【カラデシュ】第1回 ゲートウォッチへ舞い込んだ依頼【ストーリー】
はじめに
ゼンディカーで結成し、イニストラードで5色のプレインズウォーカーをそろえたゲートウォッチ。
多元宇宙の巨悪を撃退し、いったんは腰を落ち着ける彼らに、新たな「依頼」が舞い込む…。
そして舞台はチャンドラの故郷へ…!
「カラデシュ」編!始まりますよ!!!
※まだご覧になっていない方は、ぜひチャンドラのオリジンからご覧ください。
ドビンの来訪
ゲートウォッチたちが、イニストラードでのエムラクールとの最終決戦を終えてから3か月。
彼らは、ギルドパクトたるジェイスに付き添う形で、ラヴニカに滞在していたのでした。
そして、仕事にしばりつけられているジェイスの代わりに、タミヨウがゲートウォッチの活躍を、各次元へと伝える役割を担っていたのでした。
それはさながら、吟遊詩人のように。
その日、ゲートウォッチのメンバーを自身の聖域に招集したジェイスが「この活動が実を結んだ」と話し始めるところから物語は始まります。
来訪者は、カラデシュという次元から来た、ドビン・バーンというヴィダルケン。
ドビンはうやうやしくお辞儀をした後、ゲートウォッチのもとへやってきた経緯を説明し始めます。
・カラデシュの首都ギラプールでは、発明博覧会という大規模なアーティファクトの展覧会が行われること。
・しかし、改革派と呼ばれる者たちが、領事府からの配給に不満を抱き、この祭典を妨害しようとしていること。
・ひいては、ゲートウォッチにこのイベントの警護をお願いしたいということ。
しかし、話を聞き終えたゲートウォッチたちは、熟考の末、これを断ります。
「バーン公使殿」 リリアナが割って入った。彼女は絹とレースをこれ見よがしに振り回して立ち上がり、最も無邪気な笑みを見せた。
「私の……同僚が問題にしているのは、私達が何を見据えているのかという事です。ゲートウォッチは私達のような人々、プレインズウォーカーがそうでない者への干渉を止めるために結成されました。別の言い方をすれば、外からの問題を止めるために。今回の場合、公使殿の問題は、内からの問題であるように思えます」
彼女は偽りの無力とともに身振りをした。「私達は動けません」
あっさりと納得し、ひきさがるドビンに、ギデオンは「せめて夕食でも」と誘いを入れたのでした。
燃え立つチャンドラ
さて一方、座りながら話を聞いていたチャンドラと、その隣のリリアナ。
チャンドラは、カラデシュからやってきたというドビンの紹介の時から、ゴーグルを目にはめ、胸の前できつく腕を組んでいたのでした。
やがて、彼が事情の説明を進めるうちに、彼女が文字通り「熱を帯びていく」のが、リリアナの肌を通じてわかっていきます。
リリアナは右腕が日焼けしたように感じた。
チャンドラを一瞥すると、その娘の頭には熱の陽炎が踊っていた。銅色の髪からはぐれた塵がその上昇気流に舞っていた。だが彼女は押し黙り、硬直し、歯を食いしばっているかのように顎の筋肉は波打っていた。
リリアナは椅子をそっと左へ動かした。

そして、ドビンが敵対する改革派の非難と誹謗を口にしたとき。
チャンドラの怒りは内なる爆発を起こすのでした。
チャンドラが勢いよく立ち上がり、椅子が傾いた。リリアナは片腕を伸ばしてそれが床に倒れる前に受け止めたが、チャンドラは熱と火花に大気を揺らして荒々しく歩き出した。
「何を――?」 ギデオンはそう言いかけて、だが炎が明滅するチャンドラの手がかすめると彼はひるんだ。
涙目になるような悪態を吼えながら、彼女は一段飛ばしに階段を昇っていった。
驚きとともに、バーンの目が彼女を追った。
やがて、ドビンは彼女の姓が「ナラー」であったという事を聞き、事情を理解したのでした。
彼は夕食を共にしていたジェイス、ギデオン、ニッサに告げます。
彼女の両親と思われるピア・ナラーとキラン・ナラーは、改革派の著名人であると。
彼らは、犯罪者であり、窃盗と領事府が分配する霊気の非合法な再配分に関与していたと。
そしてなにより、十二年前、彼らは公式記録で「三人全員が死んだ」と報告されていると。
ゲートウォッチの3人は、自分たちの知らされていなかった事実に直面し、やがて「あること」を決意したのでした。
故郷へ
場面戻して、部屋を飛び出したチャンドラ。
彼女は、ドビンの話を機に、自分の中で何かの歯車が狂い始めるのを感じていたのでした。
怒りに任せて殴っていたギデオンのサンドバックは、炎が点火して破れます。
自分を心配してくれるニッサの瞳に耐えられなくなり、心にもない言葉を発します。
そして、なによりそんな自分自身に耐えられなくなり。
彼女はラヴニカの小路でうずくまっていたのでした。
やがて、そこにやってきたのは、部屋を出ていくチャンドラを見ていたリリアナ。
小声の囁きが小路の入口から響いていた。「馬鹿、馬鹿、私の馬鹿……」
どうしたものか。リリアナは堂々と角を曲がり、スカートの裾を注意深く持ち上げて、虹色の汚れが浮かぶ水たまりを避けた。
「あら、チャンドラ。奇遇ね」
彼女は驚いて立ち上がり、震える手の甲で鼻の下を拭った。
「あ、や、何――こんなとこで何してるの?」
「買い物の途中よ」 リリアナは即席の嘘をついた。
彼女は信じるだろう。リリアナお姉ちゃんは豪華な生き方や何やかんやの第一人者なのだから。
チャンドラは鼻をすすり、詮索するように懐疑的な表情をした。「こんな裏道で?」

「一つの場所に全部の店が揃ってるわけじゃないわよ。一緒に来る?」
チャンドラは彼女の向こうを見た、小路の先で、午後の光に群集の影がひらめき踊っていた。
「他には誰かいるの? ギデオン?」
「幸いなことにいないわよ。あれは死ぬまで私と買い物はしてくれないでしょうね」
彼女はにやりと笑った。
「でもそうなったら、蘇らせて鞄を持たせられるわよ」 そして言葉を切った。
「ただ私に屍術師流の冗談を言わせるために?」
「今回だけ。あなたが気に入ってるから」
ごく僅かにチャンドラの肩の強張りが緩んだ。良かった。
チャンドラは再び鼻の下をこすり、そして唐突に腰に巻いたショールで手を綺麗に拭った。
「で、何を買いにきたの?」
「そうね、すごく重要なものはないんだけど」 リリアナは気取って言った。
「ワインを一本、死んでそのまま七日から十日経った猫を六匹、好みでラベンダーの香りの蝋燭、十二インチの骨の鋸……」
チャンドラの口がぱくぱく動き、そして言葉が出た。
「そ……それは冗談?」
「なら一緒に来て見るといいわよ。歩きながら話しましょう」
そしてしばらく経った後。
夕食中のギデオン、ジェイス、ニッサ、そしてドビンのもとに届いたのは、チャンドラとリリアナがプレインズウォークしたというしらせ。
動揺していたチャンドラに力を貸せなかった、という事実に苦しめられていたニッサは、すぐに言葉を発したのでした。
「私が行く」 その言葉は考えるよりも早く口をついて出た。
ギデオンは彼女へと向き直った。
「本気か?」 その両目がニッサの震える指へ向けられた。
「ニッサ、一人で行く必要はない」
彼女は拳を握りしめ、それらを落ち着けた。
「私が、カラデシュへ行く。バーンさんが案内してくれる。私……」
私は何をするの?
チャンドラを故郷へ帰す? 彼女は故郷にいる。
揉め事から助け出す? 彼女は大人の女性。思う通りにできる筈。
彼女を守る? チャンドラの心はベイロスのそれと同じ。守る人は必要ない。
「……一緒に戦う」
それは正しいように思えた。
今回はここまで
まさに、物語動き出す、という出だしですね!(だいぶ端折ってはいますが…)
ちなみに、このカラデシュのはじまりでは、ラヴニカで暮らすゲートウォッチたちの「生活感」が感じられる文章が多く、珍しく彼らの人間臭さが感じられる情景描写が非常に良いです。
上の本筋では紹介しづらかったため、少し以下でご紹介しますね。
まずは、朝に弱いチャンドラと、200歳以上の貫録を見せるリリアナ。
「はあい、何。何よ?」 眠たげな女性の呟き声が扉の向こうから届いた。
「もう昼よ。起きなさい」
「そんなわけないでしょ。こんなに怠いんだから」
「扉を開けても?」
「駄目」
一瞬の沈黙、溜息、そして力の入らない指で鍵の位置を探る音。最後にもう一度沈黙。
「待って。鍵かけてなかった。開けて」
優しく押すと、扉がきしんで開いた。
(中略)
「おはよ、リリアナ」
「あらあら、ずいぶんひどい姿ね、チャンドラ」
チャンドラは寄りかっていない手で片目をこすった。
「え? んー、あんたは元気そうで……」
そして手を放し、寝ぼけまなこで目の前の女性を見つめた。その瞼が引きつった。
「……ほんとに」 その語尾は言外に「畜生」と言っていた。
「そう? ありがと」
チャンドラの肩の向こうから入る光は、引かれた分厚いカーテンの隙間から入る眩しい陽光の断片だけだった。
寝室はまるでそそっかしいゴブリンに荒らされたようだった、もしくは熊が住んでいたような。

ニッサは、ラヴニカという「都会」で疲弊し続けています。
ここへやって来て以来、ラヴニカに絶えず打ちのめされていた。熱い、絶え間ない獣の息が首の後ろにかかる。太陽は眩しい白色で、匂いは濃くて不快だった。あらゆる地面が切りつけ引き裂くための刃を持っているように思えた。
果てのない顔の列が奇妙に、恐ろしく、街路にひしめき取り囲む。考えたこともない程多くの顔。それらが融け合い、千の顔を持つ一つの怪物と化して自分を押しやる。
建物の間を歩くと彼女は汗ばみ、震えた。ひしめいて騒々しく押し、蹴り、突いてくる。その姿から顔をそむけようと彼女はうずくまり、ひび割れた敷石の間にもがく孤独な花を観察していた。
静寂は何処にもなかった。日中には金床の不協和音が鳴り響いていた。千ものかまどで果てない宴会が蒸気と轟音を上げる。夜にはセイレーンのむせび泣きとひび割れるようなマナの音。何万もの音が常に声を、悲鳴を上げ、苦痛と悲嘆、欲望と怒りにうめき、争うように重なり合う。
三か月の間、木々を揺らす風の音を聞いていなかった。何も聞いていない、という瞬間はなかった。
顔。騒音。万と一つの慣れない匂いが喉に居座って首を絞める。それを我慢できなくなった時、彼女は庭に縮こまって耳を塞いだ。そして木々が安全を守ってくれていた。
ここの全てが硬く、眩しく、鋭すぎた。

そして、ジェイスはブロッコリーが嫌いです。
ジェイスの皿には幾つかの薄黄色の塊があった、チーズや穀物。冷たくなっていても、ニッサはその匂いを部屋の向こう側から感じた。彼は顔をしかめた。
「何でブロッコリーが入ってるんだ?」
「鉄分が必要です」
「嫌いなんだよ――」
「気付きもしなかったではありませんか」 その声に議論の余地はなかった。
バーンは彼を冷淡に見つめた。「まるで子供ですな」
ジェイスは最初の一口を頬張り、どうにか飲み込んだ。
カラデシュは、ゲートウォッチのオリジンメンバーが集まったのもあり、それぞれに仲間意識を共有し、時に弱みを見せあい、時にそれを助け合い、時にその人間関係に悩みます。
(助けようと思った結果上手くいかなかったニッサがその失敗を悩むように)
この熱き絆のお話も、ぜひ楽しんでいただきたいですね。
次回はついに発明の次元、カラデシュへ移動します。
お楽しみに!
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