【イクサラン】第8回 ジェイスの蘇る記憶【ストーリー】
はじめに
魔学コンパスの争奪戦が起こる中、それを制しコンパスを手に入れたヴラスカとジェイスは、ついに旅の目的地オラーズカへとたどり着きます。
そして順調に見えた彼女らの航海に、一つの事件が起こる…!
イクサランの物語、最高の盛り上がりポイントが来るぞおおぉぉおぉおお!!1
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想起横溢
ボーラスに命じられ、船の乗組員を集め、慣れぬ航海をしてきた目的。
黄金の都オラーズカは、いまやヴラスカの目の前にあったのでした。
密林から見えるのは、その尖塔。
そしてそれは、地響きとともに高く昇り、都が姿を見せようとしていたのです。
しかし、幾度となく訪れる騒音、そして揺れ動く大地に、ヴラスカは恐怖を煽られていきます。
やがてその衝撃は、彼女を地面に押し倒すほどになったのでした。
「ヴラスカさん!」
彼女は頭を向け、愕然とした。自分達が立っていた空地の端は二つに割れ、今にも落ちそうなほど不安定な岩にジェイスが掴まっていた。
(中略)
手を伸ばしてジェイスの手へと届かせようとした。
二人の指がかすめた瞬間、地面が今一度横に大きく揺れ、ジェイスは掌握を失った。
「ジェイス!」
両目を恐怖に見開き、必死に両手を伸ばしながら落下するジェイスを、ヴラスカは見つめた。
そして怒りと悲嘆に叫んだ。滝の底は見えなかった。
ヴラスカは考える暇もなく、滝壺へと飛び込みます。
なんとか水面へと顔を出し、落ちていった親友を助けようと泳ぎだしたその時。
頭痛とともに彼女の頭に閃いたのは、ラヴニカの映像だったのでした。
痛みと混乱の中、岩陰にジェイスの姿を見とめたヴラスカ。
彼の両目は魔力に輝き、その表情は苦痛に満ちていたのです。
彼に泳ぎ寄ろうとした瞬間に、またも閃く映像。
それは、青いフードをかぶった自分が、ニヴ=ミゼットに見下ろされている光景。
戦慄とともに実感した。あいつは全てを思い出している。
すぐ隣を流れる洪水のように、ジェイスの記憶は一斉に戻っていた。彼はすぐに、ヴラスカについても全てを思い出すのだろう。すぐに自分達の遺恨を、彼女のギルドを、彼自身の仕事を思い出すのだろう。そしてこの数か月に起こった全ては無と帰すのだろう。
ギルドパクトという地位を、そして彼女は暗殺者なのだと思い出し、自分達の友情は間違いなく、消え去ってしまうのだろう。
岸のジェイスへ向かって必死に泳ぎながら、ヴラスカは川の水に息を詰まらせた。彼は血を流して倒れながら、両目を輝かせて記憶の苦悶に我を失っていた。
終わった。
その精神魔道士へ向かって浅瀬を泳ぎながら、ヴラスカは重い心で嘆いた。
記憶の扉
落下のショックとともに、ジェイスの記憶を封じていたものが解かれた。
そして、彼はその記憶を周囲にまき散らしている。
そのことを理解したときに、ヴラスカに真っ先に去来した思い。
「終わった」
彼は全てを思い出す。
そして自分を憎む。
生来、自分がそのような目にあったように。
それでも、彼女はジェイスの名を叫びながら、彼の元へと駆け寄ったのでした。
ヴラスカは彼のもとで、溢れるその記憶を追体験し続けます。
片腕が金属の男による拷問の記憶。
彼がラヴニカに降り立ったばかりのころの記憶。
そして、紫に身を包んだ謎の女性の記憶。
女性は退屈を身にまとい、対してジェイスはその女性に対する関心に溢れている。
ヴラスカが目をそらしたくなるほどの親密な時間。
ジェイスの左人差し指が無意識に素早く腿を叩いた。その声はためらいがちで不確かだった。
「イニストラードで言ってくれただろ、その、俺が死んだなら……」
(中略)
「あの話を覚えているの?」
「あんな話、忘れろって方が難しいよ。君はそうするつもりがない限り、感情的に世話なんて焼かないだろ。だから……本当にそうなのか?」
「何が?」
ジェイスは止まり、言葉を選んだ。「俺が死んだら悲しい?」
ジェイスはその紫をまとう女性を熱心に見つめていた。期待を込めて。その質問の奇妙さに、ヴラスカは気分が悪くなるのを感じた。まるで不確かであるような問いかけ、とはいえジェイスを取り巻くこの状況は、彼とこの女性は知人以上の関係であると示唆していた。
紫の女性は横座りに膝を休め、眠そうな目でジェイスと視線を合わせて言った。
「そうね」 半ば感傷のように。愛玩犬に与える骨のように。
「あれを、あなたがそう呼びたいなら……少なくともそのくらいはあるわ」
それだけ? ヴラスカは唖然とした。愛情を求める真摯な嘆願を、残酷に払いのける。
(中略)
「君がくれた言葉としては、最高のものじゃないかな」 ジェイスはそう返答した。
紫の女性は笑い声をあげた、まるで冗談を聞いたかのように。貴女の同意が欲しい、そう顔に書きながら必死の熱望とともに言ったのではないかのように。
親密な時間を侵略しているとヴラスカは感じた。とても危うい、この内密なやり取りは他人が見るものではなかった。
しかし、ヴラスカの意に反して記憶は続きます。
それは、第三者の彼女から見ればジェイスがただその女に弄ばれている光景。
彼女はジェイスの想いを利用し、意のままにしようとしている。
『この女はお前を引き留めようとしてるんだよ』、ヴラスカは叫びたかった。
お前は賢いだろ、この女はお前の想いに報いはしない。罠にはまるんじゃない。
(中略)
ヴラスカの心が痛んだ。だが彼は誘惑のカーテンの向こうへ行ってしまい、退屈で残酷な熱意を目にしている。もう引き戻せなかった。
(中略)
ジェイスはグラスから顔を上げ、期待に満ちた目で視線を合わせた。
女性は互いのグラスを満たし、自分のそれを掲げた。
「古き良き日々を新しく」
そこで幻影は消えて岸辺へと戻り、ヴラスカは安堵した。
失くしていた記憶
ヴラスカは吐き気を感じたのでした。
ジェイスの人生はずっと、誰かに利用されてばかりだったのだ。
ヴラスカは記憶を見てしまったことを謝罪しつつ、駆け寄ります。
「ジェイス、ごめん、最後のを見るつもりはなかった。でもあの女性は……」
しかし、彼の一言と同時に、またも記憶の奔流が彼女を襲ったのでした。
「ヴリン…」
それは、ジェイスの幼少期の記憶。
優しい声色の母、厳格な父、そして…支配力を持ったスフィンクス、アルハマレット。
例によってジェイスは、師たるそのスフィンクスに利用され、彼はある日師へと立ち向かうことを決めた。
アルハマレットの精神攻撃は暴風のようにジェイスを襲い、彼はそれに対抗すべくスフィンクスの最も大事な記憶を拭い去り。
そして、逃げるようにプレインズウォークする過程で、ジェイスは故郷を忘れ、母を忘れ、過去を失ってしまったのでした。
ヴラスカは即座に駆け寄り、その腕にジェイスを抱え上げた。
彼は一生分の涙にむせび泣いていた。
彼女はジェイスを強く抱きしめ、胸元にその頭を抱え込んだ。自ら望んで他者に触れたのはこの数年で初めてのことだった。その感覚は異質で不安、だが断じて必要なことだった。
腕の中でジェイスは泣き続け、彼女は更に強く抱きしめた。彼は人生の半分以上を、子供の頃の記憶を完全に失って過ごしてきたのだ。あまりに多くのことを忘れて。あまりに何度も忘れて。投獄された時に誰かに抱きしめてもらいたかったその長さ分、彼女はジェイスを抱きしめた。助けを求めて叩かれた回数だけ、彼を強く抱きしめた。
彼女は人生のあまりに長い間を孤独に、そして閉ざされて過ごしてきた。だから拒むことなどできなかった、自分と同じように、これほど酷い傷を負ってきた者を慰めることは。
築き上げた絆
記憶の旅の最終章。
ヴラスカは、自身の幻影を見たのでした。
最初海賊の姿を取っていたそれは、やがて醜悪な暗殺者へと変わり。
ジェイスが彼女に対して抱いていた怒りや憎しみも、自身のそれとして感じることができてしまったのです。
吐き気がした。自分をそのように見るのは嫌だった。世界の全てが自分を怪物のように見る、それと同じ姿だった。
目の前のゴルゴンは殺そうとしており、ヴラスカはそのような残酷さをまとう自分を恥じた。何もかもが終わった。ジェイスが全てを思い出し、全てを理解したなら、怪物としか見てくれなくなるだろう。自分達のこの数か月がどんなに素晴らしいものだったとしても。
そして記憶の流出は終わり。
涙の枯れ果てたジェイスの両目が、ヴラスカの姿を捉えたのでした。
「全部見たんですね」 空ろな声。
ヴラスカは恐怖を感じた。「見たよ、お前が仕舞っておけなかったものを」
彼はきまりが悪そうに顔をそむけ、記憶が落ち着くと確信とともに言った。
「暗殺者、なんですね」
「そして友達だよ」 彼女は率直に、悲しく返答した。
ジェイスはまだぼんやりとしていた。溢れ出る記憶を塞ぐ手段を見つけたのかもしれないが、彼は思考を内に留めておこうと目に見えて奮闘していた。その声は空ろなままだった。
「イマーラ。ニッサ。俺の友達は凄く少ない……」
ヴラスカの心が痛んだ。何を言うべきか定かでなかった。
(中略)
「悪かった。ラヴニカで、お前を殺そうとしたこと」
ジェイスは心を痛めたように目を閉じ、また別の苦痛を感じて震えた。
「何故かを説明してくれたなら、話を聞いていたと思います」
彼は居心地悪く身動きをした。
「あの時、俺の気を惹くために貴女が殺した……」
「殺人者、汚染者、悪徳商人、どんな呼び方をしてくれたっていいさ」
彼女は肩をすくめつつ、確固としてかぶりを振った。
「そいつらの死を悼みはしないけど、お前に耳を傾けさせる唯一の方法だと思ったことは後悔してるよ」
「俺を殺そうとしたことは、いいです」 ジェイスは柔らかく、正直に返答した。
「貴女はそちらにとって正しいと思うことをしたんですから」
二人とも、次に何を言うべきか定かでなかった。
ヴラスカは一人立ち上がり、岸辺を歩き回り始めます。
新たに現われたオラーズカを、やっと自分の目で見られた気がしたのでした。
一方のジェイスは、異常な静けさで遠くを見つめていたのです。
まるで懺悔するかのように、過去の自分の行いをつぶやきだすジェイス。
彼の隣に腰かけたヴラスカは、彼は利用されてきただけなのだと声をかけたのでした。
ヴラスカは真摯な感情を向けた。「この三か月を覚えてるか?」
ジェイスは頷いた。そして確固とした意思で微笑んだ。
「俺の人生でも、最高の三か月でした」
ヴラスカはあえて瞬きをしなかった、そうしてしまえば自分達の間に流れる誠実さの魔法が壊れてしまうかのように。
「そのジェイスは、私が会った中でも最高の人物さ」
ジェイスははっとしてヴラスカを見つめた。
(中略)
ヴラスカは言葉に本心を溢れさせた。
「私が会ったジェイスは誰とも違って、私の話に耳を傾けてくれたんだよ。それがどれほど特別かってわかるか? 誰も私の話なんて聞いてくれなかったし、そもそも私が耳を傾けるに値する存在だって気にかけてくれる奴すらいなかった」
ジェイスは僅かにかぶりを振り、その瞳には悲哀のきらめきがあった。まるで代わりにそうしてくれたかのように。ヴラスカは続けた。
「あのジェイスは信じていたよ、誰だって新しい自分になれるって。あのジェイスはまだお前の中にいて、あのジェイスこそ本物のお前だって私は思うのさ」
ヴラスカの言葉を受け、ジェイスは心中を吐き出すように話します。
全てを思い出し、自分の愚かさを知ったこと。
自分が罪悪感を感じないよう、両親に嫌われたと思い込んでいたこと。
その言葉の一つ一つを受け止めたうえで、ヴラスカはジェイスの存在を肯定したのでした。
「お前は望み通りの存在になってるよ」と。
ヴラスカは手を差し出し、ジェイスが立つのを助けようとした。彼女はオラーズカへと続く崖に曲がりくねる階段を顎で示した。
ジェイスはその手をとって立ち上がり、頭痛にひるみながらも感謝を込めて握り返した。彼もその階段を見上げた。
「一年前だったら、あれを登る体力はなかったと思います」
ジェイスは少し誇らしく言った。
「もしくは、そんな事をしたら半分で倒れていたか」
「前に会った時は、そんな身体じゃなかったからな」
ヴラスカはからかうように返答した。
「知らないんですか、俺はよく幻影であの姿になっていたんですよ」
彼女は目を見開いた。「本当か?」
「実は」 ジェイスは認めた。彼は感情を隠すことなく、今も充血したままの両目で、気楽そうに唇を突き出した。馬鹿正直な人間。彼は笑みを浮かべた。
「俺はずるい奴だったんです」
『今は違いますよ』、その言葉は口に出されず、だが二人の間に漂った。
ヴラスカが彼の笑みを受け止めると、ジェイスは黄金の階段へと向かった。オラーズカへと、一歩また一歩力強く。
今回はここまで
あかん…!
あかんで…!
尊すぎるでええええぇぇぇぇぇぇぇえ!!!
ヴラスカとジェイスの関係を楽しむコツは、その「変化」を楽しむことだと思います。
ジェイスの回想に相対して、真っ先の「終わった」と思うヴラスカの変化。
過去よりも歩んできた今を優先し、ヴラスカとの冒険を決意したジェイスの変化。
殺すためでなく、守るためにジェイスの身体を抱きとめたヴラスカの変化。
かつてからの旧友のような冗談を飛ばし、試練へと立ち向かわんとするジェイスの変化。
冷徹なゴルゴンだと思っていたヴラスカは、他人の生き方を肯定し認めることのできる善人だったという読者の認識の変化も。
いやはや…
この人たち昔は敵同士だったんですよォ!?!?
…はい、語りすぎてもアレなのでこんなところで。
ちなみに、ジェイスのオリジンで語られている通り、ジェイスはボーラスの攻撃による記憶喪失の他に、アルハマレットとの戦いによって幼少期の記憶も失っていました。
それらを今回全て取り戻した形ですね。
彼はヴラスカとともに過去を乗り越え、この後の戦いへと身を投じていくのです。
そういう意味でも、イクサランの物語は一つの転換点ですね!
次回はこの旅の続きから!
ついに、不滅の太陽の謎が明かされます!
お楽しみに!
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