ジェイスの灯の覚醒~異端児だったテレパスの神童【ストーリー】

2022年2月9日

はじめに

前回より、

ゲートウォッチの起源をたどる!マジック・オリジン編!

をお届けしています。

 

今回はジェイス編!

そのテレパス能力ゆえに、変人扱いを受けていた彼が、いかにしてゲートウォッチのブレインを務められるまでに成長するのか…。

彼の起源をご紹介します。



目次

テレパスの子

その日ジェイスは、自宅たる集合住宅の屋上にいました。

最近の自分を襲う、奇妙な現象。

まだ学生の彼がマナ力学の試験で体験したのは、「解答が頭にやって来る」というものでした。

そして、その試験を完璧に解いた結果…学校から厳格なる父へ連絡が行ったのです。

父と言い争ったジェイスは、家を飛び出し。

そして今に至るのでした。

ヴリンの神童、ジェイス

一人思索にふけるジェイスに訪れたのは、噛みつくような思考。

『変人があそこにいるぞ』

彼は急ぎ立ち上がって振り返ったが、遅すぎた。

学友が三人、彼と非常昇降口との間に立っていた。

「よう、ベレレン」 三人でも最も大柄の学友が言った。

 

大柄な少年のタック、あばた面のカーデン、短気な少女のジレット。

学友の口ぎたない罵り、尊厳を脅かす行い…

そしてその悪童からついに暴力が振るわれた時。

ジェイスはタックの心の中を垣間見たのでした。

「すごく怖かったんだろ」 ジェイスは言った、錆びた装甲に向けて。

「何だって?」 タックは足元へとジェイスを引っ張った。

「怖かったんだろ、て言ったんだ」

タックはにやにや笑いを止めた。「何?」

「あいつが家に帰ってくるのを待ってろ」 ジェイスは言った。

「誰のことよ?」 ジルが尋ねた。

「あいつは酔っ払っているって知ってる」 ジェイスが言った、「お前をまた殴るって知ってる」

「黙れ」 タックが罵った。彼はジェイスの喉元を掴んだ。

「お前は寝たふりをするんだろう」 ジェイスは息を切らしながら言った。

「ベッドの中に、ちっぽけなナイフを持って。そしていつも――」

「黙れ!」 タックが大声で叫んだ。彼は縮こまっていた。

「いつも……お前は自分に言い聞かせるんだ……やり返してやるって」

ジェイスの視界がかすみ始めた。タックの両眼を通して、彼はぼやけて見えた。

「タック?」 カーデンが言った。

「でもお前は一度もやり返した事なんてない」 ジェイスが囁いた。

黙れ! タックはジェイスを押し、彼を魔道士輪の屋根、その滑らかで冷たい金属板の端まで滑らせた。

 

風がうなる自宅の屋上。

ジェイスはその縁に片手をかけて掴まっていたのでした。

「自分の頭の中を覗かれた」。

その怒りに、タックは自分をここから突き落そうとしている。

掴まる腕も限界を迎え。

そしてタックが片足を上げた瞬間。

ジェイスは、”カーデンの両目から、自分を見下ろしていた”のでした。

カーデンの両手が動いた。ジェイスがそれを動かした。

どうやったのか、何故なのか、もしくはカーデンが今まさに何を見ているのかも知らなかった。彼は本当に気にかけもしなかった。

カーデンを制御しながら、ジェイスはタックの肩を掴むと彼を端から引きもどして、そして自身へとぎこちなく片手を差し出した。

(中略)

自身の頭に戻り、ジェイスはカーデンの手を掴むと、自身を引き上げた。

彼はそこに立って、震えた。脚の下には硬い装甲があった。

 

両目の青い輝きが消え失せ、倒れ伏すカーデン。

ジェイスは怖がるジルとタックを通り過ぎ、逃げたのでした。

タックへの怒りからではなく。

自分の起こした事象から目をそむけるために。




師との出会い

事件からしばらくたった後。

ジェイスはその日、父と母が居間で待っているのを感じました。

父は苛立ち、母は心配を纏って。

ジェイスは緊張して髪を直し、二人へと向き直った。「どうしたの?」

父が口を開いたが、最初に話したのは母だった。

「あなたに会わせたいお方がいるの」 彼女は言った。

「あなたを助けてくれるお方よ」

(中略)

「誰?」

「調停者だ」 ジェイスの父が言った。

「あの方の職務は戦争を終わらせるための交渉、だがあの方はまた……ま、魔道士でもある、お前のように。あの方は御存じだ、どうやって……」

「その方は、あなたが自分の能力を制御する方法をご存知なの」 母が言った。

 

観測デッキへ上る階段の先。

そこでジェイスを待っていたのは、スフィンクスでした。

圧倒的☆後光

『私の名はアルハマレット。そして君がジェイス・ベレレンだね、並はずれた才能を持つ精神魔道士君』

ジェイスは確信とともにわかった。この思考は、自分のものではないと。

『どうして……? え?』

『どうか、楽に答えてくれればいい。できるならば』 轟く声が頭の中に響いた。

『こんなふうに?』 ジェイスは考えた。

『そのとおり』

 

アルハマレットは、ジェイスの希少な能力をここで浪費させたくないこと。

そして、精神魔導士として、自分が師となり教育をしようと考えていることを告げます。

両親の元を離れて、数年間。

ジェイスは再び両親の顔を見た。

母は勇気づけるように頷いた。父は少なくとも安堵していたに違いない。教育はここを出るための切符だ。

ジェイスはアルハマレットへと振り返ることはしなかった。

「俺、行くよ」 彼は言った。




調停者という者

アルハマレットはジェイスを背に空を飛ぶ間、調停者たる自分の役割を説明します。

ここヴリンは、アンブリン同盟とトロヴィア人(分離主義者)による、魔道士輪をめぐる戦争が続いていること。

そして調停者は、単に戦争を終結させるのではなく、それらどちらにも勝てるようにしておくことで、独占による次元の混乱から守っているのだということ。

「我が家」へジェイスを迎え入れたアルハマレットは、そこから二年間、彼を精神魔導士として鍛えるとともに、調停者としての仕事もさせていたのでした。

魔道士輪

十五歳となり、背は伸び、機敏になり、そしてかつてよりもずっと強くなった。

彼は眠る衛兵の心から軍事機密を剥ぎ取った、その者の家族について何も学ぶことなく。

思考を曇らせて心変わりをさせた、全く傷つけることなく。

彼は両親が誇りに思うだろうと願った。

 

ジェイスは時に図書室で魔術理論を学び、時に外で「訓練任務」と称した機密活動に従事していたのでした。

いつものように、入手したトロヴィア人の情報をアルハマレットへ話していた時。

ジェイスはふと、彼の心に入り込むことを試みようと思い至ります。

それは、師に対する礼儀として、今までやらなかったこと。

しかし、ジェイスは以前よりも自分の成長を噛み締めていたのでした。

彼はアルハマレットの心を覗き込んだ。

(中略)

彼は自分自身を見下ろしていた。

幻影を練習し、強く集中して少しの光と音の塵を制御しようとしている。

彼はとても幼く見えた。

何かが間違っていた。青と白のエネルギーが彼の瞳に走った。幻影は彼の周囲に渦を巻いた、速く、更に速く。

そして

彼は

消え始めた……

渦巻く幻影の中、ジェイスは完全に姿を消した。

アルハマレットは複数(!)の世界の間を満たす虚空へと霊気の触手を伸ばし、その少年を引き戻した。

プレインズウォーカー。

ジェイスは身動きをした。上体を起こした。何が起こったのかを訪ねた。

そしてアルハマレットは若者の心からその事件を拭い取った。

 

自室へ戻ったジェイスは、そこで自身の思考を整理します。

自分は、プレインズウォーカーという存在である。

師はプレインズウォーカーとしての自分を弟子に欲したのだ。

そして何より、「この記憶が師により消されていた」ということ。

この思考がある限り、アルハマレットは自分が知った事実を知り、そしてまたこの記憶を消すだろう。

彼は机から一切れの紙を取り出し、書き始めた――もしスフィンクスが見つけたとしても読めないであろう、小さく窮屈な字で――彼が見たものを、どうやって見たかを。

彼は可能な限りの詳細を含め、もしアルハマレットが見つけたら何が起こるかを自身へと警告した。

終わると彼はその上に日付を書き、紙を注意深く折り畳み、机の引き出しに隠した。

そして、ゆっくりと、注意深く、とても注意深く、ジェイスは見たものを忘れさせた。

それを書いたことを忘れさせた。忘れたことを忘れさせた。




師との戦い

数日後、任務に従事したジェイスは、アンブリンの宿営地で、将軍の記憶を覗き込みます。

そこにあったのは、敵側の情報を流し、報酬を受け取る自分の姿。

自分の記憶にない、浅はかなる自分の姿。

彼は自室で、師の欺瞞を暴く紙を見つけ、決意をするのでした。

彼はスフィンクスの遊戯の駒でいることはもう望まなかった。

だが彼は知らねばならなかった。

彼は離陸場へと向かった。アルハマレットはそこにいて、腰かけて彼を待っていた。

『おかえり』 アルハマレットは言った。『何を知ってきたのかな?』

「教えてよ」 ジェイスは言った。

スフィンクスに僅かな公開すら与える気は無く、言った。彼は知る限りの精神防御を固めた。

『ああ』 アルハマレットは言った。

『君は不快なことを学んでしまった、そう取っていいのだね』 頭の中に響くスフィンクスの声は今や大きく、強要するようだった。

 

そしてジェイスは、自分の記憶にある情報を賭けて、師に精神対戦を挑むのでした。

アルハマレットよりもたらされる、暴風雨のような精神攻撃。

そこで彼の記憶の一端に触れたジェイスは、この2年の真実を知ったのでした。

アルハマレットはジェイスを弄んでいた。

彼はいたずらに戦争を長引かせ、各陣営から利益を得て、私服を肥やしていた。

今やアルハマレットは全てを知り、ジェイスの心の奥底へと目的を定めた。可能ならばその不愉快な記憶を消し、有用な財産を回収するために。そして不可能ならば、破壊するために。

(中略)

ジェイスは自身が落下するのを感じた。前方へ、上方へ、外へ。

彼は故郷を忘れ、母の顔を忘れ、自身の名の響きを忘れた。

だがスフィンクスはもっと深刻なものを忘れた。

アルハマレットは呼吸の仕方を忘れた。

彼は前方へと倒れ、息を求めてあえいだ。その頭部の形が、彼が最後に見た

世界の断片

だった

そして

離れた……

かくしてジェイスはラヴニカで目覚めた




ラヴニカの癒し手

ジェイスが次元を移動し、たどり着いたのはヴリンとは異なる都市。

戦いの中で若き頃の記憶を失った彼は、助けを求めるべく周囲の心を探ります。

そこでたどり着いたのは、一人の名前。

イマーラ・タンドリス

彼女は迷い子を受け入れている、と。

扉が勢いよく開かれると、長く尖った耳をした優美な女性が姿を現した。

優雅な服装に、乳白色の瞳。彼女の思考は迷宮のように、表面から奥深くに隠されていた。

綺麗な女性だった。

「もし私を褒めに来ただけなら」 彼女は言った。「残念だけどあまり時間はないの」

「心が読めるんですか?」 彼は言った。そして直ちに後悔した。

そのエルフは微笑んだ。

「いいえ。あなたはまだ子供ね」

スタッツめちゃデカで有名な癒し手

名前を聞かれたジェイスは、とっさに周囲の心から得た名前を口にします。

「ベリム、です」

ジェイスはその癒し手の元で、衣服を、寝床を、そして安全を手にしたのでした。

彼は断たれた記憶をたどります。

ある形が彼の目の前に凝集した――延びた輪、底が開き、その中央に浮かぶ円。それが意味するものが何かはわからなかった、もし意味があるのだとしても。

ジェイス。

俺の名前はジェイス・ベレレン。

そう、そこには何かがあった。彼が掘り出してくれるのを待っていた。

そしてジェイス・ベレレンとは? 良い人物なのか? 親切なのか?

彼はその形を払って座った。独り、想像したこともない程に故郷から遠く離れて。

しばらくは、成り行きを見守ろう。

そして彼はこの地でギルドパクトとなる




今回はここまで

ジェイスは過去を語る際に「昔の記憶がない」と言いますが、その原因はここ、しかも自分自身にあるのですね。

故郷の戦争に利用され、その状況からの脱出のために記憶を捧げた彼が、最初にプレインズウォークした次元で成りあがっていく…。

そんなストーリーが、今のイケイケジェイス君(!)からは想像もできないドラマなのです!

ちなみに、彼の故郷の次元ヴリンは、「ジェイスの故郷」という以外で触れられていないマニアックな次元のため、今後も出てくる可能性あり…?

次回は、そんな彼をブレインとして信頼するギデオンのオリジンをご紹介します。

お楽しみに!

☆Twitterで更新情報発信中!フォローお願いします!


【関連記事】

リリアナの灯の覚醒~兄を想うドミナリアの癒し手【ストーリー】

「ジェイスの誓い」の背景ストーリー

 

*出典*

ジェイスの「オリジン」:欠けた心