「ニッサの誓い」の背景ストーリー
はじめに
さて、前回からお届けしているのはこのコーナー。
「MTG初心者にこそ知ってほしい、ゲートウォッチの誓い」シリーズ
今回は第二弾!
二番目に誓いを立てた、次元とつながるエルフの女性、ニッサの誓いをご紹介します。
孤独のニッサ
戦乱のゼンディカーにおけるニッサは、孤独の旅から始まります。
この「孤独」というのは、「人間と行動をともにしていない」という意味で。
ある日森の中でゼンディカーによって幻視を見せられたニッサは、ゼンディカーが苦しんでいること、そしてその助けとして自分を選んだということを理解します。
そして、その悪の権化とも言えるエルドラージたちをゼンディカーから消し去るべく、巨大なエレメンタル「アシャヤ」とともに、単身エルドラージたちに立ち向かっていたのでした。
ゼンディカーから選ばれたという使命感と、自分自身の力不足を心に住まわせながら。
何故世界はまたも自分を選んだのだろう?
「ねえ、真面目に尋ねたいの」
ニッサはアシャヤの木製の顔らしきもの、もし目があるのならば目なのであろう場所を見上げた。
「ゼンディカーは私に何をしてほしいの? あなたは私に何ができるって思ってるの?」
エレメンタルは彼女の声を聞いている様子は何も見せなかった。
「あなたはゼンディカーの一部なんでしょう?」
ニッサはその枝を揺さぶりたかった、その表情のない木の姿から回答を引き出そうと。
「どうして――私とここにいるの? エルフの中でも……ゼンディカーの皆の中でも。コー、マーフォーク、ゴブリンだってあなたは選べるのに。でも私なの?」
ニッサの相棒、アシャヤ。
ゼンディカーの大地から生まれたエレメンタルは、言葉を発しません。
そして、ニッサの苦悩に答えを出してくれもしない。
そう、彼女は思っていたのでした。
目覚めし世界、アシャヤは身動きをした。それは巨大な片手を持ち上げ、その掌をニッサへと開いて止まった。
それは以前に何度も見せてきた仕草だった。ニッサは溜息をついた。
「何? それは何て意味なの?」
太い枝のような指で、エレメンタルはゆっくりと拳を作った。
ニッサは苦い顔で睨みつけた。
「わからないわよ。何を伝えようとしているの?」
アシャヤは拳をその胸に押し当て、そして再び腕を伸ばし、そして一本また一本と、掌を上にして指を開いていった。
その仕草はそれで終わりだろうとニッサはわかっていた。
彼女は以前にもそれを見たことがあった。
ニッサは、アシャヤとの旅の中で、一人の吸血鬼と出会います。
かつては自分の敵であった吸血鬼から、ニッサは4つの「種」を受け取ります。
それは彼女の故郷の大陸の植物の種子。
エルドラージによって破壊された故郷の。
「僕が君に何を頼みたいか、わかってくれたよね。プレインズウォーカー・ニッサ、君がゼンディカーを救ってくれることを僕がどれほど願っているか、わかってくれたよね」
ニッサは理解した。彼は求めているのだ。その種を受け取り……他の次元へ持っていくことを。
「吸血鬼の願いとしては変なことだとはわかっている。だけどこの世界の終わりの時には、だれもが変なことをするものだよ。」
そんな苦悩の中、ニッサは一つの悟りを得るのでした。
それは、ずっとアシャヤが自分にしてくれていたこと。
アシャヤが反応した。開いた手をニッサへと伸ばした。
そしてそのエレメンタルは拳を作りそれを胸の前まで引き、再びその手を伸ばし、ゆっくりと指を開いた。
「私はまだわからないの」 ニッサは囁き声で言った。「もしかしたら、他の誰かになら」
ニッサの言葉でもアシャヤは止まらなかった。エレメンタルはその仕草をもう一度続けた。
(中略)
「何でそれを続けてるの? わからない」 ニッサは言った。
「何を意味するのか、わからない」 彼女はアシャヤの動きを模倣した。「これは何?」
アシャヤが拳を作りそれを胸まで引くと、ニッサもそうした。「ええ、こうね、でも……」
ニッサの息が止まった。
彼女が指を開いた瞬間、そこから流れ出したのは輝く緑の線だった。
(中略)
それはニッサの掌からアシャヤへと伸び、エレメンタルの胸、腕、脚を形成する根と枝を曲がりくねった。それはニッサとアシャヤの全てをつなげる線だった。彼女とゼンディカーの魂とを繋げる線だった。
そしてニッサは悟るのでした。
ゼンディカーは自分を選んだわけではないと。
自分自身がゼンディカーの一部であると。
アシャヤは自分の自責に気づいていた。
そして彼女はニッサの決意を知った。
世界を危機から救い、今その手に持つ種を、いつの日かこのゼンディカーの土に植えるのだと。
彼女が背負う世界とともに、彼女を導くゼンディカーの力とともにあれば、不可能などない。
ゼンディカーのために。その想いがアシャヤから放たれた。
「ゼンディカーのために」 ニッサの声がうわずった。
ゼンディカーのために! アシャヤの確信がニッサを満たし、彼女を通る輝く力線が輝き、力に沸いた。
「ゼンディカーのために!」 彼女は叫んだ。
ニッサが森へと駆けると、その熱烈な想いを反射して世界の全てが照らし出された。
ゼンディカーとの断絶
自分のすべきことが明らかになり、エルドラージの殲滅に力を注ぐニッサ。
しかし、悲劇は突然訪れます。
あまりにも唐突に感じた胸を貫かれたような痛み。
エルドラージ…きっと知らぬ間に自分はその骨に貫かれたのだと。
しかし見下ろした自分にはなんの傷もなく。
そこでニッサは悟るのでした。
「これはゼンディカーの痛みだ」と。
再度訪れる内臓をえぐるような痛み。
隣で、同じように苦痛にのたうつアシャヤ。
徐々に、そのエレメンタルの存在を感じられなくなる自分に、遠くで聞こえる自身の叫び声。
そして、三度目の苦痛の波がニッサを真二つに裂いた時、彼女の意識は光のない闇の中へと落ちたのでした。
喘ぎ声とともに目覚めたとき、ニッサを包んでいたのは、今まで自分が感じたことのない静寂。
かつての仲間だったアシャヤは気配もなく。
かつて自分を支えてくれたゼンディカーの大地は、自分を受け止めてもくれない。
圧倒的な孤独の中で、ニッサは消えたゼンディカーを探す旅に出るのでした。
静寂。
ゼンディカー。
更に深くへ。
ただ、静寂。
アシャヤ。
友はそこにいなかった。
ゼンディカーは空ろだった。
ニッサもまた空ろだった。
孤独だった。
ニッサは旅の戦い、そして出会いの中で、一つの仮説にたどり着きます。
ゼンディカーは消えたのでも、滅ぼされたのでもないのではないか。
ゼンディカーは、安全な場所に「避難した」のではないか。
しかし、それはどこか。
ニッサは唐突に思い至ります。
安全な場所、力のある場所。ゼンディカーが避難する場所。
ゼンディカーのマナの現れ。全ての力線が集まる場所。
「カルニの心臓」。
故郷の地を訪れたニッサは、面晶体に閉じ込められたカルニの心臓を見つけます。
そして、その犯人も同時に。
カルニの心臓を傷つけたのは、エルドラージではなかったのです。
それは、ゼンディカーという次元への復讐に燃える悪魔、オブ・ニクシリス。
ニッサはニクシリスとの死闘の末、自身の力をカルニの心臓に費やし、ゼンディカーを大地に還らせることで、これを撃退したのでした。
ニッサは立ち上がった。そして世界の魂、彼女の友もまた。
アシャヤ。
(中略)
ニッサは友を見上げた。アシャヤは眼下のニッサへと熱情のうねりを送った。そしてニッサも自身の精髄を送り返した。
二人はひとつだった。そして二人は互いの、共有する力をもって更に強くなる。
今や、その力をもってゼンディカーを救う時が来た。
悪魔の再覚醒
ゼンディカーとのつながりを絶たれた時に、ギデオンと行動を共にしていたニッサ。
彼の元に戻った彼女は、都市「海門」の解放と、ウラモグ捕縛の作戦に参加します。
ジェイスの指示で、地面に沈む面晶体を引き揚げ、完璧な配列をすることによりウラモグをとらえることに成功した一同。
かつて感じたことのなかった希望。
呼びかけに応じたアシャヤと、喜びを分かち合うニッサ。
しかし、唐突にその世界は崩れ去るのでした。
響き渡る轟音。
それとともに、切断された力線。
ニッサの足元で、瓦礫の山と化すアシャヤ。
頭の中で、避難を警告し続けるジェイスの声。
牢獄は壊れ。
ウラモグは解き放たれ。
世界は唐突に終焉の危機に晒されたのでした。
その原因は、奇しくも自分が過去に対峙し、殺すまでに至らなかった悪魔。
『ニッサ、牢獄は壊れた』 ジェイスの声は先程よりは落ち着いていた。
『悪魔が壊した。できる事は何もない。逃げてくれ、頼む』
悪魔……彼女は身震いをした。悪魔ですって?
突如、彼女はその者を感じ取った。あの怪物の邪悪さを。あいつがここに。
彼女は見上げた。
そこに、いた。
バーラ・ゲドで対峙した悪魔が、カルニの心臓を根こそぎにした悪魔が、ゼンディカーを滅ぼそうとした悪魔が。
あいつが戻ってきていた。
唐突に、何もかもを把握した。
感じた暗黒はあの悪魔のもの、おかしかった何かとはあの悪魔。牢獄をひっくり返したのは、大地を震わせたのはあの悪魔の面晶体。
あれがこの全ての元凶。
オブ・ニクシリスの一言により、もう一体のエルドラージタイタン、コジレックまでが覚醒。
ニッサは、叫び声を上げながら悪魔に立ち向かいますが、灯の再覚醒を果たした悪魔の前に、あえなく敗れてしまうのでした。
「悲しいかな」 その悪魔が言った。
「我が計画を優先せねばならぬ。ゼンディカーは墜ちる」
悪魔がわずかに頷くと、ニッサの周囲の岩を払って落とし子が迫った。
「そしてゼンディカーは終わる」
焼け付く痛みがニッサを引き裂き、彼女は苦悶に吼えた。
ニッサの誓い
悪魔への敗北により、捕らわれるニッサ、ギデオン、ジェイスの3人。
辛くもチャンドラの登場により解放されると、4人の決死の力によりニクシリスを撃退します。
そして、とらえられていた洞窟を出たニッサが見たのは。
一度復興の兆しを見せていたゼンディカーの瀕死の姿。
二体のエルドラージタイタンによって、蹂躙された次元の姿。
絶望に膝をつくニッサに、ジェイスが静かに語りかけます。
「真面目に考える必要があるって俺は思う――ゼンディカーをこのままにして離れる選択肢を」
ジェイスの声は囁きだったが、ニッサは明らかにその言葉を聞いていた。
彼女は跳び上がり、二人へと勢いよく振り返った。その拳は握りしめられ、緑色の瞳が閃いていた。
「私はどこへも行かない」
ジェイスは溜息をついた。
「ニッサ。少なくとも意識する必要があるってことだ。俺達が着手したことを終わらせるのは不可能だっていう可能性を。俺達全員を合わせたよりもエルドラージとやり合った経験の豊富なウギンも、そう考えた」
「でも、そのドラゴンは間違っているんでしょう。あなたは答えを見つけた。答えを見つけたあなたがそう言うの」
「それが正しいかなんて誰もわからないだろ」
ジェイスは言った。
そしてギデオンは、彼女の「逃げない」という宣言に気づきを得、皆の目を見ながら「誓い」を立てるのでした。
「私は誓おう。海門のため、ゼンディカーとそのあらゆる人々のため、正義と平和のため、私はゲートウォッチとなる。そして新たな危険が多元宇宙を脅かした時には、私はそこに向かおう、君達三人とともに」
ギデオンにも、彼らがちゃんと同意してくれるかはわかりませんでした。
ただ、ゆっくりと頷くジェイスを見て、少なくともこの中の一人は今も自分に賛同してくれているとギデオンは思ったのです。
しかし、意に反して次に歩み出たのはニッサでした。
膝をついた地面に散らばる塵。
そのエルドラージの傷跡を握りしめ、彼女は静かに立ち上がり、誓うのでした。
「私は一つの世界が不毛と化すのを見てきた。エルドラージがゼンディカーの何もかもを奪い、大地は塵と埃と化した。放っておいたなら、あいつらは世界と、その上の全てを貪り尽くしてしまうでしょうね」
彼女は立ち上がり、握りしめた拳から塵が舞い落ちた。
「二度とさせない。ゼンディカーとそれが育む生命のため、すべての次元の生命のため、私はゲートウォッチになるわ。」
今回はここまで
長かった…!
ひたむきなるニッサの物語。その魅力を伝えようと書き連ねたらエライ量になってしまいましたね 笑
彼女は次元とのつながりを持っている分、だれよりも次元の蹂躙を悲しみ、だれよりも傷つきます。
その姿が痛ましくも、次元を救わんとする彼女の生き様を輝かせているのですよね…。推せる…。
次回は、ウラモグ捕獲作戦の要。
面晶体の謎を解き、その連結を提案したジェイスの誓いの物語をご紹介します。
お楽しみに!!
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