【霊気紛争】第6回 アジャニの誓い【ストーリー】
はじめに
前回、チャンドラとギデオン、そしてリリアナの尽力により、次元橋は破壊され、テゼレットは敗走します。
また、チャンドラの仇敵であったバラルは、自分の管理していたドゥーンドの監獄へ幽閉されたのでした。
そしてついに、カラデシュの物語は幕を閉じます。
それは一人の仲間を迎えることで。
そして、出会ったばかりの親子が別れを告げることで…。
アジャニの誓い
カラデシュでずっとゲートウォッチを支えてきた、ヤヘンニ宅の中庭。
霊基体の彼の「寿命」が終わろうとしている中、ギデオン達はそのパーティに参加すべく、集合していたのでした。
チャンドラが飲み物を持ってきたタイミングで、ギデオンは口を開きます。
「私達皆ここに揃っていて、まだ少しの時間がある。パーティーが始まればそれぞれ散るだろう。その前に話し合うことがある」
ギデオンは自身のグラスを掲げた。
「失った友に」 そしてアジャニへと向き直った。「そして新たな友に」
同意の呟きが上がった。
ギデオンはそのレオニンの肩へと手を置いた。
「私達五人は誓いで一つとなった。私達全員が、それぞれの理由で、見守ることを誓った。脅威を、敵を。そして一つの敵をここで見つけた――あなたが既に見ていた一つを」
彼は皆の同意を求めて視線を走らせた。ニッサ、ジェイス、チャンドラは頷いた。リリアナは肩をすくめた。
「貴方が加わって下さるなら、とても光栄なことと思います」
アジャニの小さなため息。
ギデオンは、期待を表に出さないよう努めていました。
アジャニ自身に、ちゃんと決めてもらうために。
「そうだな」 アジャニは答えた。「それは……光栄なことだ。誓いを?」
そこでジェイスが微笑んだ。
「形式は特にありません」 ジェイスは言って、自身の額を指で突いた。
「宜しければ、直接お伝えしますよ」
アジャニは頷いた。ジェイスがその心にテレパスで教えると、猫の片耳がひねられた。
(中略)
そしてレオニンは深く息を吸った。
「私は暴君を見てきた。限りを知らない野心の。神々の、法務官の、領事の姿をとりながら、支配する相手ではなく自分達の欲望のみを考える。あらゆる人々が欺かれ、文明は争いに放り込まれる。ただ生きようとするだけの人々を……苦しめ、やがて……死なせてしまうまで」
彼は左手で白い外套の端を強く掴んだ。バント式の縫製にギデオンは気が付いた。レオニンにしては小さすぎる。何を――そして誰を――このレオニンは背負っているのだろう?
「二度とさせない。全ての者が居場所を見つけるまで、私はゲートウォッチとなる」

そして彼らは、次の目的地を話し合います。
ボーラスはアモンケットにいるというリリアナの話を受け、向かう次元を決めようとするゲートウォッチでしたが、これに反対したのがアジャニでした。
かつてボーラスと戦っていた彼は、そのドラゴンの人知を越えた強さ、そしてそのドラゴンの根城とも言える次元へ向かうことの危うさを説きます。

ギデオンはその意見を踏まえた上で、しかし次なる目的地をアモンケットへ定めます。
今以上の好機は、きっともうないと。
ジェイスも彼に同意します。
「彼の判断は信じるし、怖れももっともだ。けどそうじゃない。ボーラスは俺達よりも賢い。俺達がたとえどんなに準備に時間を費やしたとしても、あいつはさらにその上を行くだろう。ギデオン、君の言う通りだ。これは俺達の好機だ。ここで起こったことをテゼレットが伝えてしまったら、俺達は唯一の強みを失う」
(中略)
ギデオンは立ち上がった。
「明日の朝に集合場所を決めよう。そしてそこでアジャニさんと合流する……ボーラスに対峙した後に」

母と娘の別れ
カラデシュでは、新たな領事府の体制が敷かれようとしていました。
そして、その新たな世界では、改革派もその中に加わることが約束されていたのです。
つい数日前まで、改革派の長と呼ばれていたピア・ナラーは娘とともに壁画の補修に勤しんでいました。
偉大なる発明家であり、夫である、キラン・ナラーの。
チャンドラは小さな正方形のタイルを父の眉へ押し付け、動きを止めて父の目を見つめた。
「私、ここに残る」
「え?」
「残るの、ここに。カラデシュに。お母さんと」
「でも――」 母は驚いたようだった。
「私は――、それは嬉しいわ、チャンドラ。でもあなたは――」
「私はここで生きる。これから、お母さんと一緒に」 赤みがかったタイルで、チャンドラは父のゴーグルの部分を埋めた。
「家族として」
母はしばしの間何も言わなかった
やがて口を開いたピアの言葉は、それは自分にとって耐えられない、ということ。
母は娘に言います。
チャンドラは、ここにいるよりももっと大きな存在だと。
新しい生き方があるのをわかっていて、娘をここに縛り付けるのは自分が耐えられないと。
「お母さん、私は行けないよ。行かなきゃいけなくても――できない」
ペンチの先端が彼女に向けられた。
「行けるでしょう。あなたは旅人、だから行って、また帰ってきなさい。そして私達は再会して、あなたと私の時間を取り戻す。お父さんともここで。『じゃあね』で終わる家族は止めて、『おかえりなさい』って迎える家族になりましょう」
チャンドラは目に涙を浮かべ、叫んだ。
「そんなこと言いたくないよ!」
母は立ち上がった。激しい、怒れる、少し華奢な柱のように、愛を体現して。
「チャンドラ・ナラー、あなたは私に別れを言うの。五回も、十回も、私に向かって、そしてその言葉から元気を貰う。わかる?」
「お母さん……」
(中略)
チャンドラは何も言えなかった。ただ母の腕の中へ倒れ込み、強く抱きしめた。
戦士の安息
霊気塔。
薄明りの朝焼け。
ニッサは、その屋上で生命の音を聞いていたのでした。
やがて、目の下に隈を作ったチャンドラが現われ、横に座ります。
彼女はニッサに、その瞑想の仕方は自分にもできるのかと聞くのでした。
できないと答えるニッサ。失礼なことを話したと焦り立ち上がるチャンドラ。
しかし、ニッサは彼女へと告げます。
「行かないで」と。
ニッサは喉の渇きをのみこんだ。
「私はあんまり喋れない。ずっと……何十年も一人だったから。ゼンディカーが仲間だった。言葉より深くお互いをわかりあって……だから……わからないの、どうやって喋ったらいいか。学ぼうとしてる所なの」
チャンドラは顔を上げた。目を見開いて驚いていた。
「私に、どう喋ったらいいか、わからない?」
「きっと間違えるし、間違った言葉を選ぶと思う。誤解させると思う。変なことをして、それもわからないと思う。でももし、我慢してくれたら、きっと……」
(中略)
「……友達になれると思う」
チャンドラの両手が彼女を迎えるように伸ばされた、鳥の巣のように温かく。
「わかんないけど」 そして鼻を鳴らし、口の端がわずかに上げられた。
「あんたは言葉を選ぶのがすごく上手だと思うよ」
「この言葉を考えるために、午後全部かかったくらい」
チャンドラは笑い、だがそれはまたも欠伸になった。彼女はニッサの手を放して口を覆った。
「ん。ごめん」
淡い暁光の中、チャンドラはニッサに打ち明けます。
パースリー夫人は、いろいろと見せてあげたほうが良いと言ってたと。
これまでは、牢獄の周りを歩いて閉じ込められただけなんだから、と。
ニッサは口の端が自然と上を向くのを感じた、意識することなく。今、私は笑ってるんだ。
「行く」
チャンドラは瞬きをして彼女を見下ろした。
「……ほんと?」 その言葉は、雄弁だった。
「あなたの故郷を見てみたい」
「でもあんたは――」
「怖いかもしれない」 彼女は認めた、悩むように膝の上で指を弄びながら。
「私は……離れて黙ってると思う。でも一緒なら、一人じゃないなら」
今度はニッサが提案します。
自分が先ほどやっていた想像の時間を一緒にやってみないかと。
チャンドラは笑顔で居ずまいを正すと、目を閉じたのでした。
ニッサは彼女に語り掛けます。
自分の声だけを聞くように。
そして、想像してみてほしいと。
川の流れ。
自分はその川辺に立っている。
風の音。水が岩に当たる音。
川へ入る、ゆっくりと。
水は足で分かれて、太陽に静かに輝いてる。
水の中にあおむけに寝て。
静かにする。じっとして、息をするだけ…。
そんな時間がしばらく続いた時
ドン。
ニッサは自身の身体に衝撃を感じて目を覚ました。
チャンドラは彼女に寄りかかって倒れていた。頭を肩まで傾げ、銅色の髪の束が鼻をくすぐり、開いた口からはゆっくりとした呼吸が行き来し、袖に涎が垂れていた。
ニッサはこうなることを期待していた。チャンドラには睡眠が必要だった。
(中略)
空は静かで、ニッサはチャンドラの眠りを守っていた。
それは正しいように思えた。
今回はここまで
カラデシュ、完!
尊いよね…尊くない?尊いんだよォ!!!
カラデシュの物語は、ニッサとチャンドラのコミュニケーションが上手くいかないところから物語が始まります。
そして、この二人が縁を深めたところで終わりになるのですね。
文章の書き方も、実は同じ表現を用いることで、状況の変化を鮮やかに描いています。
※カラデシュ冒頭、チャンドラを追うことを決意したニッサ。
「私が、カラデシュへ行く。バーンさんが案内してくれる。私……」
私は何をするの?
チャンドラを故郷へ帰す? 彼女は故郷にいる。
揉め事から助け出す? 彼女は大人の女性。思う通りにできる筈。
彼女を守る? チャンドラの心はベイロスのそれと同じ。守る人は必要ない。
「……一緒に戦う」
それは正しいように思えた。
※そして今回、眠るチャンドラに寄り添うニッサ。
空は静かで、ニッサはチャンドラの眠りを守っていた。
それは正しいように思えた。
ニッサは不器用な自分を認め、チャンドラという火に力を貸せるようになるまで待つ、ということを決意するのでした。
カラデシュのこの終わり方、ほんとすき。
もともと持っていた、肩を叩く癖を遠慮するようになったギデオン。
ギデオンの指令に、今まで躊躇なかった殺害をためらい始めるリリアナ。
そして、人間とのコミュニケーションに慣れ始めたニッサ、などなど。
カラデシュの物語を通じて、ゲートウォッチという組織の強さがより強固になったのですね。
そして迎えるは、アモンケットの物語。
強固になった彼らが、絶大なる力の前に砕かれる、「敗北の物語」…。
これらは次回からご紹介!
…と、その前に。
カラデシュで語らずには終われない!!!
ゲートウォッチを影で支え続けていながら、今まで触れられなかった「彼」の話を次回!!
お楽しみに!!
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