【カルロフ邸殺人事件】第5回 事件の真相【ストーリー】

2024年2月17日

はじめに

「犯人は…あなただ!」

と言わんばかりの大立ち回りで、ついに一連の殺人事件の犯人を突き止めたプロフト。

彼の指さす先には、セレズニアのドライアド、トロスターニがいたのでした。

誰もの目から鱗が落ちる中、ついに真相が語られます…!

カルロフ邸殺人事件、完結編ですよ!




目次

トロスターニの自白

プロフトの告発に対し、三位一体のトロスターニは三者三様の反応を示していたのでした。

セスは憤慨し。シィムは恐怖と衝撃を浮かべ。オーバだけは…無表情で。

プロフトは続けます。

彼女たちが犯人であることは、疑いようのない事実であることを。

しかし、わからないのはその動機の部分なのだと。

ギルドパクトの原典を預けるほどのラヴニカの信頼を、なぜ裏切るのかと。

「私たちは決して――」シィムが言いかけた。

「そのような言い草を――」セスも同時に口を開いた。

オーバは沈黙していた。恐ろしいほどにゆっくりと姉妹たちが振り向いても、やはり口を閉ざしたままでいた。ふたりの恐怖と憤怒の表情は困惑へと、そして衝撃へと変化した。その間もオーバは揺るがぬ表情でふたりを見つめていた。

「どうして――?」シィムが尋ねた。

「なぜ――?」そしてセスも。

「それが、当然の報いだからです」

静穏の仮面を遂に砕き、オーバは言い放った。

 

オーバは堰を切ったように語り始めます。

ファイレクシア侵略時に、降り注ぐ油からラヴニカの地を守るべく、その腐敗を一点に自分の中に引き込んだこと。

そしてそんな孤独の戦いの中、オーバはヴィトゥ=ガジーの根を通して数々の愚行を見たのだと。

クレンコは水や食糧などの物資をため込んでは、必要な者たちへ高価な値段で売りつけた。

ゼガーナはファイレクシアの油に魅入られ、獣を使い実験を重ねていた。

テイサは秘密裏にファイレクシア人と意思疎通し、同盟を結んでいたと。

しかし、くぐもる根を通して聞いたそれは真実ではない。そう出席者たちは否定します。

ゼガーナはファイレクシアの汚染の治療法を探して、実験を繰り返していたのだ、とヴァニファール。

テイサは死者からファイレクシアの言語を学び、抵抗軍に情報を横流しすることで街を守っていたのだ、とエトラータ。

「愚か者ばかりなのですね」

オーバの声は他のあらゆる音を押しのけ、その部屋に響き渡った。

「目を背け、耳を塞ぎ、目の前のものを理解しようとしない。そして何よりも悪いことに、あの戦争に善戦して勝利した自分たちを祝福している――更にはここに立って、私の計画を解明したと満足そうにうそぶく。私は何週間も殺し続けているというのに」

(中略)

「丁重な振る舞いは終わりです」

(中略)

オーバは手を叩いた。すると姉妹たちはまるで萎れた花のように幹の上でぐったりと力を失い、半ば閉じた目はもはや何も見ていなかった。

壁から突き出てきた蔓は、集まっていた者たちを拘束し始めます。

オレリアは蔓に縛り付けられ、ラルは本棚へと弾き飛ばされる中、ケイヤは幽体化でそれらを抜けたのでした。

そんな中、グルールのヤラスは梁の塊を槍のように持つと、オーバへと突進します。

しかし、彼の雄たけびを聞いたトルシミールは、突撃者と標的との間に飛び込み、その梁を胸で受けたのでした。

トルシミールの惨劇に、激憤を隠さないオーバ。

その根の槍はヤラスに復讐せんと迫りますが、その間にエトラータが割って入ったのです。

槍に貫かれ、血を吐き倒れる暗殺者。

その瞬間全ての躊躇を捨て去ったケイヤと、それに追随するケランはオーバへと突撃しますが、根は彼女らをも捕らえると、屋根のない空中へとみなを放り出したのでした。

掴まるようなものは何もなく、ケランは不可避の衝撃から身を守るために両腕で顔を覆った。

(中略)

だが落下が次第に減速し、快適と言える程になり、回転も止まった。片目を少しだけ開いて振り返ると、あの剣の柄から発するものと同じ魔法が身体を包みこんでいた。純粋な、黄金色で縁取られたフェイの魔法が。

ケランは両目を開け、予想だにしなかった光景にきょとんとした。

「おーい! 僕は大丈夫です!」

彼は両腕を振り回して空中で体勢を整えようとしたが、うまくはいかなかった。




断罪の時

ケイヤを縛り付けんとするヴィトゥ=ガジーの根は、霊体の彼女すらも拘束したのでした。

それは、ラヴニカの魂。死者をも包括した、次元の意思。

ケイヤは語り掛けます。

トロスターニの行いは、ラヴニカを彼女の意思で操作しようとする行いに他ならない。

それは、悪意ある意思で次元を捻じ曲げたファイレクシアと同じ。

次元と対話することで根を抜けたケイヤは、探偵社の障壁護法カプセルを手にすると、トロスターニと対峙したのでした。

一瞬目の端に映ったように感じた、テイサの姿。

ボタンで障壁を展開するとともに、トロスターニを襲う光のリボン。

しかしそれは両端から封印することを前提にしており、オーバは片側のみの拘束から力づくで脱出しようとしていたのです。

他には誰もいなかった。全員が拘束されて無力化されていた。このままでは負ける。またも負ける。

エトラータが両目を見開いた。

根に串刺しにされて以来ずっと動かずに横たわっていたディミーアの暗殺者は、味方を拘束した根に絡まれてはいなかった。胸の傷から血を流しながらも彼女は身体を起こして膝をつき、床の上で忘れられていた障壁護法カプセルの片割れを掴んだ。

エトラータが立ち上がりながらそのボタンを押すと、更なる光のリボンが飛び出してオーバへと巻き付き、憤怒に吼えるドライアドを宙で固定した。

 

やがて、力尽きるように動かなくなるオーバ。

辺りが静かになるとともに、ケイヤが告げた終戦の宣言は、参加者たちを安堵に包んだのでした。

部屋を歩き回り、全員を解放するケイヤ。

そして、オレリアに引きずられていったクレンコを除く全員が、自力で退出していったのです。

ケイヤが近づいたのは、むせび泣くセスとシィムのもと。

悲嘆に暮れるトロスターニの二柱は、彼女に対しテイサの死へ哀悼を示しつつ。

今回の行いについて、マット・セレズニアに処遇を問わねばならず、今は悲しみを向き合う必要があると告げたのでした。

全員が退いた部屋にいるのは、ケイヤとトロスターニ、そして死したトルシミールのみ。

彼女はそれらを取り残し、壊れた扉から退出します。

と、そこで、戦いの最終から彼女はケランの姿を見ていたかったことに気づいたのでした。

突如として襲い来る焦り。

脳裏に蘇る、過去に失った友人たち。

彼女は扉を通り抜け、そしてケランと正面衝突しかけた。

彼はケイヤの姿にきょとんとした。彼女もまた。そして先に平静を取り戻したのはケランだった。

「エズリム社長に言われたんです。ケイヤさんがトロスターニさんと話している間は外にいろって、でもケイヤさんが僕の所に来るまでどこにも行くなって」

ケランはそう語った。

「僕は大丈夫です。ケイヤさんは?」

「あなたも入るように言ってくれればよかったのに。でも待っていろって命令してくれたのはありがたいわ。大丈夫……じゃない。全然大丈夫だとは思わない……」

そして、あの居室でテイサの死体を発見してから初めて、ケイヤは思いもよらない行動を自らに許した。驚愕するケランの目の前で、彼女は声をあげて泣いた。




テイサの復活

それから三日後。カルロフ大聖堂のテイサの葬式にて。

彼女の棺が、重々しく祭壇へと向っていく中。

参列していたケイヤの横で聞こえる、皮肉と苛立ちを帯びた声。

彼女が見上げたその場所に、かすかに透明な姿のテイサがいたのでした。

「私が幽霊としてしっかりするまで、ギルドをまとめていて下さって感謝致します。そして、私の殺人犯の特定と排除に協力してくれたことも。本当にありがとうございました」

「あなたを死なせてしまった借りがあるから」

「そんなものがあったとしても、全額返済したと考えて結構ですよ。正直を言いますと、こちらの身体の方がずっと楽ですね。空腹もなく、面倒な身体的欲求もなく、私とギルドの帳簿と資産だけ。それが本来あるべき姿です。死のような些細なことでオルゾフ組の運営を止めはしませんよ。私はしばらくここにいるつもりです。これからしばらくは、ずっと」

「ヴィトゥ=ガジーでの戦いの時にいたのはあなただったの?」

「勿論です。貴女がラヴニカにいる間は、常に見守りますからね」

 

セレズニアは、オルゾフの指導者を暗殺した”ツケ”を払わせる。

その際には、前任者であるケイヤはここから立ち去っている必要があるのだ、そうテイサは告げたのでした。

期待を込めて見つめるテイサに対し、もとよりそのつもりだった、と返すケイヤ。

無力化したものを殺したくはなく、このままラヴニカにいてそうなるつもりもない、と。

「結構です。ではそのように」

テイサの喋りは、生前の彼女自身と何ひとつ変わっていなかった。ケイヤは声を抑えることなく笑った。

「もう会えないかもって思ったのよ」

ケイヤは身を乗り出し、生者の世界から半ば抜け出した。そしてあまり震えることなく友を抱きしめた。

一瞬してテイサは微笑み、抱擁を返した。

 

そして四日後。探偵社にて。

ケイヤは人々の間を縫うように進み、ケランに対面します。

彼女は少年へと、明日の朝には出発するつもりだと告げたのでした。

そしてその瞬間に訪れた心の痛みを、意外な気持ちで受け止めたのです。

ケランと離れることは、寂しくなることだと。

しかしそれは逆に言えば、そのように思えるような者がラヴニカにいるのだ、ということ。

ケイヤは晴れやかな気持ちで、これから会いに行く「情熱的な」友人のことを話したのでした。

↑「情熱的な友人」

「ありがとうございます、知らせてくれて」

「出発前に確認したかったのだけど、ジュディスについては何か見つかった?」

「何もないですね」ケランはかぶりを振った。

(中略)

「プロフトはまだ元逃亡者と一緒にいるの?」

「あの人ですが、エトラータさんを正式に相棒として雇ったんですよ。だからしばらくは一緒にいるんでしょうね」

ケイヤは驚いて言った。

「相棒って、本気なの?」

「ええ。ケイヤさんがいなくなっても、面白いことは続きそうです」

ケランはにやりとした。

「僕はすごく嬉しいですね」

ケイヤは笑みを返した。

「おかしなことだけど、私もよ」




エピローグ

火想者にしてギルドパクトの体現者であるニヴ=ミゼットの居室に現われたのは、足音を響かせるプロフトと、足音もなく影のように動くエトラータ。

二ヴ=ミゼットは読みふけっていた書物から顔を上げると、自身よりもずっと小さな二体の生物を見つめたのでした。

 

ここに来るのも簡単ではなかった、とプロフト。

噂に聞いた名推理には感心した、と二ヴ=ミゼット。

感心ついでに、一つ質問がある。そう話したプロフトは単刀直入に告げます。

ラヴニカの守護者たる二ヴ=ミゼットが、この事件の真相を知らなかったはずはないだろうと。

そして、事件の中で死したカイロックスは、あなたの指示で動いていたのだろうと。

あまりの物言いに袖を引っ張り退散を促すエトラータでしたが、プロフトはそれに動じません。

そして更に続けたのです。

カイロックスだけではなかった。

各ギルドに工作員がおり、それらがひとつの「計画」に向けて動いている。

それこそが「領界路計画」。

ここと外の世界とを繋ぐ領界路を研究させ、制御し。

そしていずれは、このラヴニカを多元宇宙の中心にしようとする計画

「いかにも」

ニヴ=ミゼットは簡素に言った。

「そうでしょう。さて、貴方の手法では工程が非常に煩雑になってしまっています。そこで私たちの奉仕を提供したいと思うのですが」

初めて、ニヴ=ミゼットは純粋に驚いた様子を見せた。

エトラータは顔を手で覆った。

「おぬしの推理力であれば、歓迎できぬこともなかろう」

ゆっくりと、ドラゴンは認めた。

「素晴らしいです。さて、報酬についてちょっとした問題が――ご存知の通り、現在は経済状況が混乱しておりまして、運営上の経費は必然的に……」

 

今回はここまで

ふぅ…今回もストーリーがまとめ終わった…。

と思った当日に、何と幻の11話が公開され、あわてて「エピローグ」を追加した者です。

ニヴ様あなた…!?

 

ケラン君はどこに行ってもモテモテですねぇ…。

ケイヤは事件の終結後に涙を零しましたが、無事霊体のテイサとは再会することができ、ケランとの別れを惜しみつつ去ることとなりました。

幽霊暗殺者だからこそ、最後は霊となったテイサと抱擁を交わす展開になったのはかなりエモいですね!

あといつの間にそこまで仲良くなったケイヤとタイヴァー…。このストーリーの中でメッチャ名前出てきたよ、タイヴァーくん。

 

さて、要約の関係上省いてしまった、ジュディスの行方について。

前回ケランが戦闘中にフェイの飛行能力に目覚めた時のこと。

彼はジュディスの逃走姿を目撃しています。

原文は以下のような感じ。

眼下の中庭をジュディスが駆けていた。地面を突き破って現れる根を避け、何度か転びそうになりながらも彼女は館の正面へと回った。外への道は近い。

そして見覚えのある人物がもうひとりいた。赤と黒をまとう、顔に人形の笑みを描いた女性。虐殺少女は道化師の笑みの下に、悪意に満ちた自分自身の笑みを浮かべた。そして身体のどこかから棘だらけの凶悪なナイフを取り出した。

「自分だけ逃げる気なんだ」彼女はそう言った。

「いーけないんだ、お子様たちが戦ってるのに。ラクドス様はいい顔しないよ?」

虐殺少女は突撃し、ジュディスは後ずさった。

中から次なる叫び声があがった。だがケランはまだ地上を目指すのに手一杯であり、そのため何が起こっているのかはわからなかった。

 

ジュディス…死んだ??

混乱をもたらされた復讐とばかりに刃を振りかざす虐殺少女が、とてもイイ感じです。セリフ含め。今回好感度が上がった人物の一人ではないでしょうか。

 

さてはて、本格派ミステリーの中で、何人ものギルドの要人を失った今回のストーリー。

そして、後程追加されたエピローグで壮大な伏線をばらまいたニヴ様。

次なるラヴニカ再訪の際には、また異なる物語が展開されそうですね…!

 

では、次回のストーリーでお会いしましょう!

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*出典*

第9話 破壊の中の美

第10話 腐朽の根

第11話 先触れと前兆