ヤヘンニの霊基体という生き様 後編【ストーリー】

2022年2月27日

はじめに

前回、ヤヘンニがチャンドラとニッサを救った時から日は経ち。

領事府は改革派の隆盛を抑えるため、霊気の流通の厳重管理と、夜間外出禁止令の発行をしたのでした。

静まり返るギラプールの中、霊基体のヤヘンニは、孤独のままにその生涯を終えようとしていたのです。

 



目次

真夜中に

ヤヘンニは一人で夜の街を徘徊していました。

命の時間が終わるまで、あと15分。

しかし、領事府の圧政の影響で、ヤヘンニの最期を祝うパーティへ参加してくれる人は、ついに誰もいなくなってしまったのでした。

私は独りで死につつある。

狂乱から私は更に早足でよろめいた。どこへ向かうのかもわからなかった。

(中略)

最高の不夜城であった地区は板を打ちつけられ、明かりを消し、都市全体に発せられた夜間外出禁止令に従って固く閉ざされてしまっていた。この街路に響くのは、何らかの集まりらしきものをよろめき探す私の足音だけだった。

(中略)

私は独りで死につつある。

独りで死ぬ。

独りで。

 

ふと街路を抜けた先で、ヤヘンニは一人の人間を目にします。

それは、自分のパーティで宴会係でもあったニブド。

ヤヘンニは彼のもとへかけより、歓喜の思いと、パーティ中止の謝罪をします。

しかし、威圧的な声により、その会話は断ち切られました。

それを発した領事府の執行官は、ニブドへ装置を投げつけると、彼が意識を失うまで痛めつけたのです。

「彼を追いて去れ」 私は弱々しく言い放った。

その執行官は動かなかった。暗くて見えなかったが、物憂げな笑みを浮かべたのはわかった。そして意識のない身体を再び打った。

「やめろ! 殺す気か!」

残った力を振り絞り、私はその執行官へ迫ろうとしたが、地面に崩れた。死はすぐそこに迫っていた(あと三分だ)。

執行官は振り返って私を見下ろした。手一つほど離れて私は煙り、崩れ、ばらばらになろうとしていた。

 

すぐに、執行官は気づきます。

それは、改革派に加担していたヤヘンニという霊基体だと。

下卑た笑みを浮かべながら、執行官は問うのでした。

「知っている事を話せ。でなければこの下郎の命はないかもな」

そしてニブドの動かない身体を蹴った。

私は総毛立った。

そしてもうひと蹴り。

「おねんね中のこの改革派はお前の何だ、死にかけさんよ?」

最期の力の一片を引き出し、私は立ち上がった。残った片足は震え、右手は怒りに痛んだ。その領事府執行官と目を合わせ、死の息とともに囁いた――

「我が宴会係だ」

 

弾けるように動き、ヤヘンニの手が執行官の首にかかった、次の瞬間。

目の前にあったのは、執行官の死体と。

奇妙な充実感だったのでした。




ヤヘンニの力

「他者の生命を奪える霊基体は稀だ」

そう言ったのは、同じ霊基体の”犯罪王”ゴンティ。

執行官を殺めたその日、ヤヘンニは数分しかなかった自分の命の時間が、十二日になったのを感じたのです。

そして彼は得たそのわずかな日を、誇りを持って隣で戦える者のために、悪しきものを滅ぼすために使うと決めたのでした。

真っ先に思いついたのは、改革派の長の娘と、美しい瞳を持つエルフ。

ゴンティに彼女らの隠れ家を聞いたヤヘンニは、その場所へと向かっていたのです。

頂上の昇降口はもう近かった。すぐ上から声がした。

「脳のない何かが梯子を上ってきている」

失敬な。

その声の人物は石に降り注ぐ雨のようで、そして答えのない数多の疑問を抱いていた。

「こんな心は読んだことがない……君達二人を知っているようだけど」

どうやら男性のようで、上の仕切りの中で私には見えない誰かと喋っているようだった。何かの痛みが私の進行を止めた。

「いいから入口を開けなさいよ!」 女性の声。この……マリーゴールドは……?

雨に濡れた石と好奇心の者が続けた。

「犯罪王から送り込まれた者らしい」

「話を聞いてみるのがいいと思う」

知っている! このネロリの香りはニッサ嬢だ!!

「ニッサさん! 私です、ヤヘンニです!」 私はその男性が向ける何かの痛みをこらえて叫んだ。

頭上で取っ組み合いの音がした。身体の痛みは消え、雨の匂いの声が再び聞こえた。

「チャンドラ、その人を入れてくれ」

「ヤヘンニさん!」

昇降口が開きかけると同時にチャンドラ嬢が叫び、私を引き入れた。

※雨に濡れた石と好奇心の者

ヤヘンニは彼らに、領事府が迫っていると伝え、より安全な自分の邸宅へ来るよう伝えたのでした。

しかし、直後に迫る領事府の兵たちの気配。

いち早く飛び出したヤヘンニは、またもその手で一人を始末してしまいます。

再び延長される命の時間と、それを越えんばかりの後悔と自責の念。

ヤヘンニの労苦により安全に他のメンバーたちが降りてくる中、ニッサは彼のもとに駆け付けたのでした。

怪我無いか心配するニッサへ、ヤヘンニはかすれた声で話します。

今日、自分はすでに二人死なせたのだと。

「殺人者の家を隠れ処に使いたいと思いますか?」

「友達ですから」 彼女は優雅にそう言った。

静かな、だが彼女のまとう雰囲気は、一羽の鳥が種を選ぶようだった。試している。触れて。決めて、そして降り立つ。

慈悲深いネロリが私達の間を満たした。私は言葉を切り、ニッサ嬢が言わんとしていることを察知しようとした。

……彼女もまた過ちを犯していたのだ。

歩いてくる四人の人間を見た。善き人々。あるいは彼らにもそれぞれの後悔があるのだろう。

穏やかなエネルギーは私の肩を温め続けた。彼女の優しさは私の心に花を咲かせ、そしてはっきりと理解した。

ここにいる皆、私と同じなのだ。

(中略)

将来の死を思う。

残された寿命は二十二日。

その二十二日で、とても多くのことができる。何と素晴らしい人生だろうか。

ニッサ嬢の存在は、橙の花が咲く梢のようだった。

「ありがとう、ニッサさん」

「どういたしまして、ヤヘンニさん」

彼女らは、自分の余生を賭す者として間違いなかったのだ




最後の日

そして、時はカラデシュ終章までうつろいます。

テゼレットの撃退、次元橋の破壊まで、ゲートウォッチに惜しみない支援をし続けたヤヘンニの。

その最期の日が来たのでした。

お気に入りの服装。

お気に入りの装飾品。

消えゆく、最後の夕日。

そして、自分の最後を祝うための"直前パーティ"に集まった、数々の人たち。

命が終わるまで、あと4時間。

チャンドラ嬢が先頭に立っていた。下ろしたてのサリーに身を包んでおり、昨今の戦いで受けた打ち身や擦り傷はほぼ装飾品に隠されていた。

(中略)

だが他の者らは……困惑していた。

直前パーティーとは何か、それを説明するという大変な役割をチャンドラ嬢は引き受けたに違いなかった。

ジェイス氏の雰囲気は雨に濡れた居心地悪さを声高に鳴らしていた、この部屋にいる共感者全員を振り向かせるほどに。

その後ろ、二足歩行の猫殿は(その心は今も生々しい悲哀で満ちていた。何と悲しいことか)今にも泣き出しそうだった。

他の者らは目に見えて落ち着かない様相だった。

「何ということでしょう」 私はわざとらしく囁いた。

「どなたか亡くなられたのですか?」

リリアナ嬢は笑ったが、他の者らはぎこちなく顔をしかめた。

笑いをこぼすと、顔の一部が崩れて落ちた。

一団の背後に立っていた巨体の猫が私に近づき、視界に入るよう膝をついた。

「アジャニと申します。この残り僅かな時間、私達にできる事はありますでしょうか?」

ああ。何と愛おしいことか。

「これは私のパーティー、ですので私の規則に従って頂きたい。皆様全員に満喫して頂き、そして私は全員にお別れを告げたい。ですがそれは楽しくなければなりません! それが重要なのです!」

アジャニ氏は心からの思いやりで頷いた。

 

そんな中でも、微笑んでいたのはチャンドラでした。

彼女は、楽しむためにヤヘンニへ手を貸すことを申し出ると、彼を肩にかついだのです。

いたずらっ子のような表情で部屋を走り回るチャンドラ。

彼女から引き受けたギデオンも含め、皆ヤヘンニとの時間をずっと笑い続けてすごしたのでした。

しばし放り投げられて皆を回った後、私は部屋の向こうから共感的なネロリの香りをとらえた。ギデオン氏へとその源を示すと、寝椅子へと私を優しく下ろしてくれた。すぐそばに、優しく微笑むニッサ嬢がいた。

「ニッサさん! ああ、ニッサ、ニッサ、ニッサさん。貴女も私を持ち上げて、元気をくれますか?」

ニッサ嬢はかぶりを振った。

「私は隣に座っていたいです。痛みはありますか?」

「少しだけ」 私は認めた。

「ですが耐えられないものではありません」

 

ニッサから流される癒しのエネルギーに浸りながら、ヤヘンニはこのエルフの感情を感じていたのでした。

彼女はもともと、人々を理解できず、遠ざかっていたのだ。

ゲートウォッチに出会うまで。自分と出会うまで。

しかし彼女は成長したのだ、と。

ヤヘンニは静かに、自分の首飾りをニッサへと託します。

それを受け取った彼女が、肯定的な感情を抱いたことを感じ取りながら。

ニッサは"お返し"とばかりに、彼女の知る秘密を話し始めます。

「この世界は、無数の世界の一つなんです」

は。

「果ての無い平原の一つの砂粒です。その粒の一つ一つが、それぞれ異なる世界です」

彼女が発する感情の輪が、それは真実だと告げていた。その言葉の全てが真実。いかにして――

「時々、いるんです。そういった世界の間を……旅する人々が」

人々、その言葉とともに彼女は洞察を求める視線を投げた。正直な、とても正直な、暖かな銅の誠実さ。いかにして――

「故郷からとても遠く、全く違う場所へ旅する人々です。彼らは皆知っています、私達はその広大で複雑なもののごく一部だと。ですが世界の間、その宇宙それぞれを繋げるものは、霊基体を作り上げるものと同じ物質です。あなたを作っているものは、カラデシュの遥か彼方へ繋がっているんです。あなたも、多元宇宙に繋がっているんです」

しばし、私は黙り、ニッサ嬢が語ったことの途方もなさを吸収した。そしてようやく私は着地し、反応した。

「知っていました」

ニッサ嬢は歯を見せて笑った。私は驚嘆に天井を見上げた。自分がちっぽけに感じた。巨大に感じた。

人生最大の贈り物を受け取ったように感じた。

 

やがてニッサは、ヤヘンニへ語ります。

自分は、ゼンディカーという世界の出身だと。

そこはカラデシュと違い、大地が歩くのだと。

 

それ以外のことも。ニッサ自身のことも。話して、話して、話し続けたのでした。

ヤヘンニは感じました。

これほど最高の贈り物はあるのだろうか、と。

「ニッサさん。私はもう行かねばなりません。ご希望でしたら屋上へご一緒しますか」

彼女の感情は感傷による滝となった。

「いえ、私はこのままで。さようなら、ヤヘンニさん」

その寝椅子の中に彼女はとても小さく見えた。彼女が最後に見つめてくれたその映像を、私は心に焼き付けた。

「お元気で。愛しいお方」

ニッサ嬢は寂しく微笑み、私の心は螺旋に捕われた。

 

家族とともに、屋上へたどり着いたヤヘンニ。

最愛の友人たちとむかえた、なんとも美しい夜空。

すべての者が幸せで、すべての者が笑顔でした

都市の流れを感じた、次の永遠へうねるような。私が故郷と呼ぶ一粒を、そして私の知が及ぶ遥か先、無数の世界を思った。

大丈夫、友人らがそう告げてくれた。いつでも大丈夫だと。

だからその通りに、

私は震えて

解き放たれて

(素晴らしい感覚だ)

終わりのない、果てのない空へと消えて

そして、

誇らしく、喜ばしく、

私という存在は終わった。




今回はここまで

美しい…!

美しいよこのお話…!

そして泣けるよね。泣こう。

霊基体というカラデシュ特有の存在の特徴、生き様、死生観を見事に表した素晴らしいストーリーだと思うの。

自分の寿命がわかっており、死は恐れるものではなく祝うもの、と考えている霊基体の考え方に、寂しさを禁じ得ないゲートウォッチの面々と、対照的なヤヘンニの「生ききった」姿勢がストーリーとしてあまりにキレイですよね。

プレインズウォーカーだけがマジック・ザ・ギャザリングじゃないんだ、ということを教えてくれます。

 

さて!メインストーリー以外の素晴らしい物語も紹介し終わったので!

カラデシュのストーリー紹介はこのあたりで!

次回からアモンケット編ですぞ!

ここまで順調に悪を滅ぼしてきたゲートウォッチが、ついに悪に敗北する物語をお楽しみに!!
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*出典*

真夜中に

未来へ