ、天使の翼がその背後に広げられていた。そして溶けた銀が彼女の耳に流れこむ直前、一度だけ口を開いた。

それは悲しいとも思えるような声だった。

思えるような。

「信頼など求めた事はない。服従だけだ」

そして獄庫に求められるように、彼女は広大で完全な暗黒へ消え去った。




変わり果てた故郷

獄庫の中は、どこまでも続く暗闇と静寂。

ナヒリはその中で千年もの間、封印をされ続けたのでした。

彼女が閉じ込められている間に獄庫には囚人も増えます。

イニストラード大悪魔や、あのソリンに仕えていた天使まで。

果てしない闇の中で、正気を失うものもいる中、ナヒリはゼンディカーに思いを馳せることにより、自我を保っていたのでした。

そんな地獄とも言える時間は、唐突に終わりを迎えます。

何者かによって破壊された獄庫。

外に放り出されたナヒリは、見ることも聞くことも話すことも、歩くこともままならないまま、ただここを離れなくてはいけないという焦りに駆られ、プレインズウォークするのでした。

手の届く唯一の次元、ゼンディカーへと。

そして、彼女は目にしてしまったのでした。

変わり果てた、故郷の姿を。

ゼンディカー、本物のゼンディカー。故郷。

遠い昔に出発した場所からそう遠くはなかった。

アクームの尖った心臓、ウギンの目があると思しき場所の近く。

だが目は廃墟となり、重なるように崩壊していた。

(中略)

そんな。そんなばかな。

エルドラージの巨人三体は逃走していた、ゼンディカーの庇護者がソリン・マルコフの牢獄の中で衰えていた間に。ここに築いた全てが、捧げてきた全てが、長い幽閉の間に廃墟と化していた。

ナヒリは血に濡れた拳を握りしめた。

 

近くにいたコーに歩み寄り、ナヒリはゼンディカーの状況を聞きます。

コーは、あまりにも世間しらずなナヒリに驚きつつ、その惨状を話し始めるのでした。

バーラ・ゲドが、大陸が一つが失われたのだと。

「自分の目で見なくては」

ナヒリは足元の石へと沈み、バーラ・ゲドへと移動しました。

かつては"密林であった"その大陸へ。

 

そこにあったのは白亜の塵。

果てしなく広がる、岩すらも死んだ荒地。

そして、その中に巨人が。

ウラモグだけが存在し、世界を無へと変えていたのでした。

荒地

怒りの熱い涙が流れ、囁き音とともに忌まわしい塵に落ちた。

「ゼンディカーが血を流したように、イニストラードもそうなるでしょう」

彼女は目を開け、両手を見下ろした。石を成型し、巨人を閉じ込めた手を。それらは灰色の塵に覆われていた。

「私がそれを嘆いたように、ソリンも嘆くことでしょう」

彼女は地平線のそれが、まるで自然災害のように風景を動いていく様を見上げた。

「ここに、私の世界の灰に誓いましょう」

ナヒリは立ち上がった。

成すべきことが沢山あった。

 

後編へ続く

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*出典*

まどろみから目醒めて

石と血と