【サンダー・ジャンクション】第4回 アショクの正体【ストーリー】
はじめに
前回、オーコ達を守ろうとするケランはアクルへと決闘を挑みますが、当のオーコはケランに隠していた逃亡計画により、求めていた鍵を手にしてその場を去ってしまいます。
その裏切りに、父への信用を完全に失くしたケランは、彼ら悪党に宝物が渡らぬよう、それらに敵対することを選んだのでした。
一つの宝物を巡った争いは、思わぬ人物の登場により、幕を閉じることになります。
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潜伏していた者
オーコ達悪党一味はついに宝物庫へと辿り着きます。
魔法を解呪すべくケアヴェクが扉の前に立つと同時に、部屋の出口に現われる人影。
憤怒のアクルは地獄拍車団とともに、彼らの退路を塞いだのでした。
スターリング社はアクルを仕留めるまでに至らなかった。
その結果を残念に思いつつも、ケアヴェクを守るように指示を飛ばすオーコ。
アクルは両顎を広げて身体の内に雷を起こしたが、そこでラクドスに横から殴打されて床に叩きつけられた。
慌てて立ち上がるアクルをよそに、ラクドスは両腕を掲げて大声で笑った。まるで時間などいくらでもあるというかのように。
「さあ!」
その声が轟いた。
「これこそが約束された享楽だ!」
部屋の両側から雷が弾け、ドラゴンと悪魔が激突した。
アクルをラクドスに任せ、地獄拍車団の兵たちに応戦する一行。
そんな中、大量の兵を相手にしながら、ヴラスカはオーコへ耳打ちします。
魔法を解き扉を開けても、中に兵たちがなだれ込んでは意味がない。
多少の犠牲は出してでも、自分とオーコでのみ扉を抜けてしまうべきだと。
その誘いに乗り、ケアヴェクの開けた扉を抜けるオーコ。
闇に満ちた階段を下ると、行きついた部屋にあったのは輝く太陽のように浮く鉄の彫刻。
オーコが鍵を取り出し、その宝物を手にしようとしたとき。
彼の手に絡みついた金色の蔓は、彼の手から鍵をもぎ取ったのでした。
オーコの目線の先に立つ、いなくなったはずのケラン。
驚きを隠せないオーコと、瞬時に彼を石化せんと動くヴラスカ。
しかしその彼女も、ケランの隣に立つラルの存在を目にし、足が止まってしまったのでした。
「何で、ここに来るんだよ」
途切れがちの声で彼女はラルへと言った。
「どうしてこんな事をしてるんだ?」ラルが問いただした。
「俺たちは友人同士だろ、ヴラスカ」
「敵同士だったこともあるよ」
ラルの両手で電気が弾けた。
「お前もまだラヴニカに戻ることはできる。何があったのか、ずっと何処にいたのかはわからない――けれどこんなことをする必要はないはずだ」
ヴラスカは厳しい調子で言った。
「私がやったことを正すには、宝物庫の中にあるものを手に入れるしかないんだよ」
その言葉に引っかかりを覚えるオーコ。
ヴラスカは報酬のためにこの仕事を引き受けた。自分と同じように、アショクに雇われて。
しかしなぜヴラスカはこの宝物をここまで渇望するのか。
が、ケランの宣戦布告が彼の思考を中断させます。
そしてその言葉から、ケランが完全に自分と敵対したことを察したオーコ。
アニーの援護も得たケランは、オーコを見止めるとその意識を平穏へ誘い。
その隙をついた彼は、ついにオーコの持つ鍵に手を伸ばし…。
そしてその手が触れた瞬間、彼は血も凍るような絶叫をあげたのでした。
ケランを横切り、アニーやラルをも包み込んだ影。
その影ーアショクはヴラスカの元へと辿り着くと、宝物の扉を開錠したのです。
その宝物の正体に、目を凝らすオーコ。
ガラスの中で動くものの形は、もやに隠されてはっきりとは見えなかった。
オーコは顔をしかめた。何か、生きているもの。
アショクが床に足をかすめながら、オーコの隣を過ぎていった。
「やっと」
その繭へ向かいながらアショクは呟いた。そしてオーコが見たこともないような優しさで、その鋭い爪をガラスに当てた。
「君を見つけた」
アショクが伸ばした指に近づこうとするかのように、中の生物がガラスに触れた。その瞬間、幻飾が消え去った。アショクがずっとまとっていたものが。
闇が消え去り、アショクを覆う外套の下にいたのは――ジェイス・ベレレンだった。
ジェイスの企み
オーコは鼻息を荒くした。あってはならない、トリックスターが騙されるなどということは。
「いつから隠れていた?」
「今も隠れてるよ」
アニーがよろめきながら入ってきて、視線をジェイスだけに集中させた。彼女の目が鮮やかな橙色に輝き、ジェイスが今なお注意深く幻飾の下に隠しているものを垣間見た。
「その傷跡……プラグ……それは?」
貫くようなジェイスの青い瞳が憤りに満ちた。
「貴女が見るべきじゃない秘密です」
彼は片手を挙げてアニーへとひとつ身振りをした。彼女は床へと倒れた――眠りに落ちていた。
ジェイスが手をかざすと宝物を守る繭は崩れ、中から橙色の毛皮に覆われた小さな生き物が姿を現したのでした。
まるで長く眠っていたような素振りを見せるそれを、子どものように胸に抱えると、ジェイスはそれを眠りにつかせます。
宝物の正体が「ただの子ども」であったことに当惑を見せるオーコに対し、ジェイスは告げたのでした。
これは「それ以上の存在」だと。
ジェイスの合図とともに現われたヴラスカが金色の目を光らせると、オーコは自身の足から石化が始まっていることを感じます。
腹立たしさと戦いつつも、ケランも同じようになるのかと一瞬訝しむオーコ。
しかしその魔法が首まで至った瞬間、彼は次元渡りで逃げ去ったのでした。
やがて目を醒ましたケラン。
彼が周囲を見渡すと、ヴラスカと見知らぬ男が子どもを抱きかかえており。
倒れ込んだアニーのもとへ向かった時には、その二人はどこかへ消え去っていたのでした。
すぐに震え始める床。崩れる天井。
彼はアニーに肩を貸し、ラルを起こして出口へと向かいます。
最初の部屋には、アクルを打ち倒し勝ち誇った表情のラクドスと、悪党のメンバーたち。
マルコムはブリーチェスを連れて砂漠の地平に消え。
ラルは次元渡りで去り。
残る仲間たちはラクドスの背に乗り込んだのでした。
ラクドスは腹を立てた。
「二度と誰かを乗せるつもりはないと誓ったのだぞ。これが最後の最後と知れ!」
不機嫌な大声を残し、ラクドスは宝物庫が収められた浮遊岩から飛び立った。
「先に行って下さい」ケランはラルへと言った。
「僕は飛んでアニーさんを下ろします」
しかし、アニーがケランの手を掴むよりも早く、入り口から飛び出したアクルが彼女を鉤爪で捕らえたのでした。
慌てふためき、剣を取り出さんとするケラン。
そんな彼の頭を、戦闘中に言っていたオーコの言葉がかすめます。
自分たちの血統には、想像よりもずっと大きな力があると。
ケランは息を整えると、自身の中に巡る魔法を落ち着かせ。
そして目が合った瞬間に、彼はアクルの心へと飛び込んだのでした。
それは単なる催眠ではない――制御だった。
「その人を放せ」ケランは命令した。
アクルの爪が緩み、アニーは地面に転がり落ちた。
(中略)
ケランは両目をアクルから離さなかった。解放することはできない。もしそうしたなら、地獄拍車団は自分とアニーを、そしてアニーが必死に守ろうとした町を狙い続けるだろう。ここで終わらせなければいけない。
アクルの心へと、ケランは再び魔力の波を送り込んだ。
「宝物庫の中へ戻れ――そして二度と出てくるな」
(中略)
彼はゆっくりと尻尾を引きずりながら、崩壊しつつある宝物庫の入り口へと戻っていった。落石が開口部を塞ぎ、ドラゴンの姿が消える様子をケランは見つめた。
悪党たちは再会を約束する
久遠の闇から戻り、極めて明るい笑顔で酒場へと戻ったオーコ。
しかし出迎えたメンバーからは、不満の色が隠しもされてなかったのです。
誰も利益を得られなかったことに苛立つエリエット。
任務そのものが大惨事だった、と梅澤。
首領たるオーコの管理不足を糾弾するケアヴェク。
マルコムとブリーチェスの姿がないことを疑問に思うオーコに、二人が忠誠を尽くすのはヴラスカだけだ、とエリエットは補足したのでした。
メンバーに弁明を求められたオーコは、素直に認めます。
ヴラスカとジェイスの行方は何もわからず、当面は何もないと。
ケアヴェクは嘲笑した。
「奴等を放置するというのか?」
「あのふたりはいつか姿を現す」オーコの瞳が暗くなった。
「その日が来たら、私たちを裏切ったことを後悔するだろうね。でもそれまでは……」
彼は肩をすくめた。
「お互いの不満をぶつけ合ってもいいし、より良い機会が訪れたなら再会すると同意してもいい。復讐のためでも、より大きな儲けのためでも」
連絡を取り合う。
そうオーコが言うと、その場にいたメンバーたちは順々に去っていきます。
梅澤は、次は報酬を三倍にしてもらうと宣言し影の中へ。
借りを作ったと思え、とケアヴェク。
口論しながら出ていくギサとゲラルフ。
「真にこれが最後だ!」と宣言し、チビボネを乗せたまま去るラクドス。
そして、最後に残ったのはエリエット。
息子がどうなったのか知りたいか、と問う彼女に対し。
自分と似ているところがあるなら、逃げ伸びたのだろうとオーコは話します。
そして、彼はある予感を感じていたのでした。
息子との二人の道は、いずれまた交わるかもしれない、と。
自分にも父親と言えるような相手はいなかった。自分の子供に対しては、もっといい父親であれたかもしれない。もし状況が違っていたなら……
彼は両肩を正し、瞬きをしてその考えを追い払った。今は、もっと注目すべき大きな物事が多元宇宙にはある。
オーコはゲラルフが残していった、中身が半分しか残っていない酒瓶に手を伸ばし、二つのグラスになみなみと注いだ。彼はひとつをエリエットに渡し、もうひとつを自分で掲げた。
「次に会う時まで」
エリエットもグラスを掲げた。
「再会を楽しみにしているわ」
ケランの旅の果て
ケランは物理的な傷以上に、心の中の痛みに苦しんでいたのでした。
考えないように努めても、彼は見知らぬ人々の中に、父の姿を探している自分に気づくのです。
そしてケランはその思いを、アニーの牧場の雑務に忙殺されることで、霧散させようと試みていたのでした。
そこへ雷鳴がひとつ鳴り響くと、門の側でラルが手を挙げたのです。
「まさか、もうヴラスカさんを捕まえたとか言いませんよね?」
「それがまだだ」
ラルは暗い表情で認めた。
「あいつが逃げてからというもの、手がかりはない――ジェイスもだが」
彼はため息をつき、表情を和らげた。
「とはいえ、ラヴニカではやるべきことが沢山ある。信頼できる奴を雇いたいんだよな」
「僕に次の仕事を、ってことですか?」
ラルは笑った。
「どう言えばいいかな。俺はお仕置きが大好きなんだ」
しかし、ケランはこの誘いを断ります。
放浪はしばらくいい。そして今は待っている人がいるのだと。
赤らんだ顔をからかうように指摘するラル。
やがて彼が家の中へと消えていったとき。
ケランは遠くに、馬に乗る人影を見たのでした。
それは、日傘を差した女性。
耳が尖り、三つ編みを垂らし、この日光の中でも着こんでいる。
ケランは待ちきれず、道の途中で彼女に合流して笑いかけた。
「やっとグルールの遺跡から抜け出せたんですね?」
「中継塔で招待を受け取りました」
アマリアはそう言い、馬から降りるのを手伝ってくれるようケランへと手を差し出した。彼女は微笑みを浮かべ、問いかけるように色白の顔を彼へと向けた。
「そんな伝言を送るのはとっても高くつくはずですよ。私がいなくてそんなにも寂しかったのですか?」
ケランは頬を紅潮させ、首筋をかいた。
「僕は、その――アマリアさんが来てくれて、嬉しいです」
「ラヴニカからはるばる来たというのに、私を抱きしめてもくれないのですね?」
アマリアはからかいながら日傘を回し、影が彼女の周りに踊った。
アマリアの腕が首に回され、力が込められた。ケランは恥ずかしそうに口を開いた。
「会いたかったんですよ、ケランさん」
アマリアは頬をケランのそれに押し当てた。
「そして楽しみです。これから一緒に、この世界の地図を作っていくのですから」
今回はここまで
衝撃のジェイス!
カルロフ邸から伏線は張られていたとはいえ、すごいところで姿を現しました。
なるほど、列車の作戦のとき「アショクが精神感応ってまたすごいことを…」と思っていましたが、ジェイスの得意技なわけだ。
結果的にジェイス(とヴラスカ)の一人勝ちになった、今回のストーリー。
悪役として宝物を追っていたオーコは出し抜かれ、次なる再会を約束しメンバーは離散しました。
そして、父の裏切りをその身に刻まれつつも、アマリアとのてぇてぇを繰り広げたケラン君は、しばらく放浪をやめるとのことで…?
次回も非常に気になるところですが!
まずはなんでジェイスとヴラスカがこんなことを計画したのか。
それは、原作にて「エピローグ」で語られた物語…。
もうちょっとだけ続くんじゃよ。
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