【サンダー・ジャンクション】第5回 ジェイスとヴラスカの夢【ストーリー】
はじめに
アイエエエ!?ジェイス!?ジェイスナンデ!?
…という衝撃のラストを迎えた、サンダー・ジャンクションの物語。
オーコ達、悪党たちのストーリーかと思いきや、アショクの姿に扮していたジェイスが最後に全てを持って行きました。
文字通り、悪党が狙っていた「おたから」を攫って行ってしまった形です。
もちろん、ヴラスカはこの裏作戦を把握していたようで、ジェイスとともにおたからを奪取できたことを心から喜んでいるようでした。
さて、この結末の裏には、二人のどんなストーリーがあったのか。
本編でエピローグとして語られた、ジェイスとヴラスカのストーリーをご紹介します。
まずは、あのファイレクシアとの戦争の、ジェイス目線の物語から…。
ジェイスの真実
サンダー・ジャンクションの物語より一年前。
新ファイレクシアの侵略樹にて。
ジェイスは、多元宇宙を守るために、酒杯の爆発をせんとしていたのでした。
仲間たちは現実をわかっていない。
この犠牲を払わなければ、ファイレクシアは生き延び、すべての生命は終わりを告げる。
自分が、今ここでやるしかないのだ。
完成化が完全となりゆく中、酒杯を起動するジェイス。
しかし身体が侵食され、やがて失った意識から、次に気づいた時。
彼の胸は、光素を纏った剣によって貫かれていたのでした。
油を吐き倒れそうになる中、咄嗟の判断で「死んだふり」をすべく身体を幻飾で覆い隠したジェイス。
エリシュ・ノーンが幻のジェイスを傍らに据えたうえで、完全なる統一の始まりを宣言すると。
ジェイスは愛する者だけでも救いたい一心で法務官の思考をさらい、彼女の命令を知ったのでした。
それは一言。
「帰るがよい。」
そしてその命令に従うかのように、久遠の闇へと引きずれらゆく身体。
彼はそれに抵抗しつつ、必死に思考を巡らせます。
扉のない独房から囚人はどうやって脱出すればいいのか。
火をつければいい、そう心は答えたのでした。
そして、ジェイスは自らに暗示をかけたのです。
自分は熱病にかかり、そしてその熱はウイルスであるファイレクシアの油を焼ききると。
自分の頭をも騙すほど、強く、強く。
またも意識を失った彼が次に目覚めた時。
もはやその胸から出るのは、油ではなく赤い血で。
彼はファイレクシアの精神でなく、自身で自身を掌握できていることに驚いたのでした。
そして脳内に真っ先に去来する、ヴラスカのこと。
傷ついた身体を引きずりラヴニカへ渡った彼は、ドレイクに捕まり空から確認することで、力なく倒れるヴラスカを発見したのです。
その様子に、ジェイスは声をあげずにはいられなかった。
(中略)
彼はひざまずいてヴラスカへと両腕を回し、焦りながらも残された意志を振り絞って膝へと抱き上げた。
「目を開けてくれますか?」
柔らかく、緊張とともに彼は呼びかけた。不安に手が震えた――血まみれで油が飛び散った手、それでもジェイスは彼女の頬を撫でた。
「息はできますか?」
ヴラスカの返答はなく、そのためジェイスは彼女の内へと入り込んだ。辛くないように、心の隅に。そして馴染みのある嘲りが聞こえた。
「いい気になるんじゃないよ、ベレレン。息ができないくらいお前に見とれてなんかいない」
ジェイスは安堵の息をつき、ヴラスカへと自身を近づけた。
ジェイスはヴラスカの精神へと入り、そして彼女が如何にして完成化と戦ったのかを知ったのでした。
彼女は、かつて作ってあげた秘密の場所に隠れたのだと。
そして、彼は自分自身に実行したことを、ヴラスカにも施します。
それは、奇跡と呼ばれる所業の連続。
ヴラスカを守っていた精神防壁を破壊し、同時に新たな壁を心に作り、そして彼女の脳に熱病の暗示をかけるとともに、死に際の彼女を久遠の闇へと引きずり込む。
どこへ行けばいいのかもわからない。
しかし彼の頭に、生まれた時から知る、一人の治療師が思い浮かんだのでした。
スミレの香りとともに入口が開き、久遠の闇からジェイスは踏み出た。
彼は再びつまずいた。ケーブルが外れ、背後に血を飛び散らせながら、彼とヴラスカは別の次元に、手織りの敷物の上に倒れ込んだ。
(中略)
「どういうこと」
声が聞こえた。十年以上も聞いていなかった声が。
顔を上げるとひとりの中年女性の姿が見えた。
(中略)
常に冷静なラーナ・ベレレンは、自身の居室に落ちてきた血まみれの怪物たち相手にも警戒を露わにしなかった。
ラーナは恐る恐る近づき、右手の指に紺碧色の光を尖らせた――咄嗟の防御のための外科用メスの呪文。だが自身と同じ瞳を見て、彼女ははっと立ち止まった。
「ジェイス?」
そして毒づくように彼の名を囁いた。
消耗しきって、言葉を発することすらできなかった。そのため熱と疲労に圧倒される直前、ジェイスは相手の心に直接語りかけた。
助けて、母さん。本当に、ごめんなさい。
母の元で
血まみれで、傷だらけのジェイスとヴラスカが並んで横たわる中。
ラーナ・ベレレンは手際よく二人に治療を施していったのでした。
そしてそんな中、ジェイスの耳にヴラスカの声が聞こえたのです。
「ジェイスを、先に、助けて」
かすれた声をヴラスカが発した。ジェイスが顔を向けると、彼女は母の目をまっすぐに見つめていた。信頼の視線を向けていた。
「私は、ヴラスカ……貴女の、息子は、私の、命より、大切な、人……お願い、ジェイスを」
そうだ、ヴラスカは母を知っている。自分のすべてを見たのだから。
(中略)
母の両目がジェイスへとちらつき、投げかけられた質問を彼は心の中に聞いた。
あなたのお嫁さん?
その問いかけはあまりに巨大で、ジェイスはその重みに咳き込んだ。
(中略)
口を堅く閉じたまま、彼は母へと返答した。
この人は、俺にとっての世界そのものなんだ。母さん。
やがて彼は治療の中で眠りに落ち。
その後は自由に行動できるようになるまで、ほぼ眠ることで過ごしていったのです。
ある時は、彼は母に幼少期の真実を語り。
ある時は、ヴラスカと母が話すのを立ち聞いたのでした。
過去の悔恨に悩むヴラスカへ、ラーナは語ります。
「昔のあなたは死んだのよ。」と。
ファイレクシア化したときに昔のヴラスカは死に、今は全くの別人物になったのだと。
ヴラスカに安堵を与えたその言葉は、ジェイスには棘となって刺さりました。
ギルドパクトの体現者であった自分はファイレクシアに殺され、もういないと。
そして、傷の癒されたある日。
ジェイスは別れの口づけを母と交わし。
ヴラスカはその母へと感謝を伝えたのでした。
そして、数か月ぶりの次元渡りに備えた二人。
しかし絨毯を一歩進んだヴラスカは大きく目を見開き、違和感を覚えたジェイスはすぐに久遠の闇からヴリンへと引き返したのです。
彼女は動揺しながら手を心臓に、喉に、額にあてて叩いた。まるでそこにないものを感じようとするかのように。
(中略)
ヴラスカは涙とともに声をあげた。
「感じない。どこにも感じないんだ」
「感じないって、何をですか?」
「渡れないんだよ! お前は?」
すぐさま彼は動き、身体の半分を久遠の闇に立たせた。その両脚が青緑色の輝きを帯びた。ヴラスカは目を閉じ、集中し、そして息を吐いた。
「無いんだ」
(中略)
ヴラスカは彼の目の前で泣いた。彼女が泣く声を聞くのは初めてだった。
(中略)
「灯がなくなって、わからないよ、もう自分が何なのか」
昔のあなたは死んだのよ。
かつての自分たちには二度と戻れない。
ジェイスはその無意味さに、ヴラスカと共に涙を流した。
そして自分たちで意味を作ると誓った。
ジェイスとヴラスカの夢
それからしばらくして。
ジェイスとヴラスカの二人は、きらめく三角形の領界路の前に立っていたのでした。
その存在の不気味さに憤慨するヴラスカ。
ただ一つの次元橋ですら、それを利用したボーラスやテゼレットは非道の限りを尽くした。
こんなものが存在しては、遊びで色んな次元を征服する者を止める方法はないと。
なんとかしなくては、と怒るヴラスカに、ジェイスはその手を取り告げます。
自分たちはかろうじて助かった。それだけで十分だ。
むしろ、次に何をするのかを考えたいと。
ふたりの目が合った。
次に何を。ジェイスは母の問いかけを思い出した。あなたのお嫁さん? 未来像が見えた――ヴリンの正装をまとうヴラスカ。ベレレン家の青が緑色の肌を引き立てる。自分たちの子供。
そしてヴラスカの眼差しは、ジェイス自身と同じような未来を思い描いていると伝えてくれていた。
「お前はすごくいい親になれるよ」
「ヴラスカさんも」
「だから……」
「養子を」
ジェイスは素早く言い、顔を赤らめて微笑んだ。
「俺たちの間にはできない、ですよね」
「養子」
ヴラスカも素早く頷いた。その事実を認め、ひるみながらも。
「そうだよな。できるなら、とっくにできてる」
彼女は鼻を鳴らして笑い、ジェイスは思わず笑みを返した。
九年前のサンダージャンクションにて。
無限連合に所属していたジェイスは、テゼレットの命令でこの次元を訪れ。
そして、フォモーリの宝物庫で、子どものような、眠たげな心を感じたのでした。
二年前のラヴニカにて。
タミヨウは、そのような宝物庫が多元宇宙に多数存在すると教えたのでした。
歴史の中で失われた古代帝国の遺物。その物語も。
十二か月前、エルドレインにて。
ジェイスはアショクの姿をとると、閉ざされた扉の並ぶ牢獄へと足を踏み入れます。
そして、幻影をまとう彼は微笑みかけたのでした。
アショクを待つ、魔女エリエットへと。
六か月前、イクサランにて。
久方ぶりに訪れた孤高街にて、彼女はかつて自分の”船員”だった二人を探し出し。
“船長”と再会したマルコムとブリーチェスは、熱狂のままに狂喜したのでした。
一か月前、ラヴニカにて。
ジェイスはゴルガリの地下帝国にて、プロフトを殴打すると。
その精神に入り込んだ彼は、その探偵の能力を盗み見たのです。
そして現在。サンダージャンクション。
二人は宝物庫の宝物を抱きしめ、砂漠の岩場を歩いていたのでした。
ちゃんと生きていることも、そしてこんなに幼いことも想定外だったその”男の子”。
ジェイスは子どもに話しかけるように優しく接すると、その精神に入り、そして彼の名前と、その能力を理解したのです。
その子どもの名前は、「おたから」。
そして彼を通して、「全ての多元宇宙が見える」ことを。
「君はすごいよ。ありがとう、おたから」
ジェイスが顔を近づけて目を合わせると、おたからも近づいてきた。
「おたから、知っておいてくれるかな。ヴラスカさんと俺が、全力で君を守る。何があってもね」
ジェイスはそう約束し、最愛の人へと視線を向けた。ヴラスカは温かく、真摯に頷いた。おたからは嬉しそうに、溌剌とした声を発した。
(中略)
明日になったら、存在すべきではないポータルを通り、自分たちが来るとは知らない次元へ旅立とう。旅の荷物をまとめ、この次元の塵を振り払い、おたからを担ぎ上げて。袖を下ろしてファイレクシア化の跡を隠し、癒えた両腕の傷に口付けをする。
傷跡は自分たちふたりの約束。それは、悪いことはただ起こるだけではなく、理由もなく起こることもあるという共通の認識。この多元宇宙は終わりのない大禍であり、残虐と不正義を滅する希望はない。けれどその傷の中に、約束の中に、この奇妙で小さな家族は自分たちが選んだ希望を運ぶ。
望みと決意をもって領界路をくぐるのだろう。愛する人と養子の手を握りしめ、無情な多元宇宙の久遠の闇へと踏み入り、毅然と、不死鳥の羽根とともに自らへと言い聞かせるのだろう。
俺たちの未来は、きっといいものになる。
今回はここまで
んーーーーーーー!
乾杯ッ!
二人の新たな門出に!
乾杯ッッ!
このストーリーをちゃんとエピローグで持ってきたのは尊すぎんか?
機械兵団の進軍のエピローグパート(チャンドラ×ニッサ)といい、今回と言い、エピローグは愛を描くと決めたんか?運営さんよ。
今回もエピローグブースター出してくれて良かったんと違う?ん?
というわけで、ジェイスとヴラスカはついに子どもを手に入れました。
しかもこの子ども、多元宇宙のあらゆる次元やら領界路が見えるそうです。
ど、どうなっちゃうのーーー!
ジェイス君が「ヴラスカさんと俺が、全力で君を守る」とか言うてるけど、怖いのよ、そういうフラグっぽいこと言われると。
もう散々色んなことがあったんだから、そろそろ幸せになってくれ。
ストーリーの締めであった「俺たちの未来は、きっといいものになる。」を信じさせてくれ。
んー、筆者、ジェイスヴラスカになると口数多くなりがち。
すみません、迸りすぎました。
さて、来る多元宇宙間レースとやらにも深く関わってきそうな重要キャラクターをジェイスが手にしたところで、サンダージャンクションの物語は終わりになります。
また次のストーリーにて!
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