【イクサラン】第11回 ファートリの旅立ち【ストーリー】
はじめに
ジェイスとヴラスカがボーラスの野望を打ち砕くための妨害工作をする一方。
時を同じくしてその「頭上」、不滅の太陽を「足元」にした場所には、彼ら以外の勢力が結集し秘宝を求めて争っていたのでした。
太陽帝国のファートリ、マーフォークのティシャーナ、吸血鬼のヴォーナ、そしてプレインズウォーカーのアングラス。
4人は足元の不滅の太陽を巡って争いをしていたのですが…。
ヴラスカの呪文が実行されたことにより、不滅の太陽はイクサランからその姿を消したのでした。
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太陽の消失
ファートリは突如消えた足元に驚く暇もなく、ヴォーナ、ティシャーナ、アングラスとともに、階下の部屋の地面へと叩きつけられたのでした。
息詰まる衝撃とともに、不思議と身体が軽くなる感覚。
アングラスの方に目をやると、雄牛頭の男は歓喜に震えていたのです。
アングラスは心からの笑い声を上げた。そして立ち上がると、部屋の全員を睨み付けた。
「この次元も、この都も糞くらえだ! お前ら全員、臓物ぶちまけて死んじまえ!」
その身体が温かく鮮やかな橙色に輝き、そして彼は叫んだ。
「二度と来ねえよ、馬鹿野郎共!」 そして去った。
ティシャーナ、ヴォーナは彼が消えたことに驚きつつも、不滅の太陽の消失がその衝撃を上回っていたのでした。
吸血鬼は怒りのままに部屋を出ていきます。
残された人間とマーフォークは、黄金の都の行く末を案じていたのでした。
やがてファートリは、自分の考えを伝えます
オラーズカは、誰のものでもない、共有されるべきものと。
彼女はこのことを太陽帝国の皇帝へと進言し、川守りもその話し合いに応じてほしいと。
ティシャーナの表情は読めなかった。長く息をついた後、彼女は頷いた。
「ええ。川守りは話し合いに応じます」
ファートリは頭を下げた。
「ありがとうございます、ティシャーナさん。後ほどまたお会いできますよね」
「ええ、きっと。戦場詩人さん。皆が皆の物語を語る助けとなりなさい」
「そうします。お元気で、またお会いしましょう」
帝国の意志
オラーズカから目覚めた古の恐竜に騎乗し、ファートリは都へと戻ります。
旅を終えた今、彼女にとって故郷の都は、不思議とひどく小さく見えたのでした。
太陽帝国に降り立ったファートリは、仲間からの祝福と激励を受けます。
「三つ首の恐竜に乗って帰ってきたなんて、地位を貰うだけじゃ足りないよ! あの兜をかぶるまで帰ってきたら駄目だからね、戦場詩人様!」
「ファートリ、成し遂げたんだろ! 自分こそが英雄だって陛下に伝えてきなよ!」
そして、皇帝は誇りを持ってファートリを迎えたのでした。
目の前の卓には、戦場詩人の兜。
ファートリは悲願であったその兜を手に取り…。
しかしそこで、奇妙な感覚が彼女を襲います。
その兜は輝く鋼と温かな黄金色の琥珀で作られていた。美しいものだった。
そしてようやく、自分のものになったのだ。長年の学び、越えてきた試練、それらは全てこの華麗で物々しい品のためだった。
だが自分は十代半ばの頃にはあらゆる物語を知り、十八の頃には何十人もの敵を打ち負かした。
そして今、望むならばここではない世界へ行けるのだ。
地位のような小さなものを得たところで、それ以上の何があるのだろう?
オラーズカに至る物語を要求する皇帝に、ファートリはありのままの記録を語ります。
そして、彼女は川守りとの平和協定を進言したのでした。
しかし、皇帝の顔はすぐれないままです。
やがて彼は、ゆっくりと、慎重に言葉を発したのでした。
「それは、私が明日そなたに語ってほしい物語ではない」
ファートリは息をのみ、頷いた。皇帝はそう反応するだろう、そう思っていた。
皇帝は、なおも征服と領地の拡大が第一優先であると語ります。
そしてその言葉を聞きながら、ファートリは、自分の中に明確に怒りの感情があることに気づいたのでした。
「この国に平和がもたらされる機会なんです!」
(中略)
「式典は予定通りに行われる、だが演説は無しだ。オラーズカにて何が起こったかは私が民に伝える」
(中略)
「ファートリ、これは太陽帝国の今後のためなのだ」 アパゼク皇帝は背を向けると私室へと歩きだした。
「式典は明日の正午に行われる。家族へと良い知らせを持って行くがよい」
彼はそれ以上の言葉なく立ち去った。
ファートリは戦場詩人の兜を見下ろし、憤った。そして背を向け、階段を下りていった。
外の世界へ
ファートリが向かったのは、叔母と叔父の家。
彼女の冒険譚を聞いた家族が魅了されたのは、意外にも次元渡りの話だったのでした。
最初は信じきれなかった家族も、ファートリが突如姿を消し、見たこともない岩を持ってきたとき、場は興奮に沸いたのです。
叔母の歓声が答えた。
「あなたはこんな所で、皇帝に飼われているべき存在じゃありません! ファートリ、そこへ行くんですよ!」
「君は物語と歴史を集めるんだろ!」 口一杯に食べ物を詰めたまま、インティが言った。
「もっと沢山他の場所へ行けるのに、ここの物語だけを集めることなんてないじゃないか?」
家族内で上がる同意の声。
インティは皇帝とのやり取りに不満をにじませつつ、ファートリの背中を押します。
「君の運命があるのはここじゃない」と。
彼女は深く溜息をつき、頷いた。「一週間くらい行ってこようかな」
叔母がいそいそと立ち上がった。「荷物をまとめておくわね!」
インティは料理を袋に詰めはじめた。「食糧が要るだろ」
叔父と、一人のとりわけ大胆な従弟が決意に拳を握りしめていた。
「戦場詩人の兜を手に入れてくるまで、待っててくれるかな!」
ファートリは混乱した。
「でも私すぐ戻ってくるから!」 だが続く言葉は家族らの興奮と狂乱に飲み込まれた。
それからは、あわただしい数時間。
彼女は家族たちと抱擁を交わし。
家族は神殿へ忍び込んで戦場詩人の兜を回収し。
出発の前には、それぞれに異なる挨拶をしたのでした。
最後に出立を告げる相手はインティだった。彼はファートリの頭の兜を直して微笑んだ。
「君は戦場詩人だ。物語を集めるのが役目だ。それに僕らの物語も、僕らだけのものじゃないよね」
インティは笑みを向け、一歩下がった。
ファートリは旅装の紐を握りしめ、微笑みを返した。
「みんな、元気でね! すぐに帰ってくるからね!」
家族らが手を振り、ファートリは内なる灯へと呼びかけた。
視界が真昼の太陽の光に輝き、そしてファートリは異なる世界へと足を踏み出した。
今回はここまで
いやぁ…ファートリの物語もイイですよねぇ。
初めからプレインズウォーカーとして活躍している英雄たちの物語も良いですが、突如としてプレインズウォーカーとして覚醒した初々しい英雄たちの物語もそれはそれで良いものです。
太陽帝国のため、そして戦場詩人という立場のために生きていたファートリは、プレインズウォーカーとなり、広大なる世界を知ったことにより、図らずもアングラスの言う通り、イクサランという世界に固執しない生き方を選ぶことになります。
このあたりも、彼らの「良いコンビ感」を演出してますね!
さて、ファートリはこの後、どこに次元に向かうのか!
そして太陽帝国の行く末は!
などなどの後日談のお話は、次の回で!
イクサランの物語も最終回ですね~。お楽しみに!
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