【カラデシュ】第2回 母との再会【ストーリー】
はじめに
前回、ゲートウォッチのもとにドビンが来訪し、カラデシュの首都ギラプールで開催される発明博覧会の警護を依頼します。
協議の上、これを断ったゲートウォッチでしたが、カラデシュを故郷に持つチャンドラは思うところがあるようで…?
カラデシュ編、第二回です!
故郷の地
最初に故郷を感じたのは、霊気の香り。
多元宇宙の久遠の闇を構成し、カラデシュの発明品の動力源となる物質。
故郷に戻ってきたチャンドラは、自分がなぜそうしたのか、その理由が明確にはわからないでいたのでした。
ただ、この場所には助けを求めている改革派がいる。
危険にさらされていて、でもゲートウォッチの誰も助けてくれない発明家が。
…亡き母と、同じ意志を持つ者が。
すると、彼女はバルコニーからかかった声を聞きます。
振り返った先にいたのは、ギラプールを見下ろすリリアナ。
「私を連れ戻しに来たの? やってみなさいよ」
リリアナは嘲るように笑った。「何を言ってるの。ここがあなたの帰る所でしょう」
「バーンの奴が探してる人を見つけるまで戻るつもりはないわよ」
腰に巻き付けた母の肩掛けを引っぱり、彼女は歯を食いしばった。
「あんたたちが何と言おうと」
「問題はあなたが何をしたいかでしょう、他の誰かじゃなくて。あなたにとって故郷はどういうものなのか、誰も知らないのだし」
(中略)
「言ってごらんなさい、力になってあげられるかもしれないから」
「あんたも理解はできないわよ、どのみち」
「故郷は苦痛の源だというのは理解してるわよ」
リリアナが語るその表情は読めなかった。
「バーンがあの素敵な制服を着た規制側の奴等だってこともね」
チャンドラはしぶしぶ話します。
ドビンは領事府側の人間だということ。
領事府は、規制に従わないものを憎んでいること。
そして、自分たち一家はそれらに「排斥される側」だったということ。
チャンドラは片眉をつり上げた。
「私はここに何かをやり遂げに来たの」
「あなたの大切な改革派は道中で探しましょう。でもここで繰り広げられてる盛大なパーティーを楽しもうとしないのは勿体ないじゃない? それに、この街であなたと私よ? すごく楽しい騒動に飛び込めると思うのだけど」
チャンドラから自然と笑みがこぼれた。
「リリアナ、あんたは私より二百歳くらい年上よね。私達のどっちが責任者になるべき?」
「秘密をひとつ教えてあげる」
リリアナはおどけてチャンドラの耳に手を当て、囁いた。
「責任者なんていりません」
想定外の再会
二人で訪れたギラプールの通り。
壁にあった、一人の肖像画。
その姿に、チャンドラの視線は吸い込まれていったのでした。
それは、チャンドラの亡き父、キラン・ナラーの画。
自分と母を守ろうとし、領事府のバラルに殺害された世紀の発明家。
リリアナは得意そうに笑った。
「もしバラルがあなたの家族をそこまで嫌っていたなら、まだのうのうと生きているのかどうかを調べましょうかね。それから、もしそいつに出くわしたら、その絵の代わりにそいつの目を見つめて、どう思っているのかを伝えなさい。あなたにはその権利がある」
(中略)
チャンドラは驚きに頭をのけぞらせ、だが同時に、暗い興奮が大胆にも胸に流れていった。
バラルは私の目の前でお父さんを殺した。兵士たちに村を燃やせって命令して、お母さんも殺したに違いない。あの男一人の手で、私の家族全員が失われた。そいつが燃えるのを見たなら、さぞかし満足できるだろう。
「もしあいつが今も生きてるなら、報いを受けさせてやるって誓うわ」
リリアナは低い囁き声で言った。
「あなたが受けた苦痛を返すのは、当然の権利よ」
「当然の権利」 チャンドラは呟き、そして髪が燃え上がった。
目には目を。
チャンドラは、亡き父母の復讐を胸に誓います。
そんな二人旅の先で遭遇したのは、改革派による妨害活動。
チャンドラの探していた、改革派に出会えるチャンスが廻ってきたのでした。
「チャンドラ」 何かが目にとまり、リリアナが呼びかけた。
「何?」
「あれ。フードの」
チャンドラはその視線を追った。暗いフードに顔を注意深く隠し、一つの影が人混みを巧妙に横切っていた。その人物の方では二人に気付いていなかった。妨害現場から目を離すことなく、その人物は制限区域を迂回してそちらへと向かっていた。
「怪しいくらい目立たない、そう思わない?」
きっと改革派の人間に間違いない。
チャンドラは思ったのでした。
彼に警告をしなくてはいけないと。
そして、そのフードの男を追いかけた先。
彼女は一人の女性と遭遇したのでした。
その男のフードは今や下ろされ、頭を覆う灰色の巻き毛が見えていた。そして袖口から覗く右手は、金属の鉤爪だった。男はそれを目の前の女性へと定めていた。
男の背後の群集から飛び出し、二人は追い付いた。だがチャンドラの注意をひいたのはその女性の方だった。チャンドラと同じような赤褐色の髪、だがもっと暗い色をして、今や灰色の斑点が混じっていた。その女性は溶接ゴーグルを身につけ、携帯用溶接機を持ち、鉤爪の男を睨み付けていた。
チャンドラの心臓が止まり、熱い涙が溢れ出た。
何を言えばいいのかわからなかった。
「ようやく会えたな、改革派の長」
その男は言って、まるで武器の狙いを定めるかのように金属の手を向けた。
「その粗末な見世物で私の博覧会を邪魔できると思ったか?」
女性は男へとあざけった。
「お前を止めてみせる、審判長。今日でなくてもすぐに」
リリアナはその男を掴んで振り返らせた。そしてチャンドラの知らない名前を、チャンドラの理解できない嫌気とともに呟いた。
「テゼレット」
そして、自分と同じ髪の女性を驚きとともに見つめながら、チャンドラはようやく自身の言葉を掴まえた。彼女はそれを衝撃の海から心の水面へと引き出し、やっとのことでそれを大声で発した。
「……お母さん?」
改革派の長、ピア・ナラー
「お前の娘を殺した」
過去自分にそう言っていたのは、遵法長のバラル。
チャンドラの母、ピア・ナラーはバラルに幽閉された上、彼の執拗な言葉を聞かされていたのでした。
それ以来、改革派の長として領事府への抵抗を先導してきて数年。
彼女は、領事府から故郷を守るという大いなる意志のもと、仲間を集め、その規模を大きくしていったのでした。
それゆえに、その日ピアが出会った出来事は、チャンドラにとってのそれと同じくらいの青天の霹靂であったのです。
……チャンドラ?
成長し、だが間違えようもなかった。小さかった娘は、今やキランほども背が高くなっていた。
(中略)
「……お母さん?」
声、小さく消えそうな、そして全くもって彼女らしくない。目の端に熱がうねり、風にとらえられて零れた。
領事府の兵と、ドビンやテゼレットが母と娘の間に立ちはだかります。
チャンドラは炎の波で、それらに突撃したのでした。
娘の姿をみとめた安堵、成長した娘に対する誇り。
その感情に視界も曇る中。
しかし何よりピアの心を占めたのは、その娘の安全を守らなくてはいけないという使命感でした。
やめなさい! ピアは心の限りにチャンドラへと叫んだ。
戻りなさい! また逮捕されてしまう! お願いだから!
(中略)
今、動かねばならなかった。ピアはチャンドラから目をそらし、燃え立つ目でテゼレットへと向き直った。
「ピア・ナラー、改革派の代表者です。領事府へと投降します」
ドビンは滑らかで毛のない眉をひそめ、驚きの呟きの波が兵の一団から上がった。
「本気ですか?」 彼は言った。これがあの、自分達があれほど身構えていた改革派の恐るべき長だというのだろうか?
「あなたがたは……評判の囚人に相応しい厳重な警備を用意されると信じております」
(中略)
兵士の壁の向こうから、ピアは青白い肌の女性がチャンドラへと叫ぶ声を聞いた。
「あの人は捕まった! 今危険を冒すのは駄目、逃げるわよ!」
ピアは身体の力を抜いた。そして速接会の尖塔を、新たな家族となった改革派を、失ったと思っていた娘の姿が視界から消えていくのを見つめていた。
今回はここまで
ピアもチャンドラも、お互いがお互いを亡くなったものだと思っていたため、この再会は非常に衝撃的なものだったと想像できますね。
11歳の、まだ「守られる存在」であった娘が、兵たちを押しのけ自分のもとに来ようとするのを見て、「母としての誇りで」目頭が熱くなる。
そして、奇跡の再会にも関わらず、その娘を守るためにあえて逮捕されることを選ぶ。
この辺が、カラデシュの親子愛溢れるアツい展開です。
お母さんマジいい人。
さて、次回は(いつの間にか合流する)ニッサと、チャンドラによるピア・ナラー救出作戦ですよ。
お楽しみに!
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