【イクサラン】第10回 ジェイスとヴラスカの策謀【ストーリー】
はじめに
前回、オラーズカへとたどり着いたヴラスカとジェイスは、自分たちをこの次元に閉じ込めている原因「不滅の太陽」と、その創造者アゾールと邂逅したのでした。
身勝手な理由により、この次元の争いを生み出したアゾールに、ヴラスカは激怒しますが、ジェイスは「ギルドパクトの体現者」として、彼に命令することでこの次元を去らせたのです。
去る間際、アゾールの思考を見たジェイスは、彼の仇敵でもあったボーラスの思惑を察するのでした…。
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唯一の手段
ジェイスは、ボーラスについて知る全てをヴラスカに伝えます。
同じようにヴラスカは彼に、これまでの経緯を話しました。
そして、知れば知るほどに、ボーラスの計略の広さを痛感するのです。
カラデシュで入手した、次元を渡れるアーティファクト。
アモンケットを利用し創造した、次元渡りに耐えうる軍勢。
そして、イクサランに存在する、次元に幽閉する不滅の太陽。
ボーラスの真意を突き止めるようと精神を覗き込んだジェイスは、これ以上ないほど悲しい表情でヴラスカへとその記憶を共有したのでした。
ニコル・ボーラスの心、その野望には、ラヴニカが大きく描かれていた。
(中略)
ラヴニカこそが、ニコル・ボーラスの目的。
全てはそこへと繋がっていた。
ヴラスカは両目を開き、ジェイスの投影は消えた。
自身の手が震えていた。
「あの軍を放とうとしてる。私らの故郷へ。私の力を借りて」
(中略)
「不滅の太陽を渡さずにいれば私はここに囚われて、もしニコル・ボーラスに渡せばラヴニカは滅びる。ラヴニカは私らの家なんだよ!」
ジェイスは黙っていた。
「お前のことも! あいつは私の心を見て、お前に会ったことを知ってしまうよ! 私がお前とわかり合ったことも、何が起こったのかも全部。私ら二人とも殺されちまうよ!」
ジェイスに失望が襲います。
自分がゲートウォッチとしてやってきたことは、実のところ何も守っていなかった。
カラデシュも、アモンケットも、すべてはボーラスの計画に繋がっていたのだ。
ヴラスカは絶望に暮れます。
最も大事にしてきた、「生き延びる」ということすらできない八方塞がりの状況。
故郷を見捨てイクサランに留まるか、ドラゴンのもとへ戻り即座に殺されるか。
その時。
“ある考え”がヴラスカの頭をかすめます。
自分は使命を果たし、ボーラスは自分の記憶を覗き…。
その時に、「何も見なければ」?
「ジェイス」
その声にジェイスは取り乱しながら彼女を一瞥した。
「考えがある。けれどお前は気に入らないかもしれない」
ジェイスはかぶりを振った。しかめた顔には無念が刻まれていた。
「力になれるようなことは、思い付きません」
ヴラスカは力の限りに勇気を奮い起こした、その願いを口にできるように。言おうとしていることは恐ろしく、驚くほど思い切ったもので、そして共に生き延びるためには絶対に必要なことだった。
「少しの間、お前についての記憶を取り除いて欲しい」
ジェイスは嫌悪にひるんだ。
「そんなことは、したくありません」
託される記憶
ヴラスカは説得するように声を上げます。
これは一時的なものだと。
そしてこれが唯一の方法だと。
それでもジェイスはこれを否定します。
そんな形でヴラスカを傷つけることはできない、と。
「お前は私を傷つけるんじゃない、守るんだよ」 それは断言だった。
「私の心からお前の記憶を回収して、守ってくれ。安全に、あのドラゴンの目から守ってくれ。そうすればあいつが私を見ても、任務は問題なく進んだって思うだろ。そして、ラヴニカで、時が来たなら、私の記憶を返して欲しい」
ヴラスカは自分の”裏切り”の計画をジェイスへと伝えます。
自分は記憶を失ったまま、ゴルガリのギルドマスターとして働く。
ジェイスはその間、ギルドパクトの仕事をしながら計画を練る。
そして機会が来たら、彼は記憶を返し、ヴラスカはボーラスを裏切る。
ジェイスが理解しはじめたのは間違いなかった。彼は躊躇いがちにヴラスカを見た。
「俺に貴女の記憶を任せてくれるんですか?」
「無条件に信頼するよ」 彼女は鉄の意志で返答した。
やがて、ヴラスカとジェイスは固い握手を交わします。
そして、二人の中だけの誓いを立てたのでした。
彼はヴラスカを、穏やかな決意とともに見つめた。
「ギルドパクトの体現として、約束します。貴女の記憶を安全に守り、無傷の状態で返却します。ニコル・ボーラスに対抗する計画を見つけることを誓います。そして我が家、ラヴニカを守るという責任を果たすことを誓います」
ヴラスカは確信をもって口を開いた。
「『喧嘩腰』号船長として、約束するよ。記憶を返してもらったなら、ニコル・ボーラスを妨害するためにあらゆる手を尽くす。あいつを破滅させるために、この身を捧げることを誓うよ」
ヴラスカはジェイスの手を握り返し、そして放した。契約は成された。
ジェイスはヴラスカへ近づき、両手を掲げた。
「いいですか?」 ヴラスカが頷くと、彼はその指を彼女の両こめかみに当てた。
ヴラスカは微笑んだ。
「全部片付いたらさ……ラヴニカのブリキ通りの市場へ連れて行ってやるよ」
ジェイスは、彼らしい悲しく小さな笑みを返した。
「ブリキ通りの市場の場所は俺も知ってます」
「ああ。けど……連れて行ってやりたい。コーヒーを飲んでさ、いい本屋があるんだ」
「本が好きなんですか?」
ジェイスは尋ねた、その両目に希望と、喜びを浮かべながら。
ヴラスカは頷き、からかうように言った。
「私は歴史の本を、お前は理論とか、何か読みたいものをさ」
彼は笑った。「俺は、回想録が好みです」
「本当か? 回想録?」
「面白い生き方をした人の話が好きです」
彼は柔らかく、はにかむ笑みとともに言った。
ヴラスカは微笑んだ。「つまり、デートだな」
『大切に、しっかり守っておきます』 それは約束だった。
『またすぐに会おうな』
『ブリキ通りで、コーヒーと本。ですよね?』 希望に満ちた声。
『コーヒーと本な』
返答するのが嬉しかった。顔が熱くなり、ヴラスカは微笑んだ。
雨の音を聞いた、そんな気がした。
…
穏やかな思考の中。
ヴラスカは目を開け。
周りを見渡し。
頭をよぎったのは、一つの疑問。
自分は…どうやってここへ?
しかし、手元の魔学コンパスが頭上にあるアーティファクトを示していることを見て、ヴラスカは旅の目的を見つけたと確信しました。
ボーラスから教わった複雑な呪文を唱えると、それは別の次元へと持ち去られて行きます。
それを見届けたヴラスカは、満足したように次元を去ったのでした。
瞑想次元にて
やがてたどり着いたのは、ラヴニカの自室。
出発の準備を整えたヴラスカは、すぐにドラゴンの指定した瞑想次元へと向かいます。
ニコル・ボーラスが、そこで待っていたのでした。
ヴラスカは言った。
「お前の依頼をこなしてきたよ。自分で見るといい」
そして、ドラゴンはその通りにした。
ニコル・ボーラスは彼女の心の隅々までも調査した、つぶさに、彼女がそれを感じられるほどに。
ボーラスが記憶を覗くのと同時に、ヴラスカもその記憶を追体験します。
一人で川を上った旅路。
川に飛び込み、都を駆け。
オラーズカを蹂躙するスフィンクスを見つめ。
そして不滅の太陽の上に立ち、そのスフィンクスを――何十人もの他の敵と共に――黄金へと変えた。
ヴラスカはその記憶を鮮明に覚えていたのでした。
不意に自分が離れていったボーラスは、その表情に純粋な喜びを貼り付けていたのです。
「よくやった、ヴラスカよ。おぬしの忠節は報われるであろう」
再び心が自分だけのものとなり、ヴラスカは頭を下げた。何かがポケットに入る重さを感じた。
「贈り物だ、誠実なるしもべよ。そなたは望む通りの王国を得るであろう」
「信頼してくれてありがとうよ」
「こちらこそ。将来、また共に働きたいと是非に願うぞ」
ものの数分で終わった会合。
ラヴニカの自室へと戻った彼女は、不思議な感覚に襲われます。
ボーラスは何かを見逃しているような……いや、自分自身が何かを忘れているかのような。
しかし、落ち着きのないその感覚を首を振るって払いのけたヴラスカは、ボーラスに託されたものを確認します。
小さな紙片には、『あの者は独りだけで、ここに幽閉されておる』というメッセージとともに、現在のギルドマスタージャラドのいる場所が記されていたのでした。
ヴラスカは微笑み、台所へ向かった。今夜は全くもって楽しいものになるだろう。そして出発の前に身形と気分を整えるべきだろうと考えた。仕事も数時間は待ってくれるだろう。
彼女は布で顔を拭い、ストーブに薬缶を置き、本棚から取り出した回想録を開いて熟考した。
ジャラドを石にする前に何と言ってやろうか?
今回はここまで
ああぁ…
悲しいエンディングすぎる…!
ベタかもしれませんが、記憶を失ってしまうエンディング美しすぎますよね…。
唯一の生き残る道のため、お互いを信頼し、その想いを話し合う二人。
嗚呼…。
あああぁ…。
ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
すみません、結局我慢できずに尊死してしまいました。
もはや端折りたくなところまで端折ってご紹介しているので、是非!公式の原文も!
ホントに美しいエピソードなので!!!!
さて、なんとなく完結感のあるイクサランの物語ですが、完全に他の勢力の物語が置いてけぼりなので、次回はそのあたりを回収したいと思います。
お楽しみに!
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