【ストーリー】大天使アヴァシンの最期 前編

2022年2月6日

はじめに

前回からイニストラードのご紹介を始めており、まず最初にこの次元の巨悪となるエムラクール襲来の背景ストーリーをご紹介しました。

敵は来たぞ!

さぁヒーロー立ち上がれ!!!

 

…と、いきたいのですが

 

その前に!

イニストラードのお話と言えば、これを語らずにはおれない!!

この次元を守る大天使アヴァシンの物語!!

…を、ご紹介します。

 




目次

アヴァシンの誕生から帰還まで

一応「イニストラードを覆う影」の物語紹介としたいため、それに至るまでのアヴァシンのストーリーは要約してご紹介します。

ソリンのおじいちゃんであるところの、エドガー・マルコフによって、イニストラードに吸血鬼という種族が生まれ、ソリンもこの祖父の影響で吸血鬼となります。

 

そして吸血鬼が人間の血を求め、それらを捕食していくあまり、人間が大幅に数を減らしてしまったのでした。

大天使アヴァシンはそんなイニストラードの均衡を守るため、ソリンより生まれた大天使であり次元の守護者です。

破壊不能を付与する守護天使

彼女の至上命題は、イニストラードの人間を守ること。

アヴァシンと、彼女の妹にあたるシガルダ、ギセラ、ブルーナの三大天使の活躍により、人間たちは再び繁栄を遂げます。

 

人間たちは守護天使アヴァシンを神格化するようになり、彼女を信仰する「アヴァシン教会」といった宗教までできるに至ったのでした。

※大人気サリアさんも、アヴァシン教会の一人

その後、悪魔を獄庫へ幽閉するお仕事をしたり、最強悪魔グリセルブランドと戦ったり、その戦闘の中で自分まで獄庫に閉じ込められたり、グリセルブランドを倒したいリリアナによって獄庫が破壊され『アヴァシンの帰還』したりとまぁいろいろありましたとさ。(ざっくり)

アヴァシンの帰還

さて、アヴァシンは獄庫からの帰還後、変わらず彼女は人間の守護者となるわけなのですが、イニストラードの大天使は、自分に去来したとある「変化」を感じ始めるのです。

ここからが、「イニストラードを覆う影」の物語。

狂気に蝕まれる大天使のお話、はじまりはじまり…。




アヴァシンに響く声

「メイリ!メイリ!」

その日アヴァシンに届いたのは、一人の人間の女性の悲痛な声。

あまりにたくさんもの祈りが届く中、彼女が直接それを聞き届けることは少なかったのですが。

子を想う母の純粋なる恐れは、アヴァシンを向かわせるには十分な理由になったのでした。

子どもを呼ぶ声の主の女性がいたのは、暗い森の外。

「請願者よ、私を呼びましたね」

アヴァシンの口調は穏やかで安心を与えるようで、だがその女性は突然の恐怖に振り返り、そして自身が目にしている存在を認識した。

「アヴァシン様! 来て下さった! 来て下さったのですね! 私の子が! お願いです!」

その女性は狂乱しており、彼女を宥めて何が起こったのかを聞き出すにはしばしの時を要した。

 

女性曰く、子供が森に消えてしまったのだと。

大天使が帰還したとはいえ、まだまだ危険な森の中。

彼女への祈りの声を頼りに、アヴァシンは森の中から小さな男の子を助け出すと、その子を母のもとへと届けたのでした。

親の元にたどり着け、安心で泣きわめく子。

子の無事を確認し、おなじように泣く母。

これがアヴァシンの求めていたものでした。

恐怖が消える、幸せが生まれる。

これが彼女の存在理由だと。

安堵の再会を迎えた二人を背に飛び立とうとした、その時。

 

アヴァシンは、暴力的なまでの「揺らぎ」を感じたのでした。

ひどい頭痛。

ぶれる視界。

地面に伏す自分の身体。

そして、頭の中に響く声。

『人の種は腐っている』

アヴァシンはその思考が何処から来たのかはわからなかった。

それは祈りのようで、彼女の脳内へと意図して送られたようで、だがそれを伝えた定命はいなかった。

『人の種は腐っている』

 

目の前に広がるのは、先ほどと全く同じ光景。

にも関わらず、それを全く異なって捉えるアヴァシンの目。

哀れに泣きわめく子ども。怒りから自責に変わった表情の母親。

汚らしく、武骨な光景。

アヴァシンは、何処からか去来する思考に、自らの心が捕らわれていくのを感じたのでした。

そして、その逃げ場を探すように、その場を離れます。

なおも頭の中に回り続ける言葉を聞きながら。

『人の種は腐っている』




偉大なる行い

アヴァシンの妹分が一人、シガルダは一つの疑問を抱えていました。

アヴァシンが帰還して以来、以前のような平和と繁栄の時代がやってきた。

が、ここ数週間にわたって、暴動、失踪、殺戮といった不幸がところどころから聞こえてきたのです。

彼女には、その理由が何なのかわからなかったのでした。

 

そんな中シガルダは、同じく姉妹分であるギセラ・ブルーナと対面します。

シガルダの私室へと着地する際、二人は肩が触れるほど寄り添っていた。だが今は部屋の中で距離をあけ、彼女を挟むように動いていた。

そしてブルーナが杖を、ギセラが二本の剣を持つ様子に、シガルダは自身の鎌を持っていないことを強く意識した。階下の部屋に置いてきていた。

ここで何が起こっているの?

「私達はただ……」 ブルーナが切り出した。

「話をしたくて。シガルダ、長いこと会っていなかったから」 ギセラが言い終えた。

 

ギセラとブルーナは、自分を攻撃してくるのだろうか?

そんな疑問が頭をよぎるような緊張感。

そして、外で雷鳴が響いた時。

ブルーナとギセラ以外にもう一人。

目の前にはアヴァシンの姿があったのでした。

「シガルダ、偉大なる行いがまもなく行われようとしています」

アヴァシンの声は奇妙に早口だった。その喋りはわずかな息の音か、雑音と言ってもよかった。

当初、アヴァシンの姿は普段通りだと思ったが、シガルダは奇妙なことに気が付いた。

アヴァシンの槍の先端の金属が歪んでいた。

 

「偉大なる行い」とは何なのか?

シガルダは自分の不案内を詫びながら、アヴァシンへと問います。

アヴァシンは奇妙なほどの早口で、滑るように話し始めます。

原初、自分たちは吸血鬼、狼男、悪魔のような怪物を粛清してきた。

それは破壊し、略奪し、貪るからだと。

「あれらの罪により、私達は罰し、殺してきました。ですが今や人類の罪は、それと同じです」

そしてアヴァシンは微笑んだ。シガルダはアヴァシンを知って千年が経つが、彼女が笑みを見せたことはなかったと気付いた。

それは愛らしい笑みではなかった。

(中略)

「あれらは不浄の中に増え、新たな下僕を作り出しては森を破壊し、水を汚し、あれら同士で嘘を吐き、騙し、殺し合っています。果たして我々が守るに値するのでしょうか? それは偉大なのでしょうか? 私達はこの世界の『怪物』となるものを最後の一匹まで殺すでしょう、あらゆる吸血鬼と狼男と、その後には何が起こるのでしょう? 平和はあるのでしょうか? 永遠の光があるのでしょうか?」

アヴァシンはシガルダの表情に混乱と、嫌気を見た。

彼女は笑った、耳障りな高笑いのような声だった。

「シガルダ、あなたは答えをわかっていますね。真実をわかっていますね」

 

シガルダも、その考えを理解できないわけではなかったのでした。

確かに人間は愚かな行動に走りがちである。

しかし、それと同時に愛し、作り上げることのできるのが人間ではないのか。

そして何より、天使が人間を裏切るなど、その存在意義の破棄とも言える行為なのではないか。

沈黙の中、アヴァシンは続けた。

「わかっています、シガルダ。これは厳しく困難な真実です。ブルーナとギセラも同じように理解するには時間を要しました。ですが彼女らもついには光を見たのです」

名前を言及され、姉妹が口を開いた。

「今となっては、私達は信じているの……」

「姉さん。偉大なる行いはされるべきなのよ」

(中略)

アヴァシンは槍を石造りの天井へと掲げた。力のうねりが槍から放たれ、そして天井は……消えた。アヴァシンの力に消え去った。細かい塵だけが下の床に落ち、天使達を煤のような灰で覆った。

「まもなく」 アヴァシンはその言葉とともに暗灰色の空へと飛び立った。

「まもなく」 ギセラとブルーナも背後で言うと、同じように去った。




浄化の天使、アヴァシン

「メイリ!メイリ!」

母ケルセは、またも自分の目の前から消えた我が子を見つけ、胸に抱きとめました。

「どこへ行っていたの?」 彼女は苛立ちを見せないようにした。

息子は探検が好きで、彼女も探検をさせたがっていた。息子にはいつも……

不意に松明からの光が全て消えた。

炎が消えていた。風ではなかった。冷たい大気は完全に静止していた。

メイリはケルセにじっとしがみつき、彼女は息子を抱き寄せた。

村の中から悲鳴が上がり、そして上空の光のひらめきがケルセの目にとまり、彼女は空を見上げた。

二人の上を天使達が飛んでいた。

 

その時母親が見たのは、目を疑う光景。

天使が槍をかざす。

光の柱が、村を焼く。

それは、吸血鬼や狼男などの邪悪を祓う炎ではなく。

村人…天使に守護されるはずの人間を焼きつくす炎。

「メイリ、私の可愛い子、聞きなさい。走りなさい、遠くまで速く走って、森の中へ入って、戻ってきてはいけません。何があっても後ろを見ては駄目、戻ってきては駄目」

ケルセは自身の言葉を、まるで他の誰かが自分達に語りかけているように聞いた、そしてその響きの穏やかさに驚いた。

更なる爆発と悲鳴が村から上がった。

メイリはすすり泣いた。「お母さん! 僕、できない……」

「メイリ!」 ケルセの声は鋭く轟いた。

「聞きなさい! 走って! 今すぐ走って、今までよりもずっと速く! 森へ!」

 

そして母が目にしたのは、変わり果てた大天使の姿。

アヴァシン。

純白であったその翼は血に染まり。

その槍は歪みよじれていたのでした。

浄化の天使、アヴァシン

「あの小さきものは何処へ? ここにいましたね」

「もういない、お前の手の届かない所だ、汚れた者よ」

(中略)

アヴァシンは手を伸ばし、ケルセの頬に触れ、その震える皮膚を撫でた。

「全てが私の手の届く所に。私の領域に限界はありません。そして私の領域は腐り果てました。腐ってしまった。全てを清めねばなりません。全てが純粋でなくてはなりません」

アヴァシンは言葉を切り、手を引っ込めた。

「構いません。いずれあの小さきものも見つけ出しましょう。あなた達全てを、やがては」

彼女は一歩下がると槍をケルセへと向けた。

「全てが燃える。全てが血を流す」 槍の先端が赤と黄金の光を散らした。

 

目を閉じたケルセにも見える、まばゆい光。

そして、その光に包まれる直前まで、母の抱いていた気持ちはひとつ。

我が子の無事を祈る、純粋なる気持ち。

アヴァシンはその定命の残骸が吹き飛ばされるのを見ていた。

灰はしばし散り、渦巻いて飛び、そして地面に落ちた。

(中略)

全ては燃える。全ては血を流す。

アヴァシンは自身にその言葉を繰り返した。

それは彼女を喜びで満たす和らぎの歌だった。

全ては燃える。全ては血を流す。

天使達が村を燃やす偉大なる行いの中、彼女は声を立てて笑った。

 

※後編続く
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*出典*

空ろな、無慈悲な目をしたものが