【破滅の刻】第6回 サムトの灯の覚醒【ストーリー】

2022年3月21日

はじめに

ついに王神ニコル・ボーラスがアモンケットに降り立ち、ハゾレトはその圧倒的な力を前に瀕死に追い込まれます。

ボーラスの手駒となっていたバントゥ神も、その手にかかり斃れてしまいました。

一方、サムトは群衆を鼓舞すると、残された神を守るべく街へと駆けるのです。




目次

サムトの激励

サムトが振り返ると、自分についてきた者たちはもう4人しか残されていないことに気づきます。

終わりのない永遠衆の軍勢によって、他はすでに命を落としてしまったと。

そして、デジェルも奮闘の末、かつての英雄であった永遠衆に命奪われかけた時。

閃光とともに、”余所者”たちが乱入し、永遠衆の息の根を止めたのでした。

デジェルは立ち上がり、片手でギデオンの背を叩いた。

「今日、貴方に救われたのはこれで二度目ですね。あの時は怒りましたが、今は、感謝します」

 

ボーラス打倒を目指すゲートウォッチに、サムトは自分もついていくと宣言します。

しかし、それを止めたのは他ならぬデジェルでした。

自分たちよりもずっと強い彼らを邪魔してはいけない。

我々がやるべきことを、今はやるべきだと。

「この人達はきっと王し――あの侵略者を倒してくれる」

デジェルは遠くの双角を、その間隙の頂点に座す副陽を見た。

「私達は私達の目的を貫くべきだ。アモンケット最後の神を見つけて、守って、そして街の人々を守る」

サムトはデジェルを睨みつけ、そして溜息をついた。彼女はデジェルの腕を掴み、抱き寄せた。

「また一緒にいてくれてありがとう、デジェル」

彼女は五人の余所者を見た。見知らぬ印を持ち異質な力を振るう者達。彼らが信じられるのか、もしくは侵略者を倒す力があるのかはわからなかった。彼女は五人それぞれと目を合わせ、そして口を開いた。

「あいつが皆に、神々に、世界にした事の報いに――殺して。あの強すぎる破壊者を、ドラゴンの侵略者を、ニコル・ボーラスを殺して」




蠍の神の最期

ハゾレト神の元へと向かう道中。

サムトと、ハゾレト神の侍臣ハク、そして新たに加わった一団が目にしたのは、ロナス神の死骸。

全員が息をのみ、膝をつき、現実を否定するように手を伸ばし…

しかしなおも横たわるその姿に、ある者は泣き、ある者は叫び、ある者は無言で悲嘆に暮れたのでした。

再びの怒りがサムトの胃袋に沸き、彼女はロナスの死骸へ近づいた。数人の唖然とした声を無視して彼女はその胸によじ登り、そして立ち上がった。

「兄弟姉妹よ。悼みましょう。けれど耐えてみせましょう。王神があなたを試していると思うなら、私を倒してそれを証明しなさい。王神が私達を騙していたと思うなら、明日のために私とともに戦いましょう。私達はロナス様がその教えと試練を通して与えて下さった力の担い手なのだから!」

取り囲む生存者らは一斉に声を上げ、彼らの表情は悲嘆から怒りへと変わった。

人生は続く

やがて彼らは、ハゾレトの元へとたどり着きます。

しかし、そのハゾレトも、すでに満身創痍であることが見て取れたのでした。

槍にもたれかかるようにして立ちながらも、その魔法によって、蠍の神を炎の罠にかけたのだと仲間のハクは語ります。

が、その罠すらも越えた蠍の神は、一歩一歩ハゾレトへと近づくと、その針は彼女の体を捉えたのでした。

サムトは本能のままの叫びを発して疾駆した。恐怖と怒りと苦痛と悲嘆が一つの力に融け合った。背後で、ハクと他の魔道士らが呪文を唱えはじめたことに微かに気付いた。目の前には、蠍の神のありえない巨体がそびえていた。

彼女は小さかった。取るに足らなかった。

だが気にしなかった。

両脚に魔力を流すと、本能がサムトを支配した。

 

朱雀のように蠍の神の体を駆け巡り、手に持つ武器で傷を負わせていくサムト。

そして、サムトは神を誘導すると、デジェルは縄でその足をかけ、乱立するオベリスクへと倒します。

鋭利なる建造物に貫かれながらも、神はまだその動きを止めずにいるのでした。

「我が子らよ、感謝する」

ハゾレト神が片脚を引きずって蠍の神へと近づいた。

(中略)

「其方ら皆、私が願う以上のことを成してくれた。いかなる定命が成してきたよりも。だがこの責務は私が自ら終わらせねばならぬ」

(中略)

巨体の獣を見下ろしたその顔には涙が光っていた。

「其方は我が兄弟姉妹を殺戮した。だがそれは其方の望みでも企みでもないことは知っている。同胞よ、安らかに。我が炎がその姿と暗黒の枷から其方を解放せんことを」

そして躊躇なく、ハゾレト神は二又の槍で蠍の神を貫いた、オベリスクが甲殻から突き出たその場所を。熱のさざ波が発せられ、そして黒煙が蠍の神から渦巻いて上がった。

身体の内から燃やされて外殻が内側へと崩壊し、その神は燃えがらと灰に帰した。




サムトの灯の覚醒

悪神を滅ぼしたハゾレトは、サムトをその目で見とめます。

そして彼女の前まで進むと、膝をつき感謝を述べたのでした。

『其方無くしては成し得なかった。我が愛し子よ、其方が、私の火急の時に守ってくれたのだ。』

『我が心は其方と共に。ありがとう、サムト、試練を超えた者よ。其方は試練の先を見て、その先の闇を打ち負かしたのだ』

抑えのきかない喜びの涙がサムトの頬を伝い落ちた。誇り、力、そして神への限りない愛が身体に溢れた。

 

その瞬間。

サムトは自分の魂に、灯が灯るのを感じたのでした。

体から溢れる膨大なエネルギーと、空間を落ち続けるような感覚。

気づけば、彼女は見知らぬ草原に立っていたのでした。

サムトは唐突に理解します。

ここはアモンケットではないと。

ここは…どこか別の世界。

思い出したのは、自分を助けてくれた「余所者たち」の顔。

 

サムトはすぐに自分の中の希薄な魔法を引き出すと、神を守るべく再びアモンケットへとプレインズウォークします。

他の人たちが理解できない事態に眉をひそめる中、ついに始まったボーラスとプレインズウォーカーたちの戦いを遠目に、ハゾレトは口を開きました。

「我等は不屈だ」

生存者らはハゾレト神へ顔を向けた。

(中略)

「我が子らよ。今はただ耐え、命を繋ぎ、生き延びよ。砂漠へ向かい、砂と蜃気楼の中に隠れ処を見つけよう。そして私がアモンケットの一柱として生き続ける限り、其方らを守ろう」

「私達も、貴方様をお守り致します」

デジェルはハゾレト神の前にひざまずき、拳を胸に当てた。一人また一人と、他の生存者らも続いた。

ハゾレト神は悲しげな笑みを浮かべ、そしてサムトを見下ろした。存外の勇者、真実を見た子、あまりにも熱く神々を愛するゆえ、あえてそれに背いた者。

そしてハゾレト神は彼方の砂へと行軍を開始した。民はその後に続き、ドラゴンの侵略者はナクタムンの廃墟の中、その見えない敵へと降下していった。




今回はここまで

すでにこの時点で美しい終わり方なアモンケットの物語。

死を肯定していたハゾレト神は、王神の呪縛から解き放たれることにより、逆に死から定命を守る存在へと戻っていく。

神という存在のカッコよさが際立つラストです。

 

余談ですが、サムトがプレインズウォーカーとして目覚めた時は、以下のように描写されています。

周囲の砂漠の大気は突如として冷たい微風にとって代わられ、気が付くとサムトは見知らぬ草原に立っていた。その植物は足元で波打っていた。

サムトは顔を上げたが、見たものを正しく解釈することができなかった。

空に太陽はなかった――事実、その世界は不思議な暗闇に覆われており、遠くの宝石のように踊りきらめく奇妙な光の斑点が散在していた。不思議によじれる色彩の模様がその空に踊り、幾つかの光点は他よりも眩しいように見えた。サムトは目をこすった。長く見つめていると、それらは奇妙な模様らしきもの形作るようで、光の繋がりはまるで……まるで馴染みある形を作るようで、まるで記憶のすぐ外側に居残った思考のように、もしくは忘れられた夢の破片が囁くように……

サムトは不思議な空から目をそむけ、自身の周囲を見た。遠くに幾つかの建物の黒い輪郭が見え、そのまっすぐで堅固な建築様式が把握できた。風は足元で草と踊り続け、音楽的とすら感じる風音が皮膚を撫でた。馴染みない香りが鼻をくすぐった。

 

この表現の素敵ポイントが理解いただけますか?

サムトはアモンケットで生まれたため、「夜」という概念が理解できないのです。

そのため、星空というものに理解が及ばず、「不思議な暗闇に覆われており、遠くの宝石のように踊りきらめく奇妙な光の斑点が散在していた」という表現になるのですよね!

細かい!描写が細かいよMTG!素敵!

おそらく彼女の初プレインズウォークの次元は、夜空に神を見るテーロスだと思うのですが…真相はどうなのでしょうね?

 

さて!次回ついにアモンケット最終話!

ニコル・ボーラスvsゲートウォッチの最終決戦をご紹介します!

お楽しみに!

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*出典*

MAGIC STORY 破滅の刻 不屈