「チャンドラの誓い」の背景ストーリー
はじめに
さて、過去3回に渡ってお届けしているのはこのコーナー。
「MTG初心者にこそ知ってほしい、ゲートウォッチの誓い」シリーズ
今回は第四弾!
最後に誓いを立てた、チャンドラの誓いをご紹介します。
若き紅蓮術師、チャンドラ
チャンドラの物語は、ゼンディカーという場所でエルドラージたちと戦い、ウラモグを捕らえる作戦に参加したギデオン・ニッサ・ジェイスとは全く別のルートをたどります。
彼女の物語の始まりは、レガーサという次元の学び舎「ケラル砦」から。
ケラル砦は、偉大なる紅蓮術師ヤヤ・バラードを信奉し、チャンドラも紅蓮術師としての力を磨くため、修練に励んでいます。
その日、修練の途中で、チャンドラたちはヘリオンの襲撃を受けます。
溶岩を泳ぐ巨大な化け物に、修道僧総出の詠唱で対抗するも、威力が足りません。
チャンドラは単身ヘリオンにしがみつくと、僧院の弟子たちへと、ある指示を飛ばしたのでした。
それは「自分に向けて全力で炎の魔法を放て」というもの。
火球と炎の彗星が自分へと向かってくる中、チャンドラにあったのはほんの一瞬だけだった。
彼女はタイミングを合わせ、片足で旋回しながら両手で炎の呪文を導いた。
そして一つの動きで何本もの炎の糸を一つの、針のように鋭く眩しいほどに熱い炎の波へと織り上げた。
彼女はそれを身体の周囲に巻きつけ、皮膚を焼くほどの熱が通過するのを感じながら、その炎をまっすぐにヘリオンの頭部へと向かわせた。
緊急事態の収束を見た修道士長セレノックは、微笑みながら、チャンドラの偉業をたたえるのでした。
今のチャンドラは、かのヤヤ・バラードにしかできないと思ったことをやってのけたと。
チャンドラはいつでも大丈夫と。
その夜、疲労のままに眠るチャンドラを、修道院長のルチが起こしに来ます。
そして、不機嫌なチャンドラが聞いたのは、予想だにしなかった知らせでした。
「チャンドラ」 ルチは繰り返した。「起きなさい。もう昼ですよ」
「そんなわけないでしょ」 チャンドラは身動きせずに呟いた。
「目を瞑ってても、今は寝てる時間だってわかるわよ」
「セレノックです」
チャンドラはようやく身を起こした。
「聞いてよ」 彼女は言った、頭から眠気を追い出そうと溜息をつきながら。
「もし詠唱の練習について言いたい事があるなら、明日の方がいいって伝えて――」
「チャンドラ、セレノックが亡くなりました」
2人の来訪者
セノレックの死に傷心するチャンドラに、ルチは一つの決断を迫ります。
それは、亡きセノレックの後釜たる、修道院長になるということ。
セノレック自身が、チャンドラを最も才能ある紅蓮術師と認めていたこと。
チャンドラならば、修道院のヤヤとなり、僧たちを導くことができること。
そして、修道院長の外衣が提示されれば、受け取るのがルールであること。
ルチは静かにチャンドラを説得します。
対して、自分はその器でないと否定するチャンドラ。
しかしルチと僧たちは、期待を込めて修道士長の外衣を手渡します。
この心の傷を埋めるためには、自分がこの立場になるしかないのか。
そんなことを思った時だったのでした。
ケラル砦には似つかわぬ二人が、扉を叩いて入ってきたのは。
チャンドラは混乱した。「ちょ――え、どういうこと?」
「会えて嬉しい、チャンドラ」 ギデオン・ジュラが言った。
「君の助けが必要なんだ」
「ゼンディカーの件だ」 ジェイス・ベレレンの声が頭の中に届いた。
チャンドラはプレインズウォーカー二人を外へと連れ出し、砦の石段を降りてケラル山へと続く坂道までやって来た。
過去に別々に関わった、二人のプレインズウォーカー。
ケラル砦の人々との絆を感じていたまさにその時に、異なる世界、人生の異なる時を思い出させる二人がここに姿を現した。
その彼らが目の前に並ぶ様を、彼女は頭の中で整理しようとした。
ちょうどルチが自分を説得したのと同じように、二人はチャンドラを説得するのでした。
ゼンディカーが助けを求めていること。
我々には紅蓮術師が必要なこと。
そして、チャンドラにはエルドラージ復活の責任の一端があること。
チャンドラは二つの使命に板挟みになります。
ヤヤならば、きっとこの二人を助けるのだろう。
新たな冒険へと飛び込むことに躊躇しない彼女ならば。
そして、鮮やかな魔法で目の前のすべてを焼き払うのであろう。
そんな思考が頭をよぎる中、チャンドラは自分の答えを二人に突きつけるのでした。
「行って」 彼女は言った。
ギデオンはジェイスを見て、そして再びチャンドラを見た。ギデオンは彼女へと一歩近づき、手を伸ばしてその腕に触れようとした。だがチャンドラは彼を睨みつけると、炎の環が彼女の周囲に燃え上がってチャンドラ個人を炎の壁で囲んだ。
「ここが、私が一番必要とされてる所」 チャンドラは言って腕を組んだ。
「私はここにいる。そう約束したの」
不承不承ながら、次元を去る二人。
そんな二人を、チャンドラは新しい冒険に対する未練を感じながら見ていたのでした。
レガーサのチャンドラ
チャンドラはその夜、ぼんやりと天井を見上げていました。
翌日には、ケラル山での演説が待っています。
散乱する羊皮紙を眺めながら、チャンドラは二つの思いに揺れていたのでした。
約束を守るってこういうこと、彼女は自身に言い聞かせた。もう子供じゃない、あんたには――彼女は扉の枠に片手をつけて身体の安定を保ち、次の言葉を絞り出した――責任があるんだから。
チャンドラは唇を噛み、入口に立ったまま、廊下を今一度前後に確認した。そして部屋の扉を固く閉ざした。
彼女は白紙の演説を、そしてほとんど減っていないインクの瓶を見下ろした。
そして両足をしっかりと踏みしめ、腰に修道士長の外套を巻きつけ、反対側の壁をまっすぐに睨み付けた。
ほんのちょっと、見るだけ。
彼女は自身の意思で周囲の世界を押しのけ、それを変えさせた。ゼンディカーへと。
チャンドラが目にしたのは、ウラモグ捕縛作戦に参加するプレインズウォーカーたち。
その中にはもちろん、自分をこの場所へと誘ったギデオンの姿が。
チャンドラが心に去来した感情に、気づかぬうちに拳を握っているのでした。
私の友達が皆、やってる。ここに来て、力を貸してる。この世界を救ってる。
(中略)
これでいいの。このために来たの。みんなが大丈夫だって確かめるために。
それがわかればいい――私は必要ないってわかればいい。
周囲のエルドラージに気づかれ始めたチャンドラは、居場所を彼らに知られる前に、静かにレガーサへとプレインズウォークするのでした。
しかし移動のその瞬間。
チャンドラの目に映ったのは、巨大なるウラモグの姿でした。
自分が解放に加担してしまったもの。
そして、同胞たちが命を賭して対峙しようとしているもの。
すぐにレガーサへと移動するチャンドラ。
彼女はルチにせかされ、修道院たちの演説の場へと移動します。
目の裏に、先ほど見たウラモグの残像を感じながら…。
友のもとへ
ケラル砦の大広間。
多くの僧たちが、修道院長の言葉を心待ちにしていました。
チャンドラは、彼らの期待に答えねばなりません。
修道士長として。
しかし、そう思えば思うほど、上手く言葉は紡げないのでした。
口をついて出る、本心ではない虚ろな言葉。
これではない。
自分の実感のない言葉をいくつ連ねても、それは僧たちに響かない。
チャンドラは息を吸い込むと、話しかけ始めたのです。
「私は小さい頃にここに来た、混乱したままで。この力で何をするのか、全然わかってなかった」
チャンドラが手を掲げると、そこに炎の花が咲いた。彼女は手を振るって炎を消した。
「この場所の皆が――セレノック修道士長が、ルチ修道院長が、あなたたち皆が――私に見せてくれた。私を制御しようとはしなかった。私を変えようとはしなかった。私が私自身であることを、どうやって表現するかを教えてくれた」
(中略)
「あなたたちそれぞれが、世界に捧げられるただ一つの才能を持ってる。他の誰かにできない手助けができる。自分を信じて。あなたの才能を信じて。そうすればあなたのその才能を表現できる。私や他の誰かの言葉に全部の信頼を預けないで」
(中略)
「今すぐ助けられる危機が、あなたなしには解決できない問題がある。行きなさい。言って、見つけなさい」
彼女は頭を下げ、セレノックの外套を敬礼のように掲げた。
「ありがとう」
それはまるで自分に言いきかせるかのような言葉。
多くの僧は、修道士長らしからぬ言葉に失望を口の端ににじませ、しかし数人の僧は歓声を上げていたのでした。
チャンドラは、大広間の外に待っていたルチ修道院長に、ゼンディカーへ行くことを告げます。
自分は修道士長として、ここに残る義務があるのだろう。
しかし、目の前に自分が救える危機があるのだと。
しかしルチ修道院長は、そんなチャンドラを許しません。
これは修道士長の責任。
ここにとどまるべきだと。
チャンドラに主張に、頑として譲らないルチ。
そして、そのやり取りの中で、チャンドラの心の叫びが発露したのです。
今苦しんでいる人たちのために、自分が、自分こそが行かなくてはいけないのだと。
「では、確かなのですね」 彼女は柔らかな声色で言った。
「よくやりました、チャンドラ」
チャンドラは息をのんだ。「え……」
「あなたの心の真実を知ったのですね」
「これを――これを聞かないと駄目だったの?」
「あなたが、それを知らなければなりませんでした」
チャンドラの肩から力が抜けた。彼女は目の端に自然と浮かんだ水滴を拭った。
「ありがとう……ございます」
(中略)
「行きなさい、チャンドラ・ナラー」 ルチは彼女の髪へと囁いた。
「行って、世界を救いなさい」
ルチ修道院長が彼女に教えたのは、未練や揺らぐ気持ちがあってはいけないということ。
その気持ちを確かに受け取ったチャンドラは、生徒たちの多くの声援に送られ、ゼンディカーへとプレインズウォークしたのでした。
チャンドラの誓い
ゼンディカーに着いてすぐ、チャンドラが目にしたのは、あまりにも怒涛の展開でした。
ウラモグ捕縛に歓声の上がる軍勢。
宙に舞い不敵に笑う悪魔。
崩れ去る面晶体の連結。
解き放たれたウラモグ。
そして、地の果てから現れたもう一体の巨人、コジレック。
彼女は歯を食いしばった。ゼンディカーに来たものの、完全に遅すぎた。
その後、タズリ将軍にギデオンたちの顛末を聞いたチャンドラは、彼らが連れ去られたという洞窟に急ぐのでした。
チャンドラを迎えたのは、この次元を混乱に陥れた悪魔、オブ・ニクシリス。
再覚醒した悪魔は、怒りに燃えるニッサをねじ伏せ。
分身するジェイスをなぎ倒し。
エルドラージと渡り合ったギデオンも封じ込めます。
チャンドラも例外ではなく、自身が全力で放った炎を通り、歩いて向かってくる悪魔に死の淵まで追いやられます。
が、かろうじて意識のあったジェイスに、まず仲間の解放を呼びかけられたのでした。
ニッサの大地の魔術と、ギデオンのスーラが、ニクシリスの回避を余儀なくさせる中。
ジェイスの魔法がその精神を貫いた時。
チャンドラの炎の竜巻が、悪魔を壁に叩きつけ、撃退したのでした。
チャンドラは三人とともに立っていた。ジェイスの髪は少年のように乱れ、普段の彼の神秘的な雰囲気は無かった。ギデオンは痛めつけられたようで、だが彼は歯を見せ、頬の髭を歪ませて笑った。
「来てくれると思っていた」
「断ったのに?」 チャンドラは眉をひそめながら言った。
「それでも思っていた」
「私は、ニッサ」 そのエルフが言った。
「チャンドラよ」 彼女も、掌を差し出して言った。
ニッサはそれを両手で包み込んだ。彼女の指は柔らかく、緑色に染まった瞳は苔むした井戸のように深かった。
「ありがとう」
しかし、ゼンディカーの本当の巨悪はニクシリスではありません。
荒廃した風景。
跋扈する二体の巨人。
ギデオンは、この巨悪から逃げないこと、そして4人の力を合わせ、他の次元も救わんとすることを誓います。
続いて誓いを立てるニッサとジェイス。
そしてギデオンにとって、一番予測がつかないのが、この後のチャンドラの行動でした。
その心情を汲み取ってか、チャンドラはゆっくりと口を開いたのです。
「あんた達が何を考えてるかはわかってるわよ」 彼女は言った。
「私が今まで何かをここまで真面目に受け取ったことはないだろうって。そうかもしれないけど」
彼女はニッサへと顔を向け、その凝視を受け止めた。
「でも、これは確か。私も、自分達が力を合わせて何ができるかを見てきた。それにギデオンの言う通り――私達の誰も、一人だけでエルドラージとやり合うなんてできない。あいつらを倒すには、私達四人全員が力を、魔法を合わせないといけない」
彼女はゆっくりと息を吸い、ひと息で吐き出した。
「どんな世界にも暴君がいて、欲望を追い求めている、何も気にすることなく人々を踏みつけながら。それはエルドラージと何ら変わらない。だから私も言うわ、絶対そんな事はさせない。それで誰もが自由に生きられるのなら、そうね、ゲートウォッチになるわ。一緒にね」
今回はここまで
随所にチャンドラらしさが出てる素晴らしいストーリーですね!
ここまでが、4人のプレインズウォーカーたちのゲートウォッチの誓いのエピソードです。
一人一人に背景があり、それが一つの目的にむかって結集し、そしてそれぞれの思いで誓いを立てる。
最高にカッコよくないすか!?!?
ちなみに、レガーサにおけるストーリーで何度も出てくる「ルチ修道院長」。
“ドミナリア"の物語で明かされる、その衝撃の正体とは…!?
次回は、結集したゲートウォッチたちによる、戦乱のゼンディカー完結編です!
ゲートウォッチの誓いのエピソードにおける、結びの言葉も最高なので、今回はその言葉を引用して〆にします。
この数か月をかけた努力は全てここに収束した、ギデオンはそう実感した。ジェイスが言った通りに、この四人のプレインズウォーカーに選択をさせる――留まるという選択を。逃げるのではなく戦うという選択を。選択――それは献身であり、約束。ゲートウォッチの誓い。
それが、成し遂げた全てだったとしても、今はそれで十分だった。
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