【カラデシュ】第7回 テゼレットの圧制【ストーリー】

2022年2月21日

はじめに

前回では、カラデシュにおける世紀の発明を成し遂げたラシュミのお話をご紹介しました。

そして、それは前々回のピアとテゼレットの決闘とも関係しているお話だったのです。

ピアとの決闘を囮にしたテゼレットの真意は、発明展覧会での優秀な発明品と発明家を手中に収めること。

カラデシュ最後の物語は、彼の真の狙いに焦点を当てます。

 



目次

テゼレットの圧制

発明展覧会は、ラシュミの優勝を以て幕を閉じ。

その後行われたピアとテゼレットの決闘は、観客の理解を置き去りに、テゼレットの退散により閉幕したのでした。

そしてその後に行われたのは、「素晴らしい発明を、領事府の管轄下で保護する」という名の発明品の押収。

次いで改革派の力を抑えようとするドビンによる、エネルギーの制限と夜間外出禁止令。

出資者のもとで発明ができると思い連れられてきた研究室で、やがてそんなラシュミは真実を知るのでした。

確かに彼らは大部分を叶えてくれた。ラシュミが研究室にやって来て以来、至る所で便宜がはかられていた。あらゆる必要を叶えるために、注意深い自動機械と出資者テゼレットの命令下にある職員の一団があてがわれた。

彼らはフェンネルやクミン、ターメリックの香りのする暖かな食事を運び、ユリの芳香を放つ清潔な衣服をくれた。室温、霊気圧、湿度を調節した。黄金色の新品の引き出しが仕事場の壁に列を成し、中身の量と質は常に確認されていた。

毎朝、輝く新品の器具一式が完璧な順で並べられ、ラシュミの手にとってもらうのを待っていた。要望を遥かに超えるものだった。

それでも……

 

無駄話を一切許さない環境。

それに伴う、発明者同士の仲間意識の消失。

なにより、自分の相棒ミタルをこの場に呼ぶことすら許されない状況。

 

やがて、テゼレットが大股に研究室へ入ってくると、発明家たちへ進捗を確認するのでした。

そして同時に、彼の希望に沿わぬものは容赦なく切り捨てられていくのです。

この日「切り捨て」にあったのは、展覧会では4位を獲得したバーヴィンというドワーフでした。

「失望した。出ていけ」

他の作業台から一連の息を呑む声があがった。

「ですが、大領事様、どうか私は――」

「出て行けと言った」 テゼレットは金属の長い指で扉を示した。「連れ出せ」

同時かつ不意に三人の職員が反応した。その動きは連結した自動機械の一団に似ていなくもなかった。

「お待ち下さい」 バーヴィンは彼らに掴まれて身をよじった。「発明は! 私の発明はどうなるのですか!」

「この屑鉄は貴様のものなどではない」 テゼレットはその自動機械を足蹴にした。

「この研究室で作られたものは領事府のものだ」

「そんな!」 バーヴィンは扉の枠に手を伸ばしたが、職員らがその背中へと腕をねじった。

「お願いです! 私の全てをかけたんです、返して下さい!」 彼は叫んだ。

そして廊下へ引きずり出されても、心をねじるようなその嘆願は潤滑油の匂いが立ち込める空気に居残っていた。

 

ラシュミはそんな環境下で、自分は生き残ってやると固く誓っていたのでした。

テゼレットは、彼女の進捗を確認したのち、その発明のために研究室への霊気供給量を三倍に増やすことを確約します。

そのために、街への霊気供給を犠牲にして。

テゼレットは転送器のアーチに金属の手を叩きつけた。

「必要なのはこれだけだ。お前は期限内を早めて完成させるための霊気を得る。次の進捗確認のために戻ってきた時には、このがらくたを動かしてもらおう 」

彼はバーヴィンの巨大な自動機械を示した。

「研究室の向こうまで」

ラシュミは息をのみ、頷こうとした。

「できないならば、お前は終わりだ」

テゼレットが扉へ向かうと、磨かれた床に足音が鋭くこだました。残った職員が後に続いた。

ラシュミの身体から力が完全に抜けた。

「終わりだ」の言葉が脳裏に響いていた。首筋の背後に囁き声が潜み上がった。



ラシュミの覚悟

それから四週間。

ラシュミは不眠不休で開発に勤しみ、テゼレットが期限とした日の朝、彼女は転送器の完成を見たのでした。

そしてその最終調整のさなか、転移装置との不意の接触により、彼女はとある真実の一端に触れます。

それは、無数にある次元の存在。

自分が全てだと思っていたカラデシュという世界は、その一つでしかないという事実。

プレインズウォーカーならざる彼女は、自身の発明により、その仮説を体感したのでした。

ラシュミ自身の実験結果から、彼女は自分が属す現実だけでない多元的な現実の可能性を受け入れるしかなかった。

ー逆説的な結果

 

やがて現われたテゼレットに、ラシュミはまくしたてます。

この世界はあまたの次元によって構成されている。

そして、この転送器はその次元たちへ影響を及ぼすリスクがあることを。

しかし、そんな事実を「知っている」テゼレットは、これを一笑に付します。

「出ていけ」 テゼレットは肉の手を振った。

「え?」 恐怖心と衝撃がラシュミを掴んだ。

「お前は仕事を終えた」 テゼレットは金属の鉤爪で転送器の金線を撫でた。

「この美しき作品は今や私のものだ。つまりもうお前に用は無い」

ラシュミの本能が叫びかけていた。この男に転送器を渡すわけにはいかない。その両目には何かがあった、高まる不安の残り火を煽る何かが。自分が作ったものを守らねば――それ以上に、自分が目にしたものを。あの場所を、あの生命を――

(中略)

「お待ち下さい」 ラシュミの心臓が跳ねていた。何かをしなければ。

「まだです」

彼女は喋りながら計画を作り上げた。口実を作り、核を仮想次元から切り離せば、あの世界が害されることもないだろう。

「霊気ヒューズが切れてしまったんです」 彼女は霊気に汚れた両腕を掲げた。

「お入りになる直前に」

 

彼女の疑念は、もはや確信に変わっていたのでした。

この男はーテゼレットは怪物だ。

助手のミタルの命を人質に取り、迅速な機械の補修を要求するテゼレットに対し。

ラシュミは彼にわからないようミタルのいる研究所へ警告を記した紙を「転送」すると、彼へと操縦桿を引き渡したのでした。

 

テゼレットが転送器を作動させると、移動を要求された自動機械はその場から消え去り、すぐに場所を移して現われます。

部屋の隅の、ラシュミの道具箱の上へ。

大きすぎるバーヴィンの傑作はその箱を破壊し、ラシュミ近くの机を破壊し、そしてその背後の巨大なガラス窓を砕いた。気圧の変化に霊気の突風が起こり、紙や道具をギラプールの空高くへと舞い上がらせた。

「何をした!?」 テゼレットは青ざめ、切れたヒューズから溢れた霊気をかぶったまま彼女へと突進した。

だがラシュミは準備が整っていた。彼女はハーネスを滑車機構の綱に引っかけた。その男の愚鈍な精神が現状を把握するよりも早く、彼女は窓の穴へと駆けるとその先のうねる霊気へと飛び出した。

 

街へ飛び出したラシュミは、ひたすらに走ります。

怪物から。できるだけ遠くへ。

すると、突如金属の板が彼女を囲うように現われたのでした。

肩を掴む両手があり、彼女を振り返らせた。ラシュミは拳を上げた、戦うために。その気になれば殺すつもりでもいた。

「大丈夫、ラシュミ。私よ。もう大丈夫」

ラシュミは瞬きをした。わけがわからなかった。どうやって? どこに?

「サヒーリ?」

「ここは私の装置の中。誰にも見つからない所まで連れて行くから」

ラシュミは足元に動きを感じた。それはもはや敷石ではなく金属の床だった。

「終わったのよ、ラシュミ。もう大丈夫。あなたは大丈夫」

ラシュミの息が落ち着くまで、サヒーリはその言葉を繰り返した。

(中略)

「サヒーリ」 彼女は友の腕を掴んだ。

「あいつは転送器を奪った――あれはただの転送器じゃない。あなたは正しかった。自分が作ったものの意味を私はわかっていなかった。でもあいつは、わかっていたんだと思う。わかっていたに違いないの、まるで……」

ラシュミの声はかき消え、サヒーリを見た。

「あなたが知っていたように」

彼女はふらついて一歩後ずさった。様々な手がかりを一つにはめながら、心が急いていた。

(中略)

サヒーリは咳払いをしてラシュミへと向き直った。「みんなが待ってるわ」

「誰?」 ラシュミの声は静けさの中に響いた、彼女自身と同様に不安を帯びた声が。

「何が起こってるの、サヒーリ? みんなって?」

「改革派へようこそ。話す事が沢山あるの」



今回はここまで

なんとラシュミは自身の力で多元宇宙の存在を導き出し、またテゼレットやサヒーリは、「その存在を知る者」だという結論に至るのでした。

近年のストーリーの中で、プレインズウォーカーでなく多元宇宙の存在を知るのは、かなりまれですね。

そしてこのラシュミを仲間に迎え、改革派とゲートウォッチが、テゼレット・ドビン・バラルの領事府の勢力へと打ってでる。

これが次回からの「霊気紛争」の物語になります。

 

というわけで、いったん「カラデシュ」における物語はここまで!

いつものちょっとしたコラムをはさんだ後、次回から「霊気紛争」の物語です!

 

お楽しみに!!

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*出典*

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