【アモンケット】第2回 アモンケットの真実【ストーリー】
はじめに
第一回にて、アモンケットへたどり着いたゲートウォッチのメンバーたち。
そこで目にしたのは、死の砂漠と、それらを魔法障壁で隔てた都市に住む者たち。
そして、その街中で神が悠然と闊歩している光景でした。
言葉にならない違和感の中、物語は進行します。
アモンケットの朝
朝、早々と目を醒ましたのはニッサ。
彼女が見ていたのは、暗澹たる井戸の中で、何者かのつぶやきを聞く夢。
起きたニッサはその緊張感から自分を解放するべく、周りを見渡し、ギデオンが寝床にいないことに気づいたのでした。
彼女は小声でチャンドラを起こします。
チャンドラは目脂で固まった片目を開けた。「なによう?」
ジェイスは身動きしていなかったが、いずれにせよニッサは声を落としたまま続けた。
「昨日のあの女の人を探しに行こうと思うの。一緒に来てくれる?」
「んむう、勿論よ」
彼女は起き上がると同時に片腕を伸ばし、両目の目脂をこすり取った。
「でも行く前に朝食を――」
「朝食」という言葉と同時に、白い包帯に包まれたミイラが扉を勢いよく開け、パンとエールらしき水差しの盆を手に入ってきた。
叫び声を上げるチャンドラ。
悲鳴とともに後ずさるニッサ。
その声で目を醒ますジェイス。
三者三様の混乱も意に介さず、ミイラは盆を小机に置くと、優雅に背筋を伸ばし、回れ右をし、寝室から出ていったのでした。
しばし三人の狼狽した呼吸音だけが続き、そして疑問が弾けた。
「なんで部屋の中に――」
「ノックしろよ!」
「今のはリリアナの?」
「君のじゃないだろうな!」 ジェイスは壁に向かって叫んだ。
リリアナのくぐもった声がすぐに、大きく鋭く返ってきた。
「私じゃないわよ!」
ニッサは寝台から這い出た。全身が汗まみれだった。
「ここにいるのは無理。外を歩きたい」
チャンドラは頷き、靴をはき始めた。
「もう目は覚めたから、一緒に行くよ」
街を歩き出した二人。
その街では、皆がもうすでに起きだし、訓練を始めていたのでした。
そして、その誰もが20代には達していないと思われる様子。
八歳ほどと思われる少年が、六歳ほどと思われる少年を訓練する光景。
ニッサはチャンドラへと寄り、その子供達には聞こえないくらいの声で囁いた。
「これって、変」
ニッサがその単語をはっきりと口にしたのは初めてだった。チャンドラは真剣に頷いて同意し、二人は歩き続けた。
壁の記述
街を歩き続けたチャンドラとニッサが出会ったのは、ハパチラと名乗る、今までで最年長と思われる高官でした。
テムメトからの知らせにより、客人の存在を把握していた彼は、二人にこの世界の風習を聞かせます。
生者の現世での義務は試練に向けての鍛錬である。
死者は魔法障壁ヘクマの中では安全に労働に勤しんでいる。
そして、王神は帰還の刻は近い、と。
ニッサは不意に、あの女性が群集の中で叫んでいた内容を思い出した。
『自由になりなさい! 神々も、刻も、欺瞞なのよ!』
「刻って?」 ニッサは尋ねた。
彼女はチャンドラの身体がわずかに後ずさったのを感じた。ニッサの探究心を察したに違いなかった。
「王神の帰還の後にくる刻のことだよ。私達の歴史はずっと、その瞬間を待っている」
ニッサの脳内に警鐘が鳴り響いた。
「その刻はいつ来るの?」
ハパチラは遠くの巨大な角を指さした。
「刻はあの太陽が角の間に座した時に始まるとされている。私が思うにいつ来てもおかしくはない」
(中略)
ニッサは苦労して恐怖を隠した。いつ来てもおかしくない? 全く何の計画もなしに、あと数日であのドラゴンと戦うの?
チャンドラは小さくお辞儀をした。
「ありがと、ハパチラさん。私達はもう行かないと」
ハパチラと別れたニッサが見つけたのは、古い碑。
その外壁に描かれていたのは、一つの物語と思われる絵でした。
家族の生活、赤子、母親、暖炉を囲む祖父母、そして…
「八柱」の神々。それと王神の角。
ニッサの心がはやった。角の切り出し部分は擦り減っていたが、他の文字にあるような古い摩耗はなかった。
あのドラゴンがこの世界を作ったのであれば、その印が後から加えられる必要なんてない。
ニッサの両手が怒りに震えた。彼女にはわかった。ニコル・ボーラスはこの世界を創造したのではなく、堕落させたのだと。
エルドラージの記憶が心に溢れた。悪質で破壊的、異質な触手がそれらのものでない世界を汚していく。ニコル・ボーラスはこの地や宗教を創造したのではなく、自身の文化を創造したのではないのだ。歪め、誤らせ、好むものは奪い、そうでないものは壊したのだ。
一方のチャンドラが見つけたのは、顔の描かれた大きな石の箱。
正体不明のそれに触れようとしたとき、それを止める一言とともに、ギデオンが現われたのでした。
猫頭の神、オケチラ神とともに。
「それらの石棺に近づいてはならぬ」 オケチラ神は声を大にして言った。
「旅人らよ、済まない。だが彼らに手を触れずにいてはくれまいか」
ギデオンが申し訳なさそうな表情で進み出て友人らに言った。
「彼らの規範を守ってくれないか。そうすれば揉め事も少なくて済む。頼む」
その言葉には熱意があった。この場所と神は彼にとって多大な意味を持つ、ニッサはそう認識した。
「有難う、旅人らよ」 オケチラ神は続けた。「理解と協力に心から感謝する」
ニッサは、ここにいる神々と、先ほどの壁画の神々では数が合わないことを疑問に思っていました。
彼女はオケチラ神に、「他の三柱の神」はどうなったのかと問います。
それに対し、オケチラは表情を変えずに言うのでした。
自分たちに過去の記憶はない、と。
彼女はギデオンを見下ろした。
「勇者よ、来るがよい。次の試練の時だ」
チャンドラはニッサよりも先に問いただした。
「あんた、その試練ってのに行くの?」
「ああ」 ギデオンは頷いた。
彼を残したまま、神は背を向けて立ち去ろうとした。
「なんで?」 チャンドラの声には心配があった。
反論に身構えるように、ギデオンは深呼吸をした。
「ここの神々は、根本的に善い存在だ。彼らに私の力を示したい」
チャンドラは腕を組んだ。
「そんなの変。この次元の存在そのものが悪い知らせなのよ。ボーラスがあの神を作ったっていうなら、それを信頼するってこと自体おかしくない?」
「君は理解していないだろうが――」
「完璧に理解してるわよ!」
「チャンドラ、これは私にとって大切なことなんだ。それに、ここの神は違う、私にはわかる!」
彼は正しい、ニッサは骨身に染みてわかっていた。
ギデオンは背を向けた。「後で宿舎で会おう」
そして彼は神に追い付くべく去っていった。
今回はここまで
ついに、過去の記述からこの次元の真実にたどり着くニッサ。
ボーラスはこの次元を創造したのではなく、改変し堕落させたのだと気づきます。
そして、オケチラにその記憶はなく、八柱いたはずの神のうち三柱は姿を消している…。
不思議ですねぇ…怖いですねぇ…!
そんな中、ギデオンはこのアモンケットの神に魅せられ、試練を受けることを決意します。
どうなるゲートウォッチの英雄たち!
さて、今回のこぼれ話ですが…。
ニッサとチャンドラは二人で旅を道中、自分たちの関係について話をします。
カラデシュで移り変わった関係に関する二人の会話について、こちらに引用しておきますね。
「こんなに長く街にいたことはなかった」 ニッサが言った。
「カラデシュとここで、誰かと一緒にいることも」
「一緒にいても大丈夫になってきたみたいだけど」
ニッサはかぶりを振った。
「不安を上手く隠せるようになってきただけ。こんなにずっと、人と一緒にいると疲れるわ」
「でも、私達は違う、そう?」
その質問はニッサの注意を引いた。チャンドラは腕甲の同じ紐を締めては外してを熱心に繰り返していた。
ニッサは眉をひそめ、言葉を選んだ。「違うし、違わない」
とりとめのない手を止め、あてどない心が、馴染みない感情を形にする言葉を探した。
「ゲートウォッチとも、まだ友達になったばっかりで。まだ理解しようと頑張ってる。そもそも、友達になるってどういうことなのか」
チャンドラは小さな声を発して広場を見つめた。その物腰は重く鈍く、指は不意に動きを止めた。
ニッサは続けた。
「ゼンディカーでは、ほとんどずっと誰かと一緒にいたことはなかった。友達に一番近かったのは、次元。信頼することを学ぶのは……少しずつで、まだ沢山学ぶことがある。友達っていうことを理解して耐えていくのは大変、今までそういうことってなかったから」
チャンドラはぎこちなく身動きをした。
「じゃ……友達ってことでいい?」
ニッサはきょとんとした。チャンドラは彼女を強く見つめすぎないように努めた。
「うん」 ニッサは言った。「そう思う、今はこれが精一杯」
「ん……」
ニッサは目を閉じ、もう一度深呼吸をした。頭痛が和らいだ。不安を打ち明けるのは心地よかった。彼女は微笑み、チャンドラと目を合わせた。
「一緒にいてくれて感謝してるの。友達ってどういうことか、沢山教えてくれて。私にとってはとってもありがたいことだから」
「良かった」 笑みのようなものがチャンドラの顔に戻った。
「あんたのいい友達になりたいからさ」
ニッサは破顔した。
「あなたはもうその通りよ。お返しに、私もそうなれるように頑張る」
チャンドラの小さな笑みは、硬いが親切なものに広がった。彼女は友の目を見つめた。
「上手くできてるよ、ニッサ」
安堵とともに、ニッサは噴水の隅に杯を置いた。
「良くなったと思う。行きましょう」
うん!尊い!!!
人間とのコミュニケーションが苦手なはずのニッサが微笑む場面って…いいよね…!
というわけで次回もお楽しみに!
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