【機械兵団その後】第1回 灯の消えたニッサ【ストーリー】

はじめに

ファイレクシアとの大戦争の中、英雄側の勝利で幕を閉じた機械兵団の進軍のストーリー。

その傷跡が各所に残る中、公式にてアフターストーリーがいくつか公開されました。

今回は、その中のニッサの物語をご紹介。

戦いの中で完成化し、エリシュ・ノーンの側近として英雄たちと対峙してきた彼女は、戦いを終えての復活ののち、とある変化に気づいていたのでした。

 

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【機械兵団の進軍】背景ストーリーまとめ




目次

灯の消滅

ザルファーの地にて、ニッサはシャベルを使い土を掘り返していたのでした。

ただの土を、自らの手で。

ニッサがこの地で目覚めた時、彼女は自分の中の灯が消え失せていたことに気づいたのです。

そして、それは大地を自由自在に操る能力すらも彼女から奪っていたのでした。

何がおこったのかを知る者はおらず、酒杯の爆発によって多元宇宙に影響が出たのだろうと共に推察するテフェリーも、そしてコスもカーンもその灯を失っていたのです。

ニッサは、その喪失感を受け入れられないでいたのでした。

他の者が新しい故郷を手に入れる中、繋がれない大地への空虚さと、ゼンディカーの大地への郷愁とともに。

 

背後から彼女に呼びかける、チャンドラの声。

愛すべき相手ながら、自分と違い灯を失わなかった彼女。

チャンドラはまるでせかすかのように、祝いの席に参加するようニッサへ促します。

その気になれないニッサの訝しむ表情に、彼女はうつむきながら答えました。

自分はそろそろいなくなる、アジャニを探しに行くのだと。

ニッサは沈黙します。

それは、ニッサが目覚めた日に、彼女がしてくれた約束の反故。

『ここにいるから、どこへも行かないから』という約束の。

ニッサはここで待ちたいわけではない。だが彼女はプレインズウォーカーではない。選択の余地はなかった。

「キスしてくれたのに」

ニッサはそう呟いた。自身で辛うじて聞き取れた小声。

やっとキスしてくれたのに。

チャンドラはもじもじと足を入れ替えた。

「だから、その、まだ私は行かなくちゃいけなくて――」

(中略)

ニッサは声を硬くした。

「ならはっきりさせて――私のことをどういう風に好きなの?」

 

チャンドラは誰でも救う。自分もその内の一人でしかなかったのか。

そう問うニッサに対して、待てど暮らせど返ってくるのは彼女の当惑と上手く紡がれない言葉ばかり。

ニッサはチャンドラにすら、自身の苦悩を話せずにいたのでした。

まるで涙を隠すように背を向けたニッサが感じたのは、チャンドラの去る、煙の残り香のような匂いだけだったのです。

 

翌朝目覚めたニッサが感じたのは、チャンドラの不在。

傷心のままに木立を訪れた彼女は、ぼんやり浮かぶ青い光を目にします。

雷鳴な響きとともに裂ける光。

そこから飛び出してきた獣の突進を、ニッサは間一髪でかわしたのでした。

それはザルファーでは見たことのない狂暴な獣。

光を目にしたテフェリー、コス、カーンの参戦により、傷を負いつつも獣を撃退したニッサ達。

彼女は、その光から感じていたのです。

遠き他次元の香りを。慣れ親しんだ故郷の振動を。

そこを通っても大丈夫だろうかと問うニッサに対し、カーンは危険すぎると首を振ったのでした。

「でもあの獣は死んでいなかったでしょう!」

ニッサは反論した。彼女が紡いできた頼りない希望の糸はどれも、すり切れてちぎれてしまっていた。再び思い知る。これがプレインズウォーカーではないということ。

テフェリーはニッサの肩に手を置き、落ち着かせようとした。

(中略)

「このポータルがどこに通じているのかわからない以上、何が起こるかも断言はできない。しかし踏み込むのは……うん、はっきり言えば一か八かだろう」

(中略)

テフェリー、コス、カーンはすでに丘を下り始めていた。ニッサは足の疲れと肋骨の痛みを抱えながら急いで後を追った。

だが合流する前、最後にもう一度背後で輝くポータルを振り返った。




愛する人とともに

傷ついた心を抱いたまま、来ない眠気を待ち続けるニッサ。

その耳に、先ほどと同じ雷鳴が聞こえます。

外へと飛び出したニッサが見たのは、先ほどと同じ獣。

彼女はその場の人たちを避難させることに専念し、敵の注意を引き続けました。

人々が逃げられたことへの安堵とともに、やがてそのとてつもない巨体から放たれる鉤爪。

ニッサはそれを防ごうとするも、しかしその一撃がニッサへ届くことはなかったのです。

先ほどの一度目はテフェリーが。

そして今回は、燃え立つ人影が。

現われたチャンドラはニッサに鋭く指示を飛ばしつつ、獣へと炎を飛ばし続けていたのでした。

奮闘の末、引き抜かれた木の穴へと転がり込んだ二人。

獣に入り口を塞がれる中、ニッサはチャンドラへの言葉を考えあぐねていたのです。

自分の考えを、悩みを、悲嘆を。

「チャンドラ、あなたは約束してくれたのに居なくなった」

彼女は声を振り絞った。

「私は灯を失ったのに、何もなかったかのように多元宇宙を飛び回るあなたを見て平気だと思う? あなたが戻って来るのを待つだけなのが平気だとでも?」

(中略)

チャンドラは黙り込み、何を言うべきか考え、そして小さくうつむいた。彼女は穏やかな声で切り出した。

「ううん。わかる。そうだよね、わかってた。色々変わったし、今も変わってるんだよね」

温かなその視線がニッサと合った。

「それでもニッサのこと、これからもわかっていきたい」

チャンドラはニッサの両手を握り、ニッサの心臓は喉元まで跳ね上りそうだった。

(中略)

だがニッサの魂はまだ痛みでうずいていた。許す準備はまだできていない。

 

そこで二人は、頭上の獣が彼女らを生き埋めにしようと暴れているのを感じたのでした。

チャンドラはかつての共闘作戦をニッサに提案しますが、彼女はこれを否定します。

自分はもう力線に繋がれないのだと。力線は自分の声を聞いてくれないのだと。

チャンドラはしばし沈黙した後、結論付けました。

ニッサが築いてきた良い繋がりはたくさんあり、それらはニッサの声をかき消したりしない、と。

そう言って”繋がり”となる手を差し伸べるチャンドラ。

いつも安心とともに、ニッサに理解をくれる彼女の言葉。

ついに顔をほころばせたニッサは、その手を繋ぎ彼女の支援を受けることで、大地へ繋がらんと試みたのです。

そして、ザルファーはそれに答えてくれたのでした。

ザルファーはニッサを許し、ニッサも自分自身を許した瞬間。

 

喜びに溢れ、笑いあう二人。

それらの合わさった力は嵐を呼び起こし、獣を撃退するとともに、穴に満ちた雨は二人をうかび上がらせたのです。

降りしきる水の中、訥々と話し始めるチャンドラ。

新ファイレクシアで会ったときに感じた、世界よりもニッサを救いたいという気持ち。

自分の思いは完璧ではないけど、好きでいることをがんばりたいという気持ち。

呼応するようにニッサは自身の寂しい気持ちをこぼし、それに大いに謝るチャンドラ。

チャンドラは再びニッサへと向き直った。新たなひとつの約束に、その目は輝いていた。

「アジャニを探しに行ったけれど、気付いたの。今は見つけて欲しくないんじゃないかなって。気持ちの整理がついたら戻ってくるんじゃないかな。もちろんすごく気になるけど、ひとりで考える時間もあげないと。それで、気にしてる関係を単に焼き尽くすなんて出来ないなって気づいたの。愛って、その人があるがままでいられる余地を残すものかなって。私も、ニッサのためにそんな余地を残していたい。そうしたいの」

「火が酸素を必要とするみたいに……」

ニッサは最後の質問をする。

「プレインズウォークできないひとを受け入れる余地はある?」

「うん。やってみる。迷ったり、惑わされたりするかもだけど、やってみたい。どうやっても、炎は燃えようとする。けど頑張れば、その形を作ってあげることはできる。だから頑張りたい。ニッサのために」

ニッサは一瞬考える。やがて、彼女はうなずいた。

「私も、やっていけると思う」

ニッサはチャンドラへと身体を寄せて首筋に手を回し、紅蓮術士を引き寄せた。ふたりは最後にまた見つめ合い、それから目を閉じ、ニッサはチャンドラに口づけをした。

 

やがて二人は、獣のいたポータルへと向き合います。

耳をすませば、かすかにゼンディカーの声が聞こえる道。

危険でも飛び込みたいと言うニッサを、チャンドラはしっかり肯定したのでした。

自分は、ニッサの行く先を照らす松明になると。

ふたりはポータルに歩みを進め、それぞれ片足をその入り口に置いた。ニッサはためらい、チャンドラに向きなおった。そして尋ねた、念のため。

「本当に一か八かだけど行ける?」

「一緒にでしょ? ならもちろん」

手をとり合ってチャンドラとニッサはポータルへと、無限の可能性のひとつへと足を踏み入れた。




今回はここまで

ニッサチャン…前から思ってたけど、ちょっと重いわねアナタ…!?

とはいえ、こと恋愛においてはメンヘラチックなニッサチャンと、それにタジタジになりつつも不器用に愛を伝えるチャンドラ。

これがな…尊いんだよな…。これが二人の愛のカタチやねんな…。

と、思わされるラブ・エピソードでした。

機械兵団の進軍の後語りっていうからどんなストーリーかと思ったら、まさかの二人のラブストーリーだったよ!!アツイわねぇ!!ごちそうさまでしたァ!?

本記事では泣く泣くカットしましたが、二人の心の機微は文章の上でもかなり繊細に描かれているので、原文の方もどうぞ!!

チャンドラが語る愛の形のエピソード、好き。「愛は余白」。

 

というわけで、プレインズウォーカーたちが灯を失う中、各地に開かれたポータルたち。

前回幕を閉じた「新ファイレクシア編」に続き、これからは「領界路編」が幕を開けるのだとか!?

いったいどんなストーリーが展開されるか、楽しみにしましょう!

次回もお楽しみに!

 

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*出典*

ストーリー第1話 世界を切り開く者