【イクサラン】第1回 孤独のジェイス【ストーリー】
はじめに
アモンケットの物語にて、ニコル・ボーラスに敗北したゲートウォッチ。
ボーラスの精神攻撃を受け、瀕死のところで逃げおおせたジェイスは未知の次元「イクサラン」へとたどり着き。
自らの意志で撤退を行った他のメンバーは「ドミナリア」へと逃げ込みます。
物語は一度ここで分岐するのですが、まずはジェイスの降り立ったイクサランの物語から。
苛烈なボーラスの攻撃を受けたジェイスの代償は、ある部分に現われていたのでした。
↓ストーリーのまとめはこちら↓
記憶のない男
男が目を醒ますと、そこは壮大なる自然と、生物の中。
目に飛び込む自分の姿は、青い外套、長いズボン、そして堅い革の胸当て。
そのどれもに、見覚えがないのでした。
「誰かいませんか!?」
呼びかける声に、にじむ恐怖。
男には、自分がどうやってここに来たのかも、自分が誰なのかもわからなかったのです。
手がかりを探そうとして行きついたのは、なじみのある感覚。
体が溶けて消えゆくような、「ここでないどこかへ離れていくような」感覚。
しかし、今にも体が分解しそうなその時、円で囲まれた輝く三角形が頭上に現われ、男はあえなく地面へと引き戻されたのでした。
やがて男は休息が必要だと悟り、眠りの態勢に入ります。
武器も、食料も持ち合わせていない。
自分はそれほどまでに愚かな旅人だったのか。
無防備な孤独感を味わいながら、男は周りの生物が自分を襲わぬことを願い、一晩を明かしていったのでした。
…
朝の日の光で目覚めても、まだ自分が何者かわからぬまま。
男は探索をすることとします。
一日かけて島を一周し、風を凌げる岩陰を住処としたのでした。
男はやっとのことで火をおこし。
海岸で打ち上げられた魚を捕り。
それを火にくべて、食料とする。
しかし、いつまでたっても焼けない魚に、男は混乱に陥ったのです。
その火は、死んだ魚と同じくらい冷たかったのでした。
手を胸元まで引き、男は恐怖に炎から後ずさった。
「何だよ? これ、こんなの、どういう事だよ!」
炎は眩しい青色にひらめき……青? ……そして不意に消えた。
けれど、煙が出ていたのに! 炎が木切れを燃やしていたのに! とはいえ炎の姿が消えるまで、一度たりとも彼は熱を感じなかった。
男の怖れは完全な狂乱となった。
彼は椰子の木まで後ずさり、串刺しの魚を恐怖とともに見つめ、その状況を素早く吟味して一つの合理的な結論に至った。
自分は記憶も食料も隠れ処も、技術もなくこの島に捕われ……そして今、その何よりも恐ろしいことに、自分は現実の掌握を失いかけている。
そして重々しく結論づけた。
自分は狂ってしまったのだ。
現われる幻影
この出来事以来、男は事態を受け入れられるようになったのでした。
記憶がなければ、目の前の現実を生きるしかないと。
島での生活のため、道具を作る男は、その過程で多くの幻覚を見ます。
雪のような白い肌に優美な白い髪の女性が、背後に浮遊しながら、彼の行動を日誌に書き記している。青い衣と銀の鎧をまとった、厳しい表情の役人。隻眼のレオニン。
孤独の中で彼は時折、視界の隅に紫ずくめの女性を見た。彼女が歩いてくると、どこか不安に胸を引かれた。
(中略)
「今回は本当にできたのか?」
その幻覚は、彼が何かに苦戦していると必ず現れた。
幅広の肩、きらめく鎧の下には汗が輝く濃い色の肌。釣り針を細く切り出そうとしていた時、その幻は肩越しに見つめてきた。
「いいか、君はその作業には向いていない。私に貸すんだ」
幻覚の声は不機嫌そうで、だが敵意はなかった。
恩着せがましいくらいに。男は苛立った。
「自分でできるよ」
その幻は溜息をついた。
「君自身も向かないとわかっているだろう。私に貸すといい、君は砂浜の向こうで思索していてくれ」
「自分でできるって言っただろ」 男は苛立ちを声に出した。
「いや、できないだろう。私は命令し、実行し、君は隣に控える。それが上手いやり方だ」
男は幻へと釣り針を投げつけることで応えた。それはその人物の目を素通りし、背後の砂へ落下した。
やがて男はこれが幻覚ではなく、自分が作り出した幻影なのだとわかり、歓喜します。
自分は狂っていたのではない!魔道士なのだ。
事情を把握した男は、思いつくままに想像し、様々な幻影を作り、その光景に笑い、そして…。
そして、静かに泣いたのでした。
どこまでいっても解消されない、途方もない孤独。
彼は自身へと、ここから離れるように念じた。だが何も起こらなかった。
目を閉じて、友や故郷の様子を思い出そうとした。だが何もなかった。
「俺をここから去らせてくれ」 彼は誰ともなく言った。
風は頭上の竹林を揺らし、男は顔に手を当てて、弱々しく泣いた。
(中略)
「随分ひどい姿だこと」 楽しむような声が頭上から聞こえた。
男は手を動かした。女性の幻影が立っていた。鴉の濡れ羽色の黒髪、気怠い瞳、軽蔑するような表情。身体の前に組まれた腕には、紫色をしたサテン地の長手袋をはめていた。
「いい筋肉になったじゃない、でもその髭はいただけないわ」
唇が軽蔑するような冷笑に歪んだ。
男はかぶりを振り、目の端に涙が浮かんだ。
「貴女が誰なのか、わからないんです」
「そうでしょうね、坊や」
この幻影が現実でないことを気にするのはやめた。何よりも、話し相手が欲しかった。
「ここに来る前、俺は誰だったんですか?」
「あなたが思っていたような者じゃない、それは確か。誰も本当のあなたなんてわからなかった、私以外は。あなたは決して指導者でも探偵でも学者でもない。人を騙して遊ぶ馬鹿な子供だったのよ」
(中略)
むせび泣きたかった。戻って眠りにつきたかった。この全てが無くなるまで、飢えて死にたいと思った。
「貴女が誰なのか、わからないんです」 彼はようやく、かすれた声で認めた。
女性は膝をつき、爬虫類のような冷たい笑みで彼と目を合わせた。
「あなたが今までに出会った中で、最高の存在よ」
男は叫び、手を振って彼女を追い払った。女性の映像は青色の靄にまたたいて消えた。
彼女はいなくなった。
「必要もない幻影はもう沢山だ!」
男とは叫び、そして憑りつかれたように作業を始めたのでした。
もはや自分が何者だったのかはどうでもいい。
大切なのは、自分が今生きるに値する存在なのかということ。
男は5日間動き続け。
疲労と達成感とともに、彼の目の前にはその成果が出来上がっていたのでした。
ここから出るための、一人分の「筏」が。
男を知る者
航海初日。
水平線の向こうへ島は消え、男は生きられる確信とともに海を渡ります。
しかし、3日目にして海は波立ち、4日目にして男は雷雨に巻き込まれたのでした。
目覚めたのは、草木も生えない岩山のような島。
疲労と挫折が心を襲う中、探検する気力も起きず、ただ一つ確信したことがあったのです。
自分は完璧に住みよい島と、徹底的に酷いそれを交換したのだと。
永遠とも思える時間を覚醒と睡眠を行き来する男。
彼にかけられたのは、もう思い出せないくらいに久しぶりの人間の声だったのでした。
「逃げるなとは言ったけど、ちょっとそれは議論の余地があるね。プレインズウォークで窓へ飛び込む感じ、違う?」
あまりの疲労に、声の源へ顔を向けることもできなかった。近くにいた。誰かが怒声を向けているに違いなかった。
「船に新しい船首像が欲しい所なんだよ、ベレレン! 誰の命令でここにいるのか、正直に言いな。そうすれば痛くないように殺してあげるからさ!」
ベレレン? それは俺の名前なのか? 眠気のもやの中で彼は訝しんだ。
近づく足音。小舟が錨を落とす音。そして、真上に来た人が息をのむ音。
男はひどい眠気を破り、目を開けます。
飛び込んできたのは、船長のように見える堂々とした女性。
長身でしなやかな女性。鮮やかな翠玉色の肌、触手の髪が風に興味深そうに踊っていた。ゴルゴン、何故かはわからないがそう知っていた。とはいえ、その目を見つめても恐怖は感じなかった。
その女性は流木の上に横たわる男を見下ろすと、黄金色の瞳を大きく見開いた。そして驚きの視線で彼を見つめた。
興奮と恐怖を彼は同等に感じた。この女性は俺が何者なのかを正確に知っている。
「ジェイス、お前、一体どうしたってんだい?」
今回はここまで
いやぁ…
イクサラン…始まりましたねぇ!!!
「ジェイス、お前、一体どうしたってんだい?」
から始まる尊すぎる物語!
これぞイクサランですよッ!!
出典となった小説は、記憶喪失となったジェイスが、自分という人間とは何か?を探索するべく奮闘する名文です。
食糧についてはもう少々の試行錯誤を要したが、食べ物の好き嫌いがわかった時には興奮した。彼は尖った石から単純なナイフを作り上げて味見に用いた。カキは気に入った。柑橘らしき実や、長い緑色の果物と小さな赤色の果物も。だが紫色の根菜は嫌だった。舌が痒くなり、これはアレルギーだと発見した。何と面白いのだろうか!
このあたりは表現としてリアルで、非常に面白いですね!
また、イクサランの基本地形の一部にはちーーっちゃくジェイスが描かれているところも、ストーリーに準拠していて素晴らしいところです!
というわけで次回もお楽しみに!
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