【エルドレインの森】第1回 ローアンと魔女【ストーリー】
はじめに
前回までで、新ファイレクシアとの決戦を終えた多元宇宙の英雄たち。
その戦争の代価として、多くのプレインズウォーカーが灯を失う中、多元宇宙にはポータルが現われ、PWでない者たちも次元間の行き来が可能となったのでした。
というわけで、今回から新章「領界路編」がスタートします!
その最初となるストーリーは、ファイレクシアの傷跡が残るエルドレイン次元。
前回の主人公だったウィル・ローアンとともに、とある少年が新たに物語を彩ります!
↓ストーリーのまとめはこちら↓
ローアンの決別
エルドレインには、善き王がいた。
そしてその傍らに、善き女王が。二人のもとには四人の善き子どもたちがいた。
しかし、二人の王はファイレクシアを前に、家族を守って命を落とした。
そうやって後を継いだのがウィル・ケンリス。
彼は半ば侮蔑の意味を含めて「少年王」と呼ばれていたのでした。
彼が双子のローアンとともに訪れた先の人物も、またその一人。
略奪団を指揮していると噂のイモデーン。
取り決めを持ち出したウィルを見下す彼女に、ローアンははらわたが煮えくり返る思いとしていたのです。
片割れを侮辱するイモデーンもさながら、その者へ冷静に対応しようとするウィルの態度へも。
ウィルは決闘での決着を提案しました。
エルドレインの冠を引き換えにそれを受けるイモデーン。
彼女の先制に対し、ウィルは氷の力でその足を取るも。
それは逆にイモデーンの怒りをたぎらせる結果となります。
身長ほどもある鎚の一撃をすんでの所でかわすウィル。
その戦う姿は、ローアンに恐怖と焦燥を与えたのでした。
抑えなくてはいけない。
自分の気持ちとは裏腹に、溢れる悲しみと怒りの感情。
そして、それとは別の恐ろしい何か。
それらが血管を巡った時。
彼女の放った稲妻は、山に巨大な亀裂を残したのです。
敗走するイモデーンと、目を見開き彼女を見つめるウィル。
「ローアン?」
ウィルの声は怯えているようだった。彼も亀裂を見つめた。
(中略)
ローアンを見つめる様子は、まるで人々が……
恐ろしいものを見つめるような?
(中略)
彼は地面に座り込んだままローアンを見上げていた。そして助け起こされた時も、彼は決してローアンから目を離さなかった。
「何をしたんだ?」ウィルはそう尋ねた。
ローアンは答えを持ち合わせていなかった。
二人はもはや廃墟と化したアーデンベイルから離れ、ヴァントレス城に居を構えていました。
その中で、ウィルは遥かに高く積まれた書類の山に埋もれ、睡眠も取らずにそれらに目を通していたのです。
イモデーンの一件からしばらく経ち、ローアンはウィルへと提案したのでした。
ここを発つべきだと。
イモデーンとの戦いの噂が広まり始めた今、王国のために他の世界から最善策を見つけるべきだと。
しかし、ウィルはこれを拒否します。
人々は自分たちを必要としている。
なによりあの戦いでの出来事は、ローアンがウィルを信頼していれば起こらなかったことだと。
「僕らの両親は、きっとそんなことはしなかった」。
その一言が大きな引き金となり、引き起こされるローアンの激高。
彼女はウィルとともに強制的に旅立つべく、灯に呼びかけました。
しかし、いつまで経っても次元渡りが起こることはなく。
集中すべく目を閉じた彼女の瞼の裏に見えたのは、あの新ファイレクシアの侵攻、そして弟妹を託し最期の言葉をかけた継母の姿だったのでした。
「……ローアン?」
ウィルが尋ねた。この会話が始まってから初めて、彼の声は心配を帯びていた。
「大丈夫か?」
胸が圧迫されているようで、頭には棘が刺さっているようだった。そして目を閉じるたびに、ファイレクシア人の刃に斃れる父の姿が見えた。
そして両親を奪い、片割れとの関係を壊しただけでなく、ファイレクシア人はまた別のものを彼女から奪ったように思えた。プレインズウォークのために精神を澄ますことができなかった。灯――その反応がないように思えた。事実、ローアンは全くそれを感じられなかった。
「ううん」簡潔にローアンは言った。
「いいわ、ここにいたいならそうすれば。私は行くから」
悪夢の誘い
ローアンは僻境へと立ち入り、やがて見た夢の中で、健常な頃の父母と再会しました。
「助言が欲しかったのだろう」と話した父は、アーデンベイル城へ来るよう促します。
「そこで、ローアンの血が見つかるだろう」と。
その提案に乗り、アーデンベイルへと辿り着いたローアンを、騎士たちが出迎えたのでした。
まるで操り人形のように、霧によって操られるかつての仲間たち。
そう、それこそが現在のエルドレインを蝕む問題。
「忌まわしき眠り」と呼ばれたそれは、ファイレクシア撃退のために何者かによってもたらされ、それはエルドレインの人々をその意思に関係なく目覚めぬ眠りへ誘っていたのです。
名前も知り尽くした仲間を稲妻を振りかざしながら、しかしローアンは制御しがたい興奮を味わっていたのでした。
自制を失ってはいけない。その意識とは裏腹に容易に引き出される力。
気づけば故郷の城は焼け焦げ、しかしなおも城の騎士たちは踊るようにローアンへと迫っていったのです。
何十人もの騎士たちに迫られ、やがて剣は奪われ、群衆が彼女を導いていく。
何とか脱出する方法を見つけねばならない。
ローアンは揺らめく眠りのヴェールに片手を伸ばし――
――そして青白い掌が自らのそれに重ねられた。
「熱烈なる女王の宮廷へようこそ、ローアン・ケンリス殿」
不意に、無言の踊りが停止した。そして一斉に騎士たちは膝をついた。
(中略)
その人物が軽く頭を下げると、その口元に残忍な笑みが浮かんだ。
「お待ちしておりましたよ」
(中略)
「あなたはアショクね。聞いたことがあるわ」
アショクは笑い、尖った歯を見せるだけだった。
アショクは言います。
今自分は、「ローアンがここに来た目的の人物」の相談役であり、その人物こそが世界に呪いをかけた者であると。
そんな言葉とともに、ヴェールの先へと導くアショク。
眼前の玉座にて、その女性は片手にグラスを、片手にガラスの林檎を持ち座していたのでした。
「ローアン・ケンリス。ようやく会えて嬉しいしとても光栄よ。母親によく似てるって言われたことはあるかしら?」
ローアンから剣を突きつけられても動じる素振りを見せないその女性は、まるで見透かしたように話し始めます。
ローアンの内に眠る炎は素晴らしい。それを片割れすらも恐れているのではないかと。
そして彼女は告白しました。
忌まわしき眠りは、ローアンたちと同じく皆を守るために魔女たちがかけたものであったと。
侵略者から人々に広まったのは不幸であったが、その中にも美しいものがある。
そう言った彼女がアショクに命じると、ローアンはまるで現実にも似た夢を見たのでした。
亡き父と母が、眼前にいる夢を。
その体温すらも感じられる夢を。
すすり泣きながら、その夢より戻るローアン。
「お父様が仰っていたわ、私の血がここで見つかるだろうって」
ローアンの声が震えだした。
「あなた、私は母親に似てるって言ったわよね。それって、リンデンお母様のことじゃないわよね」
その女性の微笑みは奇妙にも懐かしかった。その理由にローアンは思い当たった――全く同じように微笑むから。
「ええ、そうよ」
それは、自分たち双子が灯に目覚める直前に、リンデンから聞いた真実。
自分は彼女の娘ではなく、ケンリス王と魔女の間の子どもであったこと。
そしてローアンはここで、自分たちの母たる魔女が、目の前にいる女性の姉妹であったことを知ったのでした。
林檎の魔女は誘います。
逃避を求める者に幸せな眠りを与える。
そして力を持つ我々が、王国の平和を守り導くのだと。
女性は立ち上がり、歯を見せて笑った。
(中略)
彼女もまた、両腕を広げた。
「私はエリエット。おかえりなさい、ローアン」
ローアンはエリエットの肩に頭を預け、この数か月で初めて力を抜いた。彼女は訝しんだ――
こんなふうに自分を理解してもらったのは、いつ以来だろう?
今回はここまで
Oh…
ローアンがどう見ても敵っぽいやつの元に堕ちてしまいました。
前回「エルドレインの王権」のストーリー最終盤にて、双子はリンデンの子ではなく、魔女の子であったことを知ります。
そしてそのショックをきっかけに灯に覚醒した二人は、プレインズウォークし王国を離れたのでした。
なんと最新作にてその伏線回収!
そして今回、魔女の血を目覚めさせた(?)ローアンは、自身で歯止めのきかないほどの力を発揮します。
ストリクスヘイヴンでも少しその片鱗は見られたため、そちらも伏線だった…!?と驚きますね。
さてはて、王国期待の英雄が悪落ちする中。
次回はこのストーリーのもう一人の主人公の物語をご紹介!
ウィル・ケンリス?いいえ、とある小さな村の少年のお話…。
お楽しみに!
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