【カラデシュ】第4回 不殺の英雄、アジャニ【ストーリー】
はじめに
前回、ピア・ナラーを追って敵の罠にかかり、牢獄に閉じ込められたチャンドラとニッサ、そしてパースリー夫人。
時を同じくして、カラデシュにはそのパースリーを探す影が…。
タイトルにもある"あの"プレインズウォーカーも巻き込み、カラデシュの物語が加速します…!
白の巨人
カラデシュの物語が動く6か月も前。
神河次元のタミヨウの元を訪れたのは、巨人とも言える大きな影。
そして、その来訪に気づいたのは、彼女のもとに身を寄せる子どもたちなのでした。
ルミヨウ、ヒロク、ウメ、そして新しく加わった、那至。
「おかあさーーーん! ねこさんが帰ってきた!」
肩の後ろで巨人が笑った。
「ルミの声はいつも大きいな」
(中略)
「どうしたの――あら。ようこそ神河へ、おかえりなさい」
彼は薄青色をした絹の衣に鼻をすりつけた。白い巨人は座ったまま背筋を伸ばすと、大いなる敬意を込めて頭を下げた。
「お元気でしたか、タミヨウさん」
タミヨウはその笑みを巨人から彼へと向け、長い耳の片方を肩にかけた。
「この方はアジャニさん。私達の物語の円の仲間です」
その声はまるで陶器の花瓶のように、澄んで輝いていた。
「ナーセットさんみたいに、この方も空の向こうへ行けるんですよ」
子どもたちは、白の巨人ーアジャニへと群がると、"外の世界"の物語をねだります。
タミヨウはそんな子どもたちに軽い叱責を飛ばすと、歓待の準備を進めるよう指示しました。
子どもたちが不平を口にしながら散り散りになった後。
彼女はアジャニへと、近況を問います。
自分の知らない時点から。
つまり、エルズペスとともにテーロス次元へ行った時の話を。
しかしアジャニは、それに対しては口を重く閉ざしていたのでした。
彼女は不思議に尋ねます。
「アジャニさん。もし私に話さないのであれば、何故ここに来られたのですか?」
その巨人はゆっくりと息をし、大きな重圧がその表情に漂った。
「前回来た時には……那至はいませんでしたね。彼は他の子供達とは違いますが……」
タミヨウは溜息をついた
タミヨウは那至の生い立ちを話し始めます。
彼の住んでいた村は焼き払われたと。
その実行犯は、テゼレットという名のプレインズウォーカーであると。
「行動には結果が伴います」 タミヨウはアジャニへと言った。
「時に、私達のような者は……自分達の足がどれほど大きいかを忘れてしまいます」
アジャニの英雄
アジャニが神河を訪れてから一か月。
アジャニは旅立つ前に、那至を部屋に招き、話を交わします。
「もう行っちゃうの?」
「ああ」
「どこ行くの?」
巨人は彼を見た。
「君の家族を殺した男を見つけに。友達によれば、カラデシュという場所にいるらしい。誰かがそいつに金と秘密をやって、そいつはそれを使って力を手に入れた」
(中略)
その巨人は武器を持ち上げ、背中の紐に吊るした。黒い刃の端が冷たく輝いた。
「あいつを殺しに行くの?」
突風が玄関の呼び鈴を大きく鳴らした。「それは……わからない」
巨人は縁側の外を見て、白い外套に手を置いた。世界中に水の匂いが満ち、今にも落ちようとしていた。
「あるいは、それこそが正しい道なのかもしれない。踏みつけるものが見えないまま歩く者の何と多いことか……」
アジャニは身に着けた白い外套をつかみます。
それは、かつて旅を共にした英雄の持ち物。
彼は、少年に…父母を失った少年につぶやきます。
自分の友、エルズペスは死んだのだと。
死ぬべきでなかった英雄は、目の前で殺されたのだと。
それは、タミヨウにすら上手く話せなかった事実。
少年はおずおずと口を開きます。
「タミヨウは言ってたよ、誰かを失うのは、怪我をするのと同じだって。つまり、倒れて痛くなるのと同じだって。膝をすりむいたら、血が出るけど治るよね。それと、涙は心が流す血なんだって。だから、流せば、良くなるよ」
巨人の顎が震えた。
「タミヨウは賢いな」
やがて、アジャニは英雄の物語を、少年に語り始めます。
彼女は、暗闇の中、怪物が支配する世界で生まれ育ったこと。
やがて、英雄は安心を求め、温かく優しき世界で数年を過ごしたこと。
彼女は自分の命を救ってくれたこと。
その世界を守るために、アジャニと彼女は協力をしたこと。
やがて彼女は怪物を滅ぼしたが、別の怪物に倒されてしまったこと。
そしてその役割は、彼女ではなく、自分であるべきであったということ。
アジャニの肩が落ち、震えた。彼は片手で目を覆った。
雨が降り出した。
子供達は彼とともに座り、囲み、沢山の手がその肩と腕と背中と膝に置かれた。誰も何も言わなかった。ただ呼吸だけがあった。
雨はとても、とても長く続いた。
救出
さて、時と場所が移り、半年後のカラデシュ。
テゼレットの捜索に手を貸してくれていた『おばあちゃん』こと、オビア・パースリーの家を訪れたアジャニは、彼女が監獄へ連れ去れたという情報を得たのでした。
そして、「シャドウブレイド」というコードネームの女性と共闘し、『おばあちゃん』の捜索にあたっているのです。
「ああ、ついでに。あたしの事はシャドウブレイドって呼んでくれればいいよ。ブレードじゃなくてブレイドね」
「シャドウブレイド?」 彼は疑い深く繰り返した。
彼女はにこやかに笑った。
「素敵極まりない暗号名でしょ」
「あ……ああ、好きそうな名前だ」 彼は外交的にそう返答した。
彼女の助けを受け、アジャニは『おばあちゃん』の閉じ込められているドゥーンド監獄へとたどり着いたのでした。
そこで目にしたのは、小さな窓がはめ込まれた部屋。
そして、その窓を内側から力なく叩く、弱々しい手。
彼にとって、中に誰がいるかは不問でした。
外で扉を警護する者たちは、中にいる者を殺そうとしている。
しかもゆっくりと、苦しめるように。
アジャニは飛び出し、衛兵を薙ぎ払います。
彼の頭に響いたのは、あの日のタミヨウの言葉でした。
『時に、私達のような者は……自分達の足がどれほど大きいかを忘れてしまいます』
攻撃手段は拳で、そして斬るのではなく叩きつけるような斧使いで。
もう、誰も殺さない。
警護する者たちを破ったアジャニは、その扉を解放し、『おばあちゃん』を救出したのでした。
そして、同じく中にいた者たちを。
彼は夫人が身体を起こすのを助け、静かに尋ねた。「ご無事ですか?」
「アジャニさん」 夫人は微笑んだ。そして目を細くして睨み付け、最も納得しない表情を作った。
「痩せましたね。きちんと食べていますか?」 そして彼の頬を撫でた。
意志に反し、彼は喉を鳴らした。「はい、おばあちゃん」
「うええ」 赤毛の娘が喘ぎ、再び乾いて病的な咳をした。
(中略)
「すみません」
アジャニは注意深くパースリー夫人を立たせると、もう二人の女性へと向き直った。
「その人を支えて下さい」 エルフは頷き、チャンドラの背を伸ばさせた。
「うわ、でっかい猫!」 チャンドラは息を切らした。その息は熱い銅の匂いがした。
「あいつくらい太い腕」
彼女が言うのが誰なのかはわからなかった。
アジャニはチャンドラへと癒しの術を施しました。
彼はニッサのほうへも助けの手を差し伸べますが、彼女はそこまで毒の影響を受けていないと知ります。
すぐに、部屋に響き渡る警告音。
アジャニは3人を促し、脱出を決めたのでした。
先程倒した衛兵が足元でうめき、両手両足で立ち上がろうとした。彼は幾つもの靴を見て凍りつき、そしてゆっくりと、恐る恐る顔を上げた。
アジャニは告げた。「家族の所へ帰るといい」
その男は恐怖と疑問とともに彼を見上げた。
「私を殺さないのか?」
「殺さない」 アジャニはそう言った。「もう誰も」
今回はここまで
アジャニさんマジかっけぇっす…!
思いやりに溢れ、皆から慕われ、カラデシュでは不殺の誓いを立てる様は、まさにヒーローって感じのふるまいですね。
タミヨウがアジャニへ告げる、『時に、私達のような者は……自分達の足がどれほど大きいかを忘れてしまいます』という言葉は、カラデシュのテゼレットやそれを支配するニコル・ボーラスといった巨悪へのメッセージ性の強い言葉となっています。
ゼンディカーのエルドラージと違い、ヒーローたちと同じプレインズウォーカーである彼らが、次元を踏みつぶしていく姿を憂える、今回のキーワードとも言える言葉ですね!
さて、今回のこぼれ話は、カラデシュのストーリーでヒーローたちを支える謎の(?)人物、「シャドウブレイド」とアジャニのやり取り。
シャドウブレイドと接触した時、フードを目深にかぶり、その正体を明かしていなかったアジャニが、ドゥーンドへ導いてくれた彼女を信頼し、姿を晒すシーンです。
※カラデシュに猫人はいないため、アジャニはずっと姿を隠していました。
「君は間違いなく改革派の一員だ。否定したい奴はあたしに速製で挑んでくるといいよ。けど君はまだ暗号名を言ってくれてないよね。それは失礼ってやつじゃないかな」
彼女は腕を組み、不機嫌そうに足を踏み鳴らした。
彼は困って瞬きをした。「暗号名は……そうだな、『白猫』と私を呼ぶ者もいるかな」
シャドウブレイドは批判するような視線を向けた。
「全然似合ってなくない? 何でそんなふうに呼ばれてんのさ?」
待て。その考えは馬鹿げている。
だがこのエルフは手を貸してくれた。信頼してくれた。そして何も尋ねてこなかった。
彼はフードを脱いだ。
月光の瞳が皿のように見開かれた。そこに自分の姿がそっくり映っているのが見えた。白い毛皮、片方だけの青い瞳、髭と大きな鼻。
そして彼女は微笑んだ。
「その格好いい顔を隠してなきゃいけないなんて、勿体無いね」
彼はお辞儀をした。カラデシュ流ではなく、若い頃を過ごしたナヤの流儀で。ここの人々はとても親切で、だがとても変わっていた。
「頼りにしている、シャドウブレイド」 彼はフードをかぶり直した。
「ヴァッティ」
彼は振り返った。「え?」
彼女は歪んだ笑みを見せた。
「よくある名前だよ。ヴァッティ。君はあたしに秘密を見せてくれた。そのお返しさ。その鳥は絶対壊さないでね。ミヒルはそれが返ってくるのを期待してるし、あたしもあいつに借りを作りたくはないからさ」
彼女は背を向け、排水管を素早く登っていった。
シャドウブレイドことヴァッティは、この後も少しストーリーに絡んでくるキャラクターではあるのですが…いいキャラですよねぇ。
というわけで、次回はゲートウォッチ参集編!
お楽しみに!
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