【ストーリー】大天使アヴァシンの最期 前編

2021年4月15日

目次

はじめに

前回からイニストラードのご紹介を始めており、まず最初にこの次元の巨悪となるエムラクール襲来の背景ストーリーをご紹介しました。

敵は来たぞ!

さぁヒーロー立ち上がれ!!!

 

…と、いきたいのですが

 

その前に!

イニストラードのお話と言えば、これを語らずにはおれない!!

この次元を守る大天使アヴァシンの物語!!

…を、ご紹介します。

 

アヴァシンの誕生から帰還まで

一応「イニストラードを覆う影」の物語紹介としたいため、それに至るまでのアヴァシンのストーリーは要約してご紹介します。

ソリンのおじいちゃんであるところの、エドガー・マルコフによって、イニストラードに吸血鬼という種族が生まれ、ソリンもこの祖父の影響で吸血鬼となります。

 

そして、吸血鬼が人間の血を求め、それらを捕食していくあまり、人間が大幅に数を減らしてしまったのでした。

大天使アヴァシンは、そんなイニストラードの均衡を守るため、ソリンより生まれた大天使であり、次元の守護者です。

破壊不能を付与する守護天使

 

彼女の至上命題は、イニストラードの人間を守ること。

アヴァシンと、彼女の妹にあたるシガルダ、ギセラ、ブルーナの三大天使の活躍により、人間たちは再び繁栄を遂げます。

 

人間は、守護天使アヴァシンを神格化するようになり、彼女を信仰する「アヴァシン教会」といった宗教までできるに至ったのでした。

大人気サリアさんも、アヴァシン教会の一人

その後、悪魔を獄庫へ幽閉するお仕事をしたり、最強悪魔グリセルブランドと戦ったり、その戦闘の中で自分まで獄庫に閉じ込められたり、グリセルブランドを倒したいリリアナによって獄庫が破壊され『アヴァシンの帰還』したりとまぁいろいろありましたとさ。(ざっくり)

アヴァシンの帰還

 

さて、アヴァシンは獄庫からの帰還後、変わらず彼女は人間の守護者となるわけなのですが、イニストラードの大天使は、自分に去来したとある「変化」を感じ始めるのです。

ここからが、「イニストラードを覆う影」の物語。

狂気に蝕まれる大天使のお話、はじまりはじまり…。

 



アヴァシンに響く声

「メイリ!メイリ!」

その日アヴァシンに届いたのは、一人の人間の女性の悲痛な声。

あまりにたくさんもの祈りが届く中、彼女が直接それを聞き届けることは少なかったのですが。

子を想う母の純粋なる恐れは、アヴァシンを向かわせるには十分な理由になったのでした。

子どもを呼ぶ声の主の女性がいたのは、暗い森の外。

「請願者よ、私を呼びましたね」

アヴァシンの口調は穏やかで安心を与えるようで、だがその女性は突然の恐怖に振り返り、そして自身が目にしている存在を認識した。

 

「アヴァシン様! 来て下さった! 来て下さったのですね! 私の子が! お願いです!」

その女性は狂乱しており、彼女を宥めて何が起こったのかを聞き出すにはしばしの時を要した。

彼女の子供が家から飛び出し、森へ入っていったのだと。

アヴァシンが帰還して以来世界はずっと安全になったとはいえ、世界は今もまだ安全ではない、特に子供達にとっては。

この母親は自身で子供を探しに森へ入ろうとするも、共に死んでしまうことを怖れていた。

自分が子供を見つけよう、アヴァシンはそう母親を安心させた。

 

アヴァシンへの祈りの声を頼りに、彼女は森の中から小さな男の子を助け出すと、その子を母のもとへと届けたのでした。

親の元にたどり着け、安心で泣きわめく子。

子の無事を確認し、おなじように泣く母。

これがアヴァシンの求めていたものでした。

恐怖が消える、幸せが生まれる。

これが彼女の存在理由だと。

安堵の再会を迎えた二人を背に飛び立とうとした、その時。

 

アヴァシンは、暴力的なまでの「揺らぎ」を感じたのでした。

 

ひどい頭痛。

ぶれる視界。

地面に伏す自分の身体。

そして、頭の中に響く声。

『人の種は腐っている』

アヴァシンはその思考が何処から来たのかはわからなかった。

それは祈りのようで、彼女の脳内へと意図して送られたようで、だがそれを伝えた定命はいなかった。

『人の種は腐っている』

アヴァシンはその子供を注意深く見つめ、当初は無辜だと思ったそこに今や違う詳細を目にした。

疱瘡の皮膚、鼻水を垂らし、かさぶたと腐敗した固い皮。過ちを認め、哀れに安心を求めてめそめそと泣く顔。

次に彼女は母親を見ると、その怒りの顔は既に和らいでおり、むせび泣く子供をなだめていた。

定命というものは怒りから自責へと心変わりし、それを繰り返し、果たして終わるのだろうか?

子供を見ると、そのむせび泣きは収まっていなかった。

この定命の人生とは何と短いのだろう。

今日はこの小さな子供の姿。明日には大人となり、汚らしく、無骨に、怒りと残酷さを振りかざすのだろう。

その後肉体は身をよじる虫に、虫は塵の中にのたうち……

 

アヴァシンは、何処からか去来する思考に、自らの心が捕らわれていくのを感じたのでした。

そして、その逃げ場を探すように、その場を離れます。

 

『人の種は腐っている』

 



偉大なる行い

アヴァシンの妹分が一人、シガルダは一つの疑問を抱えていました。

アヴァシンが帰還して以来、以前のような平和と繁栄の時代がやってきた。

が、ここ数週間にわたって、暴動、失踪、殺戮といった不幸がところどころから聞こえてきたのです。

彼女には、その理由が何なのかわからなかったのでした。

 

そんな中、シガルダは同じく姉妹分であるギセラ、ブルーナと対面します。

「こんにちは、姉さん」 ブルーナが言った。その声に奇妙な陽気さがあった。

「私達の召喚に応えなかったでしょう」 ギセラが言った。

(中略)

「別の仕事に忙しかったの。急ぎの用事だとは思っていなくて。どうすればいい?」

天使達が攻撃されたのかもしれないとシガルダは訝しんだ。だとしたらブルーナとギセラの苛立ちにも納得がいく。

「それはもう大丈夫、今はね」 ギセラが言った。

「私達が来たのは」 ブルーナが続けた。

シガルダの私室へと着地する際、二人は肩が触れるほど寄り添っていた。だが今は部屋の中で距離をあけ、彼女を挟むように動いていた。

そしてブルーナが杖を、ギセラが二本の剣を持つ様子に、シガルダは自身の鎌を持っていないことを強く意識した。階下の部屋に置いてきていた。

ここで何が起こっているの?

「私達はただ……」 ブルーナが切り出した。

「話をしたくて。シガルダ、長いこと会っていなかったから」 ギセラが言い終えた。

 

ギセラとブルーナは、自分を攻撃してくるのだろうか?

そんな疑問が頭をよぎるような緊張感。

そして、外で雷鳴が響いた時。

ブルーナとギセラ以外にもう一人。

目の前にはアヴァシンの姿があったのでした。

「シガルダ、偉大なる行いがまもなく行われようとしています」

アヴァシンの声は奇妙に早口だった。その喋りはわずかな息の音か、雑音と言ってもよかった。

当初、アヴァシンの姿は普段通りだと思ったが、シガルダは奇妙なことに気が付いた。

アヴァシンの槍の先端の金属が歪んでいた。

 

「偉大なる行い」とは何なのか?

シガルダは自分の不案内を詫びながら、アヴァシンへと問います。

アヴァシンは奇妙なほどの早口で、滑るように話し始めます。

原初、自分たちは吸血鬼、狼男、悪魔のような怪物を粛清してきた。

それは破壊し、略奪し、貪るからだと。

「あれらの罪により、私達は罰し、殺してきました。ですが今や人類の罪は、それと同じです」

そしてアヴァシンは微笑んだ。シガルダはアヴァシンを知って千年が経つが、彼女が笑みを見せたことはなかったと気付いた。

それは愛らしい笑みではなかった。顔の他の場所と、両目とは完全に切り離されていた。

それはまるで、幸福や喜びを感じることなく何らかの無意識な反応が彼女の唇の端を歪めさせたようだった。

アヴァシンの声は次第に大きさを増し、言葉は更にはっきりとして、不明瞭さは消えていった。

「あれらは不浄の中に増え、新たな下僕を作り出しては森を破壊し、水を汚し、あれら同士で嘘を吐き、騙し、殺し合っています。果たして我々が守るに値するのでしょうか? それは偉大なのでしょうか? 私達はこの世界の『怪物』となるものを最後の一匹まで殺すでしょう、あらゆる吸血鬼と狼男と、その後には何が起こるのでしょう? 平和はあるのでしょうか? 永遠の光があるのでしょうか?」

アヴァシンはシガルダの表情に混乱と、嫌気を見た。

彼女は笑った、耳障りな高笑いのような声だった。

「シガルダ、あなたは答えをわかっていますね。真実をわかっていますね」

 

シガルダも、その考えを理解できないわけではなかったのでした。

確かに人間は愚かな行動に走りがちである。

しかし、それと同時に愛し、作り上げることのできるのが人間ではないのか。

そして何より、天使が人間を裏切るなど、その存在意義の破棄とも言える行為なのではないか。

沈黙の中、アヴァシンは続けた。

「わかっています、シガルダ。これは厳しく困難な真実です。ブルーナとギセラも同じように理解するには時間を要しました。ですが彼女らもついには光を見たのです」

名前を言及され、姉妹が口を開いた。

「今となっては、私達は信じているの……」

「姉さん。偉大なる行いはされるべきなのよ」

もう一人が言った。二人の顔は見えず、シガルダは気付いた。自分はもはやどちらの声がどちらのものか、わからないと。

「私達は戻るでしょう、まもなく」 アヴァシンは言った。

「あなたの力が必要になるでしょう。不純なるものは清めねばなりません。罰せねばなりません。私達は真の光をもたらすのです。私達と、私達のようなもののために、平和を創造し維持する者のために。想像するのです、シガルダ。もはや暴力も、争いも、闇もない世界を」

「永遠の光を」 背後で声がした。

だが彼女はどちらの天使が言ったのかわからなかった。

それとも二人が同時に言ったのかもしれない。

アヴァシンは槍を石造りの天井へと掲げた。力のうねりが槍から放たれ、そして天井は……消えた。アヴァシンの力に消え去った。細かい塵だけが下の床に落ち、天使達を煤のような灰で覆った。

「まもなく」 アヴァシンはその言葉とともに暗灰色の空へと飛び立った。

「まもなく」 ギセラとブルーナも背後で言うと、同じように去った。




浄化の天使、アヴァシン

「メイリ! メイリ!」

母ケルセは、またも自分の目の前から消えた我が子を見つけ、胸に抱きとめました。

「どこへ行っていたの?」 彼女は苛立ちを見せないようにした。

息子は探検が好きで、彼女も探検をさせたがっていた。息子にはいつも……

 

不意に松明からの光が全て消えた。

 

炎が消えていた。風ではなかった。冷たい大気は完全に静止していた。

メイリはケルセにじっとしがみつき、彼女は息子を抱き寄せた。

村の中から悲鳴が上がり、そして上空の光のひらめきがケルセの目にとまり、彼女は空を見上げた。

二人の上を天使達が飛んでいた。

 

その時彼女が見たのは、目を疑う光景。

天使が槍をかざす。

光の柱が、村を焼く。

それは、吸血鬼や狼男などの邪悪を祓う炎ではなく。

村人…天使に守護されるはずの人間を焼きつくす炎。

「メイリ、私の可愛い子、聞きなさい。走りなさい、遠くまで速く走って、森の中へ入って、戻ってきてはいけません。何があっても後ろを見ては駄目、戻ってきては駄目」

ケルセは自身の言葉を、まるで他の誰かが自分達に語りかけているように聞いた、そしてその響きの穏やかさに驚いた。

更なる爆発と悲鳴が村から上がった。

メイリはすすり泣いた。「お母さん! 僕、できない……」

「メイリ!」 ケルセの声は鋭く轟いた。

「聞きなさい! 走って! 今すぐ走って、今までよりもずっと速く! 森へ!」

彼女は抱擁を解き、息子を押しやった。少年は目に涙を溜めながら少しだけ母親を見て、そして背を向けて駆け出すと村の端を縁どる茨と垣を越えていった。

ケルセは心臓に鋭い痛みを感じた。走りなさい、私の子!

 

そして母が目にしたのは、変わり果てた大天使の姿。

アヴァシン。

純白であったその翼は血に染まり、その槍は歪みよじれていました。

浄化の天使、アヴァシン

「どうして私達を見捨てたのですか?」 ケルセは叫んだ。

彼女はアヴァシンに言っているのか、無慈悲な夜空に言っているのか定かでなかったが、どちらからも反応はなかった。

天使が剣と炎で攻撃を続け、村の至る所で悲鳴が上がっては唐突に消えた。

ケルセの背後で炎が高く上がり、彼女の村を貪り、彼女の人生を飾ってきた全てを貪った。

アヴァシンは緩やかに降下し、その赤く染まった翼は動かず、その黒瞳を伏せた。

「大いなる行いが始まります! そなたにその栄光を目撃させてあげましょう」

アヴァシンは静止し、ケルセの先を見た。

「あの小さきものは何処へ? ここにいましたね」

「もういない、お前の手の届かない所だ、汚れた者よ」

ケルセはむせび泣き、煙と悲嘆の中で息をしようともがいた。

逃げて、メイリ、逃げて。きっと安全な所がどこかにある。

可愛い子、そこを見つけなさい!

 

「私の手の届かぬ所へ?」 アヴァシンはケルセの目の前に着地した。

ケルセは何処かから煩い雑音を聞き、苦痛に耳を塞いだ。

アヴァシンは手を伸ばし、ケルセの頬に触れ、その震える皮膚を撫でた。

「全てが私の手の届く所に。私の領域に限界はありません。そして私の領域は腐り果てました。腐ってしまった。全てを清めねばなりません。全てが純粋でなくてはなりません」

アヴァシンは言葉を切り、手を引っ込めた。

「構いません。いずれあの小さきものも見つけ出しましょう。あなた達全てを、やがては」

彼女は一歩下がると槍をケルセへと向けた。

「全てが燃える。全てが血を流す」 槍の先端が赤と黄金の光を散らした。

 

目を閉じたケルセにも見える、まばゆい光。

そして、その光に包まれる直前まで、母の抱いていた気持ちはひとつ。

我が子の無事を祈る、純粋なる気持ち。

アヴァシンはその定命の残骸が吹き飛ばされるのを見ていた。

灰はしばし散り、渦巻いて飛び、そして地面に落ちた。

混沌は秩序へ。腐敗は清純へ。平和が広がってゆく。

空が彼女へと囁いていた。川、森、草、月。全てが輝かしい真実を囁いていた。

『こんなにも長い間、私は嘘つきどもの囁きに耳を澄まし、世界は苦しんでいた』

今、彼女は真実を耳にしていた。何百年にも渡って聞いてきた、混沌とした矛盾する祈りとは異なり、すべての囁きがまったく同じ言葉を繰り返しているがゆえに、それが真実だとわかった。

『定命というものは矛盾した存在だと、なにゆえ私はわかっていなかったのだろう? あれらの言葉は常に変化する。いや、今は問題ではない』

今や彼女は理解していた。

彼女は月を見上げ、そして月はその美しい言葉を囁いていた。

全ては燃える。全ては血を流す。

アヴァシンは自身にその言葉を繰り返した。

それは彼女を喜びで満たす和らぎの歌だった。

全ては燃える。全ては血を流す。

天使達が村を燃やす偉大なる行いの中、彼女は声を立てて笑った。

 

※後編続く
 

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*出典*

空ろな、無慈悲な目をしたものが

Posted by オクハラデン