【ドミナリア】第6回 ドミナリアの英雄、テフェリーの物語 前編【ストーリー】
はじめに
ジョイラによって集められた船員たち、そしてそこに加わったゲートウォッチのギデオン、リリアナ、アジャニ。
彼ら英雄は、それぞれ思いがありつつも、ベルゼンロックを打倒し陰謀団を壊滅させるという目的を一つに、結集していました。
そして、その襲撃計画には、必要な人間がもう一人…。
ジョイラは、計画の要となる「時間操作能力を持つ」その人の元へ向かったのでした。
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ザルファーの破壊者
ドミナリア次元、セワの街。
夜明けの中に映るザルファーを見るべく、テフェリーは海辺にいたのでした。
それは、ファイレクシアの侵攻から守るべく、テフェリーがフェイズ・アウトさせた街。
今もなお戻ってこない地。
そして、彼の心の中を今だに占め続けている地。
テフェリーはプレインズウォーカーの灯を捧げることで時の裂け目を修復し、その地を戻す力はまだ手に入れられていません。
その一件以来、テフェリーは「ザルファーの破壊者」として悪名高い存在となりましたが、自身がそれと同一人物だとわかる人はこの地にいなかったのでした。
そんな彼のもとに、一組の男女が尋ねて来たのです。
商人の風貌の女性はスビラ、帯剣した大柄な男性はクェンデ。
スビラはテフェリーへと、マケトという人物について聞きます。
テフェリーに会いに来るはずだったマケトは、隊商の宿営で殺されたのだと。
テフェリーはその人物に全く覚えがないと言いつつ、その人物を見せてほしいと依頼したのでした。
本性は明かさず、自分を学者と名乗りながら。
隊商へと移動したテフェリーは、マケトの死体を精査します。
それは、死というよりは奇妙な麻痺状態に陥った姿。
まるで、"時間の魔術の仕業に見えるかのように"。
テフェリーは二人へと事実を伝えます。
これは時間魔法ではないし、時間魔法をかけられたときのように生きているわけでもないと。
テフェリーは肩をすくめた。
「ですので、もし私が誰かを殺そうと思うなら、間違いなく時間の魔術は使わないでしょう。少なくともこのようには」 彼は微笑んだ。
「私の仕業だとお考えなのですよね。だから私を捜しに来たと」
スビラはクェンデを一瞥した。彼は今もテフェリーを見つめ、即座に自らの身を守れるように身構えていた。彼女は言った。
「あなたが殺したのですか?」
テフェリーは彼女へと言った。
「芽生えたばかりの私達の友情にとっては幸運なことに、私ではありませんよ」
やがて、被害者の持ち物を精査するためにクェンデが出ていくと、二人きりになった天幕の中で、スビラは話し始めます。
指摘の通り、彼女はテフェリーが犯人だと思っていたこと。
そして今や、別の説があること。
その仮説とは、「マケトはテフェリーを殺すために送り込まれたのだ」ということ。
スビラは続けた。
「あなたは只のテフェリーではなくて、あのテフェリーなんでしょう」
二人はしばしの間目を合わせていた。自分はザルファーの破壊者と対峙しているという考えにも、スビラは怯えているようには見えなかった。だがそれは判別し難かった。テフェリーは息を吐き出し、認めた。
同時に、テフェリーは疑問を呈します。
自分の正体を知りながら、その危険人物と相対して気にならないのかと。
スビラは、肩をすくめると、テフェリーがザルファーに対してやったことは仕方のないことだったのだと話したのでした。
彼女は躊躇し、そして同情に僅かに口元を歪めた。
「皆言っています、今のあなたにそれを戻す力はないと。とても……辛いことですよね」
彼女がそれらの事実をごく素直に受け入れていることに、テフェリーの心を詰まらせる罪悪感が緩んだ。
「ザルファーの裂け目を作り出した時、自分は正しいと確信していました。私は故郷を壊しかねない恐怖からそれを守ったのだと。けれど今では、その決心に疑問を抱く毎日です。とはいえ自分の行いを変える力はない」
その痛ましい事実を受け入れるのは、驚くほど容易かった。テフェリーは彼女の穏やかな視線を受け止めたが、顔をそむけたいという衝動はなかった。誰かと心から会話したのは数年ぶりのことだった。眩暈を起こしそうに思われた。
時間魔道士の力
テフェリーが犯人でないと確信してから、二人が推論を交わし続けていたその時。
二人は外からの警告を聞き届けます。
天幕から出た二人が見たのは、商隊に直撃せんと迫る巨大な砂嵐。
テフェリーは皆から離れると、目先の大気の時間を凍結させます。
そして、拡充させた大気の泡で、砂嵐を受け止めようとしたのでした。
吹き荒れる風。彼の持てる全てをつぎ込んだ時の泡。
しかし、彼の全力にも関わらず、遠ざかる意識の中、テフェリーは自分の膝が崩れ落ちたのを感じたのでした。
彼は不愉快な死を覚悟した。砂に襲われて皮膚を剥がされるというのは、かつて不老不死のプレインズウォーカーだった人生の快い終わり方ではなかった、
だが吹き付けてきたのは過酷な砂漠の風以上のものではなく、砂も不快だが致命的ではなかった。やがてそれは断続的に砂を巻き上げる突風となって消えた。
スビラはテフェリーを天幕へと引き入れると、街の門に怪しげな集団がいるのを見とります。
彼を殺すために現われた集団。そう確信したスビラは、それらを連れてきた人物を問い詰めました。
「誰も! ずっとここにいたよ。クェンデだけが――彼はマケトの死体を移動させようとして」
「クェンデ?」 スビラは繰り返した。そして目を見開いた。「何てこと、つまり――」
(中略)
スビラは全てを悟った怒りに罵り声を上げた。
「騙された! あいつ、ずっと嘘をついていたなんて」
彼女はテフェリーへと向き直った。「時間を止めて逃げるのよ!」
「できない、今は」
テフェリーは怒れる羽虫の群れを止めることすら難しい程疲弊していた。
突然に天幕を突き破る、剣の一撃。
テフェリーが飛びのいてよけると同時に、現われるクェンデ。
今や犯人と発覚したその男は、自分の祖先がザルファーとともに殺されたという恨みを口にしつつ、テフェリーを糾弾します。
彼にとって「ザルファーの破壊者」は、全てをかけて復讐すべき相手であったと。
しかし、それを制したのはスビラだったのでした。
鞭で男の手を拘束した彼女は、テフェリーとともに旅すると口にします。
そして、なおも暴れるクェンデへと近づくと、自分を殺すか、テフェリーを逃がすかの二択を迫ったのでした。
クェンデが言った。「何故こいつのためにそんな事を?」
「貴方たち両方のためによ、馬鹿。消えて、そして何かやりがいのある事をしなさい」
荷馬車が動き出すと、テフェリーが言った。
「殺されていたかもしれないだろう」
彼は疲労に震えていた、力は残っていなかった。
スビラは鋭く言った。
「どういたしまして。少なくとも、私の商隊と一緒に来て泥棒や盗賊や色々な危険から皆を守ってくれることはできるでしょ。時間の魔道士なら得意な筈よね」
テフェリーは座席に背を預け、真面目にそれを検討した。魅力的な提案だった。放浪を続けるのであれば、仲間がいるというのは良いことに思われた。正体を偽る必要のない仲間が。
「しばらくはそうさせて貰うよ」
でこぼこの道を荷馬車が進む中、彼は心を決めたように言った。
(後編へ続く)
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