【霊気紛争】第2回 キランの真意号【ストーリー】
はじめに
前回、カラデシュの領事府の蛮行へ抵抗するため、発明家たちの救出、霊気拠点の奪還、領事府軍の攪乱の役割に分かれたプレインズウォーカーと発明家たち。
そして、幽閉されていたラシュミはサヒーリによって救出され、霊気拠点はピア・ナラーの指揮のもと奪還されたのでした。
差し迫る反抗勢力の手に、テゼレットやドビンも反撃を構えます。
領事府の作戦
領事府の一室で、ドビン・バーンは分析していたのでした。
弱点の分析、それが彼の最も得意とすることです。
そして、その力が今まさに必要とされていたのでした。
大領事は普段通りの声色で言った。
「君は欠陥を見つけるためにここにいる。仕事をしろ。突破口を見つけて実現させろ」
バーンはゆっくりと息を吸い込んだ。計画を考え付いてから十分間が経過していたが、まだ誰にも伝えられずにいた。
「宜しいですか?」
戦略盤を示すと、大領事は簡素な頷きで返した。
ドビンは大領事たるテゼレットへ、説明をします。
今回の異分子である客人ーゲートウォッチたちの弱点は大きく二つ。
一つは、統率者のいない組織であること。
もう一つは、カラデシュを故郷とするチャンドラが、直情的であり挑発に乗りやすいということ。
ギデオンが引く防衛線は、背後から攻めれば良い。
チャンドラは、然るべき人が誘い出せば良い。
その作戦を聞いたテゼレットは、部屋へバラルを呼び出します。
彼は二人の前で立ち止まり、おざなりの敬礼をした。
「バラルです。ご命令でしょうか」 そして一瞬の後、付け加えた。「閣下」
「ナラーとやり合ったことがあるそうだな」
ゆっくりと、不愉快な笑みがバラルの顔に広がり、火傷の頬が険しい不毛の山峡と化した。
「以前に」
(中略)
「ナラーを怒らせろ。奴等を霊気拠点から誘い出せ。奴等、そして仲間どもをなるべく多く、追跡できるように」
バラルは傷つき欠けた鼻で喜ばしく笑った。
「容易いことです。その後は?」
テゼレットは軽蔑的に手を振った。
「好きにするがいい」
キランの真意号
改革派の倉庫の中、ラシュミは一台の飛空船を眺めていました。
テゼレットの破滅号。
改革派の次なる作戦は、霊気拠点の霊気を利用し、この船を動かし、そして領事府霊気塔のテゼレットを打ち倒し、次元橋を破壊すること。
やがて、ピア・ナラーが拠点奪還の知らせとともに帰還します。
彼女は、発明品を奪われた発明家を鼓舞し、打倒テゼレットへ向けて檄を飛ばしていたのでした。
ラシュミはこの船、テゼレットの破滅号へ願いを託し、立ち去ろうとしたのです。
だがすぐに足を止めた。ハッチの上の何かが目にとまった。彼女は立ち止まり、近寄り、目を細めて見た。汚れの層を拭われたことで、金属の彫り込みが見えていた。
二つの文字が、芸術的な手腕で刻まれていた。「K.N.」と。
ラシュミの息が止まった。キラン・ナラー。そうに違いなかった。ピアのかつての夫、そして遠い昔にこの船を設計した発明家。
(中略)
この金属を最初に形作ったキランの手が、この設計を考えたキランの精神が、そして今やキランの真髄が、創造物に流れていた。
ラシュミはその心に浸った。
飛行への愛。都市の空高く舞い上がる。誰も止めることはできない。創造への、かつて誰も作ったことのない何かを作り出すことへの情熱。限界に迫り、危険をものともしない熱意。そしてもっと大きなもの、ラシュミが予想していなかったもの。創造の自由を守るという熱い想い。革新を抑えつけようとする者へと立ち上がる、彼がとても大切にしている発明の魂を守るために。
やがて助手のミタルが、ラシュミを呼びに来ます。
味方を鼓舞するピア・ナラーのいる壇上へと上がったラシュミ。
ピアが自分の横に彼女を迎えると、その功績をたたえるように話し始めます。
ラシュミはテゼレットに捕らえられ、そして脱出したのだと。
彼女にこそ、テゼレットを打ち倒す権利があると。
沸き立つ群衆の声の中、ピアに促されたラシュミは、前へと進み出ます。
静まり返った空間の中、彼女は一つの投げかけを行いました。
この船には、新しい名前が必要だと。
テゼレットの破滅はもちろん彼女の望みだが、最終的に目指すのは守ることだと。
都市と、そして何より、発明家の魂を。
散り散りに同意の叫びが、ラシュミの言葉を繰り返した。
「心の奥深くでは、私達は誰もが自らの本質を心得ています。ですが思い出すために、この船を設計した人物の事を考えましょう。偉大なる発明家キラン・ナラーを」
部屋のあらゆる目が一斉に、ラシュミの隣に立つ女性に向けられた。ラシュミはピアが隣で背筋を正すのを感じた。
「キランさん程に発明の精神を体現していた者はいません。あの方は創造のために生きました。(中略)船はあの方の魂を運ぶでしょう、発明の魂を世界の隅々にまで。そのために私はこの飛空船、キランの真意号を完成させました」
ラシュミは霊気瓶を頭上高くに掲げた。
「私達が、私達であることを忘れないために」
そして船首でその瓶を割ると、神秘的な青い物質が黄金色の金属にきらめいた。
歓声が爆発した。ラシュミの両目は涙に滲んでいた。ピアが彼女の肩を抱きしめた。
「ありがとう。本当にありがとう」
彼女はラシュミの手をとり、弾ける歓声へ向けて挙げた。
「発明の魂に!」
翻弄されるチャンドラ
ヤヘンニ邸の屋上で、ギデオンと、ニッサと語らっていたチャンドラの耳に突然届いたのは、自分を呼び出す声。
それは、かつて自分を死刑台送りにした男の声。
「「疑問なのだがね、あの話をご友人らには話したのかな? 君がどうやってお父さんを殺したのかを。君がどうやってお母さんを、五年も牢に閉じ込めたのかを」」
何もかもが白く消えた。両目から火花が散った。気にしない。
「「私はお母さんと毎日話したのだよ。ああ、そうだった。君の行いを言い聞かせてな。毎日。そのことはお母さんから聞いたか?」」
お母さん?
「「お母さんはどれほど恥ずかしかっただろうか」」
やめて!
「「時々泣いていたな。君の炎がお父さんを飲み込んだ様子を話した時などは。叫びながら、皮膚が焦げて音を立てながら。君という子が生まれたことを呪いながら」」
「嘘吐き野郎!」
かすれた金切り声が出た。十一歳の子供の声が。
これは陽動だ。
気づいたギデオンは、階下のものに警告を促しますが、振り返るその間に、チャンドラは外へととびだしていたのでした。
同時に耳に届いたのは、戦線に機械巨人が迫ってきているというしらせ。
ギデオンの中に渦巻く、チャンドラを守りたいという気持ちと、基地を守らなくてはいけないという感情。
『いつか来るだろう』 ヒクサスの声が遠い過去から響いた。
『君が守りたいものと、守らねばならないものとの板挟みになる時が』
ギデオンは目を開け、ニッサの果てしないそれを見つめ、口から息を吐いて、灰のような味のする言葉を絞り出した。
「彼女を守ってくれ」
ニッサは頷き、去った。
彼は階段を駆け上り、束の間の鼓動を思い返さないよう努めた。小さな、猛烈な、大切な太陽を胸に抱えた時の。
今回はここまで
ついに来たぞ!
キランの真意号の命名の瞬間が!
その名もHeart of Kiran。
悪の破滅は目的ではない。
真の目的は自分たちの誇りを守ることであり、敵の打倒はその手段に過ぎない。
自分たちの目を曇らせないためにも、船の名前を発明家の精神にのっとって変更する。
よくできたお話ですよねぇ…。
というわけで。
次回はチャンドラvs宿敵バラル!
お楽しみに!
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