【カラデシュ】第4回 不殺の英雄、アジャニ【ストーリー】

2021年4月22日

目次

はじめに

前回、ピア・ナラーを追って敵の罠にかかり、牢獄に閉じ込められたチャンドラとニッサ、そしてパースリー夫人。

そしてその頃、カラデシュにはそのパースリーを探す影が…。

タイトルにもある"あの"プレインズウォーカーも巻き込み、カラデシュの物語が加速します…!

 

白の巨人

カラデシュの物語が動く6か月も前。

神河次元のタミヨウの元を訪れたのは、巨人とも言える大きな影。

そして、その来訪に気づいたのは、彼女のもとに身を寄せる子どもたちなのでした。

ルミヨウ、ヒロク、ウメ、そして新しく加わった、那至。

 

「おかあさーーーん! ねこさんが帰ってきた!」

肩の後ろで巨人が笑った。

「ルミの声はいつも大きいな」

(中略)

「どうしたの――あら。ようこそ神河へ、おかえりなさい」

彼は薄青色をした絹の衣に鼻をすりつけた。白い巨人は座ったまま背筋を伸ばすと、大いなる敬意を込めて頭を下げた。

「お元気でしたか、タミヨウさん」

タミヨウはその笑みを巨人から彼へと向け、長い耳の片方を肩にかけた。

「この方はアジャニさん。私達の物語の円の仲間です」

その声はまるで陶器の花瓶のように、澄んで輝いていた。

「ナーセットさんみたいに、この方も空の向こうへ行けるんですよ」

「すごくひさしぶり」

彼の背後で、廊下の床板がうるさく鳴った。兄弟姉妹といとこ達が走り、飛び跳ね、時に浮遊してやって来た。ルミは手を伸ばしてアジャニの毛皮を撫でた。

「すごく面白くておかしいお話して!」

「アジャニが帰ってきた!」

「ドラゴンのお話して!」

「世界の穴のお話がいいよ!」

空民の子供達がアジャニの両脚に群がり、白い毛皮に、巨大な輝く斧に、身にまとった長く白い外套に触れた。ヒロクは一番背が高いが、それでもこの巨人の胸までしかなかった。ルミは今もその腕の中から見下ろし、皆を叱りつけていた。

タミヨウが手を二度叩いた。「そこまでですよ!」

(中略)

「アジャニさんはお客様です。今、お願いをするのは失礼にあたります」

巨人がルミを床に降ろすと、タミヨウは両手を胃袋のあたりに当てた。

「とても遠くから来て下さったんです。ルミ、お父さんに歓迎の食事を用意するように伝えて下さい。皆も手伝って下さい」

「お話をする前に行かないよね?」 ルミが言った。彼女は腕を組んで顎を突き出した。「おかあさん、鉄の掟ですよ。冒険に行ったなら、必ず戻って来てお話をすること」

タミヨウはアジャニを見た。口元は固く閉じ、両目は笑っていた。

「父親の真似なんです」

「勿論です」

巨人は礼儀正しく言った。そして子供達を見下ろし、片手を胸に当てた。

「物語を語らずに出発する事はありません」

散り散りになりながらも、誰もが不平を言い続けていた。

 

タミヨウは、白い巨人ーアジャニへ、近況を問います。

自分の知らない時点から。

つまり、エルズペスとともにテーロス次元へ行った時の話を。

しかしアジャニは、それに対しては口を重く閉ざしていたのでした。

目の前で仲間の死を見たアジャニ

彼女は不思議に尋ねます。

「アジャニさん。もし私に話さないのであれば、何故ここに来られたのですか?」

その巨人はゆっくりと息をし、大きな重圧がその表情に漂った。

「前回来た時には……那至はいませんでしたね。彼は他の子供達とは違いますが……」

タミヨウは溜息をついた

 

タミヨウは那至の生い立ちを話し始めます。

彼の住んでいた村は焼き払われたと。

犯人は、テゼレットという名の罪人であると。

「行動には結果が伴います」 タミヨウはアジャニへと言った。

「時に、私達のような者は……自分達の足がどれほど大きいかを忘れてしまいます」




アジャニの英雄

それから一か月。

アジャニは旅立つ前に、那至を部屋に招き、話を交わします。

「もう行っちゃうの?」

「ああ」

「どこ行くの?」

巨人は彼を見た。

「君の家族を殺した男を見つけに。友達によれば、カラデシュという場所にいるらしい。誰かがそいつに金と秘密をやって、そいつはそれを使って力を手に入れた」

(中略)

その巨人は武器を持ち上げ、背中の紐に吊るした。黒い刃の端が冷たく輝いた。

「あいつを殺しに行くの?」

突風が玄関の呼び鈴を大きく鳴らした。「それは……わからない」

巨人は縁側の外を見て、白い外套に手を置いた。世界中に水の匂いが満ち、今にも落ちようとしていた。

「あるいは、それこそが正しい道なのかもしれない。踏みつけるものが見えないまま歩く者の何と多いことか……」

 

アジャニは身に着けた白い外套をつかみます。

それは、かつて旅を共にした英雄の持ち物。

彼は、少年に…父母を失った少年につぶやきます。

自分の友、エルズペスは死んだのだと。

死ぬべきでなかった英雄は、目の前で殺されたのだと。

それは、タミヨウにすら上手く話せなかった事実。

少年はおずおずと口を開きます。

「タミヨウは言ってたよ、誰かを失うのは、怪我をするのと同じだって。つまり、倒れて痛くなるのと同じだって。膝をすりむいたら、血が出るけど治るよね。それと、涙は心が流す血なんだって。だから、流せば、良くなるよ」

巨人の顎が震えた。

「タミヨウは賢いな」

 

やがて、アジャニは英雄の物語を、少年に語り始めます。

彼女は、暗闇の中、怪物が支配する世界で生まれ育ったこと。

やがて、英雄は安心を求め、温かく、優しき世界で数年を過ごしたこと。

彼女は自分の命を救ってくれたこと。

その世界を守るために、アジャニと彼女は協力をしたこと。

やがて彼女は怪物を滅ぼし、また別の怪物に倒されてしまったこと。

その役割は、彼女ではなく、自分であるべきであったということ。

アジャニの肩が落ち、震えた。彼は片手で目を覆った。

雨が降り出した。

子供達は彼とともに座り、囲み、沢山の手がその肩と腕と背中と膝に置かれた。誰も何も言わなかった。ただ呼吸だけがあった。

雨はとても、とても長く続いた。




救出

さて、時と場所が移り、半年後のカラデシュ。

テゼレットの捜索に手を貸してくれていた、『おばあちゃん』こと、オビア・パースリーの家を訪れたアジャニは、彼女が監獄へ連れ去れたという情報を得たのでした。

そして、「シャドウブレイド」というコードネームの女性と共闘し、『おばあちゃん』の捜索にあたっているのです。

「ああ、ついでに。あたしの事はシャドウブレイドって呼んでくれればいいよ。ブレードじゃなくてブレイドね」

「シャドウブレイド?」 彼は疑い深く繰り返した。

彼女はにこやかに笑った。「素敵極まりない暗号名でしょ」

「あ……ああ、好きそうな名前だ」 彼は外交的にそう返答した。

 

彼女の助けを受け、アジャニは『おばあちゃん』の閉じ込められているドゥーンドへとたどり着いたのでした。

そこで目にしたのは、小さな窓がはめ込まれた部屋。

そして、その窓を内側から力なく叩く、弱々しい手。

彼にとって、中に誰がいるかは不問でした。

外で扉を警護する者たちは、中にいる者を殺そうとしている。

しかもゆっくりと、苦しめるように。

アジャニは飛び出し、衛兵を薙ぎ払います。

彼の頭に響いたのは、あの日のタミヨウの言葉でした。

 

『時に、私達のような者は……自分達の足がどれほど大きいかを忘れてしまいます』

 

攻撃手段は拳で、そして斬るのではなく叩きつけるような斧使いで。

もう、誰も殺さない。

警護する者たちを破ったアジャニは、その扉を解放し、『おばあちゃん』を救出したのでした。

そして、同じく中にいた者たちを。

彼は夫人が身体を起こすのを助け、静かに尋ねた。「ご無事ですか?」

「アジャニさん」 夫人は微笑んだ。そして目を細くして睨み付け、最も納得しない表情を作った。

「痩せましたね。きちんと食べていますか?」 そして彼の頬を撫でた。

意志に反し、彼は喉を鳴らした。「はい、おばあちゃん」

「うええ」 赤毛の娘が喘ぎ、再び乾いて病的な咳をした。

(中略)

「すみません」

アジャニは注意深くパースリー夫人を立たせると、もう二人の女性へと向き直った。

「その人を支えて下さい」 エルフは頷き、チャンドラの背を伸ばさせた。

「うわ、でっかい猫!」 チャンドラは息を切らした。その息は熱い銅の匂いがした。

「あいつくらい太い腕」

彼女が言うのが誰なのかはわからなかった。アジャニは彼女の肩に手を置き、目を閉じた。

その心臓の高鳴りは耳をつんざくほどだった。強く、切迫していた。毒が彼女の血を素早く焼いたのは間違いなかった。銀色の癒しの魔術が触手となって流れ込み、不純を清め、千もの小さな爆発を抑えた。彼女の呼吸は静まり、緩やかになった。

彼は目を開けた。「少し休んだ方がいい。毒は綺麗にしたが、肺は――」

「……大丈夫」

赤毛の娘は言って、アジャニの手の下で肩をすくめた。そして笑顔を作り、手の甲で唇の血をぬぐった。

「ありがと、本当に」

ニッサは何も言わず、だがチャンドラの背中から手を放さないまま、彼へとわずかな感謝を込めて頷いた。

 

アジャニはニッサのほうへも助けを施そうとしますが、彼女はそこまで毒の影響を受けていないと知ります。

すぐに、部屋に響き渡る警告音。

アジャニは3人を促し、脱出を決めたのでした。

先程倒した衛兵が足元でうめき、両手両足で立ち上がろうとした。彼は幾つもの靴を見て凍りつき、そしてゆっくりと、恐る恐る顔を上げた。

アジャニは告げた。「家族の所へ帰るといい」

その男は恐怖と疑問とともに彼を見上げた。

「私を殺さないのか?」

「殺さない」 アジャニはそう言った。「もう誰も」




今回はここまで

アジャニさんマジかっけぇっす…!

思いやりに溢れ、皆から慕われ、カラデシュでは不殺の誓いを立てる様は、まさにヒーローって感じのふるまいですね。

タミヨウがアジャニへ告げる、『時に、私達のような者は……自分達の足がどれほど大きいかを忘れてしまいます』という言葉は、カラデシュのテゼレットやそれを支配するニコル・ボーラスといった巨悪へのメッセージ性の強い言葉となっています。

ゼンディカーのエルドラージと違い、ヒーローたちと同じプレインズウォーカーである彼らが、次元を踏みつぶしていく姿を憂える、今回のキーワードとも言える言葉ですね!

 

さて、今回のこぼれ話は、カラデシュのストーリーでヒーローたちを支える謎の(?)人物、「シャドウブレイド」とアジャニのやり取り。

シャドウブレイドと接触した時、フードを目深にかぶり、その正体を明かしていなかったアジャニが、ドゥーンドへ導いてくれた彼女を信頼し、姿を晒すシーンです。

※カラデシュに猫人はいないため、アジャニはずっと姿を隠していました。

 

「さあ」 シャドウブレイドはそう言って彼の肩の機械鳥を小突くと、二羽の鳥が言い争っているような長い一連の音を吹き鳴らした。それは翼をはためかせて元気の良い鳴き声を一つ返した。

「これは君の鳥だ。ドゥーンドの入口に近づいたなら、この子がそこへ飛んでくよ」

「ありがとう」 彼は背を向けて去ろうとしたが、彼女の手が肩に置かれた。

「君はパースリー夫人の友達だ。そうでなきゃ、あの人はあたしらの合言葉を伝えてなかった。そして今、君はあの人めがけて開けられた領事府の顎の中に入っていこうとしている」

彼女は顎を持ち上げ、片方の拳を腰にあてた。

「君は間違いなく改革派の一員だ。否定したい奴はあたしに速製で挑んでくるといいよ。けど君はまだ暗号名を言ってくれてないよね。それは失礼ってやつじゃないかな」

彼女は腕を組み、不機嫌そうに足を踏み鳴らした。

彼は困って瞬きをした。「暗号名は……そうだな、『白猫』と私を呼ぶ者もいるかな」

シャドウブレイドは批判するような視線を向けた。

「全然似合ってなくない? 何でそんなふうに呼ばれてんのさ?」

待て。その考えは馬鹿げている。

だがこのエルフは手を貸してくれた。信頼してくれた。そして何も尋ねてこなかった。

彼はフードを脱いだ。

月光の瞳が皿のように見開かれた。そこに自分の姿がそっくり映っているのが見えた。白い毛皮、片方だけの青い瞳、髭と大きな鼻。

そして彼女は微笑んだ。

「その格好いい顔を隠してなきゃいけないなんて、勿体無いね」

彼はお辞儀をした。カラデシュ流ではなく、若い頃を過ごしたナヤの流儀で。ここの人々はとても親切で、だがとても変わっていた。

「頼りにしている、シャドウブレイド」 彼はフードをかぶり直した。

「ヴァッティ」

彼は振り返った。「え?」

彼女は歪んだ笑みを見せた。

「よくある名前だよ。ヴァッティ。君はあたしに秘密を見せてくれた。そのお返しさ。その鳥は絶対壊さないでね。ミヒルはそれが返ってくるのを期待してるし、あたしもあいつに借りを作りたくはないからさ」

彼女は背を向け、排水管を素早く登っていった。

 

シャドウブレイドことヴァッティは、この後も少しストーリーに絡んでくるキャラクターではあるのですが…いいキャラですよねぇ。

というわけで、次回はゲートウォッチ参集編!

お楽しみに!
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*出典*

解放

 

Posted by オクハラデン