【カラデシュ】第3回 行き詰まりの罠【ストーリー】

2021年4月22日

目次

はじめに

前回、カラデシュに到着し、失ったと思っていた母との再会を果たしたチャンドラ。

しかし、母は娘が逮捕されないようにと、自ら領事府へと投降します。

チャンドラは、再会後すぐに引き裂かれた母を想い憔悴するのでした。

 

リリアナの因縁

チャンドラが母との感動の再会を果たす中。

リリアナの意識は、全く別の人物の元へ向いていたのでした。

改革派の長、ピア・ナラーに対峙している、片腕が金属となったその男。

「テゼレット」

 

リリアナの脳裏に、苦い過去の記憶が蘇ります。

ボーラスの指示により、ジェイスを惑わせ、テゼレットとの一騎打ちをさせた過去。

ジェイスと思いを交わすにつれ、それが本当に恋に変わってしまった過去。

そして、自分の裏切りを彼に知られた過去。

あの戦いの中で、テゼレットは半死となったはずだった。

なのになぜ、ここにいるのか。

 

そんな思考の中、二人に合流したニッサはリリアナに詰め寄ります。

ニッサは視線を屍術師へ向けた。緑色の瞳は冷たい告発に縁どられていた。

「どうして私達に何も言わずにここに来たの? そんな危険の中に飛び込んで――私が見つけることができて、どれほど運が良かったか!」

リリアナは唇を歪め、ニッサへ向けて軽蔑的に手首をぶらぶら振った。

「テゼレットはあなたが知る以上の危険人物よ」

そして傲慢に両目を上げてニッサと視線を合わせた。

「それと言葉に気をつけなさい――私は許可とか免除とかを求めたりはしないの」

(中略)

「そもそもどうしてここに来たの?」

リリアナはきらめくカラデシュ次元全体を示すように、熱い午後の大気に手首を回した。

「私達がいない間にみんなの投票で決まったの?『ゲートウォッチ規則第何条、許可を得ることなく家に帰ることを禁ず』とか」

彼女は肩越しに期待を込めてチャンドラを見たが、聞いている様子は見られなかった。

ニッサは聞いていた。

「ずっとそんなふうにチャンドラを挑発していたの?」

その言葉には心からの驚きがあった。

「それがあなたの友情というものなの? あなたは……怪物。喜んでくれると思ったのに!」

そして彼女はリリアナの目の前で背を伸ばし、杖の先端を敷石に叩きつけた。

 

怪物。

リリアナはニッサのその言葉に、湧き上がる怒りを覚えたのでした。

そして、それはニッサの心を引き裂く言葉に変換され、口から発せられます。

「チャンドラはあなたから逃げたの」 彼女はエルフへと囁いた。

「あなたが追わなかったから――だから私の所に来た」

 

そして、二の句を告げないニッサをその場に置き去り、リリアナはその場を去ったのでした。




協力者との再会

「可愛い人、どうやら大変な一日だったようですね」

プレインズウォーカー二人へと招くような笑みを向けて、その女性は言った。

(中略)

ローブの女性は精巧に刺繍のされたハンカチーフをポケットから取り出し、紅蓮術師の手に押し当てた。チャンドラはそれに顔を埋め、涙を拭った。薔薇の茶とかすかな機械油の匂いがした……まるで……我が家のような。

「ああ、ほら、泣くのをおやめなさい……」

その老女は言って、チャンドラが目を拭い終わってハンカチで鼻を鳴らすと声をひそめた。

「強くならなければなりませんよ」 突然、確固として明瞭な声でその女性は続けた。

「お母さんを見つけだして領事府の手から取り戻す時はね、チャンドラさん」

チャンドラは顔を上げ、今や思い出した顔を見つめた。

「パースリーさん?」

「お久しぶりですね、お嬢さん」

チャンドラの額にはぐれた髪の一房を撫でてオビア・パースリーは言い、紅蓮術師の肩を支えた。

 

憔悴のチャンドラの前に現われたのは、かつて彼女が紅蓮術師として覚醒した日、自分を危機から救ってくれた女性、オビア・パースリー。

夫人は、限られた者しか知らないルートで、プレインズウォーカー2人を導きます。

到着した先は、ヤヘンニという霊基体が催すパーティ会場。

しばらくのやり取りで、ニッサとチャンドラを信頼したヤヘンニは、彼女らを追ってきた領事府の兵を利用し、情報を得たのでした。

プレインズウォーカー2人と、パースリー夫人を逃がしながら、その霊基体は告げます。

「ピア女史がいるのは、ドゥーンド監獄です」 私は囁いた。

夫人は唖然とした。「そんな。嘘だと言って下さい」

私はかぶりを振った。パースリー夫人はチャンドラ嬢へと言った。「あそこにはバラルが」

周囲の大気が即座に熱を帯びた。

「行かないと」 チャンドラ嬢は確固たる決意とともに言った。

パースリー夫人が頷き、二人は出発すべく階段へ向かっていった。ニッサ嬢が振り返り、私と目を合わせた。

「ありがとう、ヤヘンニさん。話してくれて」

私は頷いた。

 

目的地の定まった三人は、再び街へと繰り出します。

向かう先は、チャンドラのかつての憎むべき敵、バラルの管轄するドゥーンド監獄。

彼女の復讐の怒りは、ニッサすらも眉根をよせる程のものでした。

これまで、チャンドラの燃え立つ怒りがエルドラージや、もしくはイニストラードの、よじれて堕落したエルドラージがましに思える生物へと直接向けられる様は見てきた。その怒りをチャンドラが一人の人物へ解き放つ、その考えはニッサを狼狽させるほどだった。その者は一体どれほどの苦痛をチャンドラに与えたの? ニッサは訝しんだ。

 

しかし、その監獄はパースリー夫人ですら場所のわからないもの。

チャンドラの焦燥の募る中、ニッサは、ゼンディカーでマナの流れをたどれるのと同じように、カラデシュでは霊気の流れをたどれることに気づきます。

ニッサの瞼が震えて開かれた。「私、わかる」

パースリー夫人の両目が驚きに見開かれ、だがチャンドラは非難の声を上げた。

「どうして言わなかったのよ? ニッサ、どういうこと、あいつらは今もお母さんを苦しめてる。もしかしたらもう死んでるかもしれないのに」

「わかるの」

そうだった――チャンドラの恐怖と心配が、かつてエルドラージの暴力的な存在に抗うゼンディカーのそれと同じように鋭く感じられた。

「私は何も隠してない、ただ今わかっただけなの。街に流れる霊気の道のおかげで。もし集中できれば……」

「どっちでもいいよ」 チャンドラは吼えた。「今すぐ連れてって!」

(中略)

「こっち」 やがてニッサはそう言って左方向を指さした。

パースリー夫人は首をかしげた。「どうやって……」

だがチャンドラは既にニッサが示した方角へと向かっていた。




カラデシュの地下へ

ニッサが導いたのは、迷路のように入り組んだ地下道。

迷宮を探索していく中、たどり着いた”終着点”で、3人はある男と邂逅します。

一人が進み出てその顔を覆う金線の仮面を上げた。最初に見えたのは、その光り輝く青い瞳だった。まるで光に満たされた永遠を覗きこむ窓のようだった。その異様な輝きを放つ瞳を、ほぼ同じ青色をした無残な傷跡の皮膚が取り囲んでいた。

(中略)

「二度はない、紅蓮術師」

男は言って、壁に手を伸ばすと何かを操作した。チャンドラが駆け出し、その瞬間、彼女は床から飛び出した壁に激突した。

罠! ニッサは自身の鼓動が跳ねる音を聞いた。

今や同じような壁が彼女らの周囲を取り囲み、固く閉ざされた小さな独房を作り出していた。一つの壁には扉らしきものがあり、分厚いガラス窓がはめ込まれていた――無論、これも華麗な金線に縁どられていた。

 

結果的に、3人はまんまと罠にかけられたのでした。

チャンドラの激憤とその言葉により、ニッサは自分の目の前にいる男こそ、仇敵バラルであると知ります。

紅蓮術師の怒りは炎となり、罠を壊さんと動きますが、それは檻に張り巡らされた対抗呪文により無効化されるのでした。

「殺してやる!」 チャンドラは声を上げた。「この野郎!」

バラルはその激怒にひるむことすらしなかった。

「哀れだな、ナラーの子よ。哀れでおかしな逸脱者よ」

(中略)

「あの時みたいに、お前を焼いてやる! 私に何ができるか思い知らせてやる!」チャンドラは絶叫した。

「好きなように何でも焼け。空気を燃やせば早く死ぬぞ、お前の友もな」

(中略)

バラルは続けた。「遅かれ早かれ、お前はここで死ぬ。私は長いことこの時を待っていた、紅蓮術師よ」

そして背を向けて仮面を正しい位置に持ち上げると、来た道へと踏み出した。

「待ちなさいよ!」 チャンドラは叫んだ。

「お母さんを解放して。あんたが恨んでるのは私だけでしょ。ニッサとパースリーさんも関係ない。殺すなら、私だけにすればいいじゃない!」

バラルは振り返らず、そしてその声はかろうじて届いた。「断る」

 

チャンドラの絶え間ない呪詛の影で聞こえたのは、空気の漏れるような音と、科学的な臭い。

バラルは、この檻で自分たちの窒息死を待っている。

ニッサは大地に呼びかけようとするも、それすら低減の魔法によって防がれているのを感じたのでした。

八方ふさがり。

ニッサと、そしてチャンドラすらも感じた思い。

「ジェイスなら考えがあるはず」 チャンドラは笑みを作ろうとしたが、それは唇で消えた。

(中略)

「ギデオンだったら扉をぶち破ってくれるはず。きっと、むしろそうする前に壊れるはず」

ニッサはかぶりを振った。

「チャンドラ、私は完全に切り離されてる。一番近くの植物にも届かない。エレメンタルも呼べない。どうすればいいか……」

「リリアナが来て助けてくれるわよ、イニストラードの時みたいに」

チャンドラの顔が絶望を語っていた。ニッサは彼女を胸に抱き寄せたかった。たとえそれがチャンドラの荒れ狂う炎に捕えられることを意味するとしても、燃え尽きることを意味するとしても……

(中略)

「畜生! バラル!領事府も!カラデシュも! 何で私はこんな所に戻ってきたのよ! 畜生! 畜生! 畜生! 畜生! 畜生!」

彼女は連呼しながら拳を扉に叩きつけ、その度に小さな青色の火花を作り出した。




今回はここまで

元記事を読むと、この時点で相当に絶望感が伝わってきて、ホントこのあとどうなるんだよ、と思う反面。

まぁどうせゲートウォッチの誰かが助けに来てくれるんやろ~、とも思っていました、私。

しかし、ここで彼女らを救いに来るのは意外な人物で…?という話はまた次回。

 

さて、本編からのこぼれ話コーナーとして、この回ではニッサが「友達」という概念を思う回でもあります。

ゼンディカーの大地と深くつながり、文字通り「一心同体」となれるエレメンタルの存在と比べ、表層でしかやりとりできない人間という存在と友達になることはできるのか?と悩みます。

監獄を探す過程で、怒りたつチャンドラの焦燥が、ニッサに向けられた場面。

彼女の中で、チャンドラは友達である、という指摘に違和感を覚えます。

「チャンドラさん」 夫人は彼女の背中に穏やかに手を置いて言った。「お友達は少し離れていて欲しがっているようですよ」

ニッサはきょとんとした。友達?それは違……

アシャヤは友達だった。アシャヤとならば、手を伸ばして何気なく、自然に、繋がりを形成できた。何の苦も無く。チャンドラとは、もしくやギデオン、ジェイスとは何一つ楽なものはなかった。パースリー夫人がたった今やったような、単純に触れるという行動すらも。

 

しかし、罠にかけられ、檻に閉じ込められた彼女は、チャンドラによってその「友達」の意味を教えられます。

「ニッサ、あんたはどうしてゲートウォッチに入ったの?」

「え?」

「あんたはすごく強くゼンディカーと繋がってたでしょ、なんで離れたの? なんで私達人間と一緒に来てさ、このたわごとに付き合ってるの?」

「一緒にいれば強くなれるから。私達は他の世界のためにその力を使える、ゼンディカーを救ったときと同じように。私は、他の世界がゼンディカーのように苦しむのを見たくないから」

「一緒にいれば強くなれる、ってのはリリアナも言ってたじゃない? でも私はそうじゃないと思う」

「どういうこと?」

チャンドラはパースリー夫人へと視線を向けた。その老婦人は向かい側の壁によりかかり、体力を温存していた。

「私達はプレインズウォーカーでしょ、つまり、いつでも自分一人だけになれるってこと――前にあんたが言ったように、切り離されるってこと。いつでも、家族を置いて、好きな人達を置いてどこかへ行ってしまえる。私はお母さんとパースリーさんを見つけたけど、ずっとカラデシュにいるって考えたことはないの。私達はプレインズウォーカーだから。そしてゲートウォッチに入ることは、もう一人じゃなくなるってこと」

ニッサは瞬きをした。「私達自身よりも大きな何かの一部になる……」

「ううん、ただ何かの一部になるんじゃない。一緒になるの。家族になる、どこの次元にいても」 彼女は弱々しく笑った。

「友達にね」

(中略)

チャンドラは再び立ち上がり、ニッサを見つめた。

「多元宇宙を救うだけじゃない。お互いを救うの。助け合うの。私のために……あんたが来てくれたように。お母さんを見つけるのを手伝ってくれたみたいに」

「私は全然、そんなふうに考えたことは……」

チャンドラは彼女の肩に手を置いた。「私にとっては凄く大きかった、ニッサ。ありがとう」

 

チャンドラは感情的ながらも、ゲートウォッチの誰よりもニッサとの交流を持ち、お互いの悩みを中和しあう存在へと昇華していきます。

尊きかな…!

大地とつながることのできるエルフにとって、人間という存在を理解するまでにまだまだ時間はかかるのですが、こういう種族独特の悩みといったことも描ききっているのが、マジックのストーリーの深いところですね!

 

では次回もお楽しみに!
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*出典*

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Posted by オクハラデン