【エルドレインの森】第3回 ケランと雪の魔女【ストーリー】

2023年9月6日

はじめに

前回幕を開けた、英雄ケラン君の物語。

フェイの王タリオンから命を受けた彼は、3人の魔女を撃ち滅ぼすべく旅に出ます。

そして、道中でルビーを仲間に迎えた彼は、第一の魔女アガサをその大釜へ叩き落としたのでした。

続いては氷の魔女ヒルダ。

その隠された城を探すべく、彼らは豆の木を登り魔法の鏡を探しに行きます。

 

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【エルドレインの森】背景ストーリーまとめ


 



目次

巨人の城へ

豆の木を登るために雇ったトロヤンという者は、ケランたちがあまり見たことのない青肌の男性だったのです。

“熟達の流浪人”と名乗る彼は二人よりもはるかに登攀を得意としており、ケランとルビーはそれについていくので精一杯だったのでした。

まともな助けもしてくれないことに不満を言う二人へ、トロヤンは小さな溜息とともに二つの薬瓶を差し出します。

それはエルドレインでは見たことのない、魔女が煎じたかのような薬。

そのうち一つを飲んだケランは自身に満ちる力を感じ、まるでカエルのように跳躍し雲の先へと着地したのでした。]

 

豆の木の先にあったのは、巨人の城。

彼らを迎えたのは、踊り踊る巨人たち。

そのステップを躱しつつ鏡を探すも、ケランはそのパーティの主催たる女巨人に捕まってしまったのでした。

探求のために鏡に質問させてほしいだけだと言うも、その言を信じない巨人。

あわやケランが巨大ガチョウの餌にならんとしたとき、溜息とともに背後から声が聞こえたのです。

それは、ギャレンブリクの王ヨルヴォのもの。

彼はケランの言い分を聞いたのち、客人として扱い鏡を使わせてやるよう命じました。

 

巨人の寝室にて、鏡と対峙した三人。

ケランはすぐにヒルダの場所を尋ねるも、反応はなく。

鏡の知らない秘密を教えなくては、それは答えないと女巨人は一笑に付したのでした。

「ふむ、その鏡が聞いたことのないものか」

トロヤンが繰り返した。彼は片手をケランの肩に触れた。

「インドレロンの鏡よ、私はトロヤンという。そして私はここエルドレインの生まれではない」

「え?」ルビーが聞き返し――だが既に魔法が機能し始めていた。

冬の息吹が銀色の表面を曇らせた。ケランは手を伸ばし、それを拭わなければいけないと感じた。結露の下、豪奢に輝く氷の城が崖の上にそびえているのが見えた。

「待って……その場所わかるかも。ラレント湖だわ。兄さんに釣りに連れて行ってもらったことがあるの」

ルビーはそう言い、眉をひそめた。

「けれど戦争の前に行った時は氷なんてなかったわ。そんな短期間で、魔女はどうやってあんなお城を建てたの?」

「わからない」ケランは言った。

「けど君が案内してくれるなら、わかるかもしれない」

 

エッジウォールに戻ったのち、ルビーの兄ピーターはラレント湖へ二人を連れていくと約束します。

しかし、いくつかの条件をつけて。

ひとつは彼の持つ一番分厚い外套を着ていくこと。

そして鼻の感覚がなくなったら、どんな状況でも引き返すこと。

今まで数多くの者がその城へ挑み、中心に辿り着いたものはいないのだから、と。

「引き返すつもりはないよ」彼は言った。

「それはできない。こんなに沢山の人が呪いにかかってるんだ。王様は言ってた、魔女を打倒した者は呪いを打ち払うって――」

「お前じゃなきゃいけない、とは王様は言わなかっただろう、ケラン君」

ピーターが言った。

「力を借りるのは恥ずべきことじゃない。君はまだ子供だし、ルビーもまだ若い。獣を倒すべき時と、獣を放っておくべき時を知らなきゃならない」

再びルビーの視線を受け止めたケランは、彼女も自分と同じ意見であると知った。

ピーターの言うことが正しいとしたら?

最終的に、ルビーは条件をのんだ。

 




氷の魔女

一週間をかけてラレント湖へ辿り着いた二人は、ピーターへ別れを告げ、城へと歩み始めます。

砦や跳ね橋が複雑に組みあったその城は、巨人の根城よりも遥かに侵入が困難に見えたのでした。

雪のヴェールの中、やがて二人に届く女王の声。

様々な者がこの道に挑み失敗した、子どもふたりにできることはない、と。

彼女の言葉ごとに冷え込んでいく大気。

ケランとルビーは歩みを止めないでいるも、すぐに鼻先の感覚はなくなったのです。

「君はこれ以上進んだら駄目だ」

だがルビーは彼を睨みつけるだけだった。

「そして魔女に勝たせるの?」

「僕が辿り着いたなら勝ちはしないさ」

ケランは襟巻の中へと話すことで温かさを保った。

「もしふたりで進み続ければ……」

『死が待っているでしょう』ヒルダの声が届いた。

『これは最後の警告です。自分自身の言葉に耳を傾け、引き返しなさい』

 

ガラスの割れるような音とともに現われたのは、ケランの倍ほどもある霜の戦士。

その槍は彼の外套を地面へつなぎ止め、その手はルビーを捕らえたのでした。

二対の巨体に挟まれたケランは必死に思考を巡らせます。

やがてその手は、柄のみであった蔓の柄へ伸び。

その口は、父への祈りを口ずさみ。

直感のままに動いた彼の光刃は、巨人の腕を切り裂いたのでした。

落下するルビーを受け止めるケラン。

「ケラン、やったのね!」ルビーは目を大きく見開いた。

「フェイの力なんでしょう。本当にやったのね!」

「そうさ!」

(中略)

ルビーは剣を拾い上げてケランと背中合わせに立った。だが待ち続けるほど、まっすぐ立っているのが困難になっていった。当初の高揚感が次第に消えていった。握り締めた魔法の剣が鉄のように重く感じられた。

(中略)

ケランの瞼が重くなっていった。

「ルビー……僕、もしかしたら……」

「ケラン?」ルビーは振り返った。

「ケラン!」

けれど、こうなる前に休んでおくべきだったのかもしれない。寒すぎて、疲れすぎて、そして……

ここまで頑張ってきたんだ。少し眠ったっていいだろう。

ケランは倒れた。

今回はルビーが彼を受け止めた。

 

突風と雪の中、相方が倒れつつも、それでも歩みを止めないルビー。

一歩ごとに重くなる足。

そして氷の魔女はその足を止めるよう何度も警告を発します。

立ち去れ。少年を捨てよ。さもなくばここで死ぬことになると。

寂しいから、話し相手がいないからそうやって話してくるのだろう、とルビー。

彼女は、常に暴風に曝され、両手の感覚もなく、足も持ち上がらず、跳ね橋を四分の一ほどしか進んでいないのにも関わらず。

その瞳に宿した光は消えそうになかったのでした。

初めて、女王は動揺の声を発します。

他人である者のために、なぜ自分が命を賭すのかと。

「それが正しいことだからよ」。

その言葉とともに倒れ込んだルビー。

しかし彼女はなおも、這って進んでいたのです。

いずれ自分が斃れても、ケランが目覚めその先をめざしてくれる。そう思い先へ伸ばした手を…。

純白の掌が支えたのでした。

「私の手をとるのです」

あの声。魔女。けれどここで何をしているのだろう?

(中略)

魔女は隣に膝をついた。ルビーが予想していた以上に、その女性は悲しそうな雰囲気をまとっていた。豪奢な白い装いも、大きな冬の冠も、どんな魔法も、その薄い色の両目に浮かぶ孤独を隠せてはいなかった。

(中略)

「可愛い子供たち、これほどの苦難を背負って……」

魔女はふたりの額それぞれに口付けをした。

「冬の館へおいでなさい」

(中略)

「あなたたちを守ります」

魔女が言った。冷たい指が髪をすくのをルビーは感じた。

「あなたの言う通りでした。私は怖れています。寂しいのです。それを忘れていました。ですがあなたたちが示してくれました、この城に籠ることで私が何を捨ててしまったのかを」

ルビーの視界が薄れていった。

「お眠りなさい。目覚めた時、あなたたちは真実を知るでしょう」

 




語られる真実

数時間後目覚めた二人は、氷の部屋で歓待を受けていることに気づいたのです。

胃袋が鳴る音を聞くケラン、食事を前に警戒心を露わにするルビー。

そんな二人を目にした氷の女王は、微笑みとともに提案しました。

自分に悪意はない。それを証明するべく二つのものを贈ろうと。

一つは氷の冠。

自分を打倒した証として王へと運ぶことを許可しつつ、それが無ければ城の維持すらもできないと身をもって証明したのです。

そしてもう一つは「知識の贈り物」。

そう銘打って魔女が語り始めたのは、ひとつの真実。

ファイレクシアの到来時、敵の軍団に有効だと考えられたのはエリエットの眠りの魔法でした。

そしてその提案をし、賜物を与えたのが、他ならぬタリオンであったと。

考えもしなかった裏切りの事実に、震えを抑えることのできないケランは城を飛び出し、「門」をくぐります。

そしてのその先のフェイの宮殿で、彼は涙ながらにタリオンを糾弾したのでした。

王は全てを知っていて自分たちを利用した。父のことを教えてくれると信じていたのに、と。

『知っている』ケランの涙にもタリオンは一切動じなかった。

『其方がこの探求を完了したなら、その者について我が知る内容を教えよう。それとも理屈が気に入らないとして、王国を救うことを拒否すると?』

ケランは拳を握り締めた。

「そうは……言ってません……そんな単純じゃありません!」

『我が地に何ひとつ単純なものなどない』タリオンが答えた。

『エリエットはアーデンベイル城にて見つかるであろう。あの魔女を打倒すれば其方は呪いを断ち切ろう。呪いを断ち切ったなら、其方の父について告げよう。あるいは魔女を倒さずに田園の生活へと戻り、自らの血を受け入れたあの時のような帰属意識を絶つか。選択するのは其方だ』

杖が振るわれ、フェイの世界はまたたいて消えていった。

今一度、ふたりはヒルダの城の外の崖の上に立っていた。

そしてケランは――むせび泣いた。

 




今回はここまで

二人目の魔女、ヒルダ編でした。

この原作となる「雪の女王」は、日本ではあまり見かけない童話ですが、原作も雪の女王の城を舞台にした少年と少女の物語であり、少女が少年を助ける展開となります。

ちゃんと原作再現ですね!よくできてる!

あと、その前段のヨルヴォがあまりに見た目通りの善人でとても良き…!

ちなみに、トロヤンは「苦痛のサーカス」を見たことがあるとのこと。

つまりそれって…あなたの出身次元は…!?

さて、氷の魔女により、タリオンへの信頼を喪失したケラン君は最後の魔女の元へと向かいます。

次回最終回!お楽しみに!

 

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*出典*

第3話 二つのもてなし

第4話 ルビーと凍てついた心