【イクサラン】第2回 ヴラスカとジェイス【ストーリー】

2021年4月11日

はじめに

前回のお話では、記憶を失ったジェイスが見知らぬ次元へとたどり着き、無人島で生き抜く様をご紹介しました。

そして、それを発見したのが、彼との因縁も深いヴラスカなのでした。

彼女は如何にして、そして何のために、このイクサランへとやってきたのか。

そして、ラヴニカの暗殺者であった彼女はなぜ「船長」になったのか。

今回は、その背景ストーリーをご紹介します。

 

ボーラスの依頼

ラヴニカのヴラスカの元に届けられた「招待状」。

彼女が趣味の読書に勤しもうと暖炉の前に腰かけた時、それは歴史書の中にはさまれていたのでした。

『瞑想次元』

この話が罠のようにも感じつつ、ヴラスカが指定の場所へとプレインズウォークすると、その人工的な次元にてドラゴンが彼女を迎えたのでした。

「オクランの暗殺者、ヴラスカよ」 その声は雷鳴のようだった。

「我が招待に応えてくれて嬉しく思う。我が名はニコル・ボーラス、おぬしの才能を見込んで頼みたいことがあるのだ」

ヴラスカは無頓着そうに腕を組み、退屈な声色で返答した。

「今は新しい依頼人は募集してないのさ」

「暗殺者としてのおぬしの能力に興味はない」

彼女は黙った。

(中略)

そしてここまで巨大な敵を石化させるほどの魔力を集中させ始めた。

ドラゴンは頭を低くした。その両目は晩餐の皿ほども大きく、牙はダガーのように長かった。ニコル・ボーラスは笑みを浮かべた。

「おぬしをゴルガリ団のギルドマスターにしてやろうではないか、ヴラスカよ」

息が止まった。

(中略)

ヴラスカは狼狽とともに返答した。

「お前の望みは?」

「彼方の次元、イクサラン大陸にとある場所が存在する。黄金の都オラーズカと呼ばれる地だ。そこにある物品を手に入れ、我が配下を呼んで輸送してもらいたい。さすればおぬしのギルドを統べる手段と、それに付随する栄光を与えようではないか。ヴラスカ、任務を全うしたならば、おぬしは帝国を手にできるのだ」

 

ヴラスカの頭を駆け巡る、これまでの数々の地獄。

そして、それを潰すのが、彼女の長年の望みでした。

何もかも危険に見える話。勝手に心を読み、信頼の全く置けない依頼主。

しかし、ヴラスカはそのドラゴンへと頭を下げたのでした。

「その話、受けてやるよ」

まずくなったら、裏切ればいい。

「駄目だ。それは叶わぬ」

ドラゴンが鉤爪を振ると、耳鳴りが消えるのを感じた。心から立ち去ったのだ。

「これが必要となろう」

ドラゴンはそう言って、再び鉤爪を掲げた。何か重いものが衣服のポケットに落ちた。

「魔学コンパスというものだ。おぬしを黄金の都へと導くであろう。それと、二つの知識を授けよう」

 

ヴラスカに授かられたのは、脳が焼ききれんばかりの膨大な知識。

目的の物品を手に入れた後の複雑なる呪文と、海を渡るための航海の知識。

あまりの衝撃に膝が折れる中、ドラゴンは意にも介さず告げたのでした。

「航海に出でよ。任務を完了するまで戻ることは叶わぬであろう」




秘宝探究者、ヴラスカ

「航海士!」

ヴラスカが船上で声を上げると、魔学コンパスを掲げながら次の方角を指示していくのでした。

彼女は最初の数か月で仲間を集めると、船を調達し、コンパスにしたがって航海を始めたのです。

様々な困難に見舞われつつも、ヴラスカは船員たちを気に入り、この冒険の成功に希望を抱いていたのでした。

 

ある日聞こえたのは、見張り台にいた船員の叫び声。

「待て! 岸に誰かいるぞ!」

船を止め、小舟で移動すると、ヴラスカは岩だらけの島に横たわる人物へと接近していきます。

髪は黒く、わずかに残った体力で必死に蠅を追い払っていた。頭の下には青い布の塊があり、水に浸かった衣服の切れ端に、覚えのある白い刺繍が見えた。

ヴラスカの心臓が止まりかけた。

馬鹿な。

ジェイス・ベレレンだった。

一体どうやって私を見つけた?

(中略)

ラヴニカの誰一人として、自分の居場所は知らない。そして自分を発見できるプレインズウォーカーはいないはずだった。ジェイスはここで一体何をしている?

(中略)

「船に新しい船首像が欲しい所なんだよ、ベレレン! 誰の命令でここにいるのか、正直に言いな。そうすれば痛くないように殺してあげるからさ!」

 

しかし、呼びかけられたはずのジェイスはまったく身動きをしないのでした。

よく見れば、彼の頬はこけ、精神魔道士に似合わぬ筋肉が上腕についたにも関わらず、その肋骨は浮き出るほどになっています。

どういうこと、こいつに何があった?

その男は痛ましいほどに消耗しているようだった。見たところ島に真水はなく、生き伸びる術もなかった。その悲惨な様子に、彼女が想定していた行動は逸れた。

こいつはひょっとして、もう死んでいる?

ジェイスは咳こみ、瞬いて目を開けた。ヴラスカは内心の炎を消し、魔力を灯さない両目で男を見下ろした。

殺すのは、忌々しい返答を聞き出してからでもいい。

「ジェイス、お前、一体どうしたってんだい?」

その言葉は疑問というよりも事実として発せられた。姿を見たなら即座に殺すつもりだったが、そうするべきだという論理は、それがジェイスだという事実によって濁ってしまった。

何でいつも、お前なんだよ?




船員として

救出されたジェイスは、一言も喋ることなく与えられた食事と平らげると、船内を興味深く眺めていたのでした。

改めてその姿を見たヴラスカは、その変貌ぶりに驚きます。

年中着ていたあの服の下に、こんな筋肉があったはずはないと。

「二分間やるよ、ジェイス。石になって文鎮にされる前に、どうやって私を見つけたのか説明しな」

ジェイスはきょとんとした。

彼女は困惑した。

ジェイスはかぶりを振った。

「貴女を探していたわけではないです、だって、貴女が誰なのかわからないんですから」

ヴラスカは精一杯に困惑の表情を浮かべた。

「ベレレン、冗談を言ってるつもりか?」

彼は口を閉じ、再びかぶりを振った。

「俺は、最初の島で目が覚める前のことは何も覚えていないんです」

最初の島?ヴラスカは匙を取り上げ、ジェイスの胸へと投げつけた。彼は手で払おうとし、だが失敗した。

「ちょっ」

このぎこちなさは演技ではありえなかった。彼女は結論づけた。

「幻影じゃないってことか」

ジェイスの立腹は消え去り、幸福な驚きを見せた。

「俺が幻影を作れるのがわかるんですか?」

その唇に小さな笑みが浮かんだ。

ヴラスカはこの状況が信じられなかった。何故こいつはこんなに上機嫌なんだ? 自分の知る、胸糞悪い、あの不健康で陰気なギルドパクトは何処へいった?

彼女は唇を曲げた。

「お前は幻術使いであって役者じゃない。何で私を騙し続けるんだよ?」

「俺自身よりも俺について知ってるみたいですね。嘘をついたとして、俺は何か得るものがあるんですか?」

「山ほどあるよ」 ヴラスカは無表情で言った。

「こっちを騙そうとしてるんだろ」

「お名前は何ていうんですか?」

一体何なんだ。この訳のわからない状況は。

「……ヴラスカ、だ」

「ヴラスカさん」 ジェイスは少しだけ微笑んだ。

「俺とは違う言語圏の名前みたいですね。何処から来られたんです?」

「お前もよく知ってる所だよ、クソ野郎」

ジェイスは目に見えて傷ついたようだった。

おい。

何だこれは……気まずさ?

犬みたいな奴、ヴラスカはそう思った。人の姿をした忠犬。何があったというのだろう?

 

見るからに無害化してしまった、過去の宿敵。

そして、ヴラスカは己の「必ずしも死に値すると限らない者は殺さない」という矜持によって、男の扱いに完全に困ってしまったのでした。

ヴラスカの知るあの張りつめたギルドパクト、そわそわと落ち着かなく、憂鬱をまとうあの男は消えていた。ここに座っているのは、多元宇宙で二番目に危険な精神魔法使いの、筋肉質で真面目で不似合なほどに友好的な変種だった。

「俺達はどうやって知り合ったんですか?」

好奇心をまとい、ジェイスが尋ねた。

ヴラスカは遠い記憶を呼び起こした。過去、ギルドパクトの目を向けさせるために殺してきた、手頃な者達の名前を。

それを告げるのは、明らかに、きまりが悪かった。

「一緒に働かないかと私が誘って、お前が断ったんだよ」

「どんな事をしようって誘ってくれたんですか?」

ヴラスカは注意深く言葉を選んだ。

「一緒に働けば、とてつもなく悪い奴らをある重要な場所から排除できるって思ったのさ」

そして彼女は杯へと茶を注ぎ、ジェイスへ手渡した。

ジェイスは慎重に茶を口にした。

「その悪い人たちは何をしたんです?」

ヴラスカは口を固く閉じ、彼へと背を向けた。私を捕まえて、痛めつけて、何の悪い事もしていないのに監禁したんだよ。

ジェイスは唖然とした。「それは本当ですか?」

ヴラスカは驚きとともに顔を向けた。

こいつは私の心を読んだ……けれどそれがわかっていない。声に出して言ったと思っているに違いない。

彼は正真正銘の衝撃と共感を目に浮かべて見つめ返していた。

「そんな事があったなんて……ヴラスカさん」

ジェイスの表情は率直で、声に宿る感情は穏やかかつ正直だった。

ヴラスカは心の中で歌声を上げ、発しかけたあらゆる思考を沈め、そしてようやく言葉を見つけた。

「過去は私の一部、けど今の私じゃないよ」

ジェイスは微笑んだ。

「それはわかります、すごく」 彼は乾いた笑いとともに言った。

ヴラスカはぎょっとした。こいつは冗談が上手いな。

 

やがて、ジェイスは幻影を見せながら、自分のたどってきた道をヴラスカに説明します。

そこには、彼が如何にして最初の島で生き抜き、岩山の島に流れ着いたかを教えるものでした。

そして、それは彼がこの次元に来る以前の記憶を全て失っていることを真に証明するものでもあったのでした。

彼女は手元の茶を見つめて溜息をついた。できれば生かしておきたい。こいつの才能は有用かもしれない、今のところは。馬鹿正直な奴は殺すべきでない、特に暗殺者の掟においてはそうだ。今回の場合は事情が違うとはいえ……

目の前の男はジェイスではなかった。真の意味では違った。彼女が知るギルドパクトは何処かへ消えてしまっていた。

金を貰っていない限り、無関係の者を殺しはしない。

心は決まった。

「船員部屋にお前の寝床を用意してやるよ。次の港へ着いたなら、下ろしてやるからさ」

ジェイスは頷き、空になった椀を足元に置いた。

この有様を見ろ。無力だ。生かしておくのは間違いなのか?

「何か言いました?」 ジェイスが尋ねた。

ヴラスカの心臓が止まりかけた。彼女はかぶりを振り、ジェイスは眉をひそめた。

「変ですね」 彼は呟いた。

「船の誰かでしょうか」




今回はここまで

ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!

 

すでに!!!!尊いッ!!!!!

私のアバター(に勝手にしている)語り部チュレインも絶叫するこのストーリー。

かつての宿敵ジェイスの変わりっぷりに、ヴラスカは戸惑いながらも彼を仲間とします。

もはやどっちもイイヤツなんじゃないか!?となってしまうところが非常に良きですね!

ヴラスカが心中で思っているセリフ、「なんでいつもお前なんだよ」最高すぎるんだよなァ!?!?

原文が非常に良いので、イクサランの物語はやっぱり引用多めになってしまいますね。

興味がありましたら是非原文も!!!!

 

というわけで、次回はこのジェイスとヴラスカの物語の続きを!

お楽しみに!

 

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ジェイスとヴラスカの因縁

 

*出典*

MAGIC STORY 敏腕船長ヴラスカ

 

Posted by オクハラデン