「ゲートウォッチの誓い」の背景ストーリー 後編
※前編の続きになります。
ギデオンとゼンディカーの指導者
ゲートウォッチを苦しめていたエルドラージタイタンが焼失してから数日後。
ギデオンは、夜明け前のゼンディカーの大地を走っていました。
これは、彼の始めたばかりの習慣。
一歩、そしてただ次の一歩を踏み出す、そんな動作の中で、ギデオンはゲートウォッチのメンバーに思いをはせるのでした。
ジェイスは自身の価値を示した。他の者達が離れていっても、彼は残っていた。力線の謎にはふさわしい人物だった。
そして今、自分達二人は誓いで繋がる兄弟だった。
ギデオンは心をゲートウォッチへと向けた。未来像を共有した四人のプレインズウォーカー。
ジェイスに加えて、ほんの数日前には他人であったニッサも、今や自身の世界だけでなくその先へと力を貸そうとしている。
そして、チャンドラがいる。ついに、彼女は来てくれた。来てくれると思った通りに。
そこへ、同じように走りながら近づく影が一人。
「今朝は遅いですね?」
それは、かつて宿営地で司令官の座を争ったこともある、タズリの姿。
ギデオンは、タズリとともに、ゼンディカーのこれからについて語らうのでした。
巨人たちが消えても、エルドラージたちは残り続ける。
誰かが指揮を取り、この地を守らなくてはいけない。
そして、彼女にはその決意があると、ギデオンにはわかっていたのでした。
「ギデオン、あなたはどうするのですか? 残ったエルドラージを片付けるためにあなたを数に入れても?」
タズリから投げかけられた疑問。
ギデオンは、穏やかなまなざしで、答えを返しました。
「仰せの通りに、司令官」 ギデオンは言った。
「ですが、貴方はいずれ……」 タズリの言葉は小さく消えた。
「いずれ」 彼は認めた。
ギデオンはゼンディカーの者ではない。エルドラージに対抗すべくここに来た。
だが他の世界には他の脅威があるのだろう。
そして彼はゲートウォッチとなることを誓った、他の者が行けない場所へ赴き、力になることを。
沈黙の中、二人はまた走り始めた。
「でしたら、それまでは」 少ししてタズリは口を開いた。
「貴方がいて下さることを嬉しく思います」
今度は彼女が笑みを向け、そしてギデオンを追い抜き去っていった。
ゲートウォッチの紅蓮術師
その手は熱を帯び、手にした鍋を、そして中のスープを温めていました。
かつて戦場であったその場所は、今や生活の場となっていたのです。
こうやって自分の熱の魔法を普通のマナで、普通のことに使うことに対して。
チャンドラは奇妙に、しかし喜ばしく感じていたのでした。
やがて自分に近づいていたのは、自分をこの地に招いた一人。ギデオン。
チャンドラは彼の上腕を小突いた。
「お疲れさま、ボス?司令官?騎士様?将軍?」
彼は親指を胸当ての紐にかけた。
「今はただのギデオンに戻ったよ。そっちは快適か?」
チャンドラは間に合わせの椅子の上、両腕を押して身動きをして、肩をすくめた。
「これに座れだなんてさ」
彼はぼんやりと頷いた。
「レガーサには戻るのか?」
「この前言った通りよ。手を上げて、私の決意を何もかも」
「わかっている。でも君は戻ってもいいんだ、もしそこに責任があるのなら」
チャンドラは含み笑いをもらした。
「許可をくれるの?」
「私が言いたいのはつまり、ここでの、今の役割は終わったということだ。君は自分の役割を果たした。私達が再び必要とされたなら、また集まればいい」
チャンドラは彼の胸を肘で突いた。
「ギデオン、私は入ったんだから。私も今やゲートウォッチの一員よ」
ギデオンは、チャンドラに対する感謝の念と同時に、巨人殲滅にすべてのマナを使い切った彼女の容体を気にしていました。
まだ、思うように動かないその足を。
チャンドラは、こんな心配性なリーダーに、笑顔で言葉を投げます。
「ねえ。私達は皆を助けた。同じことをまたやるだけでしょ」
精神魔導士の向かう先
ジェイスは、ゼンディカーの野営地でウギンと対峙していました。
空から現れた精霊龍は、ゼンディカーの事態についてジェイスに説明を求めます。
その言葉の端に、内なる怒りを潜ませて。
ジェイスは前へと進み出た。
「ウギン、作戦を立てたのは俺です。他の皆は俺を信頼しただけに過ぎません。もし、俺達がやった事に異議があるとしても、責めるべきは俺だけです」
歩哨たちの叫びを聞きつけたゲートウォッチの仲間も参集し。
まるでジェイスを守るかのように言い放ちます。
「させるものか」 ギデオンが言った。
「私達全員で倒したの。責任は私達全員にあるわ」 ニッサも加わった。
「実際に巨人を殺したのは私だけどね」 チャンドラはいわくありげに言った。「でも皆が助けてくれた」
ウギンは口を開いた。
「ベレレン、説明せよ」
ジェイスは、悪魔による想定外の襲撃を受けたこと、
ウラモグに加えてコジレックまでもが敵対してきたこと、
そしてなにより、巨人たちを他の次元に逃すことだけはできないと思ったことを説明します。
説明を聞いたウギンは、ため息をつくように口を開きました。
「プレインズウォーカーよりも危険で、予測不能な力など多元宇宙に存在しないということか」
角の頭でかぶりを振り、ウギンは言った。
ウギンが懸念していたこと。
それは、プレインズウォーカーたちよりもはるかに古い生物を二体殺したことによる影響が、全く計り知れないことでした。
ウギンはそれに対する仮説のみもっているが、あくまで仮説でしかないこと。
「何一つ定かではない。我が知る限り、かつてエルドラージの巨人を殺せた者など存在しない。エルドラージとは何か、うち二体が死んだならば何が起こるか、それについての仮説は持っておる。だがその成り行きも、おぬしら全員が死して遥か未来まで生じないであろう。従っておぬしらは、望むならばこれを勝利と受け取って構わなかろう。我としてはあれらの残骸を研究し、未来に備えるとしよう」
ジェイスの友人達は不平の声を発した。
「でしたら、俺も一緒にやらせて下さい」 ジェイスは言った。
「エルドラージについての仮説を教えて下さい。一緒に――」
(中略)
「それらの問題をおぬしが追求するのを止める気はない。とはいえ心しておくが良い、ソリン・マルコフとニコル・ボーラスは我よりも遥かに邪魔に対して寛容ではないと」
研究のため、巨人の死骸に触らぬよう警告し、ウギンは空へと消えていきました。
「正義と平和のため」そして「すべての次元の生命のため」。
この地に残り復興に尽力するギデオンとニッサ。
まだ足の動かないチャンドラも、しばらくはここにとどまるだろう。
ジェイスは、ギデオンの目をまっすぐに見つめ、自分の役割を口にします。
「俺達は三体目の巨人を追跡する方法も、何処へ行くかを推測する方法もない。でも、ウギンの仲間は残っている。ソリンとナヒリ。俺はイニストラードへ行って、ソリンを見つけるつもりだ。そいつがウギンよりも助けになってくれるかはわからないが、ウギン以下ってことはないだろう」
ギデオンはゆっくりと頷いた。
「君の決定を信じる。いつ出発できる?」
ジェイスの目を見て彼は尋ねた。
「今日だ。物資を集めてソリンについての知識を得て、そうしたら出発する」
次の世界を想うエルフ
ニッサはその日、あのエルドラージたちを打ち倒した力線の象形を訪れていました。
その激闘は、もう遠い昔のように感じられる出来事。
ゼンディカー人の小さな捧げものが置かれている、象形の端。
彼女はここに、ゼンディカーの魂を感じるのでした。
ニッサは、吸血鬼から預かった4つの種を取り出し。
持つ種を植えながら、今後のゼンディカーへと思いを馳せるのでした。
きっとこの種は、ここに住むものたちを潤す。
しかし、この種が育つ様子を誰が見守っていくのだろうか、と。
「あまり自信はないけど、それのせいで離れられないのね」
チャンドラの声にニッサははっとした。
チャンドラは、ニッサの横に腰をおろしました。
ニッサが見たのは、彼女の正直そのものを映すような琥珀の瞳。
彼女の思っていることをすべて映し出し、それを余すことなく伝える瞳。
ニッサは彼女へと打ち明けます。
ゼンディカーを守るものがいない不安を。
自分はここに残ってゼンディカーの復興を見届けたい。
しかし気がかりなのはゲートウォッチのメンバーたち。
ギデオンとジェイスは、自分の思いを理解してくれるだろうか?と。
チャンドラは彼女のそんな不安に、笑って応えます。
自分も彼らに選ばれ、そして結局ここへ来ることを選んだのだと。
ニッサはチャンドラを見た。
もしチャンドラがゼンディカーに来てくれなかったらどうなっていたか、想像できなかった。想像したくなかった。
「来てくれて、本当にありがとう」
「私、もう少しで来ない所だったの。私、向こうで生徒が沢山いたのよ、知ってる? 学校の先生だったの。修道院長ね」
ニッサは驚いたように、眉を上げた。
「私がそんな仕事をしてたなんて変でしょ」
(中略)
ニッサは笑い、そして長いこと笑っていなかったと気が付いた。
チャンドラはこんなにも簡単に微笑ませ、声を上げて笑わせてくれる。
彼女はそれを楽しんだ。
そして、チャンドラは続けるのでした。
自分が修道院から離れたのは、自分がいなくてもきっと大丈夫だとわかったから。
逆に、自分にしかできない、他のことがあると信じていたから。
だから自分はここに来たのだと。
ニッサは、あの時片手を上げ、誓いを立てたギデオンの姿を思い出しました。
『私達は誓わねばならない……多元宇宙を脅かすあらゆる脅威へと共に立ち向かうために。私達にしかできない事だ。これは私達の力が、灯が担うべき使命だ』
「一緒なら、私たちはできる」
チャンドラはまるで心が読めるかのように、ニッサに告げるのでした。
そして、それはニッサにとって初めてのこと。
ゼンディカーの大地だけが守るべきものだった彼女にとって、初めて現われた"守りたいもの"。
ニッサは自分の心の変化に驚きながらも、チャンドラの言葉にうなずきます。
きっとゼンディカーには、自分がいなくても成長していける。
そして、成長を見届ける者たちは自分の他にもいる。
彼女は、タズリ、ムンダ、セーブル、そしてキオーラを、かつての同盟者たちの顔を思ったのでした。
彼女は絹の包みの上層を開き、四つの小さな種を露わにした。
一つまた一つ、彼女はそれらを掘った穴へと横たえた。
(中略)
もう一つやる事があった。ゼンディカーの魂へと触れた。
彼女はそれに語りかけた、種を頼むと。
だがそれが応えるよりも早く、彼女を引き込むよりも早く、取り囲んで抱き寄せるよりも早く、彼女は手と、魂を放した。
「また会いましょう。約束するわ」
彼女はそう言って立ち上がり、知る世界から離れ、待っている世界へと向かっていった。
今回はここまで
ゲートウォッチの誓いの物語
完!!!
いや、かっこよすぎるでしょ最後の絵。
世界を救った勇者感ハンパないっしょ。
ゲートウォッチといえば、「ゲートウォッチ招致」のイラストが有名ですが、私はこの「ゼンディカーの復興者」の絵を推したいですね!
戦乱のゼンディカーの話の中で、バラバラだった四人が結集し、お互いにお互いの良いところを認め合い、自分に足りない部分を必要とし、やがて勝てるはずのなかった巨悪を討ち倒す。
いやほんと
アベンジャーズかな!?!?
mtgのストーリー好きな人がもっともっと増えれば、映画化できるんじゃないかなァ!?!?
というくらい、濃い内容のお話です。
さて、「戦乱のゼンディカー」→「ゲートウォッチの誓い」のメインストーリー終了につき、次はイニストラード次元ですね。
今回対処されなかった最後にして最強のエルドラージ「エムラクール」は、なぜイニストラードに来訪するのか。
狂気にさいなまれた大天使アヴァシンと、生みの親のプレインズウォーカーソリンとの絆の「結末」。
そして、このブロックで未登場ながら、誰よりもゼンディカーに深くかかわったナヒリのストーリー。
こちらも、知れば知るほど感動できるお話がたくさんあります!!!
次回もぜひお楽しみに!!!!
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