【カルドハイム】第3回 自覚無き英雄、タイヴァー【ストーリー】
はじめに
カルドハイムを訪れたケイヤ。
彼女はその次元で、未知の怪物と遭遇すると、逃げおおせたその怪物を追うべく、神の一柱であるアールンドの力を借りることとなったのでした。
今回は、その続きのエピソードから。
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嘘の神を騙る者
アールンドによって手配された、コシマの長艇。
彼が「この女性が行くべき所へ連れて行け」と告げた船に乗り込むと、ケイヤは長艇の導かれるまま、星空の中を進んだのでした。
やがて、船が着いたのは老木や苔の目立つ領界。
彼女が森の中を進み、開けた場所へとたどり着くと、ケイヤは大きな影を見つけます。
見えたのはトロール。
そして…フードを被った人物。
「友よ」 低く朗々とした声だった。
「我が多くの名を知っていよう。ある者はトリックスターと、またある者は嘘つきと呼ぶ。悪戯の王子と、嘘の神と呼ぶ者もいる。だが誰もが知る我が名はヴァルキー。そして君たちへの最初の贈り物は、言葉の贈り物は、無償だ。我が言葉を聞き、理解せよ。今から告げる内容は極めて重要である」
神? こんな所に? 少なくともただの老人のふりはしていない。けれど……ケイヤはその男に何か奇妙なものを感じた。
はっきりとは言い表せない何かを。
ヴァルキーと名乗るフードの人物は、自身に満ちたような声で続けます。
まもなく、異界への路が開かれると。
その時が来れば、邪悪なる生物がこの地を焼き払うと。
その前に、先手を打つ必要があるのだと。
トロールたちの怒声が上がる中、ケイヤはフードの人物にある光を見ます。
実体の無いものを狩ってきた彼女にはわかる、幻影の匂い。
ケイヤが呪文を風に乗せて放つと、フードの人物は見る見るうちにその姿を変えたのでした。
嘘の神が立っていた場所には、頭から二本の角が突き出た赤い肌の男が、心から驚いたという表情を浮かべていた。
「どいつの仕業だ――出て来やがれ!」
その男は憤って叫んだ。
やめとけばよかった。とは言うものの、これまで自分の思いつきが上手くいったことがあっただろうか? ケイヤは木の背後から姿を現した。
「その下手な幻影を使えば逃げられると思ったんでしょ? 頭の悪いトロールに違いなんてわからないわよ。運が悪かったわね、ティボルト」
ティボルトの口の端が笑みに歪んだ。その表情から、怒りが弱まったようには見えなかった。
「目ざとい奴だ。ところで前に会ってたか?」
「まさか。けど――噂を色々とね。評判通りだからすぐにわかったわ」
このデビルのプレインズウォーカーについての話は沢山聞いており、そのどれも良いものではなかった。
「そいつはどうも。お会いできて光栄だ、けどどちら様で?」
「ケイヤよ」
「ふん、聞き覚えがあるな。オレの記憶が正しければ、こそ泥だ。殺し屋か」
「あなたにそう言われるのは極めて心外だけど。ここで何をしてるの?」
ティボルトは肩をすくめた。
「同じことを聞きたいね。オレたちプレインズウォーカーってのはそもそもお節介屋だろう? けどたぶん見ての通り、オレは忙しい所のまっただ中をあんたに無礼にも邪魔された。だから失礼して――この女を殺せ!」
トロールの目覚め
ティボルトはその場にいたハギのトロール差し向け、さらにはより巨大なトルガのトロールをも目覚めさせます。
目覚めとともに、見境なく攻撃と行うと言われている巨人。
それはティボルトをも巻き込むと警告するケイヤをよそに、彼は自身の持つ剣を振りぬくと、その背後には奇妙な裂け目が発生したのでした。
その先に見える、火山地帯のような景色を背後に、ティボルトは笑います。
「お守りみたいなものさ。健闘を祈る、けどああ、オレは嘘つきだったな?」
その言葉とともに、彼はポータルへと足を踏み入れた。すると裂け目が閉じて消えた――ケイヤとトロールたちを残して。
すぐさま怒り狂うトロールの拳がケイヤを襲います。
戦うしかないと悟ったケイヤは巨体の背中にダガーを突き刺しますが、その硬い皮膚は故郷から愛用し続けていた得物を破壊するに至ったのでした。
もう一体を倒すために、残り1本のダガーを突き立て、一対六。
躱すことのできない一撃がケイヤを襲い、一方のトロールは大いなる治癒能力で再生しゆく中…
「手を貸そうか?」 左の方角から声がした。
この場所の古い、よじれた木の一本に寄りかかっていたのは、赤毛を長く編んだ男性だった。尖ったその耳からエルフだとわかったが、これまでに出会った同類よりも分厚い筋肉が身体を包んでいた。
彼がそれを自慢しているのは明白だった――この寒さの中、シャツの一枚すら身に着けていないのだから。
自信家、タイヴァー・ケル
「いつからそこにいたの?」
「貴女が上手くやっていないとわかる程には。非難しているのではないよ! トルガのトロールは一体でも手強い、ましては六体もいるとあっては。私が通りがかったのは幸運だったな」
ケイヤはうんざりした。トロールたちは今もケイヤを叩き潰そうと全身で示しながら向かってきていたが、一旦、彼女はその男へと顔を向けた。
「ねえ、聞きなさい。怪我をするまえにここから逃げて。私は自分でなんとかするから」
「そうかな? 見たところ、貴女は武器を二本とも失っている。一方私には隠し武器があるのだが」
「隠し武器って、手首のそれ?」
「そうではないよ。これだ」
筋肉質なエルフが取り出したのは、平らな石。
無謀なる若者を心配するケイヤをよそに、そのエルフはトロールへと突撃すると、素早い動きで巨体を翻弄します。
やがて彼の腕は石と同じような色となり、その手がトロールの足へと触れた瞬間…。
そのトロールの皮膚は、みるみるうちに同じような石となり、その場に凍り付かせたのでした。
全てが終わるまで、一分弱。
自ら作りあげた六体の彫像の真ん中で、そのエルフは自信に満ち溢れた姿で腰に手を当てていたのです。
自惚れがありありと見え、ケイヤは感心したことを認めたくなかった。
「悪くなかったじゃない、坊や」
表情を苦くし、彼はケイヤを見た。
「そのように呼ぶのはやめてくれないか?」
「なら何て呼べばいい?」
「タイヴァー・ケル。スケムファーのエルフの王弟であり、あらゆる領域に名を轟かす英雄だ。そして貴女の命の恩人でもある」
タイヴァーと名乗ったその男は、ヴァルキーを追っていたと話します。
兄であるエルフの王ヘラルドは、その神にそそのかされて、神々への戦争を起こそうとしていると。
そして、同じ者を追っていたというケイヤに、自分と共闘するよう持ちかけたのでした。
無謀なる若者を前に半ば飽きれながら、ケイヤはその神を騙る者が剣で次元を裂いて逃亡したと伝えます。
領界を渡るには、自分がここに来たような魔法の船がなければどうにもならない…
…と、言い終わるまでもなく、目を閉じたタイヴァーは、かつてアールンドが出したような次元渡りの扉を召喚していたのでした。
彼は歯を見せて笑った。
「私はカルドハイムのあらゆる領界を巡ってきた。私の天賦の才はそれぞれ少々異なった形で現れるのだが」
ケイヤは一歩近づき、何かが目にとまった。タイヴァーの首飾りに並ぶ魔除け、骨と宝石とよじれた金属片の中に、黒ずんで小さい八面体の石があった。その側面を覆うのは細かく、精密な彫刻――見覚えのある形。けれど、ここにあるはずがない。
「ああ」
タイヴァーは彼女の視線に気づき、その小さな石を光に掲げた。
「自由に見てくれていい。英雄譚にも語られていない、とある辺境の領界で見つけたものだ。確かその名は――」
「ゼンディカー」
タイヴァーの言葉をケイヤは遮った。
「びっくりした。あなたプレインズウォーカーなのね」
彼の笑みと自信が揺らいだ。
「その、プレインズウォーカー、とは何だ?」
今回はここまで
タイヴァーのキャラ、いいですよねぇ…!
何をやるにも、どんな言い回しも自信満々で、筋肉を見せつけたいがために上裸。
それでいて、最後のシーンで自信が揺らいじゃう感じが隙があって非常に良き!
暗殺者として常に冷静なケイヤとの組み合わせもgoodですね!
前に紹介したイクサランで言うジェイス×ヴラスカや、ファートリ×アングラスみたいな感じで、ウィザーズは良いコンビを作るのが上手ですよねぇ…。
さて、そんなタイヴァーさんは、この後も正義の体現者のような活躍を見せます!
次回からもお楽しみに!
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*出典*
MAGIC STORY メインストーリー第2話:目覚めるトロール
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