【ストーリー】ナヒリはなぜエムラクールを呼んだのか 後編

2021年4月14日

前回の続きです

目次

巨悪の招集

ゼンディカーの惨状を目にし、ソリンへの復讐と、イニストラードへの報復を胸に誓ったナヒリ。

彼女は、ひと時も休むことなく、昼夜を問わず動き続けていたのでした。

服の奥に、蹂躙された故郷の塵を忍ばせて。

そして、イニストラードの防壁の最後の一片が崩れ去った時。

ナヒリの「仕事」は完成を迎えたのでした。

「来なさい!」 彼女は空へと叫んだ。「私のもとへ。イニストラードへ!」

そして彼女は感じた。一つの存在を。

大気は熱を帯びて黙り、ナヒリはそれを深呼吸した。

そう。この匂いはとてもよく知っていた。

この数世紀の間感じていなかった激しい興奮が押し寄せた。

彼女は崖の先端へと駆けた。両脚はよろめき、心は心臓の高鳴りと弾む足取りを抑えきれなかった。

彼女は水面を見た。その神のために建造した寺院を。それはもはや無人ではなかった。目の端に涙が浮かび、だが彼女はそれを拭った。今はまだ泣く時ではなかった。

「私が嘆いたように、ソリンも嘆くことでしょう」

水面下の姿が膨張し、波が立ち、そして水面が破られようとした。

ついに。時が来た。

 

エムラクール、来たる

ここで注釈ですが、イニストラードのストーリーは、そのジャンルで言うと「ホラー」にあたります。

イニストラード出身のプレインズウォーカー、吸血鬼のソリン、狼男(狼女?)のアーリン・コードをはじめとした、ホラーの代名詞とも言える存在がワンサカでてきます。

 

え?ホラーといえばゾンビ?

そりゃもちろん、ゾンビ担当(?)のリリアナの元にワラワラ登場しますよ

 

イニストラードを覆う影のお話では、悪魔にとりつかれ、村の中で殺人を繰り返す夫人の話や、怪物を信じない少女が最終的に怪物のしもべになってしまう話など、ホラーと呼ぶにふさわしい話だらけなのですが、エムラクール襲来のこの時、その狂気は頂点に達します。

ウラモグが圧倒的な力により、「全てを塵」に変えていくのに対し、エムラクールはその精神に干渉し、生物たちを変容させていく能力を持っています。

カード能力でも、ウラモグはパーマネントならなんでも吹き飛ばす力で、エムラクールは対戦相手のコントロールを得るという規格外の力で、それが表されています。

エムラクールが襲来したことにより、イニストラードの生物はすべて狂気に蝕まれていきます。

人々はエムラクールを信奉するものとなり、その存在を女神と崇めるようになります。

「エムラクール!」 水のうねりとともにその名が、力が、充足が彼女の内に広がった。

「エムラクール!」 その存在の完全さが彼女を抱擁し、絡まり、彼女となった。海は空高くへと持ち上がった。

「私をお選び下さい、エムラクール。お連れ下さい。エムラクール」

他の声が背後から上がった。彼女とともに詠唱し、同時に赤紫色の輝きが水面下に脈動した。

「お選び下さい、我がエムラクール。お連れ下さい、エムラクール。我はエムラクール」

(中略)

エムラクールが現れた。

エディスは胸から弾け出るむせび泣きを抑えきれなかった。

彼女の声は女神の力の波動とともに膨れ、そして女神を取り巻く共鳴へと、完全に溶けた。

エムラクールは目の前のエディスを見た。女神はエディスを一つの巨大な、赤紫色に輝く瞳で見下ろした。

そしてエディスもエムラクールを見た。彼女は見つめ、その輝きの中に立ちすくみ、女神の存在の中へ、深く深くへと落ちていった。

見るものは、至るものはあまりに多すぎた。自分は選ばれたのだ。

「我はエムラクール」

歓喜する信者

 

エムラクールの干渉は、人間にとどまりません。

それは、イニストラードを守るべき存在であった天使にまで。

ブルーナはもはや存在しなかった。

ギセラはもはやギセラではなかった。

その代わりに、二人は生まれ変わった。女神へと。一体へと。エムラクールへと。

エムラクールの天使は四枚の翼を広げ、二本の腕を伸ばし、二つの声から弾け出た一つの叫びを放った。

「我らはエムラクール!」

二人は女神の映し身、終わりのない真実の映し身、そして二人の声は女神のものだった。「我らはエムラクール!」

二人の呼び声は他者をも引き寄せた。

「我らはエムラクール!」

眼下の世界から幾つもの声が上がり、一つの音へと、一つの真実へと溶け合った。

「エムラクールは一つ、エムラクールであれ、我らエムラクール!」

今や彼女の耳にはエムラクールの呟きしか聞こえていない。
今や彼女の目にはエムラクールの理想しか見えていない。
姉妹のなれの果てを知ったシガルダは、ただ咽び泣くことしかできなかった。

 

その時イニストラードを訪れていたジェイスにも、その干渉の波が押し寄せ、彼を苦しめます。

我らエムラクール。全てはエムラ――「があッ! 止めろ!」

ジェイスは心に渦を巻くその言葉を固い意志で押しやった。「入って来るな!」

彼はエムラクールの狂気の接触と戦う方法をタミヨウから教わっていた。

だが精神的防壁を保つことは空民がそうするよりもずっと難しかった。

問題だった。彼の計画にとって大きな問題だった。

(中略)

「があッ!」 ジェイスは腕を振り上げた。

「シーッ!」 タミヨウは肩越しに厳しい一瞥を投げかけた。

「すみません」 ジェイスは身を守るように両手を挙げた。

※タミヨウに怒られるジェイスすき

 

ジェイスはこの事態に、ゲートウォッチの参集を決心します。

それに対し、ソリンはこの事態を招いたナヒリへの報復を決意するのでした。

「もはやこの世界を救うことはできない。それでも我々は血の復讐者となる。」

 

吸血鬼の総力を結集した、ナヒリへの「復讐作戦」の開始でした。




復讐作戦

ソリンの軍勢は、吸血鬼の高潔なる血統の持ち主オリヴィア・ヴォルダーレンを仲間に迎えた軍勢。

そして、ナヒリはエムラクール招来のための石に引き寄せられた、ナヒリを敬う狂信者たち。

しかし、ソリンもナヒリも、目指すべきは一人です。

彼はどこかにいる、それはわかっていた。周囲、記憶では館の大広間だったものの中で、乱戦が広がっていた。その部屋は今や吸血鬼と狂信者で埋め尽くされ、全員が陰惨な殺戮を繰り広げていた。彼女の視線はその混乱の中に素早く射られた、流れる白髪を見つけられればと、もしくは……

あの残酷な黄色の瞳を。そして鼓動一つ、うねる騒乱に飲み込まれる前にそれは彼女を凝視していた。

ナヒリの喉が唐突にかすれた。胸骨の中で心臓が高鳴り、千年分の怒りが湧き上がり、彼女はかろうじてその名を声に出した。

「ソリン!」

一瞬、どちらも無言だった。六千年以上の歴史が二人をここに導いた。

ソリンの両目を見据え、彼も同じことを考えているのだろうかとナヒリは思った。自分達は友人同士、かつてそう信じていた。

そして今……今、彼女は復讐を成そうとしている。

やがて、ナヒリが口を開いた。

「千年です、ソリン。あなたは私を千年間も閉じ込めた」

(中略)

「忘れるな。私がお前を生かしたに過ぎない。獄庫は私からの特別の計らいだ」

「特別の計らい」 ナヒリは繰り返し、指を動かした。ソリンを粉々にしてやりたかった。

「あれほど長く私を閉じ込めていた恐怖――あれは私のものになりました」

最後の言葉とともに、ナヒリは剣先を敷石の一つに沈めた。

 

千年ぶりに始まった戦闘。

以前はナヒリにとって、師であったソリンとの戦い。

今は、復讐者となった彼女にとっての、討ち倒すべき仇敵との戦い。

 

ナヒリが吸血鬼たちを石で貫けば、ソリンは狂信者の血を自分のものとする。

ナヒリが彼の足場を崩せば、ソリンは目にも止まらぬ速さで移動する。

ナヒリが石へ逃げ込めば、ソリンは石を砕かんと剣を振るう。

そしてついに、吸血鬼の剣は、石術師のそれを弾き飛ばしたのでした。

ソリンの剣がひらめき、ナヒリの剣を虚空へと叩き落とした。

「お前は私からアヴァシンを奪った。私はお前から血を奪おう」

筋肉を強張らせるよりも早く、彼女はソリンの歯が首筋を裂くのを感じた。身体の血が全て流れを変えた。

ソリンはそれを自身の内へと呼び込み、それは彼女の血管の中で燃えていた。彼は貪欲に飲み、

 

そしてナヒリはこの瞬間を待っていた。

 

彼女は背中から石の中に身を傾げ、そしてそれは両脇で広がって彼女の願いに答えた。

心拍の一つ一つが激痛だったが、彼女はそれを押して囁いた。

「ソリン、私は噛みつき返せます。あなたよりも大きな歯で」

 

その瞬間。

壁とも言える石がソリンの背後から迫り、その石の牙は、彼を磔にするが如く身体中を貫いたのでした。

その石の歯は、彼の内部を喰らうように苦痛を与え、それは次元渡りの余裕すらも生めないものです。

 

ナヒリは、その石を回転させ、平原へと対峙させます。

この次元の惨状が”よく見えるように”。

片手で石の先端を掴み、ナヒリは降りてソリンの耳に囁いた。

「あなたを生かしました。『特別の計らい』のお返しです」

遠くに、湧き上がる雲の天蓋の下に、エムラクールがいた。

そして次の瞬間、ナヒリはソリンを世界の運命に託し、イニストラードから去った。

 

自分への復讐を遂げ、この次元へ厄災をもたらした張本人は消えてしまったのでした。

残されたソリンにできるのは、終末を迎える次元をただ傍観することだけ。

気力をふり絞り、そして屈辱をこらえながら、彼は空を舞うオリヴィアへと助けを請います。

「オリヴィア」 ソリンは歯を食いしばって言った。「出してくれ」

「それができたとしても、何故です? アヴァシンは死にました。ナヒリさんは去りました。私達の取引も終わりました」

彼女は残酷にほくそ笑んだ。

「これは勝利と呼べますね。どうぞ楽しんで下さいませ。何と言いましてもマルコフ荘園はあなたのものですから。私としては」

そしてソリンの剣を掲げ、その刃を吟味した。「『イニストラードの君主オリヴィア』、良い響きですこと」

絶望がうねり、彼が保持していた忍耐の最後の一片は不意に投げ捨てられた。

この世界は終わった。オリヴィアは彼の唯一の脱出手段だった。

(中略)

自分を見るオリヴィアの様子は嫌なものだった。

彼女は一匹の蜘蛛、そして彼は蠅だった。

「話を聞け! 明日無くなるかもしれないものに何の意味がある!」

彼は再び説得を試みた。

「アヴァシンは死にました。そしてあなたは」

ソリン自身の剣先を彼の頬に押し付け、オリヴィアは言った。

「あなたのいるべき所に。とても快適だと思いますわよ」

そしてオリヴィアは視界から消えた。

エムラクールとそれが約束する終末が再び視界を満たし、ソリンはそれを見つめていることしかできなかった。

 

今回はここまで

今回は前編、後編に渡って、ナヒリとソリンの確執のお話を紹介しました。

灯争大戦でナヒリを知った初心者の筆者は、ナヒリのイメージと言えば

・アーティファクトの人

・なぜかソリンと戦う絵が多い

・なんかいつもブチ切れてる

くらいの知識だったのですが、こんなに悲しい過去があったんですよね…。

 

ちなみに、ソリンはこの後、なぜかこの石術から脱出し、灯争大戦においてラヴニカに姿を現わしています。

そして、同じくラヴニカに引き寄せられたナヒリと、ここでも「一騎打ち」を始めてしまうのでした。

多元宇宙全体の危機すらも、二人が確執を鞘に納める理由にはならなかった。

こんなソリンの脱出、そしてこの後ご紹介する予定のエムラクールの最期など、イニストラード次元のお話は"謎"を残したまま終わっている部分も多いので、いずれまたこの次元は舞台となるでしょうね!

 

次回は、招来されたエムラクールに立ち向かう、ゲートウォッチたちのお話をご紹介…

…の前に、いくつか間を埋めるお話をば!

まずは、上でも少し話に出てきた、大天使アヴァシンのお話ですかね~

 

お楽しみに!
 

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*出典*

エムラクール、来たる

復讐作戦

 

Posted by オクハラデン