【破滅の刻】第7回 ゲートウォッチの敗北【ストーリー】
はじめに
サムトの尽力により、アモンケットの神を滅ぼし続けた蠍の神が斃れます。
そして、ハゾレトと定命たちは、生きて侵入者に抵抗するべく、都市を離れ砂漠の地へと向かったのでした。
アモンケットの命運を、力を持つ「余所者」に託して…。
強者は見下ろす
5人の英雄たちと対峙したボーラスの胸中にあったのは、「失望」。
ゲートウォッチなる名前を自称し、うぬぼれる集団。
統制の取れない、遅々とした動き。
感覚を伸ばすと、ジェイスが精神的伝達で何らかの指示を与えていることに気づきますが、もはやそれを傍受する気も起こりません。
彼らの立てる何らかの作戦を、知らぬまま楽しむほうがよいと。
やがて動き出した彼らの計画に、ボーラスは絶望的な結末を与えるべく翼を広げます。
彼らの全てを打ち砕く、敗北の結末を。
彼はこのプレインズウォーカー達がいかにしてここまで生き続けてこられたかに驚嘆した。
このプレインズウォーカー達は、ゲートウォッチは、文明化した、牙を失った世代の子供らなのだ。待ち受ける危険を、自分達を殺そうと待ち受ける危険を……もしくは更に悪いものを知るよしもない。真の力を持たぬこと自体が、いかにしてか彼らを死の可能性からこれまで守ってきた。もしくは真の力がどのようなものを知らぬがゆえに。
彼らのうちリリアナ以外は、真の力の味を知らぬのだ。
ジェイスの敗北
ジェイスの胸中にあったのは、「怖れ」。
一日にこれほどまで死を目撃したのは、ジェイスにとって初めての経験でした。
彼は計画を立て直し、考えなしにボーラスに立ち向かうことを避けようと進言しましたが、ギデオンの怒りがそれを許さなかったのです。
『本気か?』
最後に一度、ジェイスはギデオンへと尋ねた。もっと良い作戦があることを願って。
『全力で当たる。そして倒す』
ギデオンが思考を返した。ギデオンの意識の下層流にこれほどの怒りを感じたことはなかった、普段通りの不屈の決意に包まれたそれを。ジェイスはその流れに押し流され、信じようとした。自分達は今日、勝てるかもしれないと。
ゲートウォッチのそれぞれが戦闘態勢に入る中、ジェイスはボーラスへ精神攻撃を仕掛けます。
そして彼は、今まで出会ったことないほどに隙の無い精神を見たのでした。
翻って、ドラゴンの攻撃によりあっけなく破れゆくジェイスの精神防壁。
一縷の望みをかけて撃ちだした精神攻撃は、あえなく逸らされ…
それを待っていたドラゴンは笑みを浮かべた。
突き放そうとするジェイスの精神を、ニコル・ボーラスは掌握した。あまりに容易くボーラスの策略に落ちたことに青ざめながら、彼は激しい苦痛にうずくまった。何とかしなければ。まだこの罠から逃げられる、ただもう少し時間があれば、数秒、ほんの数秒あれば……
『その数秒はない』 ボーラスが心の内へと囁いた。
『多元宇宙は愚か者を長く生かしてはおかぬ。有用な教訓となろう、生き延びられるのであれば』
ドラゴンはジェイスの心を乱暴に掌握したまま、握り潰した。
神経繊維が砕けた。苦痛が弾けた。狂気が手招いた。
遠くに暗黒の波が立ち上がった。その直撃は崩壊を、精神の死を意味した。
無意識に、彼はやみくもに次元渡りを開始した。行き先はわからず、気にもしなかった。その暗黒から逃げねばならなかった。
暗黒の波に打たれた瞬間、自身が久遠の闇へ引かれたのを感じた。
そして、何もわからなくなった。
リリアナの敗北
リリアナの胸中にあったのは、「衝撃」。
ジェイスが上げていた悲鳴は、屍術師リリアナにとってなじみのあるそれ。
死に向かうもの、終わりを拒むもののそれ。
彼女には、自分たちがボーラスと戦える状態でないことはわかっており、ここに留まることを選んだ自分の選択をすでに後悔していたのでした。
「リリアナ・ヴェスよ、喜ばしい再会だ。そなたの顔色は実に……健康的だな」
ボーラスはその恩着せがましさを隠そうともしなかった。
彼女の指が鎖のヴェールへと震えながら伸びた
「殺してやるわ、ボーラス。お前が死ぬのを見て、お前の屍を使って――」
「止めぬかね」 ボーラスは彼女の言葉を遮った。
「こやつらは生まれる前から既に敗北していたのだ。わかっておろう。おぬしだけが、真の力とは何かを知っておる。おぬしだけが、真の力で再び何が叶うかを知っておる」
それは、まぎれもない事実。
そして誰よりも、リリアナはわかっていたのでした。
ここにいるも誰も、この場でボーラスを討ち滅ぼすことはできないと。
ボーラスは背筋を伸ばし、その巨体が今一度彼女ら全員を圧倒した。
「リリアナよ、去るがよい。生きたくば逃げよ。多元宇宙でも最も安全な場所とは、我がおぬしを利用できる場所だ」
(中略)
皆にどう告げるべきかはわからず、だが何にせよやらねばならなかった。止めるよりも早く、言葉が出てきた。
「一緒に来なさい。私達は負ける。わかるでしょう? このまま勝つことなんてできない。立て直して、ジェイスを見つけて、何か他の手段を探すのよ」
ボーラスがその言葉を聞いていても気にしなかった。このまま彼女らに勝機などないとドラゴンも判っており、この先にもありえると信じているわけもなかった。
(中略)
「お願いよ。ここにい続けたら死ぬわ。そうじゃないでしょ」
哀願するような言い方は嫌だったが、言葉が出るにまかせた。
誰も返答しなかった。
リリアナが感じたのは、チャンドラの失望、ニッサの不信、そしてギデオンの激怒。
その感情は彼女に、ここから一人で立ち去るべしと告げるものでした。
彼女はボーラスへと向き直った。
「どこへ……私はどこへ行けば良いの?」
そして気詰まりに言葉を呑んだ。皆に聞かれるのが辛かった。
「やめてよ!」 チャンドラが悲鳴を上げた。
「どうして! みんな信じてたのに! 私だって信じてたのに!」
チャンドラの髪と両手が新たな炎に燃え上がった。
私がどんな存在かは知ってるでしょう、だがそれを大声では言えなかった。
「構わぬ、去るがよい。我が探し出す。そして後程話そうではないか。議論すべき有用な物事は多いのだからな。リリアナ・ヴェスよ、今は去るがよい」
常に、選択の果てに辿り着いてきた。またも裏切り。またも失望。またも罠。それは死者の中に見出すならば快適なものだった。彼らは裏切られない。失望もしない。その目に痛みと怒りを抱いて見つめ返すこともない。
(中略)
彼女は暗黒のエネルギーのもやで身を包み、虚空へと消えた。
最後に、世界の間の無へと、涙の雫が落ちた。
チャンドラの敗北
チャンドラの胸中にあったのは、「嫌悪」。
自分で焼きつくせない恐怖も悲嘆も心の痛みも嫌。
尊大に自分を見下ろすドラゴンの存在が嫌。
友のふりをしてあっけなく裏切った屍術師が嫌。
そして何より……敗北が嫌。
「チャンドラ・ナラー。おぬしには実に多くの有用な特質がある。強力で、感情的に不安定だ。容易に操ることができ、予測不能さを斬新なほどに予測可能だ。それを役立ててやろうではないか」
ボーラスの声が虚ろな大気に轟いた。私は操りやすくなんかない、彼女はそう思い、怒りが増した。炎が夜空を照らし出した。
「だが炎でドラゴンに対抗するというか? ドラゴンに。我こそ炎の規範であるぞ」
ボーラスは更に高く舞い上がり、翼を大きく広げた。
ドラゴンの急降下に、ニッサの呼びだした根や棘、そしてチャンドラの巨大な炎も空しく、彼女は岩へと激突します。
耐え難い痛みをかばう暇もなく、追撃をかけるボーラス。
ドラゴンは鉤爪でチャンドラを掌握しながら、ニッサの攻撃を叩き落としていくのでした。
それでも、遠くで立ち上がるニッサの巨大なエレメンタルを視界の端にとらえ、最後の希望を託します。
「よかろう、我は少々寛大すぎたようだ。我は『只の』ドラゴンではない」
ニコル・ボーラスが強調した一語がチャンドラの耳に届いて消えるや否や、黒い触手が地面から湧き出し、ニッサの胸と喉に巻き付き、締め上げた。彼女はその掌握の中で激しくもがいた。
駄目、駄目、駄目、私がやらないと……。
チャンドラはニッサへと一歩踏み出し、そして痛みに悲鳴を上げた。動くのがやっとだった。
ニッサは彼女を見て叫んだ。
「行って! 逃げて!」
触手は攻撃を止めず、ニッサが魔術でそれを千切るも更なる触手が伸びて加わった。
「嫌……」
チャンドラは咳こんだ。それは血が混じっており、足元の瓦礫に赤い飛沫が散った。彼女は立ち続けようと、嘔吐をこらえようとした。ギデオンはどこ? 辺りに彼を探そうとして、数秒間気を失ったことに気付いた。
ニッサが再び叫んだ。
「行って! 私は大丈夫だから! あなたは死んじゃう、早く!」
ギデオンは見つけられなかった。ニッサを救えなかった。ドラゴンを倒せなかった。意識を保ち続けることすらできなかった。
ここにいたら、死ぬ。死にたくはなかった。燃え立つ炎の中で彼女は次元を渡った。彼女の唯一の痕跡、瓦礫に散った血もまた、炎の熱で蒸発した。
ニッサの敗北
ニッサの胸中にあったのは、「安堵」。
チャンドラは致命的な傷を負いながらも、この場を離れることができた。
しかし、翻って自分自身は、生きるのが精一杯な状況だったのです。
ニッサはついにこのアモンケットの地を掌握し、意のままに大地を操れるまでに至ったのでした。
この大地を通せば、何らかの勝機が得られるかもしれない。
腐敗して油ぎったニコル・ボーラスの思考が、彼女の脳を貫いた。
『この大地はおぬしのものではない、エルフよ、我がものだ。触れるでない』
彼女が掌握しようともがいていた力線から、闇と死のエネルギーが弾けた。荒廃が彼女を貫き、肉と内臓を縮ませた。ニッサは苦悶に悲鳴を上げた。
彼女は今や真実を学んだ。
勝機などない。この大地は遥か昔にその主を知り、ニコル・ボーラスへと降伏した。逃げなければならなかった、逃げなければ、だが荒廃の触手が放さなかった。
大きく笑みを広げ、ドラゴンがゆっくりと近づいた。
「偽りの時は終わった。ニッサ・レヴェイン、おぬしは始まりの始まりを目撃する機会に恵まれた。滅多な定命には得られぬ報酬ぞ」
低く、そして激しく、何かがドラゴンを横から弾いてよろめかせた。ギデオン、だが締め付ける触手で自身の呼吸すらままならない状況で、彼を救う手段を考える余裕はなかった。ギデオンの介入を利用し、彼女は世界の死骸から逃げ出した。
ギデオンの敗北
ギデオンの胸中にあったのは、「激怒」。
この状況よりも、これをもたらしたドラゴンよりも、全てに無力な自分への憤慨。
灯に目覚めた日…自分の判断で全ての友を失ったあの日から、絶対に友は失わせないと決めたはずだった。
しかし、ジェイスはあえなく敗れ、リリアナが甘言に乗り、ニッサとチャンドラが敗走するのを、自分は黙って見ていることしかできなかった。
ギデオンはボーラスの鉤爪に捕らえられながら、失意の底にいたのでした。
ボーラスはいともたやすくギデオンの不死の盾を貫きながら、笑みとともに告げます。
「おぬしがいかに惨めであり、無力であるかを心せよ。感謝せよ、我はどうでも良いのだ。選択せよ。留まり死ぬか、逃げて生き延びるか。我はどちらでも構わぬ」
ドラゴンは新たな傷のように笑みを広げた。
(中略)
留まり死ぬか、逃げて生きるか。そして学び、戦うか。ボーラスにとってはギデオンの選択など、どうでも良かった。最終的に、ドラゴンの無関心が彼の選択を決定づけた。それが間違いだったと、いつか証明してみせよう。
彼は久遠の闇へと身体を滑らせた。ドラゴンが肩の左に貫いた穴が、唯一にして最大の傷だった。
今回はここまで
ゲートウォッチ敗北…!
ゼンディカー~カラデシュに至る、結束!勝利!とは全く違う結末となりますが…
これはこれでイイですよね!!!!
各人の敗走シーンは、心痛む場面ながらも、英雄としての意地を感じさせます。(精神崩壊して消えたジェイスを除く)
特に、再三の裏切りに自分を疎みながらも、その選択肢を取らざるを得ずに敗走するリリアナのシーンがメッチャ心に来るものがありますね。
彼女は暗黒のエネルギーのもやで身を包み、虚空へと消えた。
最後に、世界の間の無へと、涙の雫が落ちた。
ここで敗北を叩きつけられた英雄たちは、この後のイクサラン、ドミナリアを経て、ラヴニカ三部作最後の灯争大戦にて再度ボーラスと相まみえる事となります。
敗北があってこその、得られる勝利!となり、このアモンケットと対応する形で様々なストーリーカードが収録されるわけですが…それはまた別の機会に
さて、次回はアモンケット総集編と、フレーバーテキストのご紹介をば!
お楽しみに!
☆Twitterで更新情報発信中!フォローお願いします!
Follow @okhrden_mtg
【関連記事】
*出典*
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません