リリアナの灯の覚醒~兄を想うドミナリアの癒し手【ストーリー】

2021年4月11日

はじめに

前回までで、「イニストラードを覆う影」「異界月」のお話を紹介しました。

これにより、全色のプレインズウォーカーが、ゲートウォッチとして活動をし始めたことになります!

ギデオン・ジュラ

ニッサ・レヴェイン

ジェイス・ベレレン

チャンドラ・ナラー

リリアナ・ヴェス

この5人こそ、ゲートウォッチの「初期メンバー」と思っている方も多いのではないでしょうか。

彼らはその後も優遇してカード化され、またプレインズウォーカーの灯覚醒前の「オリジン」ストーリーが、エキスパンションとして発売された人たちでもあります。

その名もずばり「マジック・オリジン」

今回から5回に渡って、彼らの「オリジン」ストーリーをご紹介したいと思います。

今でこそ個々人の思いで、カッコよく活躍する彼らですが、プレインズウォーカーとなる前は、それぞれ今とは全く異なる立場にいたのでした…

第一回は、メンバーの誰よりも古い歴史を持つ、リリアナのお話から。




リリアナの救いたい人

ゲートウォッチの結成よりもはるか昔。

多元宇宙の中心、ドミナリアが、リリアナの故郷です。

癒し手であったその時のリリアナの頭を占めていたのは、兄ジョスのこと。

敵の魔法を受けた彼を癒すための「イーシスの根」を探し求め、その日リリアナは森へと出かけていたのでした。

 

そしてこの時、リリアナはある男と出会うこととなります。

鴉は皺枯れ声で鳴いた。

「笑わないで」 彼女は地面に身をかがめ、鴉へ投げつけようと小石を拾い上げた。

だが顔を上げると、その鳥はいなくなっていた。

その場所には一人の男が立っていた。外衣のフードに隠され、その容貌は見えなかった。

彼女はどのみち小石を投げ付けた。それは彼の肩に当たり、地面に落ちた。

リリアナが腰に挿したナイフを手探りしていると、男はそのフードを脱いだ。

(中略)

「君に害をなすつもりはない、リリアナ・ヴェス」 その男は言った。

「私の名前を知ってる相手は」 彼女はそう言ってダガーを握りしめた。

「どうも信用したくはないわ」

 

「鴉の男」

リリアナがそう名付けたこの男は、ストーリー上でこの後もたびたび彼女の前に現われることになります。

彼は、リリアナが向かっている森のイーシスの根は、敵の皮魔女によって燃やし尽くされたことを告げます。

当惑する彼女に、鴉の男は足元の屍たちを指しながら言うのでした。

「イーシスの根がなくては」 その男が言った。「次は君の兄上の番だろうな」

「そんなのは嫌!」 彼女は叫んだ。「そうはさせない」

「ああ、そうさせてはいけない」

落ち着いて確信に満ちた彼の声は、リリアナの胸に弾ける恐慌を悪化させるだけだった。

「他の方法があるはず」 彼女は言った。「イーシスの根がもっと……別の林間に」

「別の林間はない、知っているだろう」

「何を言ってるの?」

リリアナがその邪魔者を拒絶したい衝動と戦った。

「ジョス兄様を救う別の方法を知ってるっていうの? それは何なの?」

男はその林間の方角を指差した。彼女は振り返り、木々の隙間を見た。

暗闇の中で燃えがらの僅かな輝きがあった。

すぐ背後に男の声が響き、耳元に息を感じた。「君は知っている」

 

リリアナは癒し手として、アナ婦人から多くのことを学んでいました。

が、それと同時に、リリアナはもっと範囲を広げた、もっと直接的に生と死を扱う魔術に手を出していたのです。

学びも足りていない、使うのがためらわれる知識。

しかし、鴉の男の言葉により、リリアナの心は移り変わっていくのでした。

闇の試み

彼女の恐慌は向こうみずな興奮の嵐へと変化していた。

彼女には力があった、だが非難を怖れ、常にその禁断の知識を隠していた。それを受け入れる。

結果など知ったことではない――彼女は認めねばならなかった、他の禁忌と同様に、自分の力に有頂天になるというのは、楽しいもののように思われた。

(中略)

「そうだ」 その男は言った。「君はわかっている。イーシスの根は強力な治療薬、だがそれは無難な選択だ。君はもっと強力なものを知っている」

 

彼女が向かったのは、敵の皮魔女の元。

虚ろな目で彼女を見つめる魔女たちは、呪文とゾンビでリリアナに苦しみを与えます。

しかし、リリアナの死魔術はそれをものともせず、その透明な手は魔女の胸を貫いていくのでした。

魂裂き

彼女の足元、透明な手が沈んだ灰の中から、黄金色の輝きが現れた。

膝をつき、彼女は自身の手を地面に沈めるとその宝を握りしめた。

再び手を引き上げた時、それはしなびて黒ずんだイーシスの根の塊を掴んでいた。

根は柔らかな黄金色の光を放っていた。

それは彼女が皮魔女から奪った命が吹き込まれており、元々考えていたよりも遥かに強力な水薬となるだろう。

あの男は正しかった――彼女は、成すべき事を知っていた。

勿論、知っていた。

胸にその根を抱き、彼女は父の館を目指して森の中を戻った。

彼女は通り過ぎさま、鳥へと笑みを向けた。

 

「感謝するわ、『鴉の男』さん」




死の水薬

黒化したイーシスの根から作られた水薬。

黄金色に輝くそれは、通常のやり方でつくったものよりも生命力を感じる代物。

彼女はそれを持ち、兄の元へと向かいます。

「リリアナ嬢が戻られた!」 前方で召使の大声が聞こえ、ようやく彼女は顔を上げた。

彼女はジョスの私室のすぐ外の広間に立っていた。

召使の叫びに応えるように。アナ婦人がその部屋から歩み出た。

彼女は腰に手を当て、リリアナの手の中の薬瓶を見て眉をひそめた。

「それはイーシスの根ではありませんね」 その癒し手は言った。

(中略)

彼女は背筋を伸ばし、アナ婦人の厳しい視線と目を合わせた。

「もっとよく効くものよ」 彼女は堂々と言った。

アナはあざ笑った。「私がそれを判断します。どのように作られたのですか? 材料は?」

「試験をしている場合じゃないの。ジョス兄様が死にかけているのに!」

 

作り方も定かではないものを信用できないとする、自分の師たる癒し手。

しかし、リリアナは兄の苦悶の声を聞き、彼女を押しのけて寝台へ駆け寄ります。

「患者から離れなさい!」 アナが鋭い声で言った。

長年の徒弟期間中ずっと、その声は即座の服従を命じていた。そしてリリアナは純粋な条件反射に後ずさりかけた。

だがジョスが彼女の手を握り、彼女を――いや、彼女の向こうを――見つめていた。

そして他のものは全て消え去った。

「ジョス兄様?」 彼女は呟いた。「私の声、聞こえる?」

「魔女だ」 彼は言った。その声は叫びではなく、おびえた子供のようだった。「皮をはいで……」

リリアナは輝く薬瓶を取り出し、黄金色の輝きがそれを見つめるジョスの瞳にかすかに揺れた。

「これをお飲みください、お兄様」 彼女はそれを彼の唇に持っていった。

「これで体が楽になるはずです」

「やめなさい!」 アナ婦人は最後に一つ抗議をしたが、遅すぎた。

穢れた療法

兄の口を満たす、輝く水薬。

そして、それが飲み込まれ、彼は瞳を閉じ、胸がゆっくりと上下し、兄の口元から発せられたのは…

 

「リリアナ」という一言。

 

それは、自分を妹と認識できなかった兄からの、久しぶりの呼びかけ。

リリアナが笑みとともに胸を撫でおろした。

その時。

「リリー!」 ジョスが叫んだ。

彼の瞼が大きく開かれ、二つの漆黒の球を露わにした。

(中略)

彼は身体を硬直させ、その虚ろな瞳で天井をじっと見上げた。

リリアナは彼の唇に黒い点があるのに気付いた――彼女の水薬が口から零れ落ちた箇所だった。

(中略)

「何をしたのですか、あなた?」 アナ婦人が小声で言った。

彼女は肩でリリアナを脇に押しやり、動かないジョスの傍に屈んだ。

リリアナは寝台の裾へと寄り、動揺とともに兄を見下ろした。

自分は一体何をしてしまったのだろう?

その水薬は――彼女の水薬、彼女の技術と魔法で醸した水薬は――全く兄を癒しはしなかった。

それは兄を殺した。

彼女の努力は何もかも……そしてその結果は、何も成さないよりも悪いものだった。

遥かに悪いものだった。

「痛いよ……」 ジョスは言った。

彼は上体を起こし、顔を彼女へとまっすぐに向けた。

「僕を何処へやった?」 彼は尋ねた。

兄の指を首から離し、息を吸おうと奮闘する中、その悪臭の吐息が彼女の鼻孔を刺した、

「い……た……い!」 彼は叫び、リリアナを壁へと叩きつけた。

彼女は床に倒れ、アナ婦人は悲鳴を上げた。

「ジョス兄様」 リリアナは囁いた。「ごめんなさい、本当に」

「ごめんだと!」 彼は足をぐらつかせながら立ち上がり、彼女へとよろめき迫った。

「僕を呪うのか、リリアナ!」

彼女を睨みつけながら、彼は爪の尖った指先で自身の首元に触れた。

「終わらない痛みで僕を呪うのか!」

彼は自身の爪で首筋を掻き、そして胸までを、皮膚も衣服もまとめて引き裂いた――だがその傷からは一滴の血も出なかった。

「痛い!」

 

妹を襲いながら、呪詛を吐く兄。

みじめにも、兄に許しを請いながら逃げるリリアナ。

何か手だてを考えなくてはいけない。

自分の行った魔術を戻す方法はないか。

彼を元に戻し、命を蘇らせるような。

 

しかし、ついにリリアナは彼に捕らえられてしまうのでした。

「おいで、リリー」 彼は言った。「虚無の苦痛のすべてを、僕ら二人で分かち合おう、永遠に」

彼女は兄へと嘆願の視線を送った。だが彼の命なき黒い球にひらめくのは憐れみの光ではなかった。

ついに彼女は自身が創造した恐怖を見るに耐えず両眼を閉じた。

死が彼女へと迫り、彼女の頭部がふらついた。

 

そして、全くの惨めな瞬間の中、リリアナの内なる何かに火がともった。

 

(中略)

彼女が両腕を広げると、瓦礫の中から屍がまばらに立ち上がった。

今一度彼女の命令に従う召使達が。

ゾンビの群れはジョスへとよろめきながら進み、彼を飲み込み、圧倒した。

 

ジョスが不死者の肉体に押し潰されてもがく中、何かが彼女を背後から引いた。

振り返り、彼女は崩れた父の館が変化するのを見た。

壁は歪んで裂け、黒い葉に覆い隠された暗い木の幹を成した。

埃の雲は大きくうねる霧と化し、瓦礫が散乱する床は枯葉と節くれだった根が散らばる、ぬかるんだ地面となった。

彼女の足は動かず、だが言語に絶するような永遠の中を引かれていくのを感じた。

馴染んだ世界から引き抜かれ、全く別の世界へと押し込まれるのを感じた。

 

そして彼女の館は去り、ジョスも去り、ゾンビ達も、彼女の知る何もかもが去った。

そして彼女は沼がちの地面に膝をついた。

こうしてリリアナは、イニストラードで目覚めた




龍神と悪魔の契約

それから100年以上の時が過ぎたとき。

ドラゴンのいる大広間に、一人の老女が現われたのでした。

龍の名は「ニコル・ボーラス」。

そのころ、「大修復」という事件をきっかけに、プレインズウォーカーたちはその力を大きく削がれ、不老不死も、次元を生む出すほどの力も失われてしまったのでした。

老女ーーリリアナ・ヴェスも、「寿命」という名の平凡なる死を、目の前に感じていたのです。

巨悪ーニコル・ボーラス

「なんと墜ちたことか」 彼は言った。

「かつて、我らは神であった。知る次元にも知られざる次元にも、思うがままに破滅を振りまいた」

(中略)

「女王が人々と同じ存在になっては、統べることなんてできない」 彼女は言った。

「もし私がその道を下りたいと思っていたなら、今頃私はここじゃなくイニストラードにいたわよ。助けてくれるの、くれないの?」

「話した通り、おぬしに力を貸せる存在へと接触させることは可能だ」

「四体の悪魔、そう言ったわよね。そして代価は私の魂、それでいい? 私が死んだら支払われる?」

「そこまで単純ではないがな」

「そうでしょうね」 リリアナは溜息をついた。

「あなたと関わって単純にいく事なんてない。そうでしょう、ボーラス?」

「それどころか、おぬしの心が測り始めてすらいない多くのことも、我にとっては極めて単純だ」

彼女は鼻で笑った。「あなたの慎ましやかさには本当にはらはらする」

「単純な事実を述べよう、リリアナ・ヴェスよ。結局のところ、おぬしはただの人間に過ぎぬ」

「『かつて我らは神であった』。私はその力を取り戻さないといけないの、ボーラス。力と若さと強さを。それが私の魂を代価としても」

「宜しい」 そのドラゴンの息は彼女のうなじを焼くほどに近かった。

 

そしてニコル・ボーラスは3つの異なる次元へと彼女を導き、3柱の悪魔と契約をさせたのでした。

ドミナリアのベルゼンロック。

イニストラードのグリセルブランド。

アモンケットのラザケシュ。

そして、今目の前にいるのが、4柱目。

魂の貯蔵者、コソフェッ

「リリアナ・ヴェス」 それは、身をかがめて言った。

息が彼女の顔にかかった。その声は不快な囁き、そして彼女の名前を言い終わると、蛇の舌がその歯の間にちらついた。

「我がコソフェッドだ」

 

コソフェッドは、リリアナに、自分の力を誇示するよう「授業」をしたあと、彼女がまだ手にしていなかったもの…若さと、美貌を与えたのでした。

そしてもう一つ。

悪魔と契約したという、その証を。

コソフェッドの鉤爪がリリアナの皮膚をなぞると、鋭い痛みとともに、淡い紫色の光を放ちました。

苦痛にもかかわらず、悪魔の脅しにもかかわらず、彼女は死の影が退いていくのを感じた。

彼女は若く強く、このままでいられるだろう。当分の間は。

もしくは、悪魔達が彼女の債務を回収しにやって来るまでは。

だがリリアナは心のどこかでわかっていた、コソフェッドこそ自分を怖れるべきだと。

彼女は見た目以上の存在、

そしてこの悪魔は彼女を過小評価している、彼以前の多くがそうだったように。

彼女の所有権を主張する悪魔達を打ち破る、それが彼女の運命だった。

彼女はそれを知っていた、まるでその知識は彼女の肉体の一部であるように。

まるでコソフェッドが、無意識に、その運命を彼女の存在へと編み込んだかのように。

 

それは彼女の皮膚に刻まれた。

悪魔の契約




今回はここまで

「老女のリリアナ」のイラストは意地でも載せない公式。

現状のリリアナの活躍を考えると、ヤヤ・バラードのような活発婆さんになっていそうな彼女ですが、公式の描写では全くそんなことはなく。

どちらかというと、本当にしゃがれた婆さんに成り下がってしまったことを伺わせます。

皺が寄り、引きつり、その美は跡形もなかった。彼女の瞳には長い年月の間に死の幻影が取りつき、ジョスの死んだ黒い瞳に彼女が見たそれと然程変わりなかった。

年月に皺が寄り、しみだらけとなり、その皮膚は骨に緩くぶら下がっていた。

強大なドラゴンの前でその身体の脆さを見せまいと、彼女は可能な限り背筋を伸ばして立っていた。

だが脆いのはその身体だけではなかった――彼女の魂もまた希望を奪われた、萎れた花だった。

 

まぁ「萎れた花」はイラスト化できないか…笑

というわけで、今流行りのアプリで老化させておきましたので、ご参考までに。

ばあやのリリアナ

 

リリアナはこうして永遠の若さと力を手にし、その代価として悪魔への借りと、皮膚に刻まれた紋様を得てしまったのでした。

この話が、灯争大戦まで尾を引く、リリアナの「オリジン」です。

ボーラスを仲介に、彼女は悪魔との契約を行い、その後悪魔狩りを実行してこの契約をなきものにしようとしますが、その末路は果たして…

 

次回は、そんなリリアナに心惹かれた、ジェイス坊やの「オリジン」をご紹介します!

お楽しみに!

 

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*出典*

リリアナの「オリジン」:第四の契約

Posted by オクハラデン