【アモンケット】第3回 リリアナの目的【ストーリー】
はじめに
前回、壁の記述から、アモンケットがボーラスによって改変された過去を知ったニッサ。
そして、ギデオンはアモンケットの試練へ挑むことを決めます。
一方そのころリリアナは、死者まみれの次元を気に入りつつ、静かに自らの思惑を進めていたのでした。
死者の行方
リリアナはこの次元の環境に馴染んでいたのでした。
ミイラを下僕に従えた彼女は、それらに扇子を仰がせ、果物を持たせ、残り数体は有事のために眼前に跪かせておく。
そんな状況に満足感を得ながらも、リリアナはこの次元に潜むボーラス、そしてラザケシュの気配を感じていたのでした。
リリアナが契約した、悪魔の三体目。
コソフェッド、グリセルブランドと違い、不意打ちのきかないであろう相手。
一人物思いにふける彼女のもとに、青い外套の影が。
「ごきげんよう、ジェイス。遅い朝食かしら?」
「もう正午は過ぎてるよ」
(中略)
「好きになさいな。イチジクがあるわよ」
ジェイスは肩をすくめてイチジクの粒へ手を伸ばしたが、皿を持っているものを見て手を引っ込めた。
「死体が食べ物を持ってなければもっといいんだけど」
「ジェイス、あなたには驚きよ。他の皆は嫌がっても、物言わぬ死体の召使いがどれほど便利かってあなたはわかってくれると思っていたのに。見ての通り、この包帯はとっても清潔よ」
「調査」に向かわせていたシェイドが帰ると、リリアナは街へ繰り出すのでした。
ジェイスも同行する中、彼女はこの次元のミイラについて言及します。
ここのミイラたちは、皆どこか体が欠けていると。
腱が切れていたり骨が折れていたりしているせいで、歩き方がおかしいと。
そんな乱暴な死に方を「全員がしている」のだと。
「この場所は変よ」
「本当に変だ」
「それにギデオンはどうも……」
「……実際ここのを好きになりつつある」 彼は言い終えた。
「俺はわかる」
やがて、二人がたどり着いたのは、とある建物。
中に侵入した彼らが見たのは、松明に照らされた長い通路。
そこで二人は、複数のミイラに追い越されます。
「大きな物」を抱えたミイラたちに。
違う。物ではない。
そのミイラ達は戦闘で殺された修練者の死体を運んでいた。それらは血を滴らせ、ぼろ布に包まれていた。幾つかは身体の一部が欠損していた。死臭から判断するに、死んで間もないものだった。最大でも一時間か二時間か。
隣で、ジェイスが口を覆った。
行きついた広間で、運ばれた死体は石台の上に据えられていたのでした。
石台を取り巻くミイラたち。
それらによって行われる、無言の「作業」。
ただ響いていたのは、死体を整える際の時折の叩く音、削る音、もしくは押し潰す音だったのです。
何故こんなにも多くの修練者が訓練で死ぬのだろう?
彼女はジェイスを小突き、部屋の向こう側を指し示した。そこには何らかの精巧な壁画があった。彼は頷き、二人は部屋の隅に沿って静かに進んだ。
梱包が終わらないうちに、ある死体が動き出した。それは四肢を振り回して震え、梱包作業は騒々しく停止した。
(中略)
梱包過程を監督していたミイラがそのはぐれた屍へと近づき、押さえこむと別の一体が大きな金属板、カルトーシュを手に近づいた。彼らはカルトーシュをその死体の胸に押し付けた。
暴れる屍は静まった。
門を守る者
二人はとある壁画にたどり着きます。
それは来世を描いたもの。
地平線の角の間に座した副陽、来世への道と言われる巨大な門、そしてそれを守る巨大な悪魔。
ラザケシュ。
『最後の試練』 銘刻はそう読めた。
『栄誉無き者も遂にはここに死す。値せぬ者は選別される』
ラザケシュの両手は血に濡れ、足元には屍の山があった。血は川へと流れていた。
(中略)
「君は、例の悪魔の一体を探してここに来たのか?」 ジェイスが囁いた。
「二体は倒した」 リリアナが言った、喉を詰まらせながら。その彫刻は不気味にそびえ立っているように思えた。
「次はこいつよ」
「何で言ってくれないんだよ! 手を貸せただろうに!」
「あなたは私の悪魔についてそこまで知っていて」 リリアナは言い返した。
「あなたは、戦ってくれるんでしょう。でもあなたに全部言ったとして、ギデオンもそうしてくれるって本当に思ってるの? ニッサは?」
「わからないよ」 ジェイスも言い返した。
「君の味方にはなれる。でも今、君が嘘を言ったからには、俺は――」
「何も嘘はついてないわよ」 ひどい頭痛がした。
「本当のことを言わなかっただろ。俺達の信頼を裏切った」
「信頼してなんて頼んだことはないわ」
ジェイスは何かを怒りとともに言い返し、だがその言葉は聞き取れなかった。
建物からの脱出を図る二人の前に現われたのは、多数のミイラと、それを引き連れたテムメト。
彼は二人を糾弾しに来たのでした。
「知識の碑」を調べ、二人の出生記録がそこになかったのだと。
ジェイスはテムメトに精神攻撃を仕掛けると、彼が意識を失っている隙に外へ出たのでした。
「悪魔。思うに……あいつはこの『来世』に関わってる。そして……私がここにいることも気付いている。鎖のヴェールがあるから、契約を行使できないってだけ」
「上等じゃないか」
「ところで、あなたはテムメトの心を消したの?」
ジェイスは顔をしかめた。
「いや。俺にできたのは……ミイラを遠ざけておくことだけだった。しばらくして気が付くだろう、ひどい頭痛とともに。だけど覚えているはずだ」
「それなら、皆と合流しないと」
『今こそ便利な馬鹿者らを利用する時だろう』 鴉の男の言葉。
友であろうと便利な馬鹿であろうと、リリアナには彼らが必要だった。彼女は駆けた、悪魔から逃げ、助けを求めて。
今回はここまで
リリアナが進めようとしている、悪魔を殺すという陰の目的。
今回のお話で、ジェイスだけにそれが共有されたことになります。
終盤はボーラスと同様に、この悪魔とも対峙することになるわけですが…
どうなるゲートウォッチ!
というわけで、次回はギデオンのアモンケット編!
お楽しみに!
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