【霊気紛争】第4回 空賊カーリ・ゼヴとギラプールの希望【ストーリー】
はじめに
前回、チャンドラとバラルの戦闘の裏で、ギデオン達はキランの真意号へ乗り込み、強襲された霊気拠点から脱出をしていたのでした。
そして時を同じくして、別行動を取っていたジェイスは、とある空賊とともに、空の戦いへと身を投じていたのです。
空の戦い
今回の作戦において、ジェイスのパートナーとなった女性。
それは、弱冠15歳にして空賊の船長となったカーリ・ゼヴでした。
ジェイスの幻影により服装を変えたカーリは、領事府の船から霊気缶をせしめるという作戦を成功させたところだったのです。
「ね、私が最初の船『太陽追い』号に乗った時、いつも船長が言ってたんだ。偉大な空賊になるために大切なのは、好機を見つけてものにする本能だって。もしそれがないなら、これも船長が言ってたんだけど、ただの船に乗った泥棒だって」
そこで言葉を切り、そして続けた。
「つまりさ、領事府と大領事との件が全部終わったらさ、一緒に来てもいいんだよ。君みたいな才能のある男は凄く役に立ちそうだし」
返答はなかった。あるいは聞いていないのかもしれない。
(中略)
ようやく、ジェイスは口を開いた。「すまない、何だって?」
気にしないで。彼女はそう思ったが、そうではなく口を開いた。
「君は空賊に向いてなさそうだよ」
ジェイスの手の中で缶が動きを止めた。彼は微笑んだ。
「ん? 俺は何に向いてるように見えたんだ?」
「んー」 カーリは身を乗り出し、肘を膝に乗せ、目を細めてジェイスを見つめた。
「何にせよ空賊には向いてないね」
ジェイスらに求められていたのは、キランの真意号が飛び立つまでの時間稼ぎ。
それと同時に、領事府の船スカイソブリンの目をくらまし、真意号をテゼレットのいる拠点へと飛ばすことでした。
そのためには、船が必要です。
しかし、スカイソブリンに船団を落とされたカーリには、そのあてがないのでした。
ジェイスはカーリへと踏み出した。「君の船団の数は多いのか?」
「『ドラゴンの笑み』号を入れて十四隻」
「君はそれをどのくらいよく知ってる?」
「それはもう」 彼女は片眉を上げた。「なんで?」
ジェイスは笑みを抑えられなかった。
「じゃあ時間を無駄にはできない。俺に考えがある」
落ちる旗艦
作戦のしんがりは、空賊の部隊による襲撃。
彼らの攻撃により、スカイソブリンを取り巻く領事府の小型船は混乱に陥り、次々と衝突と墜落を繰り返していったのでした。
そして、領事府の執行官が、カーリの船へ飛行してきたとき。
ジェイスの本丸たる作戦が始動したのでした。
青い光が閃き、次の数瞬に展開された壮観な光景に、士官の言葉は失われた。
突然、何隻もの船が建物の背後から姿を現した。領事府の船ではなく、空賊船が。
それらは二隻、三隻と連れ立って動き、そして執行官らと同じようにカーリもただ見ていることしかできず、その場に釘づけになっていた。
(中略)
船団が帰ってきた。そして多くの建築物を囲み、広場の上空に集っていた。ある瞬間、『ドラゴンの笑み』号は孤立無援だった。だが次の瞬間、それは何十隻の中の一つとなっていた。彼女はわかっていた、これはジェイスの、もしくはジェイスと共有した記憶の仕業。だがそれでも、今や領事府は力でひどく劣っているという感覚に浸らずにはいられなかった。
そして、カーリはとどめの作戦として、ジェイスに手に入れた霊気缶を投げ出すように提案します。
破裂した霊気につられたのは、空を泳ぐ巨大な空鯨。
領事府の旗艦スカイソブリンは、この巨大生物を前に、あえなく墜落させられたのでした。
ギラプールの希望
ギデオンは声に出した。「落ちるぞ。封鎖も解けた。ジェイスとゼヴ船長がやってくれた」
『キランの真意』号の船首。体重を柵にかけ、チャンドラは彼の隣にうずくまっていた。
「じゃあ、もう霊気拠点は無くても平気。要るものは全部ここにあるから、直接テゼレットを攻撃できる」
「私達の標的は次元橋だ」 ギデオンは言った。
階下から上がってきたピア・ナラーはギデオンらに次の計画を伝えます。
彼女が指し示したのは、一つの飛行機械。
それは、ラシュミとサヒーリが設計した、次元橋を無力化し永遠に止めるための”霊気攪乱器”を搭載したものでした。
ラシュミはその手でテゼレットへと飛行機械を放ってやりたがっているように見えた。
「私はこれを『ギラプールの希望』と名付けました」 感情を抑え、彼女は静かに言った。
ギデオンは頷いた。自身の全てをかけた博覧会の作品がどうなったかを思えば、ラシュミは狂乱せずにはいられない筈だった。今彼女はその才能全てを、自身の作品の恐ろしい成れの果てを破壊するために注いでいた――自身のかつての作品を壊すために設計した、この小奇麗な新作へと。
作戦は決まりました。
キランの真意号は、テゼレットのいる拠点へと向かいます。
そして、その中で襲い来る飛行機械たちを、チャンドラとサヒーリが撃墜していったのでした。
チャンドラは炎で。
サヒーリは、飛行機械の金属物質を変質させることで。
「いいじゃん」 飛空船の視界が晴れ、チャンドラは言った。
「その才能をさ、カラデシュの外で振るってみたくない? 私達の力になってみない?」
彼女はそして片手で額を打った。
「あちゃ。私ギデオンみたいな事言ってる」
サヒーリは微笑み、今やはっきりとした姿の霊気塔を遠くに見つめた。
「わからない。今はここの、この世界の戦いだけが心配だから」
「私達はテゼレットを止めてみせる。そうすれば何もかもが終わりになる、きっと。私は喋るのは上手くないかもしれないけど、それを信じてる」
(中略)
「彼を止められたとしても……わからない。ここの外に、カラデシュの外に、沢山の脅威がある。テゼレットがその証拠。でも、ここでまだやるべき事もあるの」
チャンドラは肩をすくめた。
「気が変わったらいつでも教えて」
そしてついに、標的となる霊気塔が目の前に近づいた時。
船尾からの不穏な衝撃に、キランの真意号は揺らめいたのでした。
様子を見に行ったチャンドラは、そこで予想していなかったものを目にします。
『ギラプールの希望』が置かれた船倉に降りるまで、彼女はその侵入者に気付かなかった。立ち込める霊気で何もかもがぼやける中、そこにドビン・バーンが立っていた。
「ナラー修道士殿。最初に私が訪れた時には、皆様方の助力を得たいと考えておりました。今、その計画には大きな不備があったと自覚しております」
(中略)
ドビンは二本のペンチを掲げた。その薄い顎が静かに掴んでいるのは引き裂かれた金属片、小型かつ強力な部品の入った小さな金線容器だった。霊気攪乱機の――『ギラプールの希望』の中核。チャンドラがそう認識した瞬間、ドビンはそれを破壊した。
「ああ!」
「私の失敗はこれで帳消しです。そしてあなたがたの計画における欠陥も把握しております――ただ一つの、取り換えのきかない、容易く破壊される機械を全計画の要としたことです」
(中略)
そして彼はゆらめき始め、消えた。プレインズウォーク。
「待ちなさいよ!」 チャンドラは最後の足掻きに炎を爆発させるも、それはヴィダルケンの消えゆく姿を素通りした。ドビンは去った。
背後で、彼女はサヒーリが船倉への階段を駆け下りてくる音を聞いた。
「燃料が漏れてるらしいけど、何が起こって――」
そして虚ろとなった飛行機械を見たに違いなかった、何故ならそこで言葉を切ったから。
「嫌! そんな、何てこと……」
チャンドラは口を開き、言葉というよりはただの声でしかないものを発した。
今回はここまで
作戦の要をドビンにつぶされてしまったチャンドラたち!
どうなる!正義の味方たち!
…という展開で今回はここまで。
チャンドラとドビンの因縁はここから始まっていると言えますね。
数年後、灯争大戦の物語で彼女らは再び戦うこととなります。
「ドビンの拒否権」のフレーバーテキストで、彼がチャンドラを煽っているのもこの時の彼女を知っているからですね。
<<ドビンの拒否権>>
「君は何も学ばないな、チャンドラ。今でも君は理解しようとせずに、ただ何かを燃やしているだけだ。」
ちなみにこの時の決着は…?
気になった方はぜひ調べてみてください!
というわけで次回もお楽しみに!
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