【アモンケット】第5回 サムトの過去【ストーリー】

2022年3月2日

はじめに

前回のストーリーで、野望の試練を受け、アモンケットの異常なる試練の実態を知ったギデオン。

協力していた一門からは造反者と呼ばれ、神は彼を試練から追放します。

そして、その一門にはもう一人、造反者として破門された女性がいたのでした。

今回は、その女性ーサムトの過去話。

 



目次

サムトの仲間

ゲートウォッチがアモンケットを訪れる数年前。

サムトには、いつも一緒に時をすごしている仲間が二人いました。

一人は、デジェルという人間の男性。

もう一人はナクトというエイヴンの男性。

彼らは、12歳を迎えた収穫の日、同じ生まれのものとして「一門」を結成し、アモンケットの一部となろうとしていたのでした。

希望に燃える3人の中、ナクトだけは一抹の不安を抱いていたのです。

もし疑ったら。もし信仰を迷ったらどうすればいいのかと。

※ナクトのイメージ

「ナクトは造反者じゃないよ」 サムトの声は低く静かだった。

「私達、誰だって怖いし迷う。私だって疑問に思ったこともある」

サムトは少し離れた砂丘を指さした。

「でも、あのヘクマだって無敵じゃないでしょ。たまに、怪物が入り込んだって話を聞くもの」

ナクトは頷き、自分達をその先の荒野から守ってくれる障壁の揺らめきを目でたどった。

(中略)

サムトはゆっくりと深呼吸をした。

「でも、神様は本物だってわかってる。ああいう怖いものから私達を守ってくれる。そして栄光へ導いてくれる、ヘケト侍臣が言うみたいに。つまり、先生が説教の間に言うみたいに、『信念を抱くことは問うこと、疑念の一面を見つめて新たな真実を見出すこと』って」

 

そして、ター一門の門弟として初めての訓練を迎えようとした前夜。

彼らは興奮で、眠れない夜を過ごしていたのでした。

終わりのない夜咄の中、ナクトは自分の秘密を打ち明けます。

二人には秘密で、彼は水の魔術を使えるようになっていたことを。

デジェルは微笑んだ。

「一門に魔道士がいるといいって言うからな。ナクトの術で私達全員がもっと強くなるよ」

「一緒にいられて本当に良かった。私達三人を誰も止められやしないわ!」

サムトはナクトの頭を抱え込み、羽毛をかき乱した。

(中略)

三人は陽気な水のかけ合いを始めた、夜の静寂の中に笑い声をこらえながら。

やがて飽きると三人は噴水の端に座り、息を整えた。突然、サムトが立ち上がって少年二人へと向き直った。

「私もね、秘密にしてたことがあるの」




過去への手がかり

サムトの案内で、夜の街に繰り出した三人は、古い街の区画。

彼女が指さしたのは、崩れかけた古い壁に描かれた巨大な壁画。

それらは、自分たちの見たことのない書き方、見た目、様式をしたものでした。

「ここ、ハゾレト様の古い神殿なんじゃないかって思うの」

(中略)

「もしそうなら、どうして放置されているんだ? この絵も記号もこんなに変な感じなんだ? もしかしたら……もしかしたら、ここにいたらいけないのかもしれない」

「いつもそう、つまらないこと言うんだから」

サムトはデジェルの腕を殴りつけた。

「私はただ、もっと気をつけた方がいいって思うだけだ」

早くも痣になりかけた箇所をこすり、彼は反論した。

 

好奇心に溢れるサムト。

規律を乱すことに慎重なデジェル。

神々とその過去に疑問を呈するナクト。

三者三様の反応の中、サムトはデジェルに言います。

ナクトと自分は秘密を話した。

次はあなたの番だ、と。

デジェルは当惑して見つめた。「秘密なんてないよ」

「嘘。流石のあんたもそんなつまんない人じゃないでしょ」

デジェルはしばし考え、そして晴れやかに顔を上げた。

「いいよ。厳密には秘密ってわけじゃないけど、ええと、まだ言う機会がなかっただけで」

「訳ありは止めて教えなさいよ!」

サムトはデジェルの胸を突いた。デジェルは微笑んで静かに歩き出し、広場から出た。サムトはそのすぐ後に続いた。

「つまり……今夜はずっと寝ないってことだよね」

その後ろから、ナクトは二人へ向けて言った。

 

デジェルが案内したのは、都市と外界を隔てる魔法障壁「ヘクマ」のもと。

彼は、その障壁が薄くなったところから、ヘクマを抜けられるという秘密を明かしたのでした。

ナクトは驚愕とともに、これは外の世界を見る好機だと話します。

危険すぎると警告するデジェル。

しかしサムトがナクトに同意したことで、結局3人は都市の外を探索することになるのでした。

背後に、ナクトはデジェルの溜息を聞いた。

「ヘケト侍臣に殺されるぞ」

「あいつの授業を聞かなくていいって事じゃん」

サムトが前方で叫んだ。




外の世界の秘密

3人が見つけたのは、廃墟と化した建物。

それらは、かつては訓練所や神殿だったと思われるものたちでした。

そして、不気味なうめき声が三人に存在を知らせたのは、神々よりも身長の高い化け物だったのです。

かろうじて避難したあと、デジェルは苛立ちを隠せないように話し始めます。

不気味な徘徊者

「わかっただろう。果てしない熱。砂。破壊。荒廃。狂った怪物と悪魔だ」

デジェルは指を折って数え上げた。

「砂漠の荒野は何もかも教えられた通りだった。二人とも満足したか? 戻ってもいいか?」

ナクトは返答しようとして、だがデジェルの頭の傍にある何かが目にとまった。

(中略)

粗く尖り、まるで必死の手で刻まれたように。その意匠のすぐ下には、震える筆跡で一語が刻まれていた。

侵入者。

サムトもそれを見て、不思議そうにナクトに視線を向けた。彼は震えた。

その言葉はまるで不吉な前兆のように感じた。王神の時代を越えて手を伸ばす呪いのように。

ここにいちゃ駄目だ。

 

直後、視界の端で動き出す影。

それは、種族こそ違えど、すべて死骸となっているものたち。

三人は聖堂の中に立てこもりますが、すぐにそれは長く続かないことを悟ります。

ナクトは急降下し、注意を引こうと死者の群れの間を突っ切るように飛んだ。

(中略)

群れが動くと、彼は友へと叫んだ。

「デジェル、サムト! 今だ、走れ!」

扉が勢いよく開き、数体のよろめく死骸を脇に突き飛ばした。サムトとデジェルが飛び出した。

「逃げろ!」

(中略)

拳を握りしめたまま、飛び上がりながらも集中を保ちつつ、砂の中に立つ友へと向かった。ようやく、デジェルとサムトは背を向けて街の方角へ駆け出した。

 

砂丘で振り返ったサムトが見たのは、友が萎れ朽ちてゆく姿。

聞こえたのは、魂を引きちぎるような悲鳴。

デジェルとサムトは怪物の目に留まらぬよう砂に伏せ、太陽が顔を覗かせるまで待っていたのでした。

そしてすべての音が消えてから、ようやく彼らは街へと駆けだしたのです。




造反者、サムト

それからいくらかの時がたち。

子どもだった者が若者と呼ばれるようになるまで。

サムトは、サムトだけはこの事件を機に、この世界の過去への疑念を強めていったのです。

そして、修練と同じくらいの時間を、壁画や碑文を読み解くのに費やしたのでした。

それが彼女を運命の日へと導いた。

副陽が約束通りに王神の角の間、最後の頂点へ近づく中。バントゥ神の碑の広間深く、封じられた小部屋。足を踏み入れる修練者もなく、バントゥ神ですらその存在を忘れた場所で、彼女はあの砂漠の旅以来目にしていなかった象形文字を発見した。

(中略)

侵入者。

瞬時に、砂漠の忘れられた聖堂の記憶が蘇った。壁の他の箇所を調べると、大規模で凄まじい破壊が記述されていた。冷たい実感が腹に染みた。

砂漠から隔てられた侵入者は、私達じゃない。

王神こそが大いなる侵入者。

この世界にあらず。他の何処かに生まれ、到来し、去った。そしてその足跡に私達は意味を見出そうとしている。

王神は私達を惨事から守ったんじゃない。

王神がその惨事を引き起こした。

(中略)

誰もが欺かれている。真実は見捨てられた。神々すらも欺かれた――もしくは、何かで忘れさせられた。

皆に警告しなければ。

「何もかもが嘘なのよ!試練とは欺瞞なの! 神々も、刻も、欺瞞なのよ! 自由になりなさい!」




今回はここまで

サムトが「造反者」となるまでの、過去編でした。

アモンケットの内部で、彼女は唯一ボーラスのたくらみと欺瞞に気づいた人物、となったわけですね。

そして事の顛末は、ゲートウォッチがアモンケットを訪れた物語冒頭に戻るわけですが…知っての通り、彼女のこの思いは「今」を疑わない者たちによって粛清されていきます。

ついに彼女はかつての友デジェルにも「造反者」と呼ばれるようになるのでした。

 

ワタシ最初に「造反者、サムト」という文字面を見たときは、サムトが悪役側だと思ったものですが…。

とんだ勘違い。ゴメンネサムト。

さて、ここから物語は世界の外からやってきた者たちと、世界の中で欺瞞に気づいた者が交わることで加速していきます!

次回もお楽しみに!

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*出典*

MAGIC STORY アモンケット_侵入