チャンドラの灯の覚醒~発明家の家族を襲った悲劇【ストーリー】

2021年4月11日

はじめに

5回に渡って続けてきました、「マジック・オリジン」編!

最後は、次にご紹介する「カラデシュ」に大きくかかわる、チャンドラの物語。

チャンドラは、マジックのストーリーには珍しく(?)、素敵な親子関係が描かれたストーリーになります。

チャンドラと両親のやり取りが、愛にあふれていて最高なので、そのあたりもご紹介します。

 



はじめてのおつかい

チャンドラ・ナラー、11歳。

彼女はカラデシュという、アーティファクトを作る工匠たちが多く住む次元において、両親の愛を一身に受けて育ったのでした。

父の名はキラン・ナラー。

母の名は、ピア・ナラー。

どちらも才気あふれる発明家であり、同時にアーティファクトのエネルギーとなる「霊気」の調達も行っていました。

 

しかし、この霊気はカラデシュの政府であるところの「領事府」が流通を規制するもの。

キランとピアは、独自のルートでそれを手に入れては、必要としている発明家のもとへ配達を行っていたのです。

そして、今日はついに、チャンドラがその「配達」の役割を初めて担う日でした。

「あなたはこの街で過去最高の密使になれる、断言するわ」 母はそう言って片目を瞑ってみせた。

チャンドラはまるで見せ掛けだけの王様のように、その顎を突き出した。

「私が戻ってきた時のために、メダルとトロフィーを用意しておいてよね! 世界で一番すごいならず者になれても、みんなを覚えているように頑張るから」

(中略)

父親が言った。「だがチャンドラ、この仕事は信頼が命だ。領事は見回りを強化している。皆、私達が提供するものを必要としているが、もし私達が彼らを厄介事に巻きこんだなら、皆私達の運動に背を向けるだろう。お母さんも私も、信頼できる人達を見つけられるよう頑張っている」

チャンドラは缶を鞄に入れ、それを背負った。「そして今日は、鋳造所のそばに住む老婦人を信用するってわけね」

「そう、パースリー夫人だ」 父親が言った。

「いつもあなたに優しいあの人」 母親が言った。

「覚えておいて、あの人は合図を知っている筈。その合図を知っている人は、私達の本当の姿を知っている人達だから」

「私は自分が何者か、もう知ってるから。世界最高の密使、チャンドラよ!」

母親は彼女をぎこちなく抱きしめ、背中の缶を優しく叩いた。

「お父さんも私もあなたを信じてる。あなたは道を知ってるし、街を知ってる。きっと上手くやれるわ」

「ここに戻るときに誰にもつけられないように、それだけを気をつけて」

父親が付け加えたが、チャンドラは既に登っていた。

 

しかし、チャンドラは配達の道中で、領事府の兵士に足止めをされるのでした。

学校も行かずに歩き回る少女に、兵士たちは疑念の視線を向けます。

短気なチャンドラは、彼らに拳を食らわせ、その報いとして地面へと伏せられたのでした。

そして、彼らの隊長「バラル」が登場し、その手が背負った缶へと及びそうになった時。

チャンドラの手から「炎」が発現したのでした。

チャンドラは激しく手を払った。炎は消えなかった。自分の身体を叩いて消そうかとも考えたが、それよりも良いことを思いついた。そして言葉を失うほどに驚き、彼女の燃えさかる両手を指差している兵士達を見た。奇妙なことに、彼女の皮膚は燃えていなかった。炎は彼女の両手を覆っていたが、痛みはなかった。

(中略)

チャンドラは本能的に侵略者を払いのけ、燃えさかる炎の弧を宙に作り出した。男達は後ずさった。その炎は消え、少しの間、誰もがただ瞬きをするだけだった。

チャンドラは弾けるように走りだした。

 



ギラプールを離れて

やがてチャンドラが行きついたのは、今回の届け先であり、両親の友人であるところの、パースリー夫人のもと。

夫人は、パースリー夫人は親指と人差し指で輪を作ってみせると、それを額近くに掲げたのです。

まるでゴーグルを押し上げるかのように。

それは母の言っていた、自分たちの活動を支持する「合図」。

夫人はチャンドラをかくまい、チャンドラは鋳造所の中へと避難します。

夫人が追手の追跡機械を追い払う声が聞こえる中、裏口を探すチャンドラ。

そこで人型機械に襲われそうになった彼女は、その怒りを拳に乗せ、炎をもって脱出をしたのでした。

 

やがて両親が見たのは、服が焼け焦げ、今にも泣きそうな表情で帰宅した娘の姿。

「あ、あの……言わなきゃいけないことがあるの」 チャンドラが言った。

二人は彼女を抱きしめた。「怪我をしたの? 火傷? どうしたの?」

「大丈夫」 彼女は言ったが、両親の腕の中で震えていた。「私、作ったの……炎を」

「火をつけたの? 配達の途中で?」

「違う、『作った』の」 チャンドラは言って、両親の抱擁をから離れた。

「自分の手で。領事の兵に見つかって、どうしたらいいかわからなくなって、手に火がついたの」

 

両親は目を見合わせます。

何かを言おうとするかのように口を開いては閉じる二人。

ただ何も言葉はなく、今にも泣きそうな娘に向き直ったのでした。

チャンドラは言います。

「わからない、そうしたいと思ってできるのか。そうしたいと思わなかったのに起こったの。私、何かおかしいの?」

「チャンドラ! ああ、チャンドラ」 母は彼女を両腕で抱き締め、チャンドラの顔を自身の首元に押しつけた。

「わかってる」 ぼそりと、チャンドラは言った。母へと手を伸ばしたかったが、両手は横に下ろしたままでいた。彼女は母の刺繍のショールで涙をぬぐった。

「私……私、おかしいんでしょ」

「かわいい子、おかしくなんかないの」 母は言った。彼女は抱擁を解き、両手をチャンドラの肩に置いて、固く唇を閉ざす彼女の顔をまっすぐに見つめた。「あなたは紅蓮術士なの」

「手がマッチになるような人をそう呼ぶんでしょ、私を」

「よく聞いて」 母は言った。彼女の両眼はまっすぐだった。

「それは才能なの。あなたには特別な何かがある、長い間、誰にもなかった何かの力が」

 

父は考えていました。

紅蓮術に目覚めた娘を、領事府はきっと放っておかない。

なにより、遭遇した兵士たちは、この娘の顔を見てしまっているのだ、と。

「ねえ、お父さん?」

「何だ?」

「私は世界最高の密使になれないの?」

母は手を唇に当て、涙をこらえていた。

父はその大きな手でチャンドラの小さな手をとった。

「君こそが世界最高だ、私のチャンドラ。どんな母親も父親も手に入れられない最高の。どんな事があろうとも」

チャンドラは頷いた。父は彼女を抱擁し、母は彼女の手に触れた。

誰よりも娘思いな父と母

 

しばらく経ったある日、チャンドラは真夜中に起こされます。

そして、暗闇に乗じて、最小限の荷物をもって、一家は家を出たのでした。

事情のわからぬチャンドラに、両親は偽名を名乗るように教え、村から村へと、短期間に移動したのです。

 

やがて、一行は一つの村にたどり着き、そこに質素な家を構えることになります。

いくばくかの時が経った頃、チャンドラは父に呼び出しを受けたのでした。

「私に用?」 チャンドラは尋ね、彼らが近頃滞在している村の質素な住まいへと入った。

「入って」 父が言って、木製の椅子を叩いた。「座りなさい」

チャンドラは座るのではなく、上着の埃を払った。

「待ってよ。それは『お嬢さん、あなたの振舞いについて真面目な話がある』の声? それとも『知っていて欲しい、愛しい娘よ、私はいつも君の傍にいると』の声? ちょっとどっちかわからないんだけど」

「いつも後者だよ、今日は少し前者だが。座りなさい」

チャンドラは座った。

「これは、『君が何かを燃やしたのを知ってる、それは悪いことだ』って話?」

「君の才能を使うことは何も悪くない」 父親は言った。

「それは君の特別なものだ、そしてそれは常に良いことだろう。ただ……誰もがそう受け取るわけじゃない」

このあたりのチャンドラの言い回しは今にも通じる語り方

「君はもっと気をつけないといけない。君のために作ったものがある。力になってくれるだろう」

父は彼女へと小さな機械装置を手渡した。それは片側に通気口のあいた、綺麗に彫刻された金属の箱だった。肩掛け紐と、箱から繋がるしなやかなケーブルが取りつけられていた。

チャンドラは手の中でそれをひっくり返した。「これ何?」

「蒸気背負いだ。昔の、古い発明を元にしている。君のお母さんと私が君のために作った」

 

それは、チャンドラが炎を発現しそうになった時、それを蒸気へと変換する装置。

父は娘に、自分たちはこの村にかくまってもらっている身であることと、村のルールには従わなくてはいけないことを説いたのでした。

「チャンドラ、よく聞くんだ」 父親はその腕に彼女を抱きしめた。

「お母さんも私も、君がなりつつある存在をとても誇らしく思う。私達にとって君は世界で一番大切な存在だ。君には知っていて欲しい。私達がしている事全てを。君を守るために、私達家族にとって世界をよりよい場所にするために。何も心配しなくていいんだ」

父親は抱擁を解いた。彼女が父を見上げると、その笑みは温かく本物だった。蒸気背負いの金属の角が背中を心地悪く突いたが、彼女は我慢した。

 



仇敵の襲来

このようにして、領事府から逃げるため、とある村に身を寄せていたナラー一家。

しかし、如何にしてか、彼らはその村を特定し、追手を差し向けていたのでした。

その日、森から帰ってきたチャンドラが見たのは、かつて自分を追い詰めたバラル隊長と、その兵士たちの姿。

彼女は、兵士たちの前に立ちはだかって言ったのでした。

 

「ちょっと!」 彼女は叫んだ。「私を探してるの? ここよ!」

兵士達は顔を見合わせた。「ナラーの娘だ!」

「私の名前は」 彼女は胸を張った。

「チャンドラよ。村の皆は関係ないわ。皆、何も悪いことはしてない。私を連れていきなさいよ」

「君を連れて行く」 バラル隊長が言った。

(中略)

「君と君の家族は危険な存在だ。君達自身と、公共にとって」

(中略)

「君の御両親の罪は多いが、君の罪は遥かに重いものだ。紅蓮術士。君は混沌と死の体現だ。君はどれほど多くの人を殺したのだ?」

「誰も殺してなんかいない。私はただあなたの大量生産のおもちゃを幾つか壊しただけよ」

バラルは口元を歪め、その歯を見せた。

「それは聞いていないな。私が聞いたのは、君はまさにこの村で何十人も殺したと」

彼は他の兵へと頷いた。「やれ」

兵士達はそのランタンを用いて村の建物の草吹きの屋根に火をつけた。それらは即座に燃え上がり、濃く濁って不快な煙が広がった。

「駄目!」 衝動的に、チャンドラは両腕を伸ばして彼らを炎で吹き飛ばそうとしたが、何も現れなかった。蒸気背負いから蒸気が音を立てた。バラルは微笑み、彼の目に何かがきらめいた。

 

バラル隊長の企ては、村を焼き払い、その罪をチャンドラへと着せること。

炎と煙の中から現われた父は、チャンドラを救い出します。

そして、村の反対側までチャンドラを連れて逃げたのでした。

彼女は思います。

「父は自分を救ってくれた。では母は?」

チャンドラが見つめた先、それは炎によって燃え落ちてゆく自分たちの住まい。

「お母さん!」 彼女は声を上げ、突然、立ち上がって走り出すことができなくなった。「嫌!」

兵士達はその前腕から、剃刀のように鋭い刃を展開した。彼らは二つに分かれ、その間からバラル隊長が現れて彼女へと近づいた。彼はその手に簡素なダガーを持ち、彼女へと迫った。

彼女は自分の身体を動かせなかった。

「広場で素晴らしい見せ物が催されるだろう」 バラルは囁いた。

「体制に反した者の例を領事は楽しむだろう。そして人々は自分達を巻き込まない、権力の見せ物を」

父親が村の煙から姿を現した。彼は兵士達を押しのけ、チャンドラと兵士達の間に割って入った。

「もう十分だ」 彼は咳込みながら言った。「私を連れて行きなさい。貴方が探していた者だ。降伏する」

バラルは彼女の父に近づき、片手を彼の肩に置くと、その手のダガーで腹部を突き刺した。

父は喘ぎ、手で腹部を押さえて膝から崩れ落ちた。彼は少しの間チャンドラを見ていた、そして彼女は父の最後の感情をその瞳に見た――怖れではなく、娘へと良くしてやれなかったという失望を。彼は背を曲げ、震え、そして地面に倒れた。

チャンドラはその時自分が発した声を聞かなかった。世界は蒸気と煙、そして兵士達の制服に覆われた。

彼女が見たのは泥の中に倒れる父、何度も何度も、そして彼の今わの際、気落ちしたような吐息を聞いただけだった。




覚醒のチャンドラ

どこでどのように自分は連れてこられたのか。

気づけば、チャンドラは、処刑台の上に膝をつかされていたのでした。

告知人が読み上げる、彼女の罪状。

ギラプールの鋳造所を破壊したうえ、村の放火により三人を死なせたと。

 

チャンドラの怒りは、父の死とともに消え失せてしまったのでした。

処刑台から見つめる群衆の中に、母の姿はいない。

それは、彼女にとって母も死んだことのなによりの証拠となったのです。

彼女に残されたものは何もなかった。ある意味、処刑人が彼女から奪えるのは唯一、命だけなのかもしれなかった。

(中略)

もしかしたら自分は生きられる運命ではなかったのかもしれない。何の最高にもなれない運命だったのかもしれない。もしかしたら自分はただおかしいだけ、周囲に苦痛を撒き散らすというだけの「才能」を持った怪物なのかもしれない。誰も自分を信頼できないのかもしれない。誰も真の自分を愛せないのかもしれない。ただ首を下げ、運命を受け入れるべきなのかもしれない。

群衆の中の何かが彼女の目をとらえた。鋳造所で接触したパースリー夫人だった。彼女は群衆の中から頷き、口を固く線に結んで、その両眼は果敢にも涙で曇っていた。ゆっくりと、パースリー夫人は手を挙げた。彼女の指が額の前で輪を描いた――ナラー家の合図、父親の溶接ゴーグルの身ぶりのような、敬礼のような身ぶりだった。

チャンドラは拳を握りしめた。蒸気背負いが音を立て、そして湯沸かしのように高く鳴った。彼女は両眼をパースリー夫人に向け、その合図を見つめていた。それは真の彼女への敬意だった。

彼女はナラー。チャンドラ・ナラー。

 

やがて迫る、処刑人の足音。

仮面をかぶった向こうに見える両目は、あの冷たく残忍なそれ。

チャンドラはその人物を即座に認識したのでした。

「バラル」

 

仇敵の存在を前に、無力に頭を垂れるチャンドラ。

バラルは群衆に見えるように、刃を掲げたのでした。

そしてついに、告知人がその刃をおろすように命じたとき。

ゆっくりとした瞬間、刃が弧を描いて空を切り、彼女の首へと向かってきた。チャンドラは刺すような感覚に洗われるのを感じた。まるで燃えさしの波のようだった。

(中略)

彼女の両手が炎を発し、瞬時に手錠を融かした。両腕が炎に包まれた。肩が、上半身が炎に包まれた。彼女は顔をそむけたが、炎は顔へと広がった。彼女の髪の毛は白熱した炎になった。両眼は焼けつき、その眼窩で赤熱する球と化した。

彼女は憤怒の絶叫を発し、そしてその絶叫は爆発となった。炎の奔流が彼女から弾け、演壇を飲み込み、捕獲者達を飲み込み、世界全てを飲み込んだ。

彼女が知覚する全てが炎に満たされていた。

チャンドラの灯の目覚め

 

やがて炎が明け、煙が去った時。

見えたのは、広場でもなく、街でもなく。

ローブを纏った人々と、門へ伸びる階段と、山から生えるようにそびえる建築物。

チャンドラは恐怖に混乱した。修道士たちは宥めるような仕草でその手を彼女へと伸ばした。そして彼らの一人が滑らかな語調で何かを喋った。

だから彼女は意思を振るい立たせ、彼ら全員を炎で吹き飛ばした。炎の道理。

だがどういうわけか、怒り狂う炎の奔流は彼らを傷つけることはなかった。修道士の一人が片手を挙げると、彼女の炎は和らぎ、弱まって彼女と彼らを共に取り囲む、温かな輝く環となった。

その修道士が彼女へと頷きかけた。

「ようこそ、紅蓮術士さん」 その修道士が言った。「君を歓迎しよう」

 

そしてチャンドラはこの地で修道士長となる

 



今回はここまで

これが、チャンドラの悲劇的にして辛辣な、灯の覚醒の物語です。

いやぁ…

 

いい父親といい母親なんですよねぇ!(泣)

 

ホントなんで死んだのよ。

MTGストーリー、「惜しい人をなくしたランキングTOP3」に入るかもしれないパパ・ナラー。

ちなみに、カラデシュの物語は、モロにここからつながるので、ぜひこの物語を念頭においてお読みくださいね。

 

というわけで!

マジック・オリジン編も終わったので、次回からカラデシュ編!

サヒーリ!テゼレット!そして今回出てきたママ・ナラーも出るぞ!

最近スペルブック・チャンドラにも収録された、母と娘の「安堵の再会」が起こるんだぞ!

カラデシュすごい!ほんとにす(ry

 

お楽しみに!

 

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「チャンドラの誓い」の背景ストーリー

 

*出典*

チャンドラの「オリジン」:炎の道理

Posted by オクハラデン