【兄弟戦争】第3回 エルズペスの戦い【ストーリー】
はじめに
前々回、サヒーリの助力により時間遡行へと旅立っているテフェリー。
そして、この試行錯誤のうちにも、ファイレクシアの魔の手は彼らに迫ります。
そんな中、この英雄たちを守る任を負ったのは、友を喪い、心安らぐ場所を求め続けている”あの彼女”です。
テフェリーにもどこかそっけない対応をしてしまった彼女は、ドミナリアでどのような活躍を見せるのでしょうか。
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エルズペスの苦悩
ドミナリアに着いて一週間、エルズペスは寝付けない夜を送っていました。
彼女はテフェリーから機械兵たちの指揮を任され。
エルズペスはそんな眠れない夜を、機械兵を相手に鍛錬することで過ごしていたのです。
雨に濡れながら入室してきたレンは、彼女の動きを見つつ、「お前は稀なことに二つの旋律を宿している」と指摘するのでした。
「あらゆる存在はひとつの歌の一部だ。全体の一部を構成するひとつの旋律だ。しかしお前は――お前の内にはふたつの旋律がある。ひとつは一定で誤りのない短音。もうひとつは裂け、途中で押し殺された詠唱だ」
「私は……いえ、それはきっと誤解です」
「誤解はない。まるでお前はふたつの異なる人生を歩んでいるかのようだ。ひとつは光の中を、もうひとつは影の中を」
「貴女は間違っています」
エルズペスはそう言い放ち、剣を叩きつけるように鞘へと収めた。
「そうか」
レンがそう言い、七番は脇によけてエルズペスへと場所をあけた。
エルズペスは顔をしかめた。こんな短気に振舞うつもりはなく、だが自分についての物事をこのドライアドが自身ありげに表現する様は好きではなかった。
するとレンは「雨の旋律が乱れている」とエルズペスへ警告します。
防御魔法の準備を整える彼女の元へ現われたのは、赤毛の女性とエルフの女性。
ゲートウォッチのメンバー、チャンドラ・ナラーとニッサ・レヴェイン。
その二人は、エルズペスが彼女らを知る以上に自分のことを知っていたのでした。
それは、同じくゲートウォッチのアジャニのおかげ。
今や自分たちの元を去ってしまった、英雄の。
エルズペスは微笑みをたたえつつも何も話さず、彼女らをケイヤのもとへと引き渡し。
そして挨拶することもなく監視塔に戻ったのでした。
自分には自分の義務があり、会議に座ってお茶を飲むことはそれに含まれていない、と。
やがて監視塔の任から戻ったエルズペスは、チャンドラとジョダーがワインを挟んで話しているのがわかったのでした。
そしてその話の内容が、死した英雄ヤヤのことであることも。
「えー」 チャンドラはジョダーから水差しを引ったくり、喉を数度鳴らした。
「あのキッシュの件を話さないといけないわけ?」
ジョダーは笑い声を弾けさせた。
「あいつがキッシュを? また作ったのか?」
「その後、ケラル砦から五マイル以内で卵を使っちゃいけないことになったの。嘘じゃないわよ――ジナラの司祭にお金を払って、鶏を追い払う魔法をかけてもらったんだから」
「サヒーリの時間遡行機械を一回転させてもらおうかな。昔に戻って……」
突然ジョダーはふさぎ込み、しばし黙ったままでいた。
「昔に戻って、そいつを全部平らげてやるよ」
エルズペスが見つめる中、チャンドラはジョダーの肩に腕を回して力を込め、自らも流れ落ちる涙をこらえきれずにいた。チャンドラとジョダーにとって、そのヤヤという人物がどれほど大切だったかは聞かずともわかった。最も近しい友だったのだ。
静かにその場を抜けようとしたエルズペスは、会話に加わるようチャンドラに引き留められます。
任務があるとそれを固辞しようとした彼女に、ジョダーは真剣な面持ちで言いました。
エルズペスがこの場に馴染めていないことはわかっているが、ここにいる者はみな友人であると。
その奇妙な親しみに心が和らぐのを感じたエルズペスは、ジョダーの向かいに腰を下ろしたのです。
亡きヤヤを称えていたのだと話すチャンドラに促され、エルズペスも話し始めます。
新ファイレクシアで共に戦い、散って行ったプレインズウォーカー、ヴェンセールのことを。
そしてジョダーはその者を知っていると話し、長命な彼はエルズペス以上に喪失を目にし続けたのだと語ったのでした。
ジョダーは物憂げにエルズペスを見た。
「これまでずっと、大切な人々を失ってきた。今やその人数はとても多くなった。目を閉じれば、今もその姿が浮かんでくる」
「簡単なことではありませんね」
「ああ。誰かを愛するからこそ、辛いよ」
チャンドラはワインの水差しをジョダーからもぎ取り、それを掲げた。
「ああもう、称えるんでしょ? だから乾杯するの! ヴェンセールに! ヤヤに! ギデオンに、それと……」
最後の名前を発しようとして、彼女の口が開いたまま止まった。その名前をエルズペスは推測する必要すらなかった。アジャニ。
「大丈夫です」
エルズペスが言った。
「その名前を」
「そうじゃなくて。違うのよ、皆で助けに行くの。その後で、どんな次元にいようとファイレクシアの輩を見つけたら片っ端から焼き払ってやる。私に二言はないわよ」
エルズペスは頷き、ワインの水差しをチャンドラから受け取った。
「ヴェンセールに、ヤヤさんに、ギデオンさんに。喪った人たちと、まだ斃れていない人たちに。その全員が、いるべき場所を見つけるまで」
ジョダーとエルズペス
ファイレクシアの襲撃は真夜中に訪れたのでした。
エルズペスはサヒーリの元へ駆けると状況を聞きます。
テフェリーはもうすぐ必要な情報を得られるが、装置を切れば二度と過去へは戻れなくなると。
エルズペスはテフェリーの言葉を思い出していたのでした。
ファイレクシア人はいずれ自分たちを見つけ、その時ここを守る人が必要になる、と。
その時が来た。
必要なのは、テフェリーのための時間稼ぎ。
レンとニッサに彼を守るよう伝えると、エルズペスはジョダーとともに戦場に降り立ちます。
エルズペスの命令で機械の兵は進軍し。
ジョダーが解除した幻影は張り巡らされた罠をあらわにし。
そしてサヒーリの創り出した槍は、ファイレクシア人たちを切り裂いていったのでした。
敵の勢いが衰え、勝利は間近と思われたその時。
肩の力が抜け絶望の声を漏らすジョダーの奥に見えたのは、塔をも越える巨躯のファイレクシア飛翔艦。
ジョダーは決意の声とともに、ローブから小さな革袋を取り出します。
「それは何ですか?」
「ヤヤがこしらえていたものだ」
ヤヤ――彼とチャンドラがその死に涙していた友人。
「エルズペス、君は強い。それは利き腕の力のためではないし、プレインズウォーカーだからというわけでもない。もっと深いところに――繋がりを求める心にある。誰かを救うために炎の中に突き入れる手となることにある。平穏を、家族を、故郷を求める心にある。いるべき場所を求める心にある」
彼はどうやってそこまで知ったのだろう?
一週間前には自分たちは会ったこともなく、互いの存在すら知らなかった。だがレンと同じように、ジョダーは難なく自分の様々な仮面を剥いでしまった。バントの騎士ではなく、ヘリオッドの勇者でもなく、ニューカペナの復讐者でもない。
その全てを取り払って残されたもの――エルズペス・ティレルなのだと。
ジョダーは彼女へと訴えます。
これはヤヤからファイレクシアへの最後の贈り物。
チャンドラを選ぶのが当然だろうが、エルズペスの光魔法でも扱えるはずだと。
自分の詠唱の手助けをし、指示に従ってほしいと。
乗騎しファイレクシアの巨躯の下へともぐりこんだ二人。
ジョダーはエルズペスへと指示をします。
怒りと苦痛を解き放ち、意識を全ての境界の先へと伸ばせ。
そしてそれをすべて自分の元へと戻すのだと。
「集中しろ、エルズペス! ひとつ選べ――君の人生に力をくれたものを、目的をくれたものを。君という存在をそれに繋げろ!」
アジャニ。
(中略)
何故なら彼こそが――自分の人生に希望をくれる、力をくれる人物だから。故郷とは義務。家族とは守りたい人々。ずっと願っていたものはこの手の中にあった。ジアーダが伝えようとしたこと、ドミナリアに到着した最初の夜にテフェリーが願ったことを、エルズペスは今まさに理解した。自分の義務とは他者を守ることだけではない――愛する者たちに守ってもらえるようにすること。家族に。彼らを信じること。彼女が救い出してくれるとアジャニが信じているように。
救い出してみせる。彼を取り戻してみせる。信じてみせる。
光の柱が彼女から放たれ、空へ駆け、きらめく力の奔流がジョダーとうねった。
(中略)
共にふたりは自分自身を広く高く拡大し、ファイレクシアの獣を越え、それを金屑と胆液へと融かし、壮麗な旋風の中に蒸発させた。
そして光が消えた。再びエルズペス・ティレルとなり、彼女は膝をついた。掌が触れた地面は温かく、固く乾いていた。顔を上げると、あの巨大なファイレクシアの獣の痕跡は何もなかった。
その悪は正義を見逃す
エルズペスはジョダーに手を貸して立ち上がらせ、彼の身体を支えた。沈黙の一瞬、共にふたりは塔を見つめた。穏やかな青い輝きが呼びかけていた――帰ろう、と。
「やったな」 ジョダーが言った。
「私たちが成し遂げたんです」
エルズペスはジョダーの肩に腕を回した。
「私と貴方と、ヤヤさんとで」
直後に聞こえる、塔への攻撃音。
エルズペスは苦々しさとともに、この怪物が陽動であったことを悟ります。
そして、それを肯定する声とともに現われたのは、矛槍を持ったローナだったのでした。
彼女は二人を吹き飛ばすと、ジョダーの腹部に槍を突き立てます。
エルズペスは叫び声を上げるも、先ほどの呪文で限界まで力を使い切った彼女は、立っているのがやっとだったのでした。
次いでエルズペスへと襲い掛かるローナ。
彼女に許されたのは、たった一撃。
そしてローナの攻撃を見切り放たれたエルズペスの剣戟は。
双方相打ちの形として、二人を地面へと倒れ込ませたのでした。
するとそこへ届いた、テゼレットの声。
彼はローナを肩にかつぎ、矛槍を回収すると、残念なことにジョダーはまだ死んでいないと告げたのです。
呪詛を吐くエルズペスに対し、彼は静かにかぶりを振り、その言葉を受け流したのでした。
「今私に襲いかかることを考えているのなら、それはやめておけと言っておこう。今の弱ったお前に私は確実に勝てるだろう。それを置いても、死にかけの仲間を手当てする方が時間の使い方としては有用だと思うが」
「どうして? どうして私を生かしておくのです?」
「小さなひび割れだ、ティレル。どれほど強大な建物であっても、そこから崩れ始める」
彼は頭を下げた。それは歪んだ敬意を示すもの、エルズペスはそうとしか推測できなかった。
「私たちの道が交わるのはこれが最後であることを願おう」
そして彼は暗闇へと歩き去った。
今回はここまで
テゼレットがエルズペスに「敬意を示す」。
エルズペスは強大な建物を崩壊させる「小さなひび割れ」。
認めてますねぇ…!!なんか今回のテゼレットカッコいいですよ!?
そして、エルズペスはニューカペナから迷い続けていたことにひとまずの決着をつけます。
心安らぐ場所を探し続けた彼女は、守るだけでなく守ってもらえるようにすることが自分の義務だとわかります。
そして、それはアジャニも望んでいることだと。
アジャニをかけがえのない友人だと再認識し、その救出への誓いを強固にした彼女は、新ファイレクシアへどのように立ち向かうのか!めちゃくちゃ楽しみですね!
ちなみに、本編のストーリーの小話。
冒頭は「最愛のエルズペスへ」という文から始まり、途中途中で誰かが彼女へと当てた手紙のような文章が差し込まれます。
小難しい表現も挟みつつ、どうやらエルズペスの半生を知っているような口ぶり。
これは一体誰の語りなのかしら?と読者は最後まで疑問のまま読み進めるわけですが…。
そのストーリーの最終段落。
最愛の貴女に伝えるべきことは沢山あります。ですが最も適切な言葉はこれでしょう――ありがとうございます。貴女のおかげで、私の作品に新たな目的が生まれました。ですので、ひとり暗闇の中にいる時には、無数の次元のどこかに貴女を思う存在があることを思い出してください。貴女の最も献身的な崇拝者は、常に貴女のすぐ傍にいることでしょう。
愛を込めて
アショクより
アショクかい!!!
お前やったんかい!!!!
というわけで、次回はやっと時間旅行に旅立つテフェリーのお話。
お楽しみに!
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