【アモンケット】第6回 造反者の訴え【ストーリー】
はじめに
前回のお話で、都市の外の世界を探索し、その中で仲間を一人失った幼少期のサムト。
以来、古い壁画や碑文を調べていた彼女は、やがてこの世界が王神によって捻じ曲げられたのだと悟ります。
サムトは街でこのことを大声で説きますが、衛兵たちに口をふさがれ、連行されたのでした。
今回はその続きのお話。
頼みの綱
サムトは一人反省したのでした。
街路で叫ぶだけでは、人々の心を変えることなどできない。
それは結果として自分が引きずりだされることにつながり、肩の脱臼をしてまで逃走させられることになった。
今は、まず信頼している一人を説得するべきだと。
サムトが隠れ場所へ呼びだしたのは、かつての友人のデジェルでした。
彼女は、自分の気づきを、この世界の欺瞞を説きます。
デジェルはかぶりを振った。
「君は王神様にも異議を唱えるのか」
サムトは両手を組んだ。
「でも、王神こそ世界を堕落させた張本人なの! 王神よりも前の古い文化があった、試練よりも前の。王神は世界そのものに忘れさせた。世界を作り変えて、自分の思うように神々を作り変えたのよ」
「だから私をここに呼んだのか? そんな物語を伝えるために?」
彼は憤慨に両手を振った。
「サムト、私は訓練に行く。激情の試練はもうすぐなんだ。それとも君は忘れてしまったのか。それが修練者にとって何を意味するかを」
「あんたにとって何を意味するのかは忘れてないわ」
彼女はデジェルの腕に触れ、掴んだ。
「でも嘘を真実と言うことはできない。あんただってそうすべきよ」
「何を言っているんだ?」
「最後の試練には行かないで」
「サムト」
「自分を投げ出さないで。死を求めないで、ただの――娯楽のために」
“娯楽”
その響きに、デジェルは激怒します。
それは自分を自分たらしめているものを冒涜する言葉だと。
「神々はあんたに死んで欲しいの? ナクトは、あんたに死んで欲しいの?」
サムトはそう言ったが、それは本当に言ってはいけない言葉だったと即座に気付いた。
「あいつの名前を持ち出すな」 デジェルが言い放った。
「ナクトは無価値に死んだ。あの砂漠で、私達が馬鹿なことをしたために。愚かな侵入のために。あいつは今も砂漠を彷徨って、乾いた屍の内臓に噛みついている。あんな過ちは二度とごめんだ」
サムトは叫びたかった――「あんたは只の馬鹿よ! そうやって威張り散らして!」「偽物の王様に騙されるくらいなら死になさいよ!」
だが彼女は声を平静に保とうと努めた。もし叫んでしまったら、街路でわめき叫ぶあの名も無き造反者に戻ってしまう――そしてデジェルを、自滅的なその信念に失わせてしまう。
「デジェル、私たち友達でしょ。ナクトは、人生が突然断ち切られるのはどういうことかということをその身を以って見せてくれた。死の、見苦しい無益さを」
「違う。あいつの死は無意味だ」
サムトの中で何かが砕けた。
「じゃあ、あんたも無意味に死ぬのよ!」
彼女は吼えた。その言葉は炎ゆらめく部屋の中に満ち、石の壁にこだました。
デジェルはもはや中途半端な笑みすら浮かべていたのでした。
「君が私をここに呼んだのは、助けを求めてだと思っていたのだけど」と。
神々なら、そのゆがんだ思考を正してくれるかもしれない。
「ハゾレト様に、君のことを嘆願してみる」。
そう言って、デジェルはサムトに背を向けると、扉の向こうへと消えていったのでした。
厄介な感情が彼女を引っかいた。
「ハゾレト様に、君のことを嘆願してみる」とデジェルは言っていた。
哀れみなのだろうが、それはむしろ好機のように思えた。
彼女は扉を押し開け、影から出て、双陽のぎらつきの中へ駆けた。
神への進言
サムトは超速度でハゾレトの碑へと走ると、神に謁見を申し出たのでした。
階段を上った先で、彼女は神へと告白します。
自分の友人が、死することを望んでいると。
神たるハゾレトの試練によって死ぬことを。
「ならば、祝すがよい! 其方の友は至上の座を勝ち取ろうとしている。其方もそうすべきであろう」
蝋燭を包むサムトの手が震えた。その小さな炎は揺らめき、蝋が融けていった。デジェルと対峙した時の自信と確信は何処へ行ってしまったのだろう? 神々は欺かれている。今、その一柱へと直接そう告げる好機だというのに、自分の信念は何処にあるのだろう?
(中略)
「ですが私は我慢できません。彼は来世や試練の真実を知らないのです」
ハゾレト神は首を傾げた、それは面白さからではなかった。神の両目は冷たい挑戦の炎となった。
「だが修練者よ、其方は知っているというのか? 知っていると?」
サムトは羞恥にうつむいた。返答すべく口を開いたが、言葉を出すことができなかった。
サムトの神の前の自分が非常にちっぽけな存在であることを感じながらも、神に請うのでした。
友の命を奪わないでほしいと。
彼は自分の言葉を拒否したが、それでも友を失いたくないのだと。
「その修練者。デジェル。其方はその者を友と呼ぶのであろう?」
「そうです」
「かつ其方は友の信念を、その心に燃える信念を知りながら――それを過ちと呼ぶというのか?」
「過ちです、強大なるハゾレト様。ですがもし……」
サムトはぐっと息をのみ、勇気を鼓舞してハゾレト神の両目を見つめた。
「もしも、あるいは……貴女様が間違われているとしたら」
その瞬間、サムトは大地が揺れるのを感じます。
神の焼けつくような視線。階下からミイラの上がってくる音。
しかし、彼女はその神の熱烈な怒りの中に、同等の愛を感じたのでした。
そして、それはかつての神の姿であったであろうことも。
「貴女様は確かに熱烈の神です」 サムトは続けた。
「ですが貴女様を偉大たらしめている激情によって、忘れてしまったものはありませんか。生命を祝すのではなく、死を与える道具となって。王神以前の時代の記憶は、僅かな一片でも、今も貴女様の内にありませんでしょうか?」
サムトの頬を涙が伝う中。
神はとどろく声で宣告を伝えたのでした。
「選定の者らよ。この造反者を捕えよ」

今回はここまで
ちょっと短いですが、今回はサムトの現在まで。
イラストからだと全く伝わってこないですが、カラデシュのラシュミ同様、サムトもアモンケットストーリーの中では主役級の立ち位置です。
故郷を愛し、神を愛するからこそ神へ昔の時代へ立ち戻るように涙の訴えを届ける。
しかし、その思いは届かず、彼女は造反者として幽閉されることとなります。
自分を信じてくれると願ったデジェル、そして神に裏切られ、頼る者のなくなった彼女に「よそ者」が手を差し伸べる…というのが次の話。
次でアモンケットの物語も終盤になります!
お楽しみに!
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