【忙しい人向け】ストリクスヘイヴンの学生たちの物語【ストーリー】
はじめに
ゼンディカーの夜明けあたりから、メインとサイドの2種のストーリー展開によって展開されることになったMTG公式のストーリー記事。
ストリクスヘイヴンでは、メインでローアンたちプレインズウォーカーたちの活躍を描き、サイドではストリクスヘイヴンの伝説の学生たちのストーリーを描く、といった形で掘り下げを行っていました。
そして!この学生たちのストーリーがアツいんです!
なにがアツいって、今までのサイドストーリーと違い、キャラクター間に交流がある!そして、生徒と先生のやり取りがエモい!
次元を舞台に戦うプレインズウォーカーとは全く違う、大学を舞台にした彼らの青春が描かれているのです。
今回は、それらのストーリーをざっくり理解したい方向けのまとめ回!
5大学の伝説の生徒たちの物語を、起承転結でご紹介します。
原文も、それぞれのキャラクターの個性が際立っているため、興味を持たれた方はそちらも是非見てみてくださいね!
また、気になる生徒の物語がある場合は、目次もご用意しているため、そちらからもご参照ください!
ではどうぞ~!
ルーサの物語
ルーサの物語_起
プリズマリの学生、ルーサ・スコールハートは悩んでいました。
途方もない才能を持った詠唱者であった母のことを。
そして、それとはうって変わって、まだ学期内の作品すら完成できていない自分のことを。
その日、プリズマリのユヴィルダ学部長は、明日までに完成した作品を持ってくるよう彼女へと要請したのでした。
その無茶なまでの要求に怒りを覚えつつ、執務室を出た彼女を出迎えたのは、もう一人の学部長ナサーリ。
イフリートのその学部長は、持ち前の独特な言い回しで、彼女へと話しかけたのです。
「君の一家の魔法は典型的な様式を誇っているが、君には合わないのではないかと思うのだ」
「どういう意味です?」 思ったよりもきつい声で、私はそう尋ねた。
(中略)
「君には自らが打ち出す以上のものがある」 ナサーリ先生の両目は燃えるようだった。
「荒々しい魔法が」
ルーサの物語_承
作業場へと戻ったルーサは、母の作る美しい魔法とは全く違う、粗削りな自身の魔法に頭を抱えていました。
そんな彼女の元へ、シルバークイルの友人フェリーサが訪れます。
その友人は、悩めるオークの作品を褒め、ひいてはその当人の存在すらも肯定してくれたのでした。
しかし、ルーサはその中に虚飾を感じ取ります。
これは、シルバークイルの学生が使う、感情を上下させる呪文。
執務室以来抱いていたルーサの怒りは、ここにきて頂点を迎えたのでした。
「やめてよ! あなたの嘘や励ましなんて、何にもいらない!」
魔法が私の内でうねり、骨格を押し上げた。赤い血と青空が見えて、周りの悲鳴が聞こえた。そしてフェリーサを見ると、知らない相手を見るような視線が向けられていた。
「お願い、帰って」
閉まる扉。怒りと無力感に震える身体。今や他人のもののように見える、作りかけた自分の作品。
ルーサはそれへと手を伸ばすと、工房の床へと叩きつけ破砕したのでした。
ルーサの物語_転
夜の歩道。卒業生たちの作品が立ち並ぶ列。
すぐに母の作品を見つけたルーサは、自分はそれを叩き壊せるのだという邪悪な感情を抱きます。
それを後ろから止めたのは、またも学部長のナサーリだったのでした。
フェリーサを寄こしたのはあなたか、と問うルーサに、ナサーリは「それはユヴィルダのやり方に見える」とこれを躱します。
そして、ナサーリは相変わらずの飄々とした態度で、彼女へと一つの提案をしたのでした。
「秘密を教えてあげようか」と。
守れる保証はないと言い張るルーサに、ナサーリは囁くような真似で言います。
「君のお母さんのことは、決して好きではなかったのだよ」
驚きとともに、ではなぜ自分にはかまうのか、と問うルーサに、ナサーリは答えました。
前兆めいたものを、ルーサからは感じるのだと。
地震のような、嵐の前の大気の味のような、そういったものを。
まるで内側から覗かれるかのような気持ちに、ルーサはその胸中を吐露します。
幼少期に弟に向けた破壊衝動。そして、その行為に対する前向きな、ある種の楽しみの感情を。
その自責の念をナサーリは肯定しつつ、しかしその矮小さも指摘したのでした。
「君に私は殺せない。どれほど楽しもうとも」
私は牙をむき出しにした。
「本気で言ってますか?」
先生は私と同じような笑みを向けてきた。物騒で、力を見せつけている。
「やってみなさい」
学部長が浮かべる軽蔑の目。煽りの言葉。
ルーサの我慢はそこで限界を超え。
そして燃え上がる魔力が学部長へと迫ったのでした。
ルーサの物語_結
優雅な動きで魔法を受け止めたナサーリは、後方宙返りをして着地します。
そして、宙に固定された魔法を見たルーサは、膝から床へと崩れ落ちたのでした。
またも、怒りに任せて魔法を使ってしまった。それも、今回は学部長へ向けて。
しかし、この行為を肯定したナサーリは、彼女へと手を差し伸べます。
そして、提出する作品がないと嘆く彼女へ、宙に固定された魔法を一瞥してそれを棄却したのでした。
「けど、あれは芸術じゃないです。ただの癇癪です」
「私が最初に提出した作品が何か、知っているかね?」
「いえ。何ですか?」
その笑みの中で、ナサーリ先生の溶鉄の舌がぎらついた。
「地震だよ」
同時に、ナサーリは彼女へと伝えます。
今やルーサの指導教員は、自分だと。
「同類」のルーサを、自分は見捨てはしない、と。
私は息をのんだ。疑念ばかりでぐちゃぐちゃだった。
「私にそんな価値は」
「まだ無いかもしれないね」 ナサーリ先生は口を曲げた。
「だが、私は長期投資が得意分野なのだよ」
*出典*
ダイナの物語
ダイナの物語_起
ウェザーブルームのドライアドの学生、ダイナは孤独を好む学生でした。
その日も、パーティへの誘いを持ってきたリセッテ学部長の誘いを断り、「作業がある」とその場を離れます。
彼女が向かったのは、罰を受けた生徒だけが連れてこられる「居残り沼」。
ダイナはここで、一か月もの間、秘密の計画を進めていたのでした。
きっかけは、大図書棟で見つけた名もなき魔道士の瞑想録。
そこには、生と虚無の場所をつなぐ呪文が記されていたのです。
二年前に、鬱枯病によって滅ぼされた自分以外のドライアド。
それらの復活のために呪文書を手にしたダイナは、その材料を、実験に夢中な学部長たちの部屋から、そして聞いたこともない名前の木は、オニキス教授の部屋から、それぞれくすねつつ、儀式へ向けた準備を進めていたのでした。
ダイナの物語_承
害獣たちの生命力を媒介に、呪文の詠唱を始めたダイナ。
しかし、それはとある生徒の声により阻まれます。
声の主、シルバークイルの学生が放ったインクの呪文は、漆黒の球体となって儀式を邪魔したのでした。
とっさに場を離れつつ、その学生ーキリアンに魔法の詳細を詰問されたダイナは、観念して呪文書のことを明かしたのでした。
禁忌の呪文だ、とダイナを責めるキリアン。
弁解をしようとしたダイナの耳に、不可思議な音が飛び込みます。
探索していた彼らが見つけたのは、ダイナの治癒魔法も及ばないほどに負傷した、巨大な獣だったのでした。
それは、周りの木や土を吸収しながら力を増し…。
そして、大学の方へと歩を進めていったのでした。
「目的を探しているのかも」とダイナ。
「生まれたばっかりで、どうしてここにいるのかも、何をすればいいのかもわかっていないから」
「巨大で危険な赤ん坊みたいに?」
「巨大で危険な赤ん坊ね、私とあなたの」
ダイナの物語_転
獣を止めるため、二人は共闘することを約束しました。
キリアンは美しい身のこなしで怪物へと攻撃しますが、その鉤爪に捕らえられ、傷を負います。
ダイナは彼を守らんと怪物へと立ち向かいますが、それは彼女の上でのけぞると、そのまま覆いかぶさるように倒れ込んだのでした。
その瞬間、ダイナが見た幻視。
在りし日の我が家。家族のような共同体。
ダイナは、現われた長身のドライアドへと訴えます。
なぜ自分だけ生き残ってしまったのかと。
そして、自分は皆を生き返らせる方法を見つけたのだ、と。
しかし、そのドライアドはこれに疑問を呈します。
それは皆が望んだことなのか?と。
同時に、ダイナへと助言します。
今彼女ができるのは、助けを必要としている人に手を差し伸べることではないか?
ドライアドの視線の先には、痛みに苦しむキリアン。
「この子はあなたにとっての何?」
「私たち、会ったばかりで……けど、友達なの」
「いい関係から始めたのね。もちろん、あなたの今の状況次第」
そのドライアドは頭を木の幹に預け、目を閉じた。
「全てを元通りに戻す時よ」
ダイナは理解し、そして心を外へと解き放ちます。
自身が生み落とした生物の心臓へ。
その感覚を、すべて自分へと引き寄せるように。
そして、ダイナの感覚は奥深くへと落ちていったのでした。
ダイナの物語_結
ダイナが目を醒ましたのは保健室。少し離れた場所に座るのは、ヴァレンティン学部長。
その学部長は、キリアンが傷を抱えながらもダイナをここへ運んだのだと説明します。そして、ダイナを評価していたのは早計だった、とも。
ダイナは、回復したら学校を去ると約束します。
しかし、ヴァレンティンはこれを否定したのでした。
これもまた、学びを得る機会だと。
教師の教えの外に踏み出すには危険が伴うが、そのような教訓は将来に価値のあるものになるだろう、と。
「何をおいても、ストリクスヘイヴンは新たな始まりの場所だ。そして新たな学びとは、しばしば二度目のチャンスという形でやって来るものだ。完全無欠な者など存在しない」
学部長は言葉を切り、指先を打ち鳴らした。
「私は、誰かがつまずいたからといって、それを原因に罰するようなことはしない」
*出典*
クイントリウスの物語
クイントリウスの物語_起
クイントリウス・カンドは、呼びだした霊魂の指導教官にうんざりしていたのでした。
アステリオンというその指導教官が割り当てられた日、ロアホールド大学の彫像通りで、クイントは押さえきれない興奮に満ちていたはずだったのです。
教官からは、どんな歴史が学べるのだろうか、と。
それが、まさか服や犬、スコーンの話を永遠とされるとは!
なるべく早く課題を終わらせよう。そんな投げやりな思いで、彼はアステリオンに関する記録を調査し、彼に真偽を尋ねます。
特に、柱落としへ向かった後に行方不明となった彼の最期について。
しかし、アステリオンはあまり覚えていない、と答えます。
そして、自分の彫像があった場所に連れて行ってほしい、とも。
アステリオンは、ロクソドンに伝わるジェドの聖歌の一節を口ずさみながら、多くの歴史家が求める「失われた都」がそこにあるとも告げたのでした。
「ザンタファーが? 柱落としにあるのですか?」
「いかにも、器用な鼻を持つ友よ。失われた都が発見されるのを待っている。そして君こそがそれを成し遂げるロクソドンだ。君の責務だと思いたまえ」
クイントリウスの物語_承
柱落としへ向かうために、アステリオンの彫像を外に出す。それは規則違反でした。
軍学校にいたころ、退学処分になった二年前が頭をかすめた時、彼は宿営地の教授に見つかり、呼び止められます。
「道具を忘れた」と、とっさの言い訳をしたクイントに、教授はお茶の誘いをしたのでした。
博識な教授との討議の時間と、失われた都を発見できる可能性。
その二つの間に揺れたクイントでしたが、教授の誘いを丁重に断ると、アステリオンとともに柱落としへと戻ったのです。
クイントリウスの物語_転
「着いたぞ」。アステリオンがそういった場所は、洞窟の奥。
クイントは調査を進めますが、ここはすでに他の研究者が発見済みであり、それ以外には何もないと分かります。
彼は指導教官の言うことに盲目に従った自分を呪いつつ、その怒りを彼へと向けました。
悲しい表情でそれを聞き届けたアステリオンは、過去を語り始めます。
自分の保育者であったロクソドンが、人間によって虐待を受けたこと。
その汚名を雪ぐために、彼はザンタファーを探そうとしていたこと。
それは、歴史家の本には載らない、些末な物語。
そして、多くの者が学びえない物語。
クイントはアステリオンへと手を伸ばすと、再度の調査を提案したのでした。
「私を信じるのか?」
「可能性を信じます」
そう言いながら、クイントは顔に笑みが浮かぶのを止めることはできなかった。
「それにこんなに遠くまで来たのですから、全てを調べ尽くしたともう一度確認しませんか」
「その意気だ! どこから始めようか?」
クイントリウスの物語_結
彼らは、再度伝説の検証から始めます。
そして、一つの仮説に行きついたのでした。
ザンタファーは失われたのではなく、隠されているとしたら?
クイントが石柱の近くでジェドの聖歌を詠唱すると、その石柱は沈み、大きな穴が彼らの目の前に現われたのです。
穴へと下ったクイントが見たのは、ジェドの黄金象。
そして、地面に伏した、ミイラとなった人間の死体。
アステリオンは、遠い過去の自分の失敗を嘆きます。
途方もないことを成し遂げたと思い、命を軽視し、そして無意味に落下死したと。
しかし、クイントは彼の肩に手を置くと、必ずしもそうではない、と伝えます。
「あれを発見したんですよ」
遥か下方の岩の中、無人の広大な大都会がそびえ、発光性の茸の下で永遠の黄昏に照らされていた。彼方の宮廷の尖塔が屋根の上に見え、この数千年で初めて訪れた客をその秘密へと招いていた。
「周りを見てみませんか?」
「クイント、我が友よ。私は何世紀もの間待ったのだ。これ以上待てるものか」
*出典*
ジモーンの物語
ジモーンの物語_起
ジモーン・ウォーラ、そしてその学友たちは、二年生の大学選びのことで盛り上がっていたのでした。
ジモーンはクアンドリクスへ。学友二人は違う大学へ。
そんな彼女へ声をかけたのは、配達員のワラダー。
彼は二週間前に届いていた荷物を、差出人不明のままに届けられた荷物を、彼女へと渡して去ります。
二週間前。つまりジモーンの誕生日。
そしてこれは、7年間続く恒例行事。
7年前の誕生日、ジモーンは緑と青の縞模様のリボンが付いた同様の包みを受け取っていたのでした。
差出人は、祖母のニミローティ。
ストリクスヘイヴンの高名な教授であったらしいが、何かが起こり、ストリクスヘイヴンを去った女性。
『ジモーン、お誕生日おめでとう。』
『あなたがストリクスヘイヴンに入ったことで、これを届けるのは難しくなっています。影にはあらゆる目が潜んでいます。』
『だから、これが最後になるでしょう。リボンを善いことに使ってください。』
『ニミローティより』
ジモーンの物語_承
そして二年生となったジモーン。
授業の合間に、ジモーンは「ヴォルザーニの推論:フラクタル理論の拡張解釈」を読みふけっていたのでした。
図書棟から借りた際、貸出記録の最後にあったサインは、14年前の祖母のもの。
午前の時間だけで、その半分を読み切ったジモーンは、その本にはさまれた手書きのメモに気づきます。
『リボンの包み。一つ下がって永遠に続く数。光の道で語りかける生きた本。』
そののち、キアン学部長に呼びだされたジモーンは、本についての言及を受けたのでした。
同時に、学部長は警告します。
その行動は、ニミローティがオリークに捕らえられる前のものと同じだと。
「ジモーンさん、あなたは素晴らしい才能をお持ちです。いつかとても強大な魔道士となるでしょう。ですが未知は未知のままにしておかねばなりません。誰もヴォルザーニの推論を解いてこなかったのには理由があります」
ジモーンの物語_転
祖母の書き込みを頼りに、人目を避けて辿り着いたのは、「生きた本」ことコーディのもと。
ジモーンは祖母に起こったことの真実を問います。
本は語りました。
ニミローティはヴォルザーニの推論を解明しようとしたこと。
そしてオリークに捕らえられ、彼女は自らに記憶喪失呪文をかけたこと。
本は語り終えると去ります。
ジモーンが戻ろうとする道中。
彼女は不意に現われた影を見とめ、その瞬間意識を失ったのでした。
目覚めた彼女の前にいたのは、仮面の二人。
エクスタスと名乗った男は、魔道士狩りの粗相を謝りつつ、荷物と手紙のことを知っている、と切り出します。
そして、ヴォルザーニの推論について教えてほしいと。
その知識と、オリークの把握していることとを合わせれば、宇宙を支配できると。
「悪魔と取引するようなものだわ」
ジモーンは怒鳴り、青緑のリボンを鞭に変えて二人に放ち、部屋の奥側の壁に叩きつけた。
「そんな力を持ったら、あなたたちはストリクスヘイヴンを塵にしてしまう」
すぐに乱入してきたのは、キアン学部長。
オリークの首領、エクスタスは薄い笑みとともに、またの再会をジモーンへ約束したのでした。
ジモーンの物語_結
「失われし者の聖所にて会いましょう」
ある日届いたのは、祖母からのそんな手紙。
それは、魔法に冒された者の療養所。
ジモーンがそこを訪れた時、窓のそばに座るニミローティは、意識があまりはっきりしていない様子だったのでした。
祖母の肩に手を置き、ゆっくりと名乗るジモーン。
しかし、祖母は笑みを浮かべたまま返します。
「どなた?」と。
「あなたの孫娘です。見てください、同じリボンを持っているんです。おばあちゃんが私にくれたんです……」
ニミローティは隣に座る少女を見つめ、そして白紙になった記憶をあさった。この、とても愛おしくてとても異質な、ジモーンという名が隠された場所を何とか思い出そうと試みた。ニミローティは敗北に溜息をつき、言った。
「あなたが誰なのかはわからないわ。けれど、私が愛する誰かだというのはわかるのよ」
*出典*
キリアンの物語
キリアンの物語_起
シルバークイルでその日行われていたのは、ラジネス教授による即興決闘の授業。
生徒たちが次々に敗れゆく中、期待の目を一身に受けていたのが、エムブローズ学部長の息子、キリアン・ルーでした。
彼は大きく消耗しつつも、教授を相手に善戦しますが、最後に晒した隙によって一撃を受けてしまいます。
運ばれた医務室にて、陰鬱と悲しみの感情をもたらすインクを除去する中。
キリアンはシャイル学部長による警告を受けたのでした。
「すぐれた魔道士だからこそ、光を受け入れることを学ばなくてはいけない」と。
白の魔法は戦いの役には立たないと反駁するキリアンに対し、シャイルはそれは逆だと否定したのです。
「宇宙はとても広大です」
シャイルの声は、母親のような気遣いが少しだけ感じられた。
「そして雄弁術はそれを形作る唯一のものというわけではありません。あなたの魔法の全てを、ひとつのものに費やさないでください」
キリアンの物語_承
急ぎ足で船着き場へと辿り着いたキリアンが出会ったのは、シルバークイルの新入生のファネッサ・フィヨーネ。
教授との決闘の場にも居合わせた彼女は、キリアンの身体を気遣いつつ、喉の痛みに効く薬を作っている男が、「虹の端」亭にいるという情報を流します。
「虹の端」亭は怠け者の溜まり場だと一蹴するキリアンに対し、ファネッサは不思議な笑みで言ったのでした。
「キリアン・ルー。時には太陽の下へ踏み出すべきよ」
彼女はそう言って、編み髪を肩の後ろに払った。
「私たち、影の中で育つようにはできてないんだからさ」
その言葉がキリアンの頭を回る中、次に出会ったのはロアホールドのクイントリウスでした。
彼はキリアンへと、声を失い、手話で戦争を終わらせた「沈黙の筆術師」の伝説を紹介します。
先を急ぐキリアンはそれに関する本を受け取ると、講義のためエムブローズ学部長のもとへと向かいました。
広間へと着くや否や、父は先日の決闘の事で、キリアンを非難します。
油断も動揺もしてはいけない。予想外のことに備えろ。
特に、キリアンがふと口にした、「光の魔法」という言葉には、猛然と反発したのでした。
「筆術師と光術師の甘言で死から救われると思うな!」 エムブローズは吼え声を上げた。
「オリークの心は戦いの中で屈しはしない。魔道士狩りは決して心を改めない。奴らは滅ぼさねばならんのだ!」
キリアンの物語_転
午後の時間をエムブローズのもとで戦闘詩文の朗読にあてたキリアンの喉は、焼けつくような痛みに襲われていたのでした。
彼の頭によぎったのは、ファネッサの言葉。
隠れながらも「虹の端」亭へと向かったキリアン。
そんな彼を見つけたのは、ウィザーブルームの学生ダイナでした。
キリーという愛称で彼を呼ぶダイナに手を引かれ、ファネッサの元へと辿り着いた彼は、単刀直入に例の飲み物を要求します。
バーカウンターへと向かった彼女を見届けている間。
彼はダイナの件で、ウェザーブルームのヴィックスという男性に絡まれ、決闘を行うこととなってしまうのでした。
戻ったファネッサから飲料を受け取り、蘇った活力とともに黒魔法で相手を叩きのめしたキリアン。
しかし、そのとどめの瞬間。彼は良心の呵責に苛まれます。
そして、とどめを刺せと歓喜の声を上げるファネッサと、止めるよう懇願の声を上げるダイナを背に、彼は沈黙の書物から簡素な一文を作り出したのでした。
あなたは、そのままで、いい。
ヴィックスが癒しの光に包まれるのを見届けたキリアンは、化粧室へと駆け込みます。
相次ぐ決闘と修練に、焼けつくような喉。
そんな彼に、後ろ手で鍵を駆けながら近づいてきたのは、他ならぬファネッサだったのでした。
物騒な鎧をあらわにしながら近づいてきたファネッサは、オリークの仮面を差し出しながら告げます。
「私たちに加わりなさい。一緒に、きみの進む道に立ちふさがるもの全てを破壊しましょう」
キリアンの物語_結
オリークからの勧誘の言葉が告げられた瞬間。
キリアンの相棒の墨獣ドーコが飛び出し、簡単な一文を描きます。
破壊ではなく、創造を / We don’t destroy. We create.
肩の重荷が外れたように感じたキリアンは、オリークの申し出を断りました。
落胆と罵りを込めたファネッサの言葉と同時に、魔道士狩りが乱入してきます。
ストリクスヘイヴンを滅ぼさんとする魔道士狩りたち。
それらを相手に、キリアンは白の魔法をまとい、戦います。
その魔法は学友を守り、そして戦う魔道士を鼓舞していったのでした。
そして戦いは終わり。
消耗したキリアンに、自作の薬を持ったダイナと、ヴィックスが近づきます。
善戦はしたが、ファネッサを逃したことに対する自責の念に襲われるキリアンに、彼らは鼓舞の言葉を投げたのでした。
キリアンの白魔法は、ファネッサを変えたはずだと。
そして、その影響がオリークへと広まれば、いずれは悪の道から離れ、光へと戻ってくると。
遠くで聞こえる喝采。
目を細めると見える、ともに戦った仲間たち、そして…父の姿。
彼は背筋を伸ばし、父の両目を見据え、和解の申し出をしたのでした。
父と子の間にわずかな時間が過ぎ、そしてキリアンはエムブローズの口元がごくわずかに持ち上げられたのを見た――それは、笑みらしきものと言ってもいいような、柔らかな承認の合図だった。
(中略)
「僕は、創造します」 キリアンは朗々と声を上げた。
*出典*
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