【エルドレインの王権】第9回 成就するオーコの計略
はじめに
前回、ついに大鹿と化したケンリスに追いついたウィルとローアン。
しかし、エルフとの戦いのさなか、アヤーラ女王の放った矢が、大鹿の胸を射止めます。
ついに、オーコのもくろんだ僻境と王国との戦争が始まろうとしているのでした・・・。
オーコの逃亡
アヤーラ女王は、馬上で鬨の声をあげたその時。
咆哮を響かせてガラクが現れ、彼女へ飛びかかりました。
しかし、その斧が振り下ろされたとき、そこに女王の姿はなく、一羽の大鴉が。
その大鴉をつかまえようと、グリフィンが爪を振りかざすと、大鴉は次にドレイクの形を取り、その身を躱すのです。
ローアンは包囲されたドレイクへたどり着くと、両手でその尾を掴みました。
そのまま、ガラクへと警告します。
「止めて! オーコを殺さないで。アヤーラ女王やお母様が戦犯だって、僻境にも王国にも思わせるわけにはいかないの!」
ウィルも加わり、ドレイクの足を捕まえると、アーデンベイルの騎士たちも総出でドレイクを押さえつけました。
身動きの取れなくなったドレイクは、次第にその姿が崩れていき…
そこには手首足首を双子に掴まれたオーコの姿が。
ローアンは口を開き、その場の全員に聞こえるような大きくはっきりした声で言いました。
「この者に正義を。私達は、王国で常にそうしてきました」
オーコは穏やかな笑みを向けました。
「ローアン・ケンリス、私の命を救ってくれたことは忘れないよ。借りを作るのは嫌いだが、今後会うこともないのだから、それを返す機会もないだろうね」
「命を救ったわけじゃない。お前は裁きにかけられて罪の償いをするのよ」
「それは今日ではないよ」
オーコの両目に光がきらめいたその瞬間、オーコはその姿を消したのでした。
ローアンは慌てて辺りを見渡しました。
「どこへ行ったの? 何に変身したの?」
ガラクが頭を上げて空気を嗅ぎ、斧を下ろしました。
「あれはお前の手の届かない所へ行った。だが俺には追える」
この事件の発端、そして父の敵であるオーコは、双子の理解できない力によって、捕まえたと思った両手をすり抜けていったのでした。
しめやかなる僻境
リンデン女王は、息も絶え絶えな大鹿のそばにいました。
その血は女王の衣服に染み、銀と白の布地を汚しています。
無言の猟団からアヤーラ女王が進み出て、リンデンは顔を上げました。
「我々エルフは死の匂いを感じます。冬至の狩猟にて与えられた一撃は常に致命傷です。リンデンさん。アルジェナスが死んでしまうとしたら、私にとっても残念なことです。人間としては善き人物でした」
あぁ、まただ…とウィルは思いました。
アヤーラ女王の胸には、黄金のブローチ。
大鹿を射ったあのアヤーラにはなかったもの。
つまり、こちらが「本物の」アヤーラ。
「彼はもう死に瀕しています。それを望むでしょう。有徳とはそういうことです」
ウィルは無力に座ったままの母の姿を疑問に思わずにいられませんでしたし、ローアンは納得できませんでした。
これではオーコに勝ち逃げをさせることになります。
エルフたちは、リンデンのその言葉に、死者を悼むかのように、一人、また一人と、大鹿のもとにひざまずき、その血を自分の皮膚に撫でつけ、去っていったのです。
最後には、アヤーラ女王がそれに倣いました。
「リンデン女王。思うに、明かしていないことがありますね」
リンデン女王は顔を上げず、口元にわずかな笑みを浮かべました。
アヤーラはそれ以上追及せず、静かに僻境の闇の中に消えていったのでした。
その後、リンデン女王の命令で、グリフィンの騎士たちが空へと飛び立っていきます。
太陽がようやく地平線を割り、眩しい光が大鹿の身体を照らしました。
変身の呪文が解けていく中、人間の姿のアルジェナス・ケンリスが命なく横たわっていました。
ローアンは息を詰まらせ、膝から崩れ落ちました。
ウィルも、体がうまく動かないのがわかります。
覚悟はしていたものの、見たくなかった現実がそこにありました。
そんな中。
リンデン女王がかすれた声を上げました。
その口からこぼれたのは、ケンリスの過去。
そして、双子の誕生に関わる真実の物語でした。
今回はここまで!
あと少し!というところではあるのですが、今回はここまでとさせていただきます。
ここからの語りが重要、かつ長いので…笑
次回エルドレインストーリー紹介の本編最終回!
すべての伏線が回収される、物語の最後をお楽しみに!
*出典*
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