【イクサラン】第3回 過去を乗り越えて【ストーリー】

2021年4月22日

目次

はじめに

ヴラスカは、ボーラスからゴルガリ団のギルドマスターを約束された代わりに、イクサランへと秘宝を求めてやってきます。

彼女はその航海の中で、どういう理由からか記憶を失ってしまったジェイスと出会ったのでした。

あまりにも無力と化したかつての仇敵の姿に戸惑うヴラスカ。

しかし、彼女はジェイスの有用性を見越し、彼を自分の船へと招き入れたのでした。

 

吸血鬼との戦い

ヴラスカはその日、水平線の彼方に黒い船を見つけます。

吸血鬼たちを乗せた、薄暮の軍団。

ヴラスカは、かつて自分たちを襲ったその船から物資を強奪すべく、船員を甲板へと呼びだします。

「戦闘配置! 奪い取って旗を上げるよ!」

ヴラスカが命令を叫ぶと、乗組員がその命令を船の隅々にまで伝えるのが聞こえた。

(中略)

ジェイスが甲板へと姿を現した。彼は騒動に怯え、何処にいるべきかがわからず目に見えて困惑していた。

一瞬の発想がヴラスカに閃いた。

「ジェイス! こっちに来な!」

彼女は後甲板から呼びかけ、自身と切り込み隊長が立つ所まで梯子を上らせた。彼の両目は興奮と不安に見開かれていた。

ヴラスカは彼を見た。

「ジェイス、あの船に乗り込んで物資を奪いたいんだよ。お前、『喧嘩腰』号の接近を誤魔化せるか?」

ジェイスの唇に笑みが浮かび、だが彼はそれを素早く決意に閉ざした。

「できます、船長」

ヴラスカは頷いた。「やりな」

 

ジェイスの魔法が船を包むと、彼らは吸血鬼の意識の外から、急襲をかけたのでした。

甲板に弾けた大混乱の中、ジェイスは幻影で吸血鬼を惑わし、その隙にヴラスカのカットラスが敵を切り刻んでいきます。

しかし、幻影を潜り抜けることのできた吸血鬼が、ジェイスの首を捕らえた時。

ヴラスカは自身の力を解き放つと、襲い掛かったそれを石へと変えたのでした。

 

振り返ったジェイスの顔にあったのは、恐れではなく驚嘆。

戦いを終えた「喧嘩腰」号の船内で、彼は興奮気味にヴラスカに話しかけます。

「知りませんでした、あんな事ができるなんて!」

「そう……驚かせたね」 ヴラスカは肩をすくめて言った。

「ヴラスカさん」 ジェイスの声は真剣だった。

「ありがとうございました、危ない所を救っていただいて」

当惑に、ゴルゴンは視線を返した。「お前、怖くなかったのか?」

ジェイスはかぶりを振った。

「すごい力だなあ、って」

どう返せば良いか、ヴラスカはわからなかった。

賛辞など、空を飛ぶほどに縁のないことだった。

ジェイスはとてつもなく有用だった。あるいは、側に置いて役立たせるのが一番なのかもしれない。そう思い、ヴラスカは確信とともに告げた。

「前に思ったのさ。ベレレン、私とお前はいい仲間になれるだろうってね。そしてそれは正しかった。ここの乗組員になって、私の任務を手伝ってくれるか?」

ジェイスは目を細め、航海者の好奇心を帯びた大胆な笑みで言った。

「是非、そうさせて下さい」


旅の目的

それから。

ジェイスは船員として騒がしい日々を過ごしていたのでした。

彼らはつかの間の歓楽を求め、孤高街へと降り立ちます。

切り込み隊長のアメリア、そしてゴブリンの”短パン”がジェイスを誘う中、ヴラスカが割って入ったのでした。

「悪いね、短パン、アメリア。けどマルコムと私はこの新入りと詳しく話したいことがあるんだ」

アメリアと 「短パン」は了解に頷き、ヴラスカは続けた。

「けど後から合流するよ、先にお祭り騒ぎしてな」

「短パン」は宙に拳を掲げた。

「シハライとエールとカードとオマツリサワギ!」

マルコムがその隣で翼を羽ばたかせた。鳥に似たその顔には茶目っ気があった。

「船長、ベレレン、店はあっちでさ」

二人は別れを告げ、マルコムを追った。

 

混みあった酒場の中で、ヴラスカはジェイスへと、この航海の目的を伝えます。

海の向こうの金持ち、”ニコラス卿”の依頼で、自分たちは不滅の太陽が眠るオラーズカを目指しているのだと。

しかし、そのオラーズカの場所は知れず、ヴラスカの持つ魔学コンパスがそれを知る唯一の頼りだと。

ヴラスカは、方角が変わり続けるこのコンパスの使い方を見出してほしいとジェイスへ依頼したのでした。

魔学コンパス

ひとしきり話が終わり、マルコムと別れ二人で船に戻る道中。

ジェイスは独り言のように問いかけたのです。

「ヴラスカさん、俺が心を読めるって知っていたんですか?」

奇妙に感じる質問は同じく奇妙に響き、だがそれはヴラスカの歩みを止めさせた。

彼女はとても重い溜息をついた。その返答は沈黙、だが声は彼の心にはっきりと届いた。

『ああ、そうだよ』

ジェイスの顎が落ちた。「どうして教えてくれなかったんですか?」

彼女は疲れた凝視とともに思考を返した。

『許可無しに私の心を読むような馬鹿な事をして欲しくなかったからさ』

 

それから、二人の会話は静かに続いたのでした。

心が読めるという感覚の話。

自分たちを旅に導いた依頼人の話。

そして、二人のいた、ヴラスカの故郷ラヴニカの話。

ジェイスはためらいながらも、ヴラスカの心を覗いた時に見えたその次元の光景を、幻影で展開します。

「これですか?」

雪のように静かに、ジェイスは尋ねた。ヴラスカの返答も同じく柔らかだった。

「ああ。これがラヴニカだ」

(中略)

「ヴラスカさんが、すごく大きく心にこれを映し出していて。聞こえてしまったことは謝ります」

「二度とやるなよ」

彼女はきつく言って、だがその視線は今も二人を取り巻く幻影の都市に釘づけになっていた。警告の鋭さに反して、その両目には郷愁の念が重く宿っていた。

彼女の感情を僅かでも悟らないよう、ジェイスは全力で自制した。

「俺も思い出せたらいいのに。世界一素晴らしい場所に思えます」

「世界一素晴らしい場所さ」 ヴラスカは呟いた。

ジェイスは溜息をついた。幻影をあまり長く見つめすぎない方がいい。

彼は都市の風景を消し、塔が大型船へと戻り、壮大な建築物が差し掛け小屋へ戻るのを見た。

幻影は消えた。だがヴラスカの表情には、警戒とともに驚嘆が残っていた。

彼女は美しかった。

だから、彼なりに尋ねた。

「ラヴニカのこと、もっと教えて頂けますか?」

彼女はジェイスへ向き直った。腕は組んだまま、口は堅く閉ざしていた。

「多分ね」

ジェイスは微笑んだ。待つのは苦でなかった。




変わりゆく先に

船に戻った二人は、再び喧噪の中に飛び込むことを検討したものの、我が家に留まることを決めたのでした。

ヴラスカがテレパスを知った時の感覚を聞くと、ジェイスは重々しく、人間の心の繊細さ、そしてそれに干渉できる自分の力の大きさを語ったのです。

ジェイスの心に去来した、記憶らしきもの。

男の顔をした巨体のライオンが、恐怖に両目を見開き、泣き叫んでいる光景。

彼の心にあったのは、明らかなる恐怖だったのでした。

ジェイスはかつて師匠と争い、これを斃した

「これまで、俺はどのくらい沢山の心を壊してきたんでしょうか」 彼はそう言葉に出した。

ヴラスカは不意に押し黙った。ジェイスの息が詰まった。

「ヴラスカさん……俺がやったことあるかどうか、知ってるんですか?」

ヴラスカを見ると、その両目は空に向けられたままで、唇は固く閉ざされていた。

(中略)

ジェイスは慎重に言葉を選んだ。

「生きることは、変化する状況に適応することです。自分というのは、そういう状況の変化から学んできたことの一つの蓄積です……俺達の力は、進む道を変える方法をくれます。自分というのは、そうなろうと決めたもの。これからなるものは、どう適応するかってことに左右されると思うんです」

気が付くと、ヴラスカが見つめていた。

顔がさっと赤くなり、星明りではそれが見えないことを感謝した。

波が船腹に優しく打ち寄せていた。

「お前、過去は本当にどうでもいいのか?」

ジェイスは自らへと肩をすくめた。

「そうでないと困ります。俺にできると思ったことができるなら、沢山の人を傷つけてきたってことになります。でも、未来だけが今の俺を作るんです。俺の選択がこれからの俺を作るんです」

ヴラスカはただ黙っていた。

 

しばらくの沈黙のあと、ヴラスカは小さく、静かに呟きます。

「お前みたいに忘れてしまえたらいいのに」と。

遠い視線、何かを思い出すような、思い出したくないものに触れるような、ヴラスカの表情。

ジェイスは不慣れな手つきで茶を淹れると、彼女へと手渡します。

その唇がわずかに笑みにゆがんだのをジェイスが見届けた時、長い沈黙を破ってヴラスカは話し始めたのでした。

 

ラヴニカは10のギルドで構成された世界。

アゾリウスはゴルガリを憎み、自分を含めたメンバーたちを痛めつけたのだと。

自分は一人で牢に繋がれ、終わらない暴力に苛まれたとき、自分は魔法によってそこから脱したと。

以来、『その者に相応しい死を』という言葉のみで、今まで生きてきたと。

ジェイスはその話の全てを憎み、胸が焼けそうになりながらも、黙って耳を傾けていたのです。

ヴラスカは、話の結びに、自分は正しいことをしたいということ。

それは、この探検の依頼者が約束した、ゴルガリ団のマスターとなることで実現できるということ。

過去のヴラスカには凄絶な背景がある

ジェイスは微笑んだ。

「ヴラスカさんは、それに欠かせないものをもう身に着けていますよ。最高の指導者は守るべき共同体を理解しているんです。俺が思うに、ヴラスカさんは素晴らしい指導者になる定めにありますよ」

その言葉を聞いたヴラスカは、奇妙なほどに悲しそうだった。

「ヴラスカさん……?」

「そんな事を言ってくれた奴は、今までいなかった」

(中略)

彼女はぼんやりとジェイスを見つめた。彼は続けた。

「今のその人を形づくるのは状況でも過去でもなくて、未来をどうするかっていう選択です。学んで、適応する力が今日の自分を作った、そしてそれが、これからなろうとするものへ続いている。ヴラスカさん、貴女の最高の復讐は、生きているということだけじゃなくて、ヴラスカさんを捕えた人たちが考えもしなかったような凄い何かに変わったことです。それがどれだけ凄いことか、わかりますか?」

ヴラスカは珍しい、はにかむような笑みを見せた。それは目尻にまで届いた。

「ありがとうな」 柔らかく彼女はそう応えた。

ジェイスは笑みを返した。

(中略)

「話してくれて、ありがとうございました。ヴラスカさんのことを知って、誇らしく思います」

(中略)

ヴラスカは歯を見せて笑った。ジェイスは頬が熱くなるのを感じた。

この人を傷つけたくはない。全く同じ瞬間に、二人ともそう実感していた。

その笑顔は心からの、率直なものだった。

「ジェイス。私も、お前を知って誇らしく思うよ」




今回はここまで

あああああぁぁぁぁあぁあああ!!!

 

もういいですね、はい。

ほんと尊いのよ。

ね、ほんと。

いやもう両想いですやん!!

結婚しろ!!!

ほんの数週間前まで、敵同士だったジェイスとヴラスカは、ここからイクサランの物語における運命共同体になります。

絆を深めた彼らは、オラーズカへと進み、そして新たな試練を迎えるわけです…!

 

さて、ジェイスとヴラスカの話がひと段落ついたところで、次からはイクサランのもう一人の主人公、ファートリのお話へと移ろうと思います。

ジェイス×ヴラスカはもちろん、イクサランにおいてはファートリ×アングラスもなかなかいい味を出しているコンビになります!

こちらもどうぞお楽しみに!!
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*出典*

MAGIC STORY 敏腕船長ヴラスカ

MAGIC STORY 変わりゆく先に

 

 

Posted by オクハラデン